先週16日頃から始まった疑似長編も、次回か次の次の回あたりでようやく完結。
特別な夜のおはなしです。
世界線管理局と世界多様性機構の対立も、あれこれ、なんやかんやありまして、
はや数十年の付き合いとなりました。
それぞれの世界がそれぞれの世界として、
他の世界から侵略されたりせぬよう、整備保全・防衛するのが仕事の世界線管理局と、
滅びゆくべき世界、まだ発展途上にある世界に、
先進世界の技術と違法行為でもって、密航支援・介入したがる世界多様性機構。
滅亡世界の難民たちを別世界に密航させようとするたび妨害してくる管理局に対して、
機構がとうとう、擬似的な武力行使。
「こっち」の世界の地球の日本の、都内某所の現地住民な女性を1人、
拉致して縄で縛って、いじめている映像を、管理局に送りつけてきました。
助けたければ、監禁場所を特定してみろ。
完全武装の機構職員がたくさん映っているその場所に、見合うだけの戦力を引き連れて、
現地住民を救いに来てみろ。というのです。
その女性は管理局法務部の局員、
ハシボソガラス主任の初恋の人でした。
――「俺たちが完全武装の連中に全力で対応して、管理局が手薄になってる間に、その管理局を倍々の戦力で叩く、ってのが作戦だってさ」
カラス主任の恋愛事情を機構に流した局員から、
カラス主任自身が情報を搾り取って、
ものの数十分で、「法務部執行課 実働班 特殊即応部門」のメンバー全員が集められました。
情報共有と、作戦会議です。
特殊即応部門の部長ルリビタキ、こう言いました。
「救出には、僕とカラスと、ヒバリで行ってくる。
僕に何かあったら、ツバメ。今後の特応頼んだよ」
「無茶だ!」
ツバメと呼ばれた局員、声を荒らげて反論します。
「戦闘を回避して、ヒバリの能力で離脱する魂胆にしても、戦力が少な過ぎる!」
それでもルリビタキは譲りません。
「僕たちは戦闘をパスできるけど、多様性機構の管理局襲撃班は、戦闘をパスさせてくれないよ。
だから管理局に、ツバメ、お前を残すんだ」
それから数分、あーだこーだ、ギャーギャー、
ツバメとルリビタキでケンカしましたが、
ルリビタキの意思は、最後まで揺るぎませんでした。
「60分で支度して、救出任務に出る。
その前にツバメ、ちょっと話をしたいから、時間を都合してくれ」
特殊即応部門の局員それぞれが、自分の職務の準備のためにオフィスから出てゆく中で、
ルリビタキとツバメはふたりして、向かい合って最後の夜、「特別な夜」に向けての話を始めました。
…——「持っててくれ。
僕が帰ってきたら、返してほしい」
斜陽です。
窓から美しいオニユリ色がさし込む中で、
ルリビタキはツバメに、1本の美しい万年筆を、渡しました。
「これは?」
「僕は使えなかった」
「だから、何だ、これは」
「特殊即応部門の部長と管理局の局長だけが使うことを許されている、『神様の存在証明』。そのイミテーションだ。
僕たちは『助言者の校生ペン』と呼んでる」
それは、「その世界」の独自性と独立性を尊重する世界線管理局の局員が使うチートアイテムとしては、
酷く、ひどく、異質な万年筆でした。
「神様がこれのオリジナルに、神様のインクを詰めて、神様の本に文字を記したことで、世界が始まったとされている」
それは、魔力持つ者がサラっと一文書くだけで、
東京のドブ川からダイヤモンドを吹き出させることもできるし、
地球の大気を昭和1桁の頃の美しさにすることもできるのでした。
「イミテーションだけど、とても強大なチカラを持っているし、相応のチカラが要求される。だから僕は使いこなせなかった」
世界の物語を、それを構成する「文章」を、
持ち主の都合で勝手に「校正」してしまえる万年筆。
それは確実に、世界線管理局より、世界多様性機構の側に立つチートアイテムでした。
「ツバメ。おまえに、このペンを預ける」
「分かった。預かる」
ツバメはルリビタキから受け取った万年筆を、指の間でクルクル回して、窓からさし込む斜陽にさらして、
それから、胸ポケットに入れました。
「『預かってやる』から、必ず、取りに戻ってこい」
いいな。必ずだぞ。
ツバメはそう付け加えると、ルリビタキの両肩を、トン、とん。力強く叩きました。
ツバメとしては、自分の世界を救ってもらった恩を、まだルリビタキに全部ぜんぶ、返し終わっていないのです。
ツバメとしては、ルリビタキにしか作れない「ルリビタキ特製味噌汁:秘伝スパイス入り」のレシピを、まだ、教えてもらっていないのです。
「必ずだ。戻ってこい」
ツバメは再度、ルリビタキの両肩を、叩きました。
「心配性なやつだな」
ルリビタキは、「分かった」とも「無理だ」とも言いませんでした。
「管理局の防衛、頼んだぞ」
それから1時間後、特別な夜が始まりました。
ルリビタキはカラスとヒバリと一緒に、現地住民の救出に旅立ちました。
それからだいたい10分後、管理局に機構側の戦闘員が、それはそれはたくさん、押し寄せました。
ツバメはみんなを指揮して管理局を守り、
カラスとヒバリは東京の現地住民を救出して帰ってきて、
ルリビタキのビジネスネームと彼の役職は、
「現地住民救出任務完了をもって、ツバメに正式に引き継がれました」とさ。
1/22/2026, 3:25:02 AM