月凪あゆむ

Open App

突然の別れ

 ぼくときみで、秘密基地を作ったのが、春のころ。
 楽しかった。
 異性で、ここまで気が合う子はこれまでいなかった。とても、うれしかったんだ。

 でも、お別れは突然だった。


「転校……!?」
「うん、お父さんのお仕事で、遠いところに」
 びっくりするくらい、きみは落ち着いてた。焦るぼくが、おかしいのか? いやいや、落ち着きすぎでしょきみ。
「それでね、ちょっと提案なんだけど」
「う、うん……?」

「十年後、またここで会いたいの」

「……はあ?」
「ほら、歌があるでしょ。あれ、わたしたちもやりたい」
 ――十年後の8月、また会えるのを信じて――
「いや、ええと。でもここ、来年アパートになるんじゃなかったっけ」
「まあ、そこは深く考えずにね」
「えぇ……?」



 そんな、お世辞にも感動的な約束とは言えない会話で、十年後の約束を取り付けられたわけだけど。


「……やっぱり、アパート建ってるじゃねえか」
 十年後、俺は来た。ここに。
 彼女もいるのか、なんてわからない。何せ十年だ。あれこれ色々と、変わってるはずだ。
 そう。「ぼく」が「俺」になるみたいに。

「……なんか、馬鹿みたいだよな」
 いないだろうと思い直して、歩きだそうとした、その時。
「あのー。そちらのひと。ちょっと聞いていいですか?」
「?」
 後ろからの声に、振り向くと。
「――え」
 そのひとは。
「ええっと。あのー。……十年後にここで会おう、なんて約束を、してはいませんか?」
「……きみ、変わってないな」
 髪も染めてない。まなざしにも面影がある。声も、なんとなく聞き覚えがあるような気がする。
 そこにいたのは、正真正銘の「きみ」だった。
「……やっぱり! あなたは、かなり変わったね。髪も染めてるし、やっぱり声変わりしてるし。……でも、わかるよちゃんと。大丈夫!」

 これもこれで。あまり「感動的な再会」かはわからないけど。まあ、現実はそんなものだろう。

 別れが突然なら、再会も突然だ。

5/19/2024, 10:12:20 PM