かたいなか

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1/19/2026, 5:35:51 AM

今回は、先代ルリビタキとドラゴンのおはなしとは、違う場所に目を向けてみましょう。
「ツバメ」というビジネスネームを与えられたドラゴンが、ぐぅすぴ二度寝を決め込んでおる頃、
昔々、だいたい数十年ほど前のおはなしです。

「ここ」ではないどこか、なにか不思議な場所で、
1匹の「仕組み」が、滅んだ世界の魂を、
ぺろり!もぐもぐ。
食べ終えました。

そのシステムは滅んだ世界の掃除役でした。
そのシステムは滅んだ世界のリサイクル役でした。

「それ」は、滅んで熟した世界を食べて、新しい世界が生まれるスペースを作ってやって、
そして、「それ」が毛づくろいして光り輝く宝石を吐き出しますと、
その宝石は空を昇って、宇宙も昇って、誰も知らない場所まで昇っていって、
そこで、滅んだ世界の魂たちは、新しい世界に生まれ変わるのでした。

ひとつの世界はひとつの本、ひとつの日記。
滅び閉ざされた日記の中には、
かつて在り、間際まで在り、滅ばなければ在る筈だった過去たちがいっぱい。
「それ」は要するに「閉ざされた日記」を食うことで、魂を次の日記へ、リサイクルするのでした。

ところで最近、時折、滅んだ世界の味にパンチや深みがありません。
いつもなら、滅ぶ直前であっても、知的生命の生きた魂が1千なり2千なり、残っておるのです。
なのに最近、時折、この「生きた魂」が1個も残っていない世界を、食うことが増えてきたのです。
まるで生きた命がどこかに逃げてしまったような。

『んんー。今回の世界も、美味いけど、なんかパンチが足りねぇんだよなぁ』
どうしちまったんだろ。
まったく、どうしちまったんだろ。
滅んだ世界の掃除役、閉ざされた日記のリサイクル役は、ペロペロ、ぺろぺろ。
食後のルーティンとして毛づくろいなどしながら、不思議がっておりました。
『ここまで生きた魂が不作なこと、あったかー?』

カッ、カッ。猫が毛玉を吐き出す要領で、「それ」が宝石を吐き出します。
『生きた魂が少ねぇから、出てくる毛玉も最近、色も輝きもちょっと薄くて、生まれる世界がかわいそうになってくるぜ』
どうしちまったんだろ。
まったく、どうしちまったんだろ。
吐き出した毛玉、もとい、新しい世界の種をじっと見ておったところ、

視界の片隅で、
滅びそうな世界から、
まだ元気な世界に向かって、
膨大な量の生きた魂が流れていくのを見ました。

『ははぁーん?そゆことー?
この俺様に食われる栄誉から、逃げたいわけだ?』

それは、前回投稿分で名前が登場した組織、世界多様性機構による、
滅んだ世界から生きている世界への、知的生命体の大量脱出でした。
滅んだ世界が消え去る前に、生きている者たちを延命させようとしている瞬間でした。

つまり閉ざされるべき日記の中から
既存の過去たちを新しい日記に無理矢理ドババ!
強制インポートようとしておるのです。

『まぁ、どこまで逃げようと、どれだけ逃げようと、
最終的に俺様のハラの中に入るんだけどねー』

それが、シモジモの者どもは、分からないんだろうねぇ。ヒヒヒ。
滅んだ世界の掃除役は、ふわわ、あくびなどして昼寝の体勢。
大きな大きな猫みたいな、あるいは少し小さなモフモフドラゴンみたいな、ともかく人外のナニカは、
次の美味しい世界の味を想像しながら、ぐぅすぴ、かぁすぴ。寝息をたてました。

閉ざされた日記、閉じるべき日記のリサイクル役のおはなしでした。
このリサイクル役もやがて、前回投稿分で登場した組織「世界線管理局」に入局して、「スフィンクス」というビジネスネームを貸与されるのですが、
その辺のエピソードは、また数日後のお題で、ごにょごにょ。 おしまい。

1/18/2026, 3:04:59 AM

前回掲載分からの続き物。
昔々、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織に、「自分の世界を元通りに戻してもらう」という条件をのんで、
滅びかけた世界に住んでいたドラゴンが、自分の身を売って、入局してきました。

