かたいなか

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9/10/2025, 4:15:10 AM

モザイク、ろ過機、ドリップペーパー、データ選別用条件、選択的注意、フィルタリングしたりスクリーニングしたり、あるいは選別したり、等々。
フィルターにも色々あるそうです。
今回はその中から、お茶っ葉フィルターのおはなしを、ひとつご紹介。

まずひとつ目は、最近最近の都内某所。
某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、美味しいものが大好き!
先祖代々の過酷な努力と稲荷狐の薬によって、チョコもタマネギも克服しておるので、
チョコパイも、オニオンリングも、むしゃむしゃ!
美味追求と狐の本能に従って、よく食べます。

その日は「ドワーフホト」というビジネスネームの、美味追求仲間が訪問してきて、
なにやら、たくさんのお菓子をどっさり。
「ちょっと、ワケあって、余ったのぉ」
ドワーフホトは言いました。
「コンちゃん、一緒に食べよー」

このおはなしのフィルターは、紅茶のフィルター。
茶っ葉と一緒に甘酸っぱいベリーのドライフルーツを、たっぷり、入れてあります。
茶っ葉とベリーの詰まったフィルターをガラスポットにセットして、適切な温度のお湯をタパパ。

「いいにおい!いいにおい!」
ベリーの香りが広がって、子狐コンコン、目を輝かせ尻尾を振ります。甘いものは大好きなのです。
「もーしょーしょー、お待ちくださぁい」
ドワーフホトはニッコリ笑って、
そして、タパパトポポ、とぽぽ。
ガラスポットをお湯で満たして、砂時計をトン。
ひっくり返しました。

「イチゴ!」
「ラズベリーと、ゴジベリーと、ほんのちょっと、マルベリーも入ってるよ〜」
「ベリー!ベリー! ぜんぶ、キツネのものだ」
「あたしも飲みたいから、半分こしようねー」
「はんぶんこ、半分こ!」

赤紫と琥珀色。
フィルターを通過して、お茶とベリーの色が少しずつ、お湯に溶け出してゆきます。
下から上へ、濃い場所が薄い場所へ。
フィルターを通過して、お茶とベリーの色が少しずつ、お湯の動きを可視化します。

「まだちょっと暑いからぁ、ホットのままじゃなくて、氷入れて冷やしちゃおうね〜」
時計の砂が全部落ちて、お茶の色も均一になったら、フィルタータイムはおしまい。
氷を入れた耐熱コップに、静かに紅茶を注ぎ入れて、ドワーフホトは先に、子狐に、甘酸っぱいベリーのお茶をくれてやったのでした。
「はい。どうぞー」

「おいしい。おいしい」
ごくごく、ごくこく!
あんまりベリーの香りが幸福なので、コンコン子狐、ドワーフホトの分が完成するのは待ちません。

器用に前足で――どういう原理か不明ですが――コップをしっかり持ちまして、ごくごく!
「おいしい。おいしい」
子狐はアイスベリーティーを堪能して、
「あぶっ」
結果、氷がコップの中で滑ったせいでしょう、
お茶が一気に動いて、子狐の口と首と、胸のあたりを、ベリーティーの色で濡らしました。

コンビニで買ったアイスコーヒーを
フタとかストローとか使わず飲むと
突然こうなったりしませんか
(フタフィルターまたはストローフィルター大事)

「やだぁ!コンちゃん、ベリー色になってるぅ」
拭いて、拭いて。
子狐がドワーフホトに救援要請を発出すると、
ドワーフホトは明るく笑って、子狐の毛をトントン、ハンカチとティッシュで拭いてやります。
「んんー。ベリーの香水感。良い香りぃ」

ドワーフホトが拭いても、子狐のフワフワな夏毛には、まだベリーティーの香りが残っています。
それはとっても美しく、明るく、幸福な香りです。
「はい。ストロー、どーぞ」
ドワーフホトが子狐のコップにストローをさしてやると、子狐は大人しく、
「あぶぶ」
「もぉぉー、コンちゃんったらぁ」
ストローを使うハズもなく、
またゴクゴク飲んで、氷が動いて、
ベリーの香水を夏毛に、付けてしまったとさ。

