前回投稿分からの続き物。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
つい先月までこの管理局と、都内某所の某不思議な不思議な稲荷神社とが、
「稲荷神術:狐の巣穴」という黒穴でもって繋がっておったのですが、
その先月発生した諸事情のせいで、ぷっつり、不通となってしまっておりました。
『黒穴を再度管理局と繋げたいならば、
良い酒と、良い餅とを、それぞれどっさり、稲荷神社の神に奉納しなさい』
不思議な稲荷神社に住まう、稲荷狐が言いました。
『良い酒と、良い餅ねぇ……』
世界線管理局としては、黒穴が塞がったままでは、「こっち」の世界の仕事に非常に支障が出ます。
『しかも、どっさり??
稲荷神社の神様、まさか、食いしん坊なのか?』
管理局の職員、スフィンクスというビジネスネームのエンジニアは、さっそく管理局内の飲食店で、
芳醇な香りの甘いお酒をどっさり、
キンとした喉越しの辛いお酒もたっぷり、
それから、日本のお餅に該当するモチモチな食べ物を、スイーツとしてもメインとしてもいっぱいいっぱい買い込んで、領収書も切って、
管理局と日本を繋ぐ黒穴の、制御をしてくれる例の稲荷神社に、ドンと奉納したのでした。
と、ここまでがだいたい前回投稿分。
スフィンクスが奉納した品々は稲荷狐の一族にたいそう気に入られ、受け入れられて、
稲荷狐の一族によって、世界線管理局と稲荷神社を繋ぐ黒穴は、ようやく元通り……
に、お題どおり、「もう一歩だけ、」届いていない状態であったのでした。
というのも管理局と神社の間の通路を安定させるセットアップがドチャクソ長くかかりまして。
「なぁーがーいぃぃー!!」
スフィンクスがお酒とお餅を奉納して、稲荷狐が狐の秘術を為した後のおはなしです。
管理局側で黒穴の開通を待っておったのは、
ドワーフホトというビジネスネームの収蔵課職員。
狐の秘術をしっかり固定して、安全に行き来するためのプログラムだの術式だのを、
インストールしたり最適化したり追加記入したりしておるのですが、 ともかく、長い!!
「あと一歩だけ、もう一歩だけ、残り3%なのに!
長いよぉ!残り3%が、長過ぎるよぉー!」
ああ、もう一歩、もう一歩が、遠い!
黒穴のセットアップが終わるまで帰宅できないドワーフホトの心が、折れかけています。
かれこれ数十分、数時間、黒穴に付きっきり。
黒穴のセットアップをさせている魔法水晶式のタブレットは、様々な文字がくるくるくる。
『◯◯をインストールしています』
『異常を検知しました。精査しています』
『異常が解消されました。△△を再試行します』
『検証しています』
『△△を再インストールします』
『◯◯をアンインストールします』
「うわぁぁぁぁん、スフィちゃーん!!」
「なんだなんだ。どうした。腹減ったのか」
「ちがうよぉ!!長いよぉ!終わらないよぉ!
なんで全部一気に入れないのぉ!
非効率的だよぉぉぉ!」
「全部一気に入れると危険だからだろ」
もう一歩、もう一歩だけが、遠いよぉ!
ドワーフホトは友人の、スフィンクスに理不尽と非効率と、遅過ぎるセットアップとを嘆きます。
スフィンクスは「それ」が遅い理由を知っていますが、説明したところでどうにもなりません。
「みかん食う?」
「たべるぅ……」
まだまだ「もう一歩」は遠いまま。
スフィンクスはドワーフホトと一緒に、セットアップを仲良く、長く、眺め続けたとさ。
「街」「街の明かり」、「遠くの街へ」。
街を冠するお題もこれで、少なくとも4例目となりました。今回は「見知らぬ街」だそうです。
見知らぬ街より知ってる街に行く方が多い物書きが、こんなおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。「ここ」ではないどこか、別の世界で、世界線管理局なる厨二ふぁんたじー組織の職員が、捜し物をしておりました。
「んんー。この酒も、美味いけど、違うなぁ」
絶賛捜し物中の職員は、ビジネスネームをスフィンクスといいまして、「こっち」の世界の神社に奉納するお酒を選んでおる最中。
「もーちょっと、こう、こう…… うーん」
都内某所の稲荷神社の、稲荷狐が言うことには、
『一番良い味の酒と餅を奉納しなさい』
『どっさり、気前よく、奉納しなさい』
『やはり日本ではなく、地球でもなく、別の世界に存在する、旨い酒が良いでしょう』
地球が存在するこの宇宙をはじめ、いろんな宇宙、いろんな世界で仕事をしておる世界線管理局に、稲荷狐が言うのでした。
『稲荷の神様に、最高の酒と餅を献上するのです。
さすれば、世界線管理局よ、お前たちの望むことを、稲荷の神様がお許しになるでしょう』
何故でしょう。
過去作7月27日投稿分あたりから始まって、8月に終わったおはなしが原因です。
何故でしょう。
世界線管理局が東京に来るために使っておった「通勤路」が、まさかの不具合を起こしたのです。
詳しいことは気にしない、気にしない。
要するに諸事情なのです。
「で、あっちこっち、酒を探してみたのは良いが、
なかなか俺様が認める味が、無いのよな……」
うん、仕方無い!