ドラゴンは、その世界で一番強いドラゴンでした。
管理局は、強い戦力を必要としていました。

今日もドラゴンは自分の部署の、
片開きのドアに翼やおなかがつっかえて、
部屋に首だけ入れて、あとは廊下にペタン。
相変わらず、ドラゴンを珍しがった子どもたちが、背中に乗ってみんな仲良く、遊んでいます。

『おい』
自分を管理局に引っ張ってきた、未来で言う「先代ルリビタキ」に、ジト目のドラゴン聞きました。
『何故俺の、あの滅びかけた世界を、俺の身ひとつで救うような取り引きをした。目的は何だ』

ドラゴンの言葉は、木枯らしのように強く冷たく、
そして木枯らしのように、周囲を吹き散らす威嚇をともなっておりました。
それでも焼きたてのミートパイをドラゴンの口に運んでいた先代ルリビタキが答えて言うには、
「戦力補充だよ」

『とぼけるな。
俺の世界を滅ぼそうとした異世界の移民どもは、俺の魔力と魂は膨大な電力量になると言っていた。
それが狙いか。 それとも、俺のチカラでもって、他の世界でも侵略に行くつもりか。 答えろ』

「ウチは、世界線『管理局』だ。
世界の独自性と、世界間の円滑な運行を、それぞれ保つために仕事をしてる。
でも最近、『世界に必要なのは独自性じゃなくて多様性だ!』って、噛みつく団体が出てきたんだ。
そいつがあんまり、あんまり過激だから、戦力の拡充が直近の課題になってるのさ。

僕たちの脅威になりつつある団体と、お前の世界に大量に移民を送り込んだ団体は、一緒なんだ。
『世界多様性機構』という、新しい組織だよ」

せかいたようせいきこう。
ドラゴンは自分の世界に移民を送り込んできた団体の名前を、ここでようやく知ったのでした。

さて。時は少し過ぎて数日後。
その日の夜のドラゴンは、管理局の中にある大きな大きな難民シェルターの花畑で、
ぐーすぴ、かーすぴ、寝ておりました。
ドラゴンの体はほのかに光って、周囲をあたたかく照らします。
周囲の花畑は、弱った花も枯れかけた草も、
ドラゴンの光を受け取って息を吹き返し、青々と新しい葉を茂らせるのでした。

ドラゴンは、炎と雷と光のドラゴンでした。
ドラゴンの本質は木枯らしではなく、陽光でした。
熱と光と、少しの食べ物さえあれば、それらすべてを自分の魔力とエネルギーにできるので、
先代ルリビタキに食わされた大量の「余剰」を、寝ている間にこうして、周囲に分けておるのでした。

『捕まえろ!優良個体だ。こいつを炉心にしよう』
夢の中でドラゴンは、管理局に来るきっかけとなった「事故」を、追体験していました。
『エネルギー注入開始します。ドラゴンの魂、臨界点到達まで残り90』
ドラゴンの世界は、異世界から来た大量の移民によって、過剰なまでに急激に開発・近代化されました。
ドラゴンはこの移民に捕まって、そして……
『駄目です!制御棒、受け付けません!暴走指数が急上昇しています!総員、至急退避――』

「おお!起きると照明が消えるのか」
そして、聞くだけでお腹がいっぱいになるような声で、ドラゴンは夢から起こされました。
「面白い能力を持っているんだな」
ドラゴンの前には、先代ルリビタキが立っており、
なにやら、書類と小さな箱を持っておりました。

「お前のビジネスネームが決まって、名刺も完成したんだ」
先代ルリビタキが言いました。
「お前はこれから、『ツバメ』だ!
ほら、これが、お前がこれから使う名刺だよ」
はぁ。そうか。
ちょっと眠そうなドラゴンは、ふわわ、わわぁ。
大きなあくびをひとつしました。

『ツバメ?俺はそんな名前ではない』
「僕の名前だって、『ルリビタキ』じゃないさ。
管理局ではビジネスネーム制を敷いているんだ。

それに、おまえ、自分の本当の名前を誰かに気やすく呼ばれたい?」
『嫌だ』
「だろう。だからお前は今日から『ツバメ』なんだ」
『そうか』

ほらほら、「ツバメ」、難民シェルターの中に用意されたお前の部屋にお帰り。
先代ルリビタキ、その場で二度寝を決め込もうとするドラゴンあらため、「当時のツバメ」の背中を、ポンポン叩きます。
俺はここが良いんだ。構うな。
ツバゴンは動きません。一歩も移動しません。
ただ静かな夜明けの花畑で、ぐーすぴ、かーすぴ。
ほのかな光を周囲に分け与えて、寝るのでした。

