月凪あゆむ

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泡になりたい

 骨折した。痛い。
 しかも放置してたらもっと痛くなった。

 行きたくなかったけど、仕方なくと、接骨院へ行く。
「あーあ、ついてないなあ」
 呟いてから、周りに耳を澄ましてみた。すると。
「ああ、そうか。そうだ、今日だ」
「もう、そんなに経つんだねえ」
 と、お年寄りたちの会話が聞こえる。
 なんのことだっけ、と思ってたら。テレビが告げていた。
「戦後、今年で80年」
 ……あ、そうだ。
 8月6日。それは広島に原爆が投下されたという日。
 そして、「広島平和記念日」という、喜ぶのか悲しむのか、何ともいえない記念日でもある。
 
 周りにはお年寄りたち。交わさせる話はそれのことが多いような気がする。
 黙っていると、聞いてなくとも生々しい「その日」の話や、それに関するような言葉がぽんぽんとでてくる。
 自分は、弱い。そういうのには、とても弱いんだ。

「……きみ、どうしたの? 痛い?」
「…………。ううん。俺は痛くない」
「なら、どうして泣いてるの?」
「俺は、いたくない……」

 そう。形残らず、焼け消えてしまった人たちに比べれば、骨折なんてどうというものでもないんだ。
 
「ねえ。いまちょっと、泡になりたい気分」
「? 何言ってんのよ」
 お母さんに、不思議そうな顔をされた。

8/6/2025, 4:21:18 AM