お酒を探しているスフィンクス、自分ひとりで探すのを、とうとう諦めてしまいまして、
同じ職場、別の部署の友人の、ドワーフホトに助言を頼むのでした。
というのもこのドワーフホト、美味しい食べ物や美味しい飲み物がとっても大好き!
お茶にクッキー、ケーキにお酒、庶民の美味からほぼ情報と物語を食ってるような規格外まで、
味と香りのあらゆる幸福を、自分の財産と給料と休日とで、探求しておったのでした。
「おーい、ホト。 酒。なんか良いの知らねぇか」
「おさけ〜?」
「あの世界の地球の、日本に行くためのゲート、諸事情で不通になっちまったじゃん?
設置元の稲荷神社がよ、『直通ゲートを直してやる代わりに、そっちの世界の良い酒と良い餅、どっさり持って来い』、だとさ」
「んんー、甘口ぃ?辛口ー?」
「全部」
「わぁお。選び放題ぃ」
さぁ、お題を回収しましょう。
見知らぬ街へ、いきましょう。
ドワーフホトは持ち前の、あらゆる辛口のお酒の記憶、あらゆる甘口のお酒の記憶をかき集めて、
そして、管理局内に存在する難民シェルターの世界の中の、とある街を紹介しました。
「いろんな世界の難民さんが出資して、シェルターの中に作った、『酒蔵歴史街』ってゆーのがね、
難民お酒ドランカーさんの間でホット〜」
「さかぐら?」
「酒蔵歴史街〜」
「まち?」
「滅んで無くなっちゃった世界のお酒を、難民シェルターの中で再現しましょー、ってスタンスぅ」
「まち?」
「そりゃ街にもな〜る。何百だよ。何千だよ」
「何千何百の滅亡世界の酒?」
「れつごー」
オススメはこの街の、この区画のこのお店の、
甘いお酒はこれとこれ、辛いお酒はそれとそれ。
ドワーフホト、いつの間にかその街の、その日に開催されておるというお酒フェスのチラシを提示。
お土産用の配達伝票と、お土産用のキャリーワゴンを、ゴロゴロ、がらがら、持ってきます。
「なるほど!コレに入れて、稲荷神社用の酒を持って帰ってくれば良いn」
「私が飲む分のキャリーだよぉ〜」
「 」
「スフィちゃんの分は、神社に奉納するんだから、ゴロゴロ振動あんまり無い方が良いよぉ」
「まぁ、 うん、 もっともだわな」
いざ、見知らぬ街へ!滅亡世界の酒の歴史街へ!
