月凪あゆむ

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5/11/2024, 10:31:31 PM

愛を叫ぶ。

 それは、事故だった。
 私が好きになったひとは、告白する前に、私のことを忘れてしまった。


 出会いは、中学2年の夏。
 当時、まだ「クラスメイト」なだけだった、今の「親友」が、学校内にある池の前で泣いていた。
 そこにたまたま私が通りすがり、事情を聞く。
 いじめ、だった。
 私は元々、そういった類いのことが大嫌いで、わりとものははっきりと言う性格。だから、いじめた相手たちにめぼしをつけ、啖呵を切った。

「ひとのことをあれこれ世話焼くのなら、おんなじことを、私もしてあげても良いけど? ああ、できないか。一人じゃ私に向き合えないような連中じゃあ、ねえ?」
「はあ? 生意気なこと言うじゃん!?」

 ……と。
 その、ケンカ勃発の一部始終を彼は見ていて。
 その事情を話した上で、先生を連れてやってきた。
 そして、私にこう言った。
「怖かったろうに、よく頑張ったな」
 それが、彼と、彼女との奇妙なはじまり。


 私は、彼を好きになった。
 でも、彼は私たちを忘れた。
 
 私は、泣き崩れる彼のご両親に寄り添っていた。
 だって。私が悲しいんだから、ご両親はもっと、悲しいだろう。私が泣いている暇はない。


「……あなたは、あの人のこと好きだよね?」
 親友に呼びだされて、最初に言われたのが、この一言。
「や、でもさ。いまは、そんな場合じゃないじゃん?」
 虚勢を張ってる自覚はある。声がちょっと震えたかもしれない。
「……でも、ね」
「?」
「親友の、そんな哀しそうな顔を、見ていられるほど、私は図太くないよ」
 でも、どうしろと。
「私にできるのは、ほかのひとを支えることくらいなんだよ。……私自身のことなら、大丈夫だから、さ」

「――ですって、聞いてたよね?」

彼女の後ろから、記憶喪失な彼が現れる。
「…………な、んで」
「さ、あとは、おふたりでごゆっくり」
 そして、扉は彼女を吸い込み閉じた。

「…………」
「…………」

 なんとも、いたたまれない。
 先に言葉を発したのは、彼。
「……ずっと、うちの家族のそばに、いてくれてたんですよね? ありがとうございます」
 他人行儀な。やっぱり、思い出してはくれないよね。

「――辛かろうに、頑張った、ですよね」

「……え」

「だって、うちの家族がずっと泣いてる。それだけ、辛いことなんだろうなって。でも貴方は、弱音も吐かずついててくれていた、でしょう?」

まさか。はじまりの日と、ほぼ同じようなことを言うなんて、想像もしていなかった。しかも、記憶喪失のままなのに。
 ――そんな、やつだから。私は。

「あの、ね。私は――」

やつに向けて、最大級の愛を叫んだ。

5/9/2024, 9:56:52 PM

忘れられない、いつまでも。

 季節はまた、私を置き去りに過ぎてゆく。
 公園で、貴方と一緒に線香花火をしたのは、まだ5月のころ。
 あの時は、まだ早いのにって思ってた。

 その、半月後。
 貴方は天国へと、旅立った。

 今日で、あの線香花火をしてから丸一年経つ。
 私はまだ、ぼうっと手元を見つめていた。

 声がした。
「ここでね、兄ちゃんが好きなひとと、最後に花火をしたんだって。それも、一年前の今日」

 顔をあげると、小さな男の子が、女の子に話していた。
「うちの兄ちゃんさ、カッコつけだから、最後まで自分の寿命のこと、好きなひとにも言わなかったんだって」
 
 ――――。

「ひどいよな、兄ちゃん。残されるほうの身にもなってほしいよ」

 そういえば、彼は年の離れた弟がいると、言っていた。
 まさか。

「でも、言ってたんだ。最後は、笑った顔を想い浮かべて、終わりたいんだって」

 気持ちが、溢れる。

 その時、時間を知らせる音楽が鳴った。
「あ、そろそろ帰ろっか!」
 男の子は、嵐のように目の前にきて、嵐のようにいなくなった。

 あまりにも、身勝手な貴方。
 そんなだから、忘れられないの、いつまでも。

5/8/2024, 10:47:02 PM

一年後

 ぼくは、自分で歩いたことがない。
 生まれつきの病気のせいで、ずーっと病室がぼくの部屋みたいなもの。

 でも、明日から歩く練習ができるんだ!
 お母さんやお父さんたちは、難しい顔をしてるけど、ぼくは負けないよ!
 なににって、そりゃぼくのほとんどない筋力に。あとは、……やっぱり気持ちの問題なのかな。