茶っ葉フィルターと子狐と、ドワーフホトのおはなしでした。 おしまい、おしまい。

9/9/2025, 9:53:33 AM

トマトに王道のチーズ。これは仲間です。
カレーに隠し味のチョコ。これも仲間です。
今回のお題は仲間に、「なれなくて」とのこと。
「ここ」ではないどこか、別の世界のおはなしを、ひとつ、ご用意しました。

最近最近、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織の収蔵部、収蔵課の一角で、
収蔵課の局員と、経理部の局員がふたりして、なにやらおしゃべりをしておりました。
収蔵課局員はビジネスネームを「ドワーフホト」、
経理部局員は「スフィンクス」と言いました。

「うぅぅー、んんんーーーん、なやむぅ!」
ドワーフホトが言いました。
彼女の目の前には美しく大きなスイーツボックス。
そして、それに入り切らないほどの美しいお菓子。
「ゼーッタイ入れたいお菓子だけ、持ってきたハズなのにぃ、入れたいお菓子が用量オーバー!
これは、これはぁッ……悩むよぉー!」

輝く飴でコーティングされた宝石菓子、
ふわふわコットンな口あたりの錦菓子、
滑らかなムースの絹菓子に、
カリリ!噛んで楽しい星菓子、琥珀菓子、氷菓子。
しょっぱいお菓子も、忘れてはなりません。
ドワーフホトはそれらの財宝を、スフィンクスともうひとりの、3人で食べたいのでした。

というのも管理局にドワーフホトの知り合いが、めでたく入局の予定でして。
知り合いは前職でのビジネスネームをアテビといい、ドワーフホトから「アーちゃん」と呼ばれ、
なんと、元々管理局をドチャクソに敵視しておった組織から、管理局側に保護されたのでした。

保護観察期間と検査、試験、面談を終えて、
双方が合意に至れば、アーちゃんはドワーフホトの同僚、仲間となるのです。
ドワーフホトはそのお祝いを、大親友のスフィンクスと、当事者のアーちゃんと一緒に、
この素晴らしいお菓子を楽しみながら、一緒にパーっと、やりたいのです……
が。

お祝いパーティーのための「最小限」の仲間を、すなわち最高のお菓子とお茶を集めたところ、
いちばん大きい、豪華で豪奢なスイーツケースに、
どうしても、全量、入らないのです。

お祝いの仲間になれるお菓子と、
お祝いの仲間になれないお菓子。
箱に入れたいお菓子と、
箱に入れることを諦めねばならないお菓子。
ゆえに、ドワーフホトは悩んでおりました。

仲間になれるお菓子は財宝です。
仲間になれなくて置いてゆくべきお菓子を、
どう除けば、どう却下すれば良いのでしょう?

「スフィちゃん、スフィちゃぁーん、
どーしよぉ、選べなぁい、選べないよぉぉ……」
「今食いたいのを食って減らせば良いじゃん」
「やだよぉ!
私と、スフィちゃんと、それからアーちゃんとで食べるの、あたしひとりで食べちゃダメぇ!」

「いっそここにアテビ呼び出せば?」
「部長さんに監禁されてるー」
「監禁、カンキンって。まぁ分かるけどさ」

「アーちゃん、仲間になれなくて、追放されちゃったらどうしよぅぅ……」
「はいはい」

「スフィちゃん、アーちゃん、さらってきて」
「いやいやいやいやあのな」
「ワイロならあるぅ。いっぱいあるぅ」
「いやいやいやいや」

お前、ホントに友達思い・仲間思いだよな。
スフィンクスが言いました。
ドワーフホトは本気か冗談か、チラリチラリ、決済用のバチクソ・リッチ・ビリオネアセレブカードを、スフィンクスに見せます。

「ホト様……」
どうやらその2人のおしゃべりを、
仲間になれなくて、仲間に入れなくて、遠くから見守るのが居るようですが、
まぁまぁ、そこは、お題とは関係ないので気にしない、気にしない。 おしまい。