スフィンクスとドワーフホトは、
片や稲荷神社に奉納するための依頼品を探しに、
片やまだ知らぬ幸福と芳醇の雫を探しに、
世界線管理局の中に作られている、滅亡世界からこぼれ落ちてきてしまった人々のための、難民シェルターへと向かいます。
「いつの間に建てたんだよ。酒の街なんて」
「デンセツのカモシカさんが本気出したらし〜ぃ」
見知らぬ街、見知らぬ酒蔵、見知らぬ美味。
スフィンクスとドワーフホトは、それから数時間、いや十数時間、最寄りのホテルも上手に使って、
良いお酒というお酒を、しこたま、たんまり、どっさり、買い込んだとさ。 おしまい。
雷といえば春雷、梅雨明け前の雷、それから乾燥した冬の雷のイメージしか無かった物書きです。
ネットで調べてみたところ、統計的にイチバン雷が落ちるのは、8月でした、とのこと。
「遠雷」も夏の季語だとか。初耳です。
と、いうハナシは置いといて、今回のおはなしのはじまり、はじまり。
最近最近のおはなしです。都内某所、某稲荷神社敷地内の隠し部屋に、大きな黒穴がありまして、
そこは実は、別の世界と繋がっておったのですが、
過去作7月27日頃から続いておった一連の大冒険の影響で、この稲荷神社含めて日本中の黒穴にフタが為されて、道も閉じてしまったのでした。
稲荷神社に住まう稲荷狐たちは、別世界に繋がる黒穴が閉じようと開いていようと、
ぶっちゃけ、知ったこっちゃないのです、
知ったこっちゃないのですが、
黒穴が閉じて困っておるのが、別世界から日本に仕事に来ている、世界線管理局なる組織の職員。
通勤に使っている黒穴が閉じてしまったので、
管理局に、帰還できないのです。
あるいは管理局に、通勤できないのです。
『しゃーねぇなぁ』
管理局のエンジニア、スフィンクスというビジネスネームの経理部局員が、重い腰を上げました。
『この天才エンジニアの俺様が、ちょっくら行って、黒穴ゲートを修復してくるぜぇ』
スフィンクスは都内某所の某稲荷神社に急行。
さっそく情報を収集して、必要なものを特定したので、黒穴の再開通までもう一歩なのでした。
ところで世界線管理局なる異世界組織で仕事をしておる職員の中には、黒穴閉鎖の影響で、
管理局に帰れず、都内に閉じ込められてしまった人間だの人外だの、あるいは幽霊だのが居まして。
その中でもイチバン困っておるのが人外。
それも、パンやごはん、お肉や野菜を食うのではなく、今回のお題に関係して、
データを主食に、信号をデザートに食うような、トンデモ人外が居ったのです!
電気代が食事代、ギガバイト代も食事代の人外は、名前を「アデニン」といいまして、
都内某所の某私立図書館で、LUCA、ルカと名乗る館長に、地下で飼われておったのでした。
ここからお題回収。
人外アデニン、管理局に帰れず、管理局でお散歩もできず、管理局で1週間に1度のごはんも食べさせてもらえないので、ご立腹。
図書館の地下、アデニン用に作られた部屋の中で、
ゴロゴロ、ごろごろ、ゴロゴロごろごろ。
遠雷のような鳴き声を響かせておりました。
しゃーないのです。アデニンが1週間に1度のごはんで図書館の電気や情報を食べてしまうと、
ブレーカーは一気に落ちるし、ギガ数は一気にテラまで削られるし、要するに、大食漢なのです。
ゴロゴロ、ごろごろ、ゴロゴロごろごろ。
遠雷のような鳴き声をして、人外アデニン、「ハラヘッタ」と訴えるのです。
なんでそんな遠雷人外が、私立図書館の地下で飼われておるのでしょう。
答えはカンタン。館長のルカも、この世界の人間ではなく、別世界出身の人間だからです。
詳しいことは、今回のお題とは関係無いので、またいつか、別のお題のおはなしで。
「こらアデニン。ゴロゴロうるさいですよ」
地下に響く遠雷モドキを聞きながら、飼い主のルカ館長、アデニンに言いました。
「あと数日の辛抱です。我慢なさい」
館長がゴロゴロ遠雷のアデニンの、頭を撫でてやろうとすれば、機嫌が悪いアデニンは威嚇です。
ごろごろ!ぴしゃん!ハラヘッタ!
「仕方無いでしょう。おまえ、『食べるならちょっとだけですよ』と言っても、全部食べるでしょう」
ハラヘッタ、ハラヘッタ!ゴロゴロゴロ!
