一年後
ぼくは、自分で歩いたことがない。
生まれつきの病気のせいで、ずーっと病室がぼくの部屋みたいなもの。
でも、明日から歩く練習ができるんだ!
お母さんやお父さんたちは、難しい顔をしてるけど、ぼくは負けないよ!
なににって、そりゃぼくのほとんどない筋力に。あとは、……やっぱり気持ちの問題なのかな。
「……やってやるさ!」
「うん。きみなら、できるかもね」
「かも、じゃない。ぜったいに、だよ!」
ずっと顔を合わせてる、もはや幼なじみな女の子は、ぼくを見て、なぜか目を細めた。
その、一年後。
ぼくは、まだまだおぼつかない足取りで、女の子の眠るお墓に向かい合った。
彼女は、そう。
「虹の橋を渡った」
と、大人たちはいうけど。
「亡くなった」
だと、そんなにだめなのかな。
でも、その話をしようとすると、おばさんが泣きだしかねないから、それより先は言わない。
「……ねえ。ぼくはほんとに、歩けるようになったんだ。キミ、信じてくれてたかな? ぼくの宣言は」
よくテレビでは
「あなたのぶんまで、生きていきます」
みたいなことを言う展開もあるけど。ぼくは違う気がする。
だって、キミがなにを思ってぼくの話を聞いてたかなんて、ぼくには想像もつかない。なのに、そのぶんまで背負えないでしょ。
だから。
「いつか、できればずーっと後。シワシワのおじいちゃんになって、キミのいるところにいったときには。たくさん人生自慢するから。今から覚悟しててね!」
――サァッと、ぼくの頬を一陣の風が優しく撫でた、ような気がした。
5/8/2024, 10:47:02 PM