月凪あゆむ

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後悔

 僕は今日、余命宣告を受けた。
 一年だ。
 なんてことだ。

 僕には、好きな人がいる。
 明日、告白しようと思っていたところなのに。親友に付き合ってもらって、シュミレーションなんてことすらしたのに。

 余命一年の僕じゃ、もしも付き合えても、最後には彼女を悲しませることしか残らないのに。
 だから。

「……で、告白は諦める、って?」
 親友に伝えると、なぜか呆れられた。
「それでお前、後悔しないのか?」
「……」
「こっ恥ずかしいシュミレーションまでしたのに?」
「……」

 親友は、ため息のあとに。こんなことを話した。
「俺の彼女が、そうだった」
「え?」
「――俺の好きになった相手も、余命宣告を受けてた」
「…………え」
「でも、彼女は俺に告白してくれたんだ」

「たとえ、自分がひとより長くは生きられないとしても。自分の感情に、嘘はつきたくなかった、って」

「……そんな、話は」
「ああ、いま初めて言った。報告の前に、彼女は亡くなったからな」 
「亡くなった……」

「いいか? 余命宣告を受けて。気持ちを伝えるのは、そりゃ勇気がいる。相手の気持ちも考えると、踏み出せなくなるのもわかる。……けどさ」

「俺は、告白されて、ちゃんと好きになって。先に逝かれても、後悔はしてない。それは、彼女が悔いのない生き方をしたから、だ」

 悔いのない、生き方。
「お前は、気持ちを伝えないで終わって、後悔はしないって言えるのか?」
「……言え、ないな」
「だろう?」
 そこでやっと、今日のなかで初めて、親友は笑った。


 僕は彼女に告白した。余命宣告のことも含めて。
 それから。彼女との交際は、今二年目になる。余命宣告よりも、長く生きれている。まあ、油断はできないけれど。
 きっと、そう遠くない未来、僕は親友の恋人と同じところへ逝く。
 そうしたら、どうしようか。せっかくだから親友のこと、聞いてみたい。

 でも、まだ先であってほしい。
 彼女や親友、大切なひとたちとの「今」を。
 今日も、生きよう。

5/15/2024, 10:39:38 PM