先週16日から昨日投稿分まで続いておった擬似的長編、なんちゃって過去編も無事終了。
今回は現代の時間軸に戻って、最近最近のおはなしを、いつもどおりご紹介。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織がありまして、
この世界とその世界を安全な航路で繋いだり、
繋いだ航路から別の世界へ分岐路を敷設したり、
その航路を通って旅行したいと考える観光客から申請を受理したり却下したり。
いろんな仕事を、為しておりました。
管理局はとっても大きな公的機関で、
資金潤沢、戦力十分、異世界渡航に関する一切を取り仕切る顕現もドチャクソに絶大。
とはいえ広報活動は、する必要があるのです。
たとえば、まだ別世界への渡航技術を持たない世界に、その世界の娯楽の一部として潜り込んだり。
潜り込んだ世界で「ただのゲームです」「フィクションです」を隠れ蓑に、活動内容を周知したり。
管理局のエース局員を旗印にしたゲームやら漫画やらのメディアミックスによって、
少しだけ、課金等によって、資金援助を募ったり。
ところで
その旗印にされたエース局員の複数人が
前回や前々回投稿分で「ツバメ」のビジネスネームが貸与されておったドラゴンと、
「スズメ」のビジネスネームを貸与されておった部下局員の、合計ふたり。
現在で言うところの、「ルリビタキ部長」と「ツバメ副部長」でした。
前々回投稿分と今回投稿分で名前が変わっているのは深く気にしてはいけません(諸事情)
さて。
その日、ルリビタキとツバメは広報部の企画課から無茶を押し付けられました。
パラコードストラップの手編みです。
人気キャラのふたりが編んだストラップは、ソシャゲのログイン数上位者から順に購入権が与えられ、
売り上げの一部は日本の放置林、放置山を整備する団体に、寄付されます。
とはいえ日本のゲームユーザーは
「どうせフィクションでしょ」の大前提があるので
彼らが本当にストラップを編んでいるなんて、知りもしないワケですが。
とはいえ、副部長のツバメは、アウトドアに一定の理解と経験がある局員でした。
「部長。ルリビタキ部長。手が止まっていますよ」
しゅっしゅ、きゅっきゅ。
手際良く右と左のロープを編むツバメでした。
「部長。ぶーちょーう」
対してドラゴンのルリビタキ、人間に変身してロープを持ちますが、
作業会場が作業会場、コタツに入って編み物をしている影響かもしれません、
こっくり、こっくり、船を漕いで眠そうに、
……「眠そうに」?
「部長!」
「んッ! んん?」
「作業中に、寝てどうするんです。
部長の作業が遅いので、経理部からマンチカンまで応援に駆り出す案が出ているんですよ」
「ツバメ。 こんな夢を見た」
「手を動かしてください部長」
「俺は昔々の管理局に居た」
「今も昔もココが管理局です。夢のハナシは良いのでロープ結んでください部長」
「あいつが、ルリビタキが、先代のルリビタキが」
「作業 してください 部長」
「あの鬼畜猫……経理部のスフィンクスと、収蔵課のドワーフホトに、大量の料理を出していた」
「ぶ ちょ う」
本当だ。本当に、こんな夢を見たんだ。
まだまだ寝ぼけておるようなルリビタキが、
部下のツバメに訴えました。
ツバメは「はいはい」とスルー安定。
しゅっしゅ、きゅっきゅ。
真面目に、コードを編み続けましたとさ。
先週16日から始まった疑似長編も、今回投稿分でようやくひと区切り。
数年前だか十数年前だか、ともかく「ここ」ではないいつかどこかに、
タイムマシーンで、昔々を見に行きましょう
(唐突なお題回収)
前回掲載分の、一般市民救出任務が丁度終わった直後から続くおはなしです。
昔々、当時「ルリビタキ」のビジネスネームを貸与されておった厨二ふぁんたじー組織「世界線管理局」の法務部執行課局員は、
管理局をバチクソに敵視しておる組織のアジトの、人質が捕まっていた大きな大きな部屋の中で、
他の力尽きた大勢の敵と一緒に、ぐったり、倒れておりました。
部下の若い男性カラスと、機械生命体のヒバリと、
それから人質が逃げる時間を稼ぐため、ルリビタキは一生懸命戦って、傷ついて、
指の一本も動かないくらい、すっかり、疲れてしまっておりました。
そこにひょこひょこ現れたのが、
大きい猫だか、モフモフドラゴンだか、よく分からない「仕組み」、もとい生き物。
『んんー。サイコーに良いニオイがする』
それは、今週19日投稿分「閉ざされた日記」のお題あたりに登場した、モフネコゴンでした。
詳しいことはタイムマシーンで、過去1月19日頃のおはなしを、
見に行くのはスワイプが面倒なので、
細かいことを気にしてはいけません。
『こいつからだ』
おやおや。ぐったり虫の息のルリビタキを、食いたいのでしょうか?
