モザイク、ろ過機、ドリップペーパー、データ選別用条件、選択的注意、フィルタリングしたりスクリーニングしたり、あるいは選別したり、等々。
フィルターにも色々あるそうです。
今回はその中から、お茶っ葉フィルターのおはなしを、ひとつご紹介。
まずひとつ目は、最近最近の都内某所。
某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、美味しいものが大好き!
先祖代々の過酷な努力と稲荷狐の薬によって、チョコもタマネギも克服しておるので、
チョコパイも、オニオンリングも、むしゃむしゃ!
美味追求と狐の本能に従って、よく食べます。
その日は「ドワーフホト」というビジネスネームの、美味追求仲間が訪問してきて、
なにやら、たくさんのお菓子をどっさり。
「ちょっと、ワケあって、余ったのぉ」
ドワーフホトは言いました。
「コンちゃん、一緒に食べよー」
このおはなしのフィルターは、紅茶のフィルター。
茶っ葉と一緒に甘酸っぱいベリーのドライフルーツを、たっぷり、入れてあります。
茶っ葉とベリーの詰まったフィルターをガラスポットにセットして、適切な温度のお湯をタパパ。
「いいにおい!いいにおい!」
ベリーの香りが広がって、子狐コンコン、目を輝かせ尻尾を振ります。甘いものは大好きなのです。
「もーしょーしょー、お待ちくださぁい」
ドワーフホトはニッコリ笑って、
そして、タパパトポポ、とぽぽ。
ガラスポットをお湯で満たして、砂時計をトン。
ひっくり返しました。
「イチゴ!」
「ラズベリーと、ゴジベリーと、ほんのちょっと、マルベリーも入ってるよ〜」
「ベリー!ベリー! ぜんぶ、キツネのものだ」
「あたしも飲みたいから、半分こしようねー」
「はんぶんこ、半分こ!」
赤紫と琥珀色。
フィルターを通過して、お茶とベリーの色が少しずつ、お湯に溶け出してゆきます。
下から上へ、濃い場所が薄い場所へ。
フィルターを通過して、お茶とベリーの色が少しずつ、お湯の動きを可視化します。
「まだちょっと暑いからぁ、ホットのままじゃなくて、氷入れて冷やしちゃおうね〜」
時計の砂が全部落ちて、お茶の色も均一になったら、フィルタータイムはおしまい。
氷を入れた耐熱コップに、静かに紅茶を注ぎ入れて、ドワーフホトは先に、子狐に、甘酸っぱいベリーのお茶をくれてやったのでした。
「はい。どうぞー」
「おいしい。おいしい」
ごくごく、ごくこく!
あんまりベリーの香りが幸福なので、コンコン子狐、ドワーフホトの分が完成するのは待ちません。
器用に前足で――どういう原理か不明ですが――コップをしっかり持ちまして、ごくごく!
「おいしい。おいしい」
子狐はアイスベリーティーを堪能して、
「あぶっ」
結果、氷がコップの中で滑ったせいでしょう、
お茶が一気に動いて、子狐の口と首と、胸のあたりを、ベリーティーの色で濡らしました。
コンビニで買ったアイスコーヒーを
フタとかストローとか使わず飲むと
突然こうなったりしませんか
(フタフィルターまたはストローフィルター大事)
「やだぁ!コンちゃん、ベリー色になってるぅ」
拭いて、拭いて。
子狐がドワーフホトに救援要請を発出すると、
ドワーフホトは明るく笑って、子狐の毛をトントン、ハンカチとティッシュで拭いてやります。
「んんー。ベリーの香水感。良い香りぃ」
ドワーフホトが拭いても、子狐のフワフワな夏毛には、まだベリーティーの香りが残っています。
それはとっても美しく、明るく、幸福な香りです。
「はい。ストロー、どーぞ」
ドワーフホトが子狐のコップにストローをさしてやると、子狐は大人しく、
「あぶぶ」
「もぉぉー、コンちゃんったらぁ」
ストローを使うハズもなく、
またゴクゴク飲んで、氷が動いて、
ベリーの香水を夏毛に、付けてしまったとさ。
茶っ葉フィルターと子狐と、ドワーフホトのおはなしでした。 おしまい、おしまい。
トマトに王道のチーズ。これは仲間です。
カレーに隠し味のチョコ。これも仲間です。
今回のお題は仲間に、「なれなくて」とのこと。
「ここ」ではないどこか、別の世界のおはなしを、ひとつ、ご用意しました。
最近最近、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織の収蔵部、収蔵課の一角で、
収蔵課の局員と、経理部の局員がふたりして、なにやらおしゃべりをしておりました。
収蔵課局員はビジネスネームを「ドワーフホト」、
経理部局員は「スフィンクス」と言いました。
「うぅぅー、んんんーーーん、なやむぅ!」
ドワーフホトが言いました。
彼女の目の前には美しく大きなスイーツボックス。
そして、それに入り切らないほどの美しいお菓子。
「ゼーッタイ入れたいお菓子だけ、持ってきたハズなのにぃ、入れたいお菓子が用量オーバー!