それから●年して、当時のルリビタキが退局して、
当時のツバメが「ルリビタキ」の名を引き継ぎ、
今代の「ツバメ」と「ルリビタキ」の時代、すなわち現在となるわけですが、
その辺のおはなしは、また数日後。

1/17/2026, 3:21:25 AM

前回掲載分からの続き物。
昔々、「ここ」ではないどこかに、滅び間近の世界がありまして、
そこに住んでいたドラゴンが、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー団体に身を売って、
代わりに、その世界を助けてもらいました。

ドラゴンは、その世界で一番強いドラゴンでした。
管理局は、強い局員を必要としていました。
傷だらけだったドラゴンは、治療をしてもらって、焼いたお肉も少し食べて、
心も魂も落ち着いてから、大きくて美しい世界線管理のお客様出入り口を通って、
そして、自分がこれからお世話になる部署へ。

「さぁ、ここが、お前がこれから僕たちと一緒に働くことになる部署。
法務部執行課の、実働班特殊即応部門だ」
『はぁ。そうか。

俺の首しか通らんこのドアの中が??』

ドラゴンにとっては狭い通路を、
他の局員とすれ違うのに苦労しつつ、
時折ぷにぷにおなかを突かれて威嚇などしながら、
特殊即応部門のいわゆる「片開き」のドアに、
一応、首だけは入りました。

本当は、美しい通路なのでしょう。
掃除も行き届いて、美しい室内なのでしょう。

部屋に入らないドラゴンの、大きなおなかと尻尾が、廊下にグデンと寝そべっているので、
管理局員の子供がわちゃわちゃと、背中に登ったり、尻尾で遊んだり。
「ドラゴンだー!」
「のせて!のせて!」
「やっつけてやるぅ」

子供のすることは、特に怒らないドラゴンです。
それに関しては、時折尻尾をピタンする程度。
「うごいたぁ!」
「トクオウのキンキュシュツドーをヨーセーする!」

ところで部屋の中では、すんすんすん、
口の前に出された「初めて見る黒い飲み物」を、
ドラゴンが注意深く観察して、
美しい陶磁器と、その中の黒の匂いをかいで、
ぺろり。舐めていました。
『苦い。なんだこれは。薬か』

「あらぁ、ブラックは飲めなかった?」
法務部の他部署から来ていたオネェな宇宙タコが、
つんつんつん、ドラゴンの鼻を突っつきました。
『気やすく触るな』
「口には気をつけてね『若造』。こう見えてアタシ、アナタより歳上なんだからぁ」

はぁ。そうか。 ドラゴンはジト目。
その日は書類だの何だのの説明で終わりました。

…——で、次の日です。
ドラゴンが特殊即応部門のブースのドアに頭突っ込んで、どんな状況かといいますと。

『……』

おやおや。美しいドラゴンの目が、瞳が、
チベットスナギツネの虚無で酷く曇っています。
そんな曇り目で口を開けて、先代ルリビタキに良いようにされています。

「これは、僕の世界の故郷のケーキ。
これは、僕が昔担当した世界の宝石糖。
これは僕の担当先の精霊さんがしょっちゅう持ってきてくれたパチパチキャンデー。
フロストホイップのスイーツもあるよ。
さあ。 お食べ。 お食べ……」
先代ルリビタキ、虚無なドラゴンの口の中に、
ケーキだの、アメちゃんだの、その他諸々だのを丁寧に、説明して置いていきます。

先代ルリビタキがドラゴンに、お茶請けのまんじゅうを食わせてみたのが、すべての発端。
小さなまんまるを食べたドラゴン、こう言いました。
『甘いものを腹に入れたのは数十年ぶりだ』

ドラゴンとしては、ただそれだけでした。
他に何も、意味も含意もありませんでした。
ただ単純に、食べ物を必須としない体だったので、
食べ物を食べたこと自体久しぶりで、
甘いものを腹に入れたのも同様だ、と。

先代ルリビタキ、とんだ勘違いをしてしまいました。

「ひもじい思いをしてきたんだね。
お菓子を食べる余裕も無いくらい、異世界移民を相手に戦って、傷ついて、心と魂を汚されて」
『そんなこと言っていない』
「もう大丈夫だ。これからは、美しいもの、美味いものを、たくさん食おう」
『「必要性」という言葉を知っているか』
「知ってるさ。コレは伝説の、ホイップクリームたっぷりパイ。ほらお食べ。お食べ……」
『むがが。あぐぐぐ』