9/8/2025, 9:07:16 AM

雨降る朝と、始業前の職場で書類等々を配達する配膳ロボット、もとい、配達ロボットのおはなし。

最近最近、「ここ」ではないどこか、別の世界で、
「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織が、
あんなこと、こんなこと、それぞれの世界の独立性や独自性のための仕事をしておって、
総務部ならば、たとえば総合案内課、
関係整備部ならば、難民支援課に空間管理課、
法務部であれば執行課の実動班、等々、等々。
様々な部署、様々な部門が存在しておりました。

その部署間・部門間の書類や伝票、現金等貴重品を管理局員の代わりに運んでくれるのが、
ベラbげほげほ、もとい、超個体的な連携を可能としている黒塗りの機械生物。

管理局はビジネスネーム制を採用しており、それぞれの部署ごとにそれぞれの種類の動物の名前を、本名の代わりに用いるルールでしたので、
経理部所属のルールにならい、配達黒塗りロボットたちは、「クロネコ」と名付けられていました。

え?「一歩前」なのか「どいてにゃ」なのか不明?
細かいことを気にしてはなりません。

さて。
機械生物クロネコは、元々、過剰な開発競争によって自滅した世界から拾われてきた、生き残り。
拾ってもらった恩として、管理局の局員となり、
人間や獣人、宇宙タコや魔法生物の仲間と一緒に、
せっせこ、せっせこ。働いています。

物資運搬を目的として故郷の世界で開発されたクロネコの、管理局での仕事も、物資運搬。
特に、管理局の始業時刻前に、前日預かった伝票だの書類だのを各方面、お届け先の部門・部署に配達するのは、とっても大事な仕事です。

機械生物クロネコの早朝勤務部隊は、この大事な仕事を優先的に成し遂げられるように、
始業時刻3時間前に職場に来て、3時間みっちり働いて、3時間ですべてを配達してしまって、
それから後は、ずっと、ずーっと、休憩時間で居ることを、許されておったのでした。

そして、その日の早朝も、勿論始業時刻3時間前から、機械生物クロネコの早朝部隊が、
10台20台、いえ30台40台、
管理局の窓を雨が叩くのも気にせず、あっちの書類をこっちの部署へ、こっちの物をそっちの部門へ。
それはそれは忙しく、稼働しておりました。

「急げにゃ!急ぐのにゃ!」
「急ぐにゃ!お届けにゃー!」
「おいおまえ、その荷物を持ってってやるから、ボクのコレとトレードするにゃ!」
「お、おなか、へって、動けな……にゃあ」

雨と君と君、雨とクロネコとクロネコ。
配達用機械生物が縦横無尽。
雨と君と君、雨とクロネコとクロネコ。
管理局の外で降る雨の中を、
防水タイプのクロネコが3匹、もとい3機ほど、
小型のジェットエンジンで、移動しています。
きっと、難民シェルターから難民支援課へのお手紙か何かを運んでおるのでしょう。

「着艦!着艦にゃー!」
「お前は艦じゃないにゃ」
「発 艦 にゃ!」
「だから。艦じゃないにゃ。カッコつけてるヒマがあったら仕事しろにゃ」
「だれ……か、ごはん、ちょーだい……にゃ」

雨と君と君、雨とクロネコとクロネコ。
あっちで機械生物、こっちで機械生物。
前日の管理局員の仕事が、今日の管理局員の部署に、ちゃんと届くように、ちゃんと渡るように。
配達ロボットのクロネコ、早朝勤務部隊は、3時間かけて全部の仕事を、完璧に、毎日、成し遂げておったのでした。

「ところで、勤務内容に追加が入るって噂にゃ」
「聞いたにゃ。書類や物品の他に、購買部に頼んだ備品や日用品も届けてほしい、って噂にゃ」
「ご……はん……」

「日用品配達してほしいなら、待遇改善と俺達のバージョンアップ、しろにゃ!」
「そーだそーだ!俺達はクロネコであって、アマーゾンでもネーコーイーツでもないにゃあ!」
「【エネルギー残量が5%になりました】」

