月凪あゆむ

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初恋の日

 俺は、「恋」を知らない。彼女も、いない。
 ただ、告白をされたことは数知れず。
 両親からの教えで
「人からの好意は大切に受けとること」
のとおりに、いつも
「こんな俺を、好きになってくれてありがとう」
 という感謝を、相手をふる際に言ってたら、何故か「ファンクラブ」なるものができたらしい。
 正直、ちょっと面倒になってきた。
 二面性、というほどまではいかないけれど。……ほんのちょっと「つくってる」自分がいる。
 
 そんなふうにしてきて、現在もう大学2年生。とっくに恋は自由な年頃だと思う。たぶん。
 これが、「拗らせてる」というのかもしれない。もちろん、誰にも打ち明けたことなんて、ない。



 ……また、告白されて、感謝して、ふって、そのままその子はファンクラブの会員になったらしい。
 誰もいない時間の図書館で、つい呟いた。
「なんで、ファンクラブなんてあるんだよ……面倒だな」

「――たぶん、あなたが優しいふり方するから、だと思いますよ」

「……!!」

 彼女は、すぐそこにいた。
 まるで幽霊かのように、白い肌。染めたことなんてなさそうな、真っ黒い髪。
 口元は、本に隠されて見えなかった。二重の目は、まっすぐにこちらを見つめてきて。
 
 ――それが、俺にとっての初恋の日だった。


「……ねえ、あの時あなたは、ファンクラブが面倒だって、言ってなかった?」
「ああ、言ったな」
「なら、今の私の気持ちも、わからないかな!?」
「……わかるけど、それはそれ。これはこれだよ」
「なんて屁理屈……!」

 あの、彼女に図書館で一目惚れした日から。
 俺はファンクラブを解散させ、彼女を追い回している。
 俺の、はじめての恋だ。そんな簡単には、諦めてはやらないよ。

5/8/2024, 1:38:04 AM