どうしてキノコ派とタケノコ派は衝突するのか、
どうして唐揚げはレモンの有無で割れるのか、
どうして【例の焼き菓子】は呼び名が20も30も存在しているのか。
食べ物には多くの「どうして」が存在して、なにより議論の種となっておりまして、
今回ご紹介するおはなしもまたそんな「どうして」のひとつでありました。
最近最近のおはなしです。
ドチャクソにフィクションなおはなしです。
都内某所、某アパートの一室に、藤森という雪国出身者が住んでおりまして、
諸事情から「ここ」ではないどこかの世界から訪問してきた、ドラゴンだのハムスターだのが、
勝手に入ってきて、藤森の作る低糖質低塩分料理をむしゃむしゃしたり、買い置きしていたミックスナッツをモゴモゴしたり。
それでもちゃんと代金は払っておったのでした。
その日も藤森の部屋には、モラルというかルールとして、ちゃんと人間に変身して身なりを整えたドラゴンが、お邪魔しておって、目玉焼きをもぐもぐ。
「うまい」
ドラゴンは光と炎と雷のドラゴンなので、
ぶっちゃけ特に何を食べずとも、日光と水と、ほんの少しの糖分さえあれば、
数日、数週間、普通に活動できるのです。
だけどドラゴン、ひょんなことから「うまいものを食べる」という娯楽を覚えてしまいまして、
ここ●●年は、誰かに作ってもらってものを、もぐもぐ幸福に食っておったのでした。
ところでこのドラゴン
先日藤森の職場の図書館に
自分の部下と一緒に仕事で入館したのですが
その図書館の飲食スペースで
なにやら5人10人ほどの若者が
真剣に、それはもうドチャクソ真面目に、
目玉焼きは何が最適解かで、議論しておりまして。
どうして目玉焼きは醤油派が多数なのでしょう?
どうして目玉焼きは、次点が塩や塩コショウで、
その次からはウスターソースにケチャップ等々、
荒れに荒れておるのでしょう?
どうして?
ドラゴンはドラゴンなので、ぶっちゃけ人間たちのケンカのことは、よく分かりません。
ですが、図書館の複数人が、あまりにも真剣に
「うなぎのタレ一択」だの
「一味マヨが意外と美味い」だの
「何故みんなレモン塩を推さないんだ」だの
いろいろ静かに激突しておったので、
少しだけ、気になったのでした。
「何故だ、藤森。
どうして焼き卵ひとつでそこまで議論になる」
「そう言われても。私にも、どうにも」
「何故だ」
「知りません」
「お前はどれなんだ」
「だいたい醤油か塩コショウですね」
ふーん。
ドラゴンは藤森から目玉焼きのおかわりを貰って、
半熟というより7割8割程度熟の黄身に向かって、
ドラゴンが最近覚えた調味料、柚子胡椒を少しだけ、つけてみたのでした。
「珍しい組み合わせですね」
「そうか」
「好きなんですか、トウガラシとか、辛味系」
「心が落ち着かないときは、こいつの辛味の痛みを詰め込んで、抑え込む。
あとは単純に、好ましい味として適量を食う」
「はぁ」
もぐもぐ、もぐもぐ。
ドラゴンが美味しそうに卵を食べるのを、藤森はぼーっと見ています。
ドラゴン自身から、元々食物摂取がそれほど必要無いことは、藤森も聞いておりました。
だけど藤森にはどうしても、どうしても、
このドラゴンは、食いしん坊にしか見えません。
「本当に食事は最低限で良いんですか」
「不要だ。水と光さえあれば問題無い」
「どうしてそれなのに、私のところに」
「美味いものを覚えた。それだけだ」
「甘い物がキライなのは?」
「キライではない。甘過ぎるものに良い思い出が無いだけだ。食えないワケでもない」
「思い出?」
「思い出だ」
礼の代金は置いておく。 また来る。
人間に変身したドラゴンは、「思い出」のハナシを置きっ放しにして、藤森の部屋から出ていきます。
「思い出か」
藤森は、食いしん坊ドラゴンがどうして食いしん坊になったのか、気になって仕方ありません。
「思い出か……」
どうしてだろう。 どうしてだろう。
藤森は数分、ひとりして考えておったとさ。
1/15/2026, 6:41:39 AM