にゃーにゃー、にゃーにゃー。
管理局の早朝は猫の大配達会。
皆みんな、早朝勤務部隊は一生懸命、働いておったとさ。 おしまい、おしまい。

9/7/2025, 6:41:23 AM

9月とは名ばかり、数字ばかり。
真夏日と猛暑日を何度も叩き出す昨今です。
お題が「誰もいない教室」とのことなので、
ホラーをひとつまみだけ、ほんの少しだけ加えたおはなしで、涼しさをご用意しました。

最近最近のおはなしです。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
たくさん存在する仕事の中に、難民シェルターの整備と運営、それから治安維持が、ありました。

世界線管理局が運営するシェルターは、管理局内にありまして、面積も収容人数も規格外。
というのも管理局、滅んだ世界から生き延びて、こぼれ落ちてしまった難民を、何千人、何万人と、そのシェルターに収容しておりまして、
彼等が彼等の生涯を最後まで終えられるように、
彼等が彼等の歴史をどこかに残しておけるように、
なにより、彼等が最期まで尊重され、独立した「彼等」として存在できるように、
あらゆるサービスを、提供しておりました。

ところでそんな難民シェルターに、このたび1個、
少々妙な噂が流れまして。

『某区画の某学校は、来月建て替え予定だが、
誰もいないハズのその校舎で妙な音がするらしい』

『音のする教室は、誰もいない教室。
音のする場所を見ようとすると、
何かに/誰かに/■■■によって、
「向こう側」に、引きずり込まれてしまう』

『その教室に行ってはいけない。
誰もいない教室で、【何か】を、見てはいけない』

だいたいこういう噂の裏には「何か」あるのです。
たとえばその廃校が、管理局を敵視している「世界多様性機構」の隠れ家になっているとか。
その多様性機構のスパイが潜伏しているとか。
ゆえに、難民たちの安全が脅かされているとか……

…――「と、いうことで、だ」
管理局を敵視している団体の関与を想定して、管理局の法務部執行課、特殊即応部門が動きました。
「お前に、確認してきてほしい」

管理局には、機構から来た「アテビ」というビジネスネームの女性構成員がおりました。
即応部門の部門長は、彼女を管理局のどこかの部署に入れるべきか、難民シェルターで保護するべきか、丁度考えておる最中だったので、
今回の仕事の成果で、決めようとしたのでした。
「異常の解決までは求めていない。
確認だけで良い。無理はするな。 頼んだぞ」

で、何が困ったかというと。
アテビ、怖いものが怖いのです。
でも仕方が無い!
今回のお題は「誰もいない教室」なのです――…

「無理!むりむり!これ以上ムリぃぃぃ!!」
さて、今回のお題に従って、難民シェルターの「某来月建て替えの学校」に到着したアテビです。
日中とはいえ、建て替えにともない、電気は来ていないし照明用のランタン水晶もありません。

薄暗い通路を自分の手持ち照明だけで、ひとりで、
カン!! カタンタンタン……
と遠くで響く何かの落下音を聞きながら、
一歩、一歩、目的の場所へ向かっては、
どだだどだだどだだ!とことことこ……
と何か小さな四足歩行が走る音に怯えます。

「妙な音って!『妙な音』ってッ!!
あっちこっち音だらけじゃないですかー!!」

アテビは本当に、本っッ当に、怖いものが怖い!
光量の制限された薄暗さは疑心を呼び、
遠くで飛んだ鳥が影に映れば大絶叫。
アテビのすぐ横で、みょんみょん草が鳴いて……
「草が」「鳴いて」?「みょんみょん」?

