前回掲載分からの続き物。
昔々、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織に、「自分の世界を元通りに戻してもらう」という条件をのんで、
滅びかけた世界に住んでいたドラゴンが、自分の身を売って、入局してきました。
ドラゴンは、その世界で一番強いドラゴンでした。
管理局は、強い戦力を必要としていました。
今日もドラゴンは自分の部署の、
片開きのドアに翼やおなかがつっかえて、
部屋に首だけ入れて、あとは廊下にペタン。
相変わらず、ドラゴンを珍しがった子どもたちが、背中に乗ってみんな仲良く、遊んでいます。
『おい』
自分を管理局に引っ張ってきた、未来で言う「先代ルリビタキ」に、ジト目のドラゴン聞きました。
『何故俺の、あの滅びかけた世界を、俺の身ひとつで救うような取り引きをした。目的は何だ』
ドラゴンの言葉は、木枯らしのように強く冷たく、
そして木枯らしのように、周囲を吹き散らす威嚇をともなっておりました。
それでも焼きたてのミートパイをドラゴンの口に運んでいた先代ルリビタキが答えて言うには、
「戦力補充だよ」
『とぼけるな。
俺の世界を滅ぼそうとした異世界の移民どもは、俺の魔力と魂は膨大な電力量になると言っていた。
それが狙いか。 それとも、俺のチカラでもって、他の世界でも侵略に行くつもりか。 答えろ』
「ウチは、世界線『管理局』だ。
世界の独自性と、世界間の円滑な運行を、それぞれ保つために仕事をしてる。
でも最近、『世界に必要なのは独自性じゃなくて多様性だ!』って、噛みつく団体が出てきたんだ。
そいつがあんまり、あんまり過激だから、戦力の拡充が直近の課題になってるのさ。
僕たちの脅威になりつつある団体と、お前の世界に大量に移民を送り込んだ団体は、一緒なんだ。
『世界多様性機構』という、新しい組織だよ」
せかいたようせいきこう。
ドラゴンは自分の世界に移民を送り込んできた団体の名前を、ここでようやく知ったのでした。
さて。時は少し過ぎて数日後。
その日の夜のドラゴンは、管理局の中にある大きな大きな難民シェルターの花畑で、
ぐーすぴ、かーすぴ、寝ておりました。
ドラゴンの体はほのかに光って、周囲をあたたかく照らします。
周囲の花畑は、弱った花も枯れかけた草も、
ドラゴンの光を受け取って息を吹き返し、青々と新しい葉を茂らせるのでした。
ドラゴンは、炎と雷と光のドラゴンでした。
ドラゴンの本質は木枯らしではなく、陽光でした。
熱と光と、少しの食べ物さえあれば、それらすべてを自分の魔力とエネルギーにできるので、
先代ルリビタキに食わされた大量の「余剰」を、寝ている間にこうして、周囲に分けておるのでした。
『捕まえろ!優良個体だ。こいつを炉心にしよう』
夢の中でドラゴンは、管理局に来るきっかけとなった「事故」を、追体験していました。
『エネルギー注入開始します。ドラゴンの魂、臨界点到達まで残り90』
ドラゴンの世界は、異世界から来た大量の移民によって、過剰なまでに急激に開発・近代化されました。
ドラゴンはこの移民に捕まって、そして……
『駄目です!制御棒、受け付けません!暴走指数が急上昇しています!総員、至急退避――』
「おお!起きると照明が消えるのか」
そして、聞くだけでお腹がいっぱいになるような声で、ドラゴンは夢から起こされました。
「面白い能力を持っているんだな」
ドラゴンの前には、先代ルリビタキが立っており、
なにやら、書類と小さな箱を持っておりました。
「お前のビジネスネームが決まって、名刺も完成したんだ」
先代ルリビタキが言いました。
「お前はこれから、『ツバメ』だ!
ほら、これが、お前がこれから使う名刺だよ」
はぁ。そうか。
ちょっと眠そうなドラゴンは、ふわわ、わわぁ。
大きなあくびをひとつしました。
『ツバメ?俺はそんな名前ではない』
「僕の名前だって、『ルリビタキ』じゃないさ。
管理局ではビジネスネーム制を敷いているんだ。
それに、おまえ、自分の本当の名前を誰かに気やすく呼ばれたい?」
『嫌だ』
「だろう。だからお前は今日から『ツバメ』なんだ」
『そうか』
ほらほら、「ツバメ」、難民シェルターの中に用意されたお前の部屋にお帰り。
先代ルリビタキ、その場で二度寝を決め込もうとするドラゴンあらため、「当時のツバメ」の背中を、ポンポン叩きます。
俺はここが良いんだ。構うな。
ツバゴンは動きません。一歩も移動しません。
ただ静かな夜明けの花畑で、ぐーすぴ、かーすぴ。
ほのかな光を周囲に分け与えて、寝るのでした。
それから●年して、当時のルリビタキが退局して、
当時のツバメが「ルリビタキ」の名を引き継ぎ、
今代の「ツバメ」と「ルリビタキ」の時代、すなわち現在となるわけですが、
その辺のおはなしは、また数日後。
1/18/2026, 3:04:59 AM