かたいなか

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前々回掲載分から3ヶ月くらい経過した頃の、世界線管理局、特殊即応部門のオフィスです。
まだまだ昔々、十何年、何十年前のおはなし。
滅びかけた自分の世界を救ってもらう見返りに、1匹のドラゴンが特殊即応部門に身を売りまして、
最近ようやく、人間に変身する魔法を、完璧に使いこなせるようになりました。

これにギャン泣きしたのが管理局の子どもたち。
「ドラゴンさん、いなくなっちゃった」
「あたしたちのドラゴン、かえせぇ!」
「ドラちゃん、ドラちゃん!どこぉー!!」
そりゃそうです。せっかくのカッコよくて、大きくて、背中に乗せて遊んでくれるドラゴンが、
突然、居なくなってしまったのです。

ドラゴン、ドラゴン!
君に会いたくて、オフィスに来たのに!
君に会いたくて、お花も取ってきたのに!
子供たちは大きな声で、ギャンギャン!

ドラゴンの代わりに現れたのが、強そうで怖そうで見覚えのない男の人。
そうです。人間形態のドラゴンです。
ドラゴンはこのたび、「ツバメ」というビジネスネームを貸与されました。

で、この3ヶ月の間に、ドラゴンもとい「ツバメ」が才能を発揮したものがありました。
作戦の立案と、リーダーシップ。それから戦闘です。
さすが悠久を生きるドラゴン。
ただ時折、つまり誰かの危険と作戦の成功を天秤にかけるような状況になると、
ツバメ、考えることがドチャクソ極端になりました。

たとえば、戦闘に慣れてない局員10人が、大量の兵器で武装した多様性機構の職員に捕まったそうです。
「俺が敵を全員潰せば良いんじゃないか?」
たとえば、機構とは別の過激な多様性信者の団体が、たくさんの武器を持って管理局のエントランスになだれ込んできたそうです。
「再度襲撃されても困る。今のうちに連中を根絶すれば良いんじゃないか?」

極端、極端。最短距離。
チカラのあるツバメは、
チカラを持っているがゆえに、
結果として自分が怪我しようと、瀕死になろうと、
自分1匹で全部片付くことを知っておるのでした。

「ツバメ。根を詰め過ぎるな」
当時の部長、当時のルリビタキは、
ツバメの性質をよく理解していました。
「お前が根を詰め過ぎると、だいたい、極端な思考と作戦立案に偏っていく。
任務に最速を求めるな。最善を求めるんだ」

ほら、お食べ。
ルリビタキがツバメに渡したマグカップには、唐辛子をきかせた赤味噌の味噌汁が入っていました。
「息抜きを覚えろ。ツバメ」

ちゃぴ、ちゃぴ。
ツバメがマグカップに口をつけると、
ピリッ!! とした刺激が、ガチャガチャしたツバメの心を打ち据えました。
「ん、んん??」
ツバメの本能がこれを摂取すべきだと命じました。
「これは、なんだ」
本能に従ったツバメは、このピリッとする飲み物を、すぐ飲み干してしまいました。

飲み物が舌に触れると、
刺激で、心がリセットされます。
飲み物が胃袋におさまると、
味覚で、心の曇りが晴れます。

「味噌汁だ」
ルリビタキが、その飲み物の名前を言いました。
「ミソシル。みそしる」
ツバメは、みそしるの四文字を、すぐ覚えました。
「その、みそしる、もう1杯くれないか」

こうしてツバメは「唐辛子」を覚えたのでした……

…——で、
そんなこんなの味噌汁エピソードから時が流れて、
ツバメに昇給のときが来ました。
「そろそろウチの部署にも、
副部長、置こうと思ったんだ」

ほら、お前の新しい名刺と辞令だよ。
にっこり笑うルリビタキ部長が、ツバメにとつぜん、A4の紙っぺらを渡します。
そこには今日の日付と、「辞令」の2文字と、
「上のものを本日付けで副部長に任命する」の文言。
上のものとは、ツバメです。
ツバメ、主任をさし置いて、一気に副部長に昇格してしまったようです。

なおツバメ、ぶっちゃけドラゴンなので、シモジモの者たちの役職だの昇給には興味がありません。
とはいえルリビタキは、ツバメの世界を救ってくれた恩人ですので、
ルリビタキが「やれ」と言うなら、ツバメ、主任でも副部長でも、一日署長でもやるのです。

「大丈夫か?主任から、不満は出ないのか?」
「ちゃんと相談したさ。今の主任は、ハシボソガラスってやつがやってるんだが、『査問官としての仕事の方が忙しいから、勝手にやっといて〜』だとさ」

「ハシボソガラス?」
「最近入ってきて、尋問のスキル一本で、主任のビジネスネーム、『カラス』を継いだ若い男だ。
スゴいんだぞ、表情見ただけ、仕草を見ただけで、僕の隠し冷蔵庫の場所がバレるんだ」

「かくしれいぞうこ」
「あっ」

ともかく!これからもヨロシク、ツバメ副部長。
握手を求めるルリビタキでしたが、
ツバメはツバメで、「隠し冷蔵庫」の単語が気になり、ジト目でルリビタキを見ておりました。
先代ルリビタキと先代ツバメのおはなしも、あと2〜4回ほどで完結。
「あの夜」、「特別な夜」のハナシは、
すぐ近くに、迫っておったのでした。

1/20/2026, 3:26:28 AM