「だめ、だめ。心が疲れてるんだ。そうだ」
ああ、機構ではこんなこと、しなかったのに!
機構は管理局と違ってお金がカツカツだったけど、
こんな、怖いこと、しなかったのに!
「うぅ、助けて館長、アスナロさん、ヒバさん!」

怖いよこわいよ、誰もいない教室!
アテビは身を小ちゃく小ちゃくちぢこませて、指定された場所、指定された教室を、
見に行ってひょっこり顔出して、中に入ろうとドアに手をかけたところで

ガタンガタンガタンガタン!!
ちゅー、ちゅー!!ギーギー!!

「いーーーーやぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ドアに手をかけたところで、アテビは耐えられなくなりました。教室から大きな音がしました。
「ごめんなさいごめんなさい!ごめんなさぁい!」
アテビは外へ、一直線!
誰もいない教室から逃げ出して、明るく安全で平和な外へ、全力で、逃げてゆきました。

結局「何」が、誰もいない教室に存在したのか、
みょんみょん鳴く草は本当に居たのか、
その辺は、アテビは知らないままだったとさ。

9/6/2025, 7:16:01 AM

前回投稿分からの続き物。
二足歩行で赤いスカーフ巻いた狐が経営してるレストランがありまして、
その日は美味を愛する可愛らしい女性の管理局員と、その同志の稲荷子狐が、
とても幸福に、とても大量に、赤いスカーフ狐たちが作る料理を、堪能しておりました。

当然厨房は大騒動の祭り状態でして。

「おまえらぁー!気張るコン!!」
厨房は、今日が休みだったハズのバイト狐も、
昨日で辞めるハズだったシェフ狐も、
勿論店長も出張ってきて、オールスター大奮闘。
「明日と、明後日の食材も、こっちに回せコン!」
レストランの裏口では店長が、自分から鍋を振り、調理スタッフを鼓舞します。
「コレ乗り切ったら、明後日まで皆で宴会だコン、俺が料理を振る舞うコン!こやぁぁぁ!!」

うおぉぉぉぉ!!

大量にオーダーが為された注文を、赤いスカーフ狐の20匹が、ジャンジャン、じゃかじゃか!
お鍋を振って、蒸し器を増設して、低温油と高温油を行ったり来たり、云々。
料理完成のボタンが押されると、
電気信号がピッ!ディスプレイの信号がピピッ!

料理完成をホールスタッフのフォックスに、
信号でもって、伝えるのでした。

「お待たせしました!」
ホールフォックスはワゴンをガラガラ。
できた料理を片っ端から運んで運んで、
そしてまた、料理完成の報告信号を、尻尾ぶんぶん振り倒しつつ、待つのでした。

これがお題「信号」の、ひとつのおはなし。
そして、このおはなしの間に、
もうひとつ、「信号」のおはなしが。

管理局員と稲荷子狐が料理を堪能している奥で、
ひとり、別の男性局員が、クルミ味噌ダレのざるそばを食っておったのでした。

「相変わらず、よく食うなぁ」
丁度、くるみが旬を迎え始める時期でした。
よくクラッシュして練り込まれたクルミの味噌ダレに、彼はひと振り、ふた振り。
少しだけ、一味を入れました。
「うん。 美味い」

クルミの油脂的な甘さを内包した味噌ダレに、一味唐辛子の文字通りスパイスが、ピリッ!
アクセントの信号として、伝わります。
このスパイス信号とともに、男性局員は十割そばを、スッ、と含み、咀嚼します。
「やはり大盛りを注文すべきだったか?」

おやおや。彼が食べてる味噌ダレのざるそばを、
前述の稲荷子狐が、ロックオンしたようです。
女性職員の袖を引っ張って、味噌ダレを指差し、
そして、ホールスタッフォックスが呼ばれます。
どうやら新規で注文したようです。

「あいつ、唐辛子、大丈夫だったかな」
まぁ、俺の関与するところじゃない。
男性職員はオーダーを、見なかったことにします。
多分、大丈夫なのです。
「ごちそうさま。会計を頼む」

同部署別部門のお土産に、殻付きクルミを1袋購入して、男性局員は帰ります。
それがお題「信号」の、もうひとつのおはなし。
もうひとつの料理物語でしたとさ。
おしまい、おしまい。

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