かたいなか

Open App

前回掲載分からの続き物。
昔々、「ここ」ではないどこかに、滅び間近の世界がありまして、
そこに住んでいたドラゴンが、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー団体に身を売って、
代わりに、その世界を助けてもらいました。

ドラゴンは、その世界で一番強いドラゴンでした。
管理局は、強い局員を必要としていました。
傷だらけだったドラゴンは、治療をしてもらって、焼いたお肉も少し食べて、
心も魂も落ち着いてから、大きくて美しい世界線管理のお客様出入り口を通って、
そして、自分がこれからお世話になる部署へ。

「さぁ、ここが、お前がこれから僕たちと一緒に働くことになる部署。
法務部執行課の、実働班特殊即応部門だ」
『はぁ。そうか。

俺の首しか通らんこのドアの中が??』

ドラゴンにとっては狭い通路を、
他の局員とすれ違うのに苦労しつつ、
時折ぷにぷにおなかを突かれて威嚇などしながら、
特殊即応部門のいわゆる「片開き」のドアに、
一応、首だけは入りました。

本当は、美しい通路なのでしょう。
掃除も行き届いて、美しい室内なのでしょう。

部屋に入らないドラゴンの、大きなおなかと尻尾が、廊下にグデンと寝そべっているので、
管理局員の子供がわちゃわちゃと、背中に登ったり、尻尾で遊んだり。
「ドラゴンだー!」
「のせて!のせて!」
「やっつけてやるぅ」

子供のすることは、特に怒らないドラゴンです。
それに関しては、時折尻尾をピタンする程度。
「うごいたぁ!」
「トクオウのキンキュシュツドーをヨーセーする!」

ところで部屋の中では、すんすんすん、
口の前に出された「初めて見る黒い飲み物」を、
ドラゴンが注意深く観察して、
美しい陶磁器と、その中の黒の匂いをかいで、
ぺろり。舐めていました。
『苦い。なんだこれは。薬か』

「あらぁ、ブラックは飲めなかった?」
法務部の他部署から来ていたオネェな宇宙タコが、
つんつんつん、ドラゴンの鼻を突っつきました。
『気やすく触るな』
「口には気をつけてね『若造』。こう見えてアタシ、アナタより歳上なんだからぁ」

はぁ。そうか。 ドラゴンはジト目。
その日は書類だの何だのの説明で終わりました。

…——で、次の日です。
ドラゴンが特殊即応部門のブースのドアに頭突っ込んで、どんな状況かといいますと。

『……』

おやおや。美しいドラゴンの目が、瞳が、
チベットスナギツネの虚無で酷く曇っています。
そんな曇り目で口を開けて、先代ルリビタキに良いようにされています。

「これは、僕の世界の故郷のケーキ。
これは、僕が昔担当した世界の宝石糖。
これは僕の担当先の精霊さんがしょっちゅう持ってきてくれたパチパチキャンデー。
フロストホイップのスイーツもあるよ。
さあ。 お食べ。 お食べ……」
先代ルリビタキ、虚無なドラゴンの口の中に、
ケーキだの、アメちゃんだの、その他諸々だのを丁寧に、説明して置いていきます。

先代ルリビタキがドラゴンに、お茶請けのまんじゅうを食わせてみたのが、すべての発端。
小さなまんまるを食べたドラゴン、こう言いました。
『甘いものを腹に入れたのは数十年ぶりだ』

ドラゴンとしては、ただそれだけでした。
他に何も、意味も含意もありませんでした。
ただ単純に、食べ物を必須としない体だったので、
食べ物を食べたこと自体久しぶりで、
甘いものを腹に入れたのも同様だ、と。

先代ルリビタキ、とんだ勘違いをしてしまいました。

「ひもじい思いをしてきたんだね。
お菓子を食べる余裕も無いくらい、異世界移民を相手に戦って、傷ついて、心と魂を汚されて」
『そんなこと言っていない』
「もう大丈夫だ。これからは、美しいもの、美味いものを、たくさん食おう」
『「必要性」という言葉を知っているか』
「知ってるさ。コレは伝説の、ホイップクリームたっぷりパイ。ほらお食べ。お食べ……」
『むがが。あぐぐぐ』

先代ルリビタキ、ドラゴンの「すさんでいると思しき心魂」を美しい心魂に戻したくて、とびっきりのスイーツでおもてなしです。
おもてなしされたドラゴンは、ぶっちゃけ心も魂も、すさんでなんか、おらぬのです。
なのに自分の言葉が原因で、何を言っても、何度言っても、舌の上にスイーツがどっさり。

(当分、甘過ぎるものはゴメンだ……)
こうしてドラゴン、向こう100年分くらいの甘々スイーツは、十分摂取させられました。

その後もドラゴンの苦難は続きますが、
続きはまた、次のお題で。

1/17/2026, 3:21:25 AM