デカ猫だかモフゴンだかは、先代の胸のあたりを、クンクン、くんくん、丹念に嗅いでいます。
「おなか、すいたのかい」
重くなってしまった腕を、頑張って上げて、
当時のルリビタキ、モフ猫を撫でてやりました。
「ごめんね。なにも、もっていないし、
もうなにも、つくってあげられないんだ」
するとモフデカのネコゴン、言いました。
『おー?この俺様に、献上するものが無い?
くるしゅーない。ゆるす。
んんんー。やっぱりサイコーだ。サイコーに、美しい魂だ。バチクソ美味に違いない……』
わぁ。完全に、このルリビタキの魂をとって、食ってしまうような物言いです。
物騒なデカ猫です。物騒なモフドラゴンです。
『あ?食わねぇよ。もったいねぇ』
モフゴンが不機嫌そうに反論しますと、
きゅぽん!!
先代から魂を、引っこ抜いてしまいました!
『俺様のコレクションにすんの。
光栄に思って良いぞ〜』
先代から引っこ抜かれた魂は、100均で買ったガラスボトルに、ポン!ブチ込まれまして、
そのまま厳重に栓をされ、密閉状態。
『よーし。収穫収穫。撤収』
デカ猫モフゴン、上機嫌に小躍りしながら、どこかへ去ってゆきますが、
その間、ガラスのボトルが酷く揺れるのか、
ぎゃー! だの、 揺れるぅ! だの、
情けない悲鳴が、小さく響いておったのでした。
…――そんなこんな、あれやこれや、
色々あってから、丁度1年が経った頃。
「よぅ。遅くなった」
管理局内、殉職した者のために用意された場所に、
現在のルリビタキ、つまり前回まで「ツバメ」のビジネスネームを貸与されておったドラゴンが、
美しい花を自分で摘んで、白紙で束ねて、持って、
ひとり、立っておりました。
「あのあと、世界多様性機構の連中は、随分大人しくなったよ。
去年の管理局襲撃で、戦力とカネを使い過ぎたんだろうな。ザマァないことだ」
今代ルリビタキの前には、先代ルリビタキを偲ぶ言葉を刻んだ墓碑がひとつ。
言葉は先代の部下全員で考えました。
それは今までの感謝であり、愚痴であり、
なにより、精一杯の「ゆっくりお休みください」でした。
『彼を起こさないでください。
この墓碑の前で、空腹を申告しないでください。
我々は彼の、あたたかく優しく仲間思いに溢れたカロリーボムで、これ以上太りたくないのです。
――法務部執行課 実働班特殊即応部門 一同』
「カラスは『さよなら』も言わずに出てったよ」
ルリビタキは淡々と、近況を報告しました。
「今は『あの』図書館に居る。全世界図書館と共同で設置した、あの図書館だ。
仕方無いからヒバリのやつを、新しい『カラス』にしたよ。相当にゴネられたがな。
スズメには俺の『ツバメ』を継がせた。よく働いてくれている。なによりお前が置いてった『隠しキッチン』を見つけるのがうまい。
俺は――」
おれは。
そこで言葉が詰まった今代ルリビタキは、
胸ポケットから、先代ルリビタキが残した万年筆を取り出して、まじまじと、見つめます。
「俺は、うまく、やれているか?