先代ルリビタキ、ドラゴンの「すさんでいると思しき心魂」を美しい心魂に戻したくて、とびっきりのスイーツでおもてなしです。
おもてなしされたドラゴンは、ぶっちゃけ心も魂も、すさんでなんか、おらぬのです。
なのに自分の言葉が原因で、何を言っても、何度言っても、舌の上にスイーツがどっさり。

(当分、甘過ぎるものはゴメンだ……)
こうしてドラゴン、向こう100年分くらいの甘々スイーツは、十分摂取させられました。

その後もドラゴンの苦難は続きますが、
続きはまた、次のお題で。

1/16/2026, 4:34:49 AM

今回のお題から数回分、長編っぽく続くお話です。

昔々、だいたい数十年前のおはなしです。
異世界からの移民の大量流入が原因で滅びに至りそうな世界がありまして、
炎と雷と光のせいで死んでしまった花畑の真ん中に、
ぐったり、1匹のドラゴンが倒れておりました。

ドラゴンは、その世界で一番強いドラゴンでした。
そして、その世界を一番愛していたドラゴンでした。

その世界の一番偉い人が、近代化と繁栄を目当てに機構との避難民受け入れ協定を結んだ途端、
大量になだれ込んできた移民が、
世界の豊かな資源を根こそぎ採掘して、工場だのビルだのを大量に建て始めて、
世界のバランスを一気に崩し、多くの魔法動物の心魂を、濁らせてしまいました。

『この世界は、別世界の先進技術で繁栄する!』
偉い人の魂胆がガッツリ裏目に出たのです。

愛する世界を守るために、ドラゴンは移民たちを追い出そうとしました。
だけど移民たちはドラゴンを、大量の不思議なアイテムで縛り付けて、ズッタズタにやっつけて、
ドラゴンの魔力も魂も、全部ぜんぶ、電力に変換しようとしました。

ここで、事故が起こったのです。
ここで、ドラゴンの心魂が汚染されて、ドラゴンを狂わせてしまったのです。
狂ったドラゴンは移民が作ったものすべてを焼き払い、叩き潰し、
結果として、「移民の技術が無ければ機能しなくなってしまった世界」は、ぐっちゃぐちゃに壊れてしまったのでした。

『この世界は、悪しきドラゴンに滅ぼされた』
移民も原住民も、絶望のどん底に落ちました。

全部ぜんぶ壊し尽くして、傷を負って倒れ込んで、
ようやくドラゴン、正気に戻りました。
もう、生きている異世界の移民はどこにも居ません。
もう、動いている異世界の機械は何もありません。
その「異世界」無しには、
この世界は1週間も生活できないところまで、依存してしまっておりました。

そこに現れたのがルリビタキ部長。
「あーあー。また一部の利己的な移民が、世界をひとつ壊しかけた」
前回投稿分に登場したルリビタキではありません。
そのルリビタキの、先代のルリビタキです。
「酷いな。
この世界は、僕のお気に入りの花畑があったのに」
酷いや。本当に、ひどい。
まだ息のあるドラゴンの前に立って、先代ルリビタキ、言いました。

『性懲りもなく、また俺を捕まえに来たのか』
満身創痍のドラゴン、管理局を知りません。
先代ルリビタキを新しい敵と勘違いして、弱々しく、威嚇します。
『ここにはもう、お前たちが欲しがるものは何も無い。出ていけ』

威嚇があんまり弱々しいので、ルリビタキ、ちっとも怖くありません。
ドラゴンを撫でて、嫌がられて、それでも撫でて、
「寂しいこと言うなよ。取り引きしたいんだ」
自分の名刺を――出したらそれを、ドラゴンにパクリ。食われて吐き出されてビッチャビチャ。
『ヨソモノの思い通りになどならん。失せろ』
それでも先代、にっこり笑って言うのです。

「僕は世界線管理局、法務部執行課、特殊即応部門のルリビタキ。
縄張り意識が酷く強い、『幸せの青い鳥』。
お前が管理局に身を売るなら、僕たちの収蔵品でこの世界を元に戻して、ヨソモノも全員追い払おう。
3食昼寝付き。おやつも完備だ。
この世界はお前の選択次第でやり直せる。
悪いハナシじゃないだろう。なぁ、どうだろう」