これは、これはぁッ……悩むよぉー!」
輝く飴でコーティングされた宝石菓子、
ふわふわコットンな口あたりの錦菓子、
滑らかなムースの絹菓子に、
カリリ!噛んで楽しい星菓子、琥珀菓子、氷菓子。
しょっぱいお菓子も、忘れてはなりません。
ドワーフホトはそれらの財宝を、スフィンクスともうひとりの、3人で食べたいのでした。
というのも管理局にドワーフホトの知り合いが、めでたく入局の予定でして。
知り合いは前職でのビジネスネームをアテビといい、ドワーフホトから「アーちゃん」と呼ばれ、
なんと、元々管理局をドチャクソに敵視しておった組織から、管理局側に保護されたのでした。
保護観察期間と検査、試験、面談を終えて、
双方が合意に至れば、アーちゃんはドワーフホトの同僚、仲間となるのです。
ドワーフホトはそのお祝いを、大親友のスフィンクスと、当事者のアーちゃんと一緒に、
この素晴らしいお菓子を楽しみながら、一緒にパーっと、やりたいのです……
が。
お祝いパーティーのための「最小限」の仲間を、すなわち最高のお菓子とお茶を集めたところ、
いちばん大きい、豪華で豪奢なスイーツケースに、
どうしても、全量、入らないのです。
お祝いの仲間になれるお菓子と、
お祝いの仲間になれないお菓子。
箱に入れたいお菓子と、
箱に入れることを諦めねばならないお菓子。
ゆえに、ドワーフホトは悩んでおりました。
仲間になれるお菓子は財宝です。
仲間になれなくて置いてゆくべきお菓子を、
どう除けば、どう却下すれば良いのでしょう?
「スフィちゃん、スフィちゃぁーん、
どーしよぉ、選べなぁい、選べないよぉぉ……」
「今食いたいのを食って減らせば良いじゃん」
「やだよぉ!