俺は、お前が期待した働きを、できているか?」
万年筆は、何も言いません。
墓碑も、何も言いません。
ただ日光の光を浴びて優しい輝きを放っています。
ただそれだけです。それだけ、なのです。
ところでルリビタキ。
今日は新しい(ドチャクソに一時的な)ヒバリと、
それから新人のスズメが、
それぞれ新人研修を終えて、着任する日です。
そろそろ「特殊即応部門の新しい部門長、ルリビタキ」として、部屋に戻り、新人たちに挨拶をしなければなりません。
他の部署にも新人や、次代を約束された者たちが、
この日、研修を終えて、管理局にやってきます。
経理部のスフィンクスと、
収蔵部のドワーフホトです。
彼女たちも、この日、それぞれ着任するのです。
「また来る」
昔々のツバメ——先代から「ルリビタキ」を継承したドラゴンは、持ってきた美しい花束を、墓碑に丁寧に置きました。
相変わらず、墓碑はなんにも言いません。
ただただ、ルブチョが自分のお役目に向かうのを、
静かに、見守っておるだけなのです。
今日も管理局は平和です。
先週16日頃から始まった疑似長編も、次回か次の次の回あたりでようやく完結。
特別な夜のおはなしです。
世界線管理局と世界多様性機構の対立も、あれこれ、なんやかんやありまして、
はや数十年の付き合いとなりました。
それぞれの世界がそれぞれの世界として、
他の世界から侵略されたりせぬよう、整備保全・防衛するのが仕事の世界線管理局と、
滅びゆくべき世界、まだ発展途上にある世界に、
先進世界の技術と違法行為でもって、密航支援・介入したがる世界多様性機構。
滅亡世界の難民たちを別世界に密航させようとするたび妨害してくる管理局に対して、
機構がとうとう、擬似的な武力行使。
「こっち」の世界の地球の日本の、都内某所の現地住民な女性を1人、
拉致して縄で縛って、いじめている映像を、管理局に送りつけてきました。
助けたければ、監禁場所を特定してみろ。
完全武装の機構職員がたくさん映っているその場所に、見合うだけの戦力を引き連れて、
現地住民を救いに来てみろ。というのです。
その女性は管理局法務部の局員、
ハシボソガラス主任の初恋の人でした。
――「俺たちが完全武装の連中に全力で対応して、管理局が手薄になってる間に、その管理局を倍々の戦力で叩く、ってのが作戦だってさ」
カラス主任の恋愛事情を機構に流した局員から、
カラス主任自身が情報を搾り取って、
ものの数十分で、「法務部執行課 実働班 特殊即応部門」のメンバー全員が集められました。
情報共有と、作戦会議です。
特殊即応部門の部長ルリビタキ、こう言いました。
「救出には、僕とカラスと、ヒバリで行ってくる。
僕に何かあったら、ツバメ。今後の特応頼んだよ」
「無茶だ!」
ツバメと呼ばれた局員、声を荒らげて反論します。
「戦闘を回避して、ヒバリの能力で離脱する魂胆にしても、戦力が少な過ぎる!」
それでもルリビタキは譲りません。
「僕たちは戦闘をパスできるけど、多様性機構の管理局襲撃班は、戦闘をパスさせてくれないよ。
だから管理局に、ツバメ、お前を残すんだ」
それから数分、あーだこーだ、ギャーギャー、
ツバメとルリビタキでケンカしましたが、
ルリビタキの意思は、最後まで揺るぎませんでした。
「60分で支度して、救出任務に出る。
その前にツバメ、ちょっと話をしたいから、時間を都合してくれ」
特殊即応部門の局員それぞれが、自分の職務の準備のためにオフィスから出てゆく中で、
ルリビタキとツバメはふたりして、向かい合って最後の夜、「特別な夜」に向けての話を始めました。
…——「持っててくれ。
僕が帰ってきたら、返してほしい」
斜陽です。
窓から美しいオニユリ色がさし込む中で、
ルリビタキはツバメに、1本の美しい万年筆を、渡しました。
「これは?」
「僕は使えなかった」
「だから、何だ、これは」
「特殊即応部門の部長と管理局の局長だけが使うことを許されている、『神様の存在証明』。そのイミテーションだ。