その後のドラゴンのハナシは、また次回。
続くったら、続くのです。

1/15/2026, 6:41:39 AM

どうしてキノコ派とタケノコ派は衝突するのか、
どうして唐揚げはレモンの有無で割れるのか、
どうして【例の焼き菓子】は呼び名が20も30も存在しているのか。

食べ物には多くの「どうして」が存在して、なにより議論の種となっておりまして、
今回ご紹介するおはなしもまたそんな「どうして」のひとつでありました。

最近最近のおはなしです。
ドチャクソにフィクションなおはなしです。
都内某所、某アパートの一室に、藤森という雪国出身者が住んでおりまして、
諸事情から「ここ」ではないどこかの世界から訪問してきた、ドラゴンだのハムスターだのが、
勝手に入ってきて、藤森の作る低糖質低塩分料理をむしゃむしゃしたり、買い置きしていたミックスナッツをモゴモゴしたり。
それでもちゃんと代金は払っておったのでした。

その日も藤森の部屋には、モラルというかルールとして、ちゃんと人間に変身して身なりを整えたドラゴンが、お邪魔しておって、目玉焼きをもぐもぐ。
「うまい」

ドラゴンは光と炎と雷のドラゴンなので、
ぶっちゃけ特に何を食べずとも、日光と水と、ほんの少しの糖分さえあれば、
数日、数週間、普通に活動できるのです。
だけどドラゴン、ひょんなことから「うまいものを食べる」という娯楽を覚えてしまいまして、
ここ●●年は、誰かに作ってもらってものを、もぐもぐ幸福に食っておったのでした。

ところでこのドラゴン
先日藤森の職場の図書館に
自分の部下と一緒に仕事で入館したのですが
その図書館の飲食スペースで
なにやら5人10人ほどの若者が
真剣に、それはもうドチャクソ真面目に、
目玉焼きは何が最適解かで、議論しておりまして。

どうして目玉焼きは醤油派が多数なのでしょう?
どうして目玉焼きは、次点が塩や塩コショウで、
その次からはウスターソースにケチャップ等々、
荒れに荒れておるのでしょう?

どうして?
ドラゴンはドラゴンなので、ぶっちゃけ人間たちのケンカのことは、よく分かりません。
ですが、図書館の複数人が、あまりにも真剣に
「うなぎのタレ一択」だの
「一味マヨが意外と美味い」だの
「何故みんなレモン塩を推さないんだ」だの
いろいろ静かに激突しておったので、
少しだけ、気になったのでした。

「何故だ、藤森。
どうして焼き卵ひとつでそこまで議論になる」
「そう言われても。私にも、どうにも」
「何故だ」
「知りません」

「お前はどれなんだ」
「だいたい醤油か塩コショウですね」

ふーん。
ドラゴンは藤森から目玉焼きのおかわりを貰って、
半熟というより7割8割程度熟の黄身に向かって、
ドラゴンが最近覚えた調味料、柚子胡椒を少しだけ、つけてみたのでした。

「珍しい組み合わせですね」
「そうか」

「好きなんですか、トウガラシとか、辛味系」
「心が落ち着かないときは、こいつの辛味の痛みを詰め込んで、抑え込む。
あとは単純に、好ましい味として適量を食う」
「はぁ」

もぐもぐ、もぐもぐ。
ドラゴンが美味しそうに卵を食べるのを、藤森はぼーっと見ています。
ドラゴン自身から、元々食物摂取がそれほど必要無いことは、藤森も聞いておりました。
だけど藤森にはどうしても、どうしても、
このドラゴンは、食いしん坊にしか見えません。

「本当に食事は最低限で良いんですか」
「不要だ。水と光さえあれば問題無い」
「どうしてそれなのに、私のところに」
「美味いものを覚えた。それだけだ」

「甘い物がキライなのは?」
「キライではない。甘過ぎるものに良い思い出が無いだけだ。食えないワケでもない」

「思い出?」
「思い出だ」

礼の代金は置いておく。 また来る。
人間に変身したドラゴンは、「思い出」のハナシを置きっ放しにして、藤森の部屋から出ていきます。
「思い出か」
藤森は、食いしん坊ドラゴンがどうして食いしん坊になったのか、気になって仕方ありません。
「思い出か……」

どうしてだろう。 どうしてだろう。
藤森は数分、ひとりして考えておったとさ。

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