私と、スフィちゃんと、それからアーちゃんとで食べるの、あたしひとりで食べちゃダメぇ!」
「いっそここにアテビ呼び出せば?」
「部長さんに監禁されてるー」
「監禁、カンキンって。まぁ分かるけどさ」
「アーちゃん、仲間になれなくて、追放されちゃったらどうしよぅぅ……」
「はいはい」
「スフィちゃん、アーちゃん、さらってきて」
「いやいやいやいやあのな」
「ワイロならあるぅ。いっぱいあるぅ」
「いやいやいやいや」
お前、ホントに友達思い・仲間思いだよな。
スフィンクスが言いました。
ドワーフホトは本気か冗談か、チラリチラリ、決済用のバチクソ・リッチ・ビリオネアセレブカードを、スフィンクスに見せます。
「ホト様……」
どうやらその2人のおしゃべりを、
仲間になれなくて、仲間に入れなくて、遠くから見守るのが居るようですが、
まぁまぁ、そこは、お題とは関係ないので気にしない、気にしない。 おしまい。
雨降る朝と、始業前の職場で書類等々を配達する配膳ロボット、もとい、配達ロボットのおはなし。
最近最近、「ここ」ではないどこか、別の世界で、
「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織が、
あんなこと、こんなこと、それぞれの世界の独立性や独自性のための仕事をしておって、
総務部ならば、たとえば総合案内課、
関係整備部ならば、難民支援課に空間管理課、
法務部であれば執行課の実動班、等々、等々。
様々な部署、様々な部門が存在しておりました。
その部署間・部門間の書類や伝票、現金等貴重品を管理局員の代わりに運んでくれるのが、
ベラbげほげほ、もとい、超個体的な連携を可能としている黒塗りの機械生物。
管理局はビジネスネーム制を採用しており、それぞれの部署ごとにそれぞれの種類の動物の名前を、本名の代わりに用いるルールでしたので、
経理部所属のルールにならい、配達黒塗りロボットたちは、「クロネコ」と名付けられていました。
え?「一歩前」なのか「どいてにゃ」なのか不明?
細かいことを気にしてはなりません。
さて。
機械生物クロネコは、元々、過剰な開発競争によって自滅した世界から拾われてきた、生き残り。
拾ってもらった恩として、管理局の局員となり、
人間や獣人、宇宙タコや魔法生物の仲間と一緒に、
せっせこ、せっせこ。働いています。
物資運搬を目的として故郷の世界で開発されたクロネコの、管理局での仕事も、物資運搬。
特に、管理局の始業時刻前に、前日預かった伝票だの書類だのを各方面、お届け先の部門・部署に配達するのは、とっても大事な仕事です。
機械生物クロネコの早朝勤務部隊は、この大事な仕事を優先的に成し遂げられるように、
始業時刻3時間前に職場に来て、3時間みっちり働いて、3時間ですべてを配達してしまって、
それから後は、ずっと、ずーっと、休憩時間で居ることを、許されておったのでした。
そして、その日の早朝も、勿論始業時刻3時間前から、機械生物クロネコの早朝部隊が、
10台20台、いえ30台40台、
管理局の窓を雨が叩くのも気にせず、あっちの書類をこっちの部署へ、こっちの物をそっちの部門へ。
それはそれは忙しく、稼働しておりました。
「急げにゃ!急ぐのにゃ!」
「急ぐにゃ!お届けにゃー!」
「おいおまえ、その荷物を持ってってやるから、ボクのコレとトレードするにゃ!」
「お、おなか、へって、動けな……にゃあ」
雨と君と君、雨とクロネコとクロネコ。
配達用機械生物が縦横無尽。
雨と君と君、雨とクロネコとクロネコ。
管理局の外で降る雨の中を、
防水タイプのクロネコが3匹、もとい3機ほど、
小型のジェットエンジンで、移動しています。
きっと、難民シェルターから難民支援課へのお手紙か何かを運んでおるのでしょう。
「着艦!着艦にゃー!」
「お前は艦じゃないにゃ」
「発 艦 にゃ!」
「だから。艦じゃないにゃ。カッコつけてるヒマがあったら仕事しろにゃ」
「だれ……か、ごはん、ちょーだい……にゃ」
雨と君と君、雨とクロネコとクロネコ。
あっちで機械生物、こっちで機械生物。
前日の管理局員の仕事が、今日の管理局員の部署に、ちゃんと届くように、ちゃんと渡るように。