僕たちは『助言者の校生ペン』と呼んでる」
それは、「その世界」の独自性と独立性を尊重する世界線管理局の局員が使うチートアイテムとしては、
酷く、ひどく、異質な万年筆でした。
「神様がこれのオリジナルに、神様のインクを詰めて、神様の本に文字を記したことで、世界が始まったとされている」
それは、魔力持つ者がサラっと一文書くだけで、
東京のドブ川からダイヤモンドを吹き出させることもできるし、
地球の大気を昭和1桁の頃の美しさにすることもできるのでした。
「イミテーションだけど、とても強大なチカラを持っているし、相応のチカラが要求される。だから僕は使いこなせなかった」
世界の物語を、それを構成する「文章」を、
持ち主の都合で勝手に「校正」してしまえる万年筆。
それは確実に、世界線管理局より、世界多様性機構の側に立つチートアイテムでした。
「ツバメ。おまえに、このペンを預ける」
「分かった。預かる」
ツバメはルリビタキから受け取った万年筆を、指の間でクルクル回して、窓からさし込む斜陽にさらして、
それから、胸ポケットに入れました。
「『預かってやる』から、必ず、取りに戻ってこい」
いいな。必ずだぞ。
ツバメはそう付け加えると、ルリビタキの両肩を、トン、とん。力強く叩きました。
ツバメとしては、自分の世界を救ってもらった恩を、まだルリビタキに全部ぜんぶ、返し終わっていないのです。
ツバメとしては、ルリビタキにしか作れない「ルリビタキ特製味噌汁:秘伝スパイス入り」のレシピを、まだ、教えてもらっていないのです。
「必ずだ。戻ってこい」
ツバメは再度、ルリビタキの両肩を、叩きました。
「心配性なやつだな」
ルリビタキは、「分かった」とも「無理だ」とも言いませんでした。
「管理局の防衛、頼んだぞ」
それから1時間後、特別な夜が始まりました。
ルリビタキはカラスとヒバリと一緒に、現地住民の救出に旅立ちました。
それからだいたい10分後、管理局に機構側の戦闘員が、それはそれはたくさん、押し寄せました。
ツバメはみんなを指揮して管理局を守り、
カラスとヒバリは東京の現地住民を救出して帰ってきて、
ルリビタキのビジネスネームと彼の役職は、
「現地住民救出任務完了をもって、ツバメに正式に引き継がれました」とさ。
先代ルリビタキのお話、昔々の疑似長編も、そろそろ終わりを迎えようとしております。
前回掲載分で、とうとう副部長になった「当時のツバメ」、「現在のルリビタキ」。
すなわち、ドラゴンです。
世界線管理局なる厨二ふぁんたじー組織
お仕事も給料も増えましたが、
ぶっちゃけドラゴンはドラゴンなので、シモジモの地位や現金には興味が無いのです。
食い物は当時のルリビタキのオタベオタベで、完全に、十分に足りてるし、
人間のオシャレなんてよく分かりません。
「ツバメ」の名前を貰ったドラゴンは、
取り敢えず味噌汁と七味と一味と、それから何が美味しいのか分からぬタバコを覚えたので、
自分の給料はもっぱら、タバコ買って味噌汁を開拓して、残りは全部、放っとくのでした。
で、そんなこんな、あんなどんな。
副部長職を続けて◯年のツバメが、その日も特殊即応部門のオフィスに向かっておると、
「やめろッ!やめろよー!何するんだ!!」
おやおや、ツバメの世界の恩人、ルリビタキの悲鳴がオフィスの中から聞こえます。
ツバメの目に飛び込んできたのは、
まずミドルサイズの冷蔵庫、
それを撤去しようと「浮遊のランタン」で浮かせて引っ張っている、収蔵部収蔵課の「ランタンの魔女」アンゴラ、
浮いてる冷蔵庫にしがみついてイヤイヤしているルリビタキ、
それから「カラス」ことハシボソガラス主任と、
もうひとり、人間の男性が、アワアワおろおろ……?
「研修終えて、今日からウチに配属になったひな鳥ちゃんだよん」
やめろー!持ってくな!
それけっこう高かったんだぞ!
海の底の温度の安定感くらい、高価値なんだぞ!