「……やってやるさ!」
「うん。きみなら、できるかもね」
「かも、じゃない。ぜったいに、だよ!」

 ずっと顔を合わせてる、もはや幼なじみな女の子は、ぼくを見て、なぜか目を細めた。



 その、一年後。
 ぼくは、まだまだおぼつかない足取りで、女の子の眠るお墓に向かい合った。

 彼女は、そう。
「虹の橋を渡った」
と、大人たちはいうけど。
「亡くなった」
だと、そんなにだめなのかな。
 でも、その話をしようとすると、おばさんが泣きだしかねないから、それより先は言わない。

「……ねえ。ぼくはほんとに、歩けるようになったんだ。キミ、信じてくれてたかな? ぼくの宣言は」

 よくテレビでは
「あなたのぶんまで、生きていきます」
みたいなことを言う展開もあるけど。ぼくは違う気がする。
 だって、キミがなにを思ってぼくの話を聞いてたかなんて、ぼくには想像もつかない。なのに、そのぶんまで背負えないでしょ。
 だから。

「いつか、できればずーっと後。シワシワのおじいちゃんになって、キミのいるところにいったときには。たくさん人生自慢するから。今から覚悟しててね!」

 ――サァッと、ぼくの頬を一陣の風が優しく撫でた、ような気がした。

5/8/2024, 1:38:04 AM

初恋の日

 俺は、「恋」を知らない。彼女も、いない。
 ただ、告白をされたことは数知れず。
 両親からの教えで
「人からの好意は大切に受けとること」
のとおりに、いつも
「こんな俺を、好きになってくれてありがとう」
 という感謝を、相手をふる際に言ってたら、何故か「ファンクラブ」なるものができたらしい。
 正直、ちょっと面倒になってきた。
 二面性、というほどまではいかないけれど。……ほんのちょっと「つくってる」自分がいる。
 
 そんなふうにしてきて、現在もう大学2年生。とっくに恋は自由な年頃だと思う。たぶん。
 これが、「拗らせてる」というのかもしれない。もちろん、誰にも打ち明けたことなんて、ない。



 ……また、告白されて、感謝して、ふって、そのままその子はファンクラブの会員になったらしい。
 誰もいない時間の図書館で、つい呟いた。
「なんで、ファンクラブなんてあるんだよ……面倒だな」

「――たぶん、あなたが優しいふり方するから、だと思いますよ」

「……!!」

 彼女は、すぐそこにいた。
 まるで幽霊かのように、白い肌。染めたことなんてなさそうな、真っ黒い髪。
 口元は、本に隠されて見えなかった。二重の目は、まっすぐにこちらを見つめてきて。
 
 ――それが、俺にとっての初恋の日だった。


「……ねえ、あの時あなたは、ファンクラブが面倒だって、言ってなかった?」
「ああ、言ったな」
「なら、今の私の気持ちも、わからないかな!?」
「……わかるけど、それはそれ。これはこれだよ」
「なんて屁理屈……!」

 あの、彼女に図書館で一目惚れした日から。
 俺はファンクラブを解散させ、彼女を追い回している。
 俺の、はじめての恋だ。そんな簡単には、諦めてはやらないよ。

5/7/2024, 1:33:46 AM

明日世界が終わるなら


ある世界の、とある裕福と貧困の混ざった国で。

 ――明日は、この世界の終焉にして、黎明の刻である!

 「裕福」に囲まれた王は、高らかに声をあげる。意味がよく解らない。
 大人たちは、囁く。

「明日、世界が終わるらしい」
「なんで」 
「王が、神の怒りに触れたとか」
「なら、なんであんな演説を」
「とうとう狂ったか」
「死にたくない」
 そこにあるのは、困惑、憎悪、恐怖。


子どもたちも、囁く。

「ねえ、もしほんとに、明日世界が終わるなら。あたしたちはどうなるの?」
「元々、この世界は終わってる。今さらなんともない」
「それに、終わりがあるなら、始まりもあるでしょ。終焉と黎明って、そういう意味なんだって」
「へえ。物知りだね!」
「この世界、良くなるのかな」
 そこにあるのは、諦めと、少しの期待。
 
 案外、大人よりも子供たちの方が、よほど落ち着いていると言える。


 さて、果たしてそんな彼らが、「終焉」という名の世界の終わりと、「黎明」という名の国の始まりに立ち合ったときには、どんな感情が生まれるのか。

 答えは、神すらも知らない。
 それが、人の世というものだ。

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