配達ロボットのクロネコ、早朝勤務部隊は、3時間かけて全部の仕事を、完璧に、毎日、成し遂げておったのでした。
「ところで、勤務内容に追加が入るって噂にゃ」
「聞いたにゃ。書類や物品の他に、購買部に頼んだ備品や日用品も届けてほしい、って噂にゃ」
「ご……はん……」
「日用品配達してほしいなら、待遇改善と俺達のバージョンアップ、しろにゃ!」
「そーだそーだ!俺達はクロネコであって、アマーゾンでもネーコーイーツでもないにゃあ!」
「【エネルギー残量が5%になりました】」
にゃーにゃー、にゃーにゃー。
管理局の早朝は猫の大配達会。
皆みんな、早朝勤務部隊は一生懸命、働いておったとさ。 おしまい、おしまい。
9月とは名ばかり、数字ばかり。
真夏日と猛暑日を何度も叩き出す昨今です。
お題が「誰もいない教室」とのことなので、
ホラーをひとつまみだけ、ほんの少しだけ加えたおはなしで、涼しさをご用意しました。
最近最近のおはなしです。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
たくさん存在する仕事の中に、難民シェルターの整備と運営、それから治安維持が、ありました。
世界線管理局が運営するシェルターは、管理局内にありまして、面積も収容人数も規格外。
というのも管理局、滅んだ世界から生き延びて、こぼれ落ちてしまった難民を、何千人、何万人と、そのシェルターに収容しておりまして、
彼等が彼等の生涯を最後まで終えられるように、
彼等が彼等の歴史をどこかに残しておけるように、
なにより、彼等が最期まで尊重され、独立した「彼等」として存在できるように、
あらゆるサービスを、提供しておりました。
ところでそんな難民シェルターに、このたび1個、
少々妙な噂が流れまして。
『某区画の某学校は、来月建て替え予定だが、
誰もいないハズのその校舎で妙な音がするらしい』
『音のする教室は、誰もいない教室。
音のする場所を見ようとすると、
何かに/誰かに/■■■によって、
「向こう側」に、引きずり込まれてしまう』
『その教室に行ってはいけない。
誰もいない教室で、【何か】を、見てはいけない』
だいたいこういう噂の裏には「何か」あるのです。
たとえばその廃校が、管理局を敵視している「世界多様性機構」の隠れ家になっているとか。
その多様性機構のスパイが潜伏しているとか。
ゆえに、難民たちの安全が脅かされているとか……
…――「と、いうことで、だ」
管理局を敵視している団体の関与を想定して、管理局の法務部執行課、特殊即応部門が動きました。
「お前に、確認してきてほしい」
管理局には、機構から来た「アテビ」というビジネスネームの女性構成員がおりました。
即応部門の部門長は、彼女を管理局のどこかの部署に入れるべきか、難民シェルターで保護するべきか、丁度考えておる最中だったので、
今回の仕事の成果で、決めようとしたのでした。
「異常の解決までは求めていない。
確認だけで良い。無理はするな。 頼んだぞ」
で、何が困ったかというと。
アテビ、怖いものが怖いのです。
でも仕方が無い!
今回のお題は「誰もいない教室」なのです――…
「無理!むりむり!これ以上ムリぃぃぃ!!」
さて、今回のお題に従って、難民シェルターの「某来月建て替えの学校」に到着したアテビです。
日中とはいえ、建て替えにともない、電気は来ていないし照明用のランタン水晶もありません。
薄暗い通路を自分の手持ち照明だけで、ひとりで、
カン!! カタンタンタン……
と遠くで響く何かの落下音を聞きながら、
一歩、一歩、目的の場所へ向かっては、
どだだどだだどだだ!とことことこ……
と何か小さな四足歩行が走る音に怯えます。
「妙な音って!『妙な音』ってッ!!
あっちこっち音だらけじゃないですかー!!」
アテビは本当に、本っッ当に、怖いものが怖い!
光量の制限された薄暗さは疑心を呼び、
遠くで飛んだ鳥が影に映れば大絶叫。
アテビのすぐ横で、みょんみょん草が鳴いて……
「草が」「鳴いて」?「みょんみょん」?
「だめ、だめ。心が疲れてるんだ。そうだ」
ああ、機構ではこんなこと、しなかったのに!
機構は管理局と違ってお金がカツカツだったけど、
こんな、怖いこと、しなかったのに!