ルリビタキがギャーギャーヒィヒィ叫ぶ中、気にせずカラスが言いました。
「面倒見が良さそうだからってことで、ツバメに預けるってさ。しっかり教育してあげてねー」
はいはい、良い授業料になったわねぇ。
海の底の温度の安定感と、バイバイしましょうね。
アンゴラが気にせず浮遊のランタンを掲げて冷蔵庫を持っていく中、
カラスが「人間の男」をツバメに突き出しました。
「あっ、あの、本日付けで着任しました、スズメです!」
冷蔵庫問答にすっかりアワアワしていた人間。
ツバメの前に突き出されて、緊張で上ずった声で、ツバメに挨拶しました。
「至らない点、多々あろうかと思いますが、よろしくお願いします!」
彼こそ、後の「ツバメ」でした。
彼こそ、後の「ウチの部長がすいません」であり、直近の投稿で焚き火したりコーヒー飲んだりの、アイツなのでした。
昔々のこの当時は、
現在「ルリビタキ」のビジネスネームを管理局から貸与されておるドラゴンが「ツバメ」で、
現在「ツバメ」のビジネスネームを管理局から貸与されておる人間の男が「スズメ」で、
現在「先代」として、法務部から籍が消えてる男、海の底の隠し冷蔵庫保有者が「ルリビタキ」。
これがどうして現在の名前に落ち着いたかは、
次の次もしくは次の次の次あたりのお題でご紹介。
…——で、隠し冷蔵庫保有者のおはなしです。
管理局法務部、執行課実動班、特殊即応部門長のルリビタキ(当時)です。
隠し冷蔵庫は1個だけではなかったらしく、
数ヶ月後、またもや別の冷蔵庫を、
ガッツリ、押収されてしまうのです。
「ふふふ。この程度で僕の、局内に20個置いてある、隠し冷蔵庫の包囲網を崩せると思うな」
どうやら全然、懲りていない様子。
だってルリビタキ部長は別に、法務部の資金を横領して隠し冷蔵庫を設置しているワケでもないし、
特応部門の予算を水増ししてキッチンの設備を増設しているワケでもないのです。
すべて自腹、すべて自分の給料。
だから経緯を報告する程度で、まだ許されておるのです。 多分。
「許してるワケないでしょ。これから全部記録する予定よ」
おやおや。今日は特応部門のオフィスに、法務部門長のオネェが訪問中の様子。
「アンタが勝手に設置した冷蔵庫の位置、勝手に給湯室からキッチンに改造された部屋、勝手に大規模農場にした難民シェルターの区画!
アンタ、今以上に増やしたら、罰としてアタシの仕事手伝わせるわよ」
バチクソに怒っています。
オネェ部長のタコ足が、3本くらいウネウネぎりぎり、ルリビタキの体に巻き付いてゆきます。
苦しいから離して。くるしい。助けてツバメ。
ルリビタキはオネェのタコ足をポンポン叩き、ツバメの方をじっと見ますが、
ツバメときたら、ルリビタキの視線を既読無視。
「いいか、スズメ。ウチは『特殊即応部門』だ。
すべての緊急行動において、決裁も許可も後回しにできるが、その分責任がともなう」
ツバメは新しく特応に入ってきた新人スズメに、特応の何たるかを語っています。
「ツバメ、つばめ。お前の故郷を救ってやった借りを、今返してほしいんだけど」
「今タコじめされているのが、ウチの部長だが、あいつから『メシは食ったのか』と聞かれても絶対に『いいえ』とは答えるな。
『ハラが減った』とも言うな。絶対だ」
「ツバメ。つば、め、」
ギリギリ、ぎゅーぎゅー。オネェにタコじめされたルリビタキは、「ごめんなさい」と言うまでシメられておりました。
当時のルリビタキの意識はモヤモヤ、もはやまさしくお題のとおり、ほぼ海の底。
その日の管理局は平和でした。
その日の管理局「は」、まだ平和だったのでした。
前々回掲載分から3ヶ月くらい経過した頃の、世界線管理局、特殊即応部門のオフィスです。
まだまだ昔々、十何年、何十年前のおはなし。
滅びかけた自分の世界を救ってもらう見返りに、1匹のドラゴンが特殊即応部門に身を売りまして、
最近ようやく、人間に変身する魔法を、完璧に使いこなせるようになりました。
これにギャン泣きしたのが管理局の子どもたち。
「ドラゴンさん、いなくなっちゃった」
「あたしたちのドラゴン、かえせぇ!」
「ドラちゃん、ドラちゃん!どこぉー!!」
そりゃそうです。せっかくのカッコよくて、大きくて、背中に乗せて遊んでくれるドラゴンが、
突然、居なくなってしまったのです。
ドラゴン、ドラゴン!
君に会いたくて、オフィスに来たのに!
君に会いたくて、お花も取ってきたのに!
子供たちは大きな声で、ギャンギャン!
