かたいなか

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先週16日から始まった疑似長編も、今回投稿分でようやくひと区切り。
数年前だか十数年前だか、ともかく「ここ」ではないいつかどこかに、
タイムマシーンで、昔々を見に行きましょう
(唐突なお題回収)

前回掲載分の、一般市民救出任務が丁度終わった直後から続くおはなしです。
昔々、当時「ルリビタキ」のビジネスネームを貸与されておった厨二ふぁんたじー組織「世界線管理局」の法務部執行課局員は、
管理局をバチクソに敵視しておる組織のアジトの、人質が捕まっていた大きな大きな部屋の中で、
他の力尽きた大勢の敵と一緒に、ぐったり、倒れておりました。

部下の若い男性カラスと、機械生命体のヒバリと、
それから人質が逃げる時間を稼ぐため、ルリビタキは一生懸命戦って、傷ついて、
指の一本も動かないくらい、すっかり、疲れてしまっておりました。

そこにひょこひょこ現れたのが、
大きい猫だか、モフモフドラゴンだか、よく分からない「仕組み」、もとい生き物。
『んんー。サイコーに良いニオイがする』

それは、今週19日投稿分「閉ざされた日記」のお題あたりに登場した、モフネコゴンでした。
詳しいことはタイムマシーンで、過去1月19日頃のおはなしを、
見に行くのはスワイプが面倒なので、
細かいことを気にしてはいけません。

『こいつからだ』
おやおや。ぐったり虫の息のルリビタキを、食いたいのでしょうか?
デカ猫だかモフゴンだかは、先代の胸のあたりを、クンクン、くんくん、丹念に嗅いでいます。

「おなか、すいたのかい」
重くなってしまった腕を、頑張って上げて、
当時のルリビタキ、モフ猫を撫でてやりました。
「ごめんね。なにも、もっていないし、
もうなにも、つくってあげられないんだ」

するとモフデカのネコゴン、言いました。
『おー?この俺様に、献上するものが無い?
くるしゅーない。ゆるす。
んんんー。やっぱりサイコーだ。サイコーに、美しい魂だ。バチクソ美味に違いない……』
わぁ。完全に、このルリビタキの魂をとって、食ってしまうような物言いです。
物騒なデカ猫です。物騒なモフドラゴンです。

『あ?食わねぇよ。もったいねぇ』
モフゴンが不機嫌そうに反論しますと、
きゅぽん!!
先代から魂を、引っこ抜いてしまいました!
『俺様のコレクションにすんの。
光栄に思って良いぞ〜』
先代から引っこ抜かれた魂は、100均で買ったガラスボトルに、ポン!ブチ込まれまして、
そのまま厳重に栓をされ、密閉状態。

『よーし。収穫収穫。撤収』
デカ猫モフゴン、上機嫌に小躍りしながら、どこかへ去ってゆきますが、
その間、ガラスのボトルが酷く揺れるのか、
ぎゃー! だの、 揺れるぅ! だの、
情けない悲鳴が、小さく響いておったのでした。

…――そんなこんな、あれやこれや、
色々あってから、丁度1年が経った頃。

「よぅ。遅くなった」
管理局内、殉職した者のために用意された場所に、
現在のルリビタキ、つまり前回まで「ツバメ」のビジネスネームを貸与されておったドラゴンが、
美しい花を自分で摘んで、白紙で束ねて、持って、
ひとり、立っておりました。
「あのあと、世界多様性機構の連中は、随分大人しくなったよ。
去年の管理局襲撃で、戦力とカネを使い過ぎたんだろうな。ザマァないことだ」

今代ルリビタキの前には、先代ルリビタキを偲ぶ言葉を刻んだ墓碑がひとつ。
言葉は先代の部下全員で考えました。
それは今までの感謝であり、愚痴であり、
なにより、精一杯の「ゆっくりお休みください」でした。

『彼を起こさないでください。
この墓碑の前で、空腹を申告しないでください。
我々は彼の、あたたかく優しく仲間思いに溢れたカロリーボムで、これ以上太りたくないのです。
――法務部執行課 実働班特殊即応部門 一同』

「カラスは『さよなら』も言わずに出てったよ」
ルリビタキは淡々と、近況を報告しました。
「今は『あの』図書館に居る。全世界図書館と共同で設置した、あの図書館だ。
仕方無いからヒバリのやつを、新しい『カラス』にしたよ。相当にゴネられたがな。
スズメには俺の『ツバメ』を継がせた。よく働いてくれている。なによりお前が置いてった『隠しキッチン』を見つけるのがうまい。
俺は――」

おれは。
そこで言葉が詰まった今代ルリビタキは、
胸ポケットから、先代ルリビタキが残した万年筆を取り出して、まじまじと、見つめます。
「俺は、うまく、やれているか?
俺は、お前が期待した働きを、できているか?」

万年筆は、何も言いません。
墓碑も、何も言いません。
ただ日光の光を浴びて優しい輝きを放っています。
ただそれだけです。それだけ、なのです。

ところでルリビタキ。
今日は新しい(ドチャクソに一時的な)ヒバリと、
それから新人のスズメが、
それぞれ新人研修を終えて、着任する日です。
そろそろ「特殊即応部門の新しい部門長、ルリビタキ」として、部屋に戻り、新人たちに挨拶をしなければなりません。

他の部署にも新人や、次代を約束された者たちが、
この日、研修を終えて、管理局にやってきます。
経理部のスフィンクスと、
収蔵部のドワーフホトです。
彼女たちも、この日、それぞれ着任するのです。

「また来る」
昔々のツバメ——先代から「ルリビタキ」を継承したドラゴンは、持ってきた美しい花束を、墓碑に丁寧に置きました。
相変わらず、墓碑はなんにも言いません。
ただただ、ルブチョが自分のお役目に向かうのを、
静かに、見守っておるだけなのです。

今日も管理局は平和です。

1/23/2026, 3:52:38 AM