「うぅ、助けて館長、アスナロさん、ヒバさん!」
怖いよこわいよ、誰もいない教室!
アテビは身を小ちゃく小ちゃくちぢこませて、指定された場所、指定された教室を、
見に行ってひょっこり顔出して、中に入ろうとドアに手をかけたところで
ガタンガタンガタンガタン!!
ちゅー、ちゅー!!ギーギー!!
「いーーーーやぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ドアに手をかけたところで、アテビは耐えられなくなりました。教室から大きな音がしました。
「ごめんなさいごめんなさい!ごめんなさぁい!」
アテビは外へ、一直線!
誰もいない教室から逃げ出して、明るく安全で平和な外へ、全力で、逃げてゆきました。
結局「何」が、誰もいない教室に存在したのか、
みょんみょん鳴く草は本当に居たのか、
その辺は、アテビは知らないままだったとさ。
前回投稿分からの続き物。
二足歩行で赤いスカーフ巻いた狐が経営してるレストランがありまして、
その日は美味を愛する可愛らしい女性の管理局員と、その同志の稲荷子狐が、
とても幸福に、とても大量に、赤いスカーフ狐たちが作る料理を、堪能しておりました。
当然厨房は大騒動の祭り状態でして。
「おまえらぁー!気張るコン!!」
厨房は、今日が休みだったハズのバイト狐も、
昨日で辞めるハズだったシェフ狐も、
勿論店長も出張ってきて、オールスター大奮闘。
「明日と、明後日の食材も、こっちに回せコン!」
レストランの裏口では店長が、自分から鍋を振り、調理スタッフを鼓舞します。
「コレ乗り切ったら、明後日まで皆で宴会だコン、俺が料理を振る舞うコン!こやぁぁぁ!!」
うおぉぉぉぉ!!
大量にオーダーが為された注文を、赤いスカーフ狐の20匹が、ジャンジャン、じゃかじゃか!
お鍋を振って、蒸し器を増設して、低温油と高温油を行ったり来たり、云々。
料理完成のボタンが押されると、
電気信号がピッ!ディスプレイの信号がピピッ!
料理完成をホールスタッフのフォックスに、
信号でもって、伝えるのでした。
「お待たせしました!」
ホールフォックスはワゴンをガラガラ。
できた料理を片っ端から運んで運んで、
そしてまた、料理完成の報告信号を、尻尾ぶんぶん振り倒しつつ、待つのでした。
これがお題「信号」の、ひとつのおはなし。
そして、このおはなしの間に、
もうひとつ、「信号」のおはなしが。
管理局員と稲荷子狐が料理を堪能している奥で、
ひとり、別の男性局員が、クルミ味噌ダレのざるそばを食っておったのでした。
「相変わらず、よく食うなぁ」
丁度、くるみが旬を迎え始める時期でした。
よくクラッシュして練り込まれたクルミの味噌ダレに、彼はひと振り、ふた振り。
少しだけ、一味を入れました。
「うん。 美味い」
クルミの油脂的な甘さを内包した味噌ダレに、一味唐辛子の文字通りスパイスが、ピリッ!
アクセントの信号として、伝わります。
このスパイス信号とともに、男性局員は十割そばを、スッ、と含み、咀嚼します。
「やはり大盛りを注文すべきだったか?」
おやおや。彼が食べてる味噌ダレのざるそばを、
前述の稲荷子狐が、ロックオンしたようです。
女性職員の袖を引っ張って、味噌ダレを指差し、
そして、ホールスタッフォックスが呼ばれます。
どうやら新規で注文したようです。
「あいつ、唐辛子、大丈夫だったかな」
まぁ、俺の関与するところじゃない。
男性職員はオーダーを、見なかったことにします。
多分、大丈夫なのです。
「ごちそうさま。会計を頼む」
同部署別部門のお土産に、殻付きクルミを1袋購入して、男性局員は帰ります。
それがお題「信号」の、もうひとつのおはなし。
もうひとつの料理物語でしたとさ。
おしまい、おしまい。