ドラゴンの代わりに現れたのが、強そうで怖そうで見覚えのない男の人。
そうです。人間形態のドラゴンです。
ドラゴンはこのたび、「ツバメ」というビジネスネームを貸与されました。
で、この3ヶ月の間に、ドラゴンもとい「ツバメ」が才能を発揮したものがありました。
作戦の立案と、リーダーシップ。それから戦闘です。
さすが悠久を生きるドラゴン。
ただ時折、つまり誰かの危険と作戦の成功を天秤にかけるような状況になると、
ツバメ、考えることがドチャクソ極端になりました。
たとえば、戦闘に慣れてない局員10人が、大量の兵器で武装した多様性機構の職員に捕まったそうです。
「俺が敵を全員潰せば良いんじゃないか?」
たとえば、機構とは別の過激な多様性信者の団体が、たくさんの武器を持って管理局のエントランスになだれ込んできたそうです。
「再度襲撃されても困る。今のうちに連中を根絶すれば良いんじゃないか?」
極端、極端。最短距離。
チカラのあるツバメは、
チカラを持っているがゆえに、
結果として自分が怪我しようと、瀕死になろうと、
自分1匹で全部片付くことを知っておるのでした。
「ツバメ。根を詰め過ぎるな」
当時の部長、当時のルリビタキは、
ツバメの性質をよく理解していました。
「お前が根を詰め過ぎると、だいたい、極端な思考と作戦立案に偏っていく。
任務に最速を求めるな。最善を求めるんだ」
ほら、お食べ。
ルリビタキがツバメに渡したマグカップには、唐辛子をきかせた赤味噌の味噌汁が入っていました。
「息抜きを覚えろ。ツバメ」
ちゃぴ、ちゃぴ。
ツバメがマグカップに口をつけると、
ピリッ!! とした刺激が、ガチャガチャしたツバメの心を打ち据えました。
「ん、んん??」
ツバメの本能がこれを摂取すべきだと命じました。
「これは、なんだ」
本能に従ったツバメは、このピリッとする飲み物を、すぐ飲み干してしまいました。
飲み物が舌に触れると、
刺激で、心がリセットされます。
飲み物が胃袋におさまると、
味覚で、心の曇りが晴れます。
「味噌汁だ」
ルリビタキが、その飲み物の名前を言いました。
「ミソシル。みそしる」
ツバメは、みそしるの四文字を、すぐ覚えました。
「その、みそしる、もう1杯くれないか」
こうしてツバメは「唐辛子」を覚えたのでした……
…——で、
そんなこんなの味噌汁エピソードから時が流れて、
ツバメに昇給のときが来ました。
「そろそろウチの部署にも、
副部長、置こうと思ったんだ」
ほら、お前の新しい名刺と辞令だよ。
にっこり笑うルリビタキ部長が、ツバメにとつぜん、A4の紙っぺらを渡します。
そこには今日の日付と、「辞令」の2文字と、
「上のものを本日付けで副部長に任命する」の文言。
上のものとは、ツバメです。
ツバメ、主任をさし置いて、一気に副部長に昇格してしまったようです。
なおツバメ、ぶっちゃけドラゴンなので、シモジモの者たちの役職だの昇給には興味がありません。
とはいえルリビタキは、ツバメの世界を救ってくれた恩人ですので、
ルリビタキが「やれ」と言うなら、ツバメ、主任でも副部長でも、一日署長でもやるのです。
「大丈夫か?主任から、不満は出ないのか?」
「ちゃんと相談したさ。今の主任は、ハシボソガラスってやつがやってるんだが、『査問官としての仕事の方が忙しいから、勝手にやっといて〜』だとさ」
「ハシボソガラス?」
「最近入ってきて、尋問のスキル一本で、主任のビジネスネーム、『カラス』を継いだ若い男だ。
スゴいんだぞ、表情見ただけ、仕草を見ただけで、僕の隠し冷蔵庫の場所がバレるんだ」
「かくしれいぞうこ」
「あっ」
ともかく!これからもヨロシク、ツバメ副部長。
握手を求めるルリビタキでしたが、
ツバメはツバメで、「隠し冷蔵庫」の単語が気になり、ジト目でルリビタキを見ておりました。
先代ルリビタキと先代ツバメのおはなしも、あと2〜4回ほどで完結。
「あの夜」、「特別な夜」のハナシは、
すぐ近くに、迫っておったのでした。