「そんなに言うなら食べますか、クレーマー客の音声データ。自動生成の詐欺メッセージ」
ヤダ。ガマンスル。ごろごろ。
「よろしい」
あと数日。あと数日です。
未来が見えているかのように、ルカ館長はゴロゴロ遠雷モドキの人外の、頭を撫でて呟きましたとさ。
「遠雷」がお題のおはなしでした。 おしまい。
私、永遠の後輩こと高葉井は、先日ドチャクソに妙な光景に遭遇した。
蒸し暑い東京の真夏の、深夜を散歩していたら、
多分私がお酒を飲んでた影響だと思うけど、妙な幻覚というかなんというか、ファンタジーというか、
ともかく、狐火みたいなものが、フワフワ浮いて、私に話しかけてくるのを聞いたし、見た。
何度も言うけど、多分、お酒飲んでたからだ。
あと真夜中の散歩が意外と暑かったからだ。
ホントに最近の東京の熱帯夜は酷いと思う。
『おや。こんばんは』
Midnight Blueの熱帯夜に、キレイな金色した炎が、ふわふわ浮いて紙袋なんか持ってる。
『今夜も暑いですね』
紙袋の中身はよく見えなかったけど、
少なくとも、何かの串料理がどっさり入ってるってのだけは、ちょっと分かった。
『お散歩ですか?』
金色の狐火(仮称)は、まさかの日本語話者だったらしい。私に話しかけてきた。
友好的で串料理の紙袋持ってる狐火とかウケる
(これぞ酔っ払いの夢心地)
『聞いてください。私の末っ子がね』
触らぬ神に祟り無し。 触らぬ狐火に呪い無し。
放ったらかして散歩を切り上げて、アパートに帰ろうと思ったら、狐火(仮)が追っかけてきた。
『私の末っ子が、見習いに認められたのです』
狐火( )の末っ子さんだって。
狐火( )に子供が居るんだって。
Midnight Blueに浮かぶ金色は明確に嬉しそう。
子供が居て串料理の紙袋持ってる狐火。ウケる
(やっぱり酔っ払いの夢心地)
『私はもう嬉しくて嬉しくて、だって、あの子がやっと、やっと、ウカサマに認められたんです』
こっちが触らぬ神してるのに、
まぁ私が酔っ払って夢心地で、私自身がそういう夢を見てる影響だから、ってのは分かるけど、
狐火さんは狐火さんの子供自慢をずっとしてくる。
『それでね、あの子、先日の旅行で和牛を覚えて帰ってきて、ハマってしまったらしいのでね。
ああ、ああ、今行くよ、お土産買ったよ……』
お酒飲むと想像と妄想の扉が一気にババンと開くってタイプの絵師さんや物書さんが居るらしい。
ここまで鮮明に空想が目に見えるなら、もしかしたら、私もそのタイプだったのかもしれない……
それにしたって狐火、狐が夢見心地に出てくるとか、狐憑きみたいでちょっと怖い。
『お利口さんに待ってるんだよ、ああ、今行くよ』
ずっとずっと触らぬ神ムーブして、そのときはそのまま自分のアパートに戻ってぐっすり寝た。
不思議と夢見は良くて、悪夢とは無縁だった。
起きてから、
Midnight Blueの中の金色のキレイさを思い出して、
狐火だと思って、
途端に狐で不安になったから、
早めに出勤して、
途中で近所の稲荷神社に駆け込んで、
経緯を話してお祓いしてもらった。
「すいません。すいません」
お祓いしてくれた神職さんの声が、
なんだかどこかで聞き覚えが、あるような。
「ご迷惑を、おかけしました」
何故かタダでお祓いしてもらって、御札とお守りまで貰って、それから、職場に急いだ。
なんだったんだろう(しらない)
……なんだったんだろう(だから、しらない)
と、いうのが私の真夜中のハナシ。
Midnight Blueの散歩道に金色を見たって夢見心地。
あんまりヘンテコな未知との遭遇だったから、
職場の私立図書館に着いてからも、朝礼が終わって業務が始まってからも、お弁当食べるときも、
ずーっと、そのことを考えてたら、
昼休憩中に、先輩から普通に心配された。
そりゃそうだと思う(ぶっちゃけ当然の経緯)
「どうした」
「んー?」
「何か悩んでいるように見える」
「んー。悩んで『は』、いないから大丈夫」
「心配事か?何かその、たとえば、懸念事項?」
「心配でも懸念でもないから大丈夫」
「なら、どうした」
「真夜中の散歩中に狐火見たからお祓いしてきたって言ったら先輩信じるタイプ?」
「ん、 ん?」
「でしょ?だから大丈夫」
「んん……??」
私を心配した先輩に、私の謎が数秒だけ伝染して、
先輩も先輩で少しだけ、首を傾けて考えてたみたいだけど、最終的に探求を放棄したみたいだった。
そりゃそうだと以下略(ぶっちゃけ略)
「書庫整理に行ってくる。
高葉井、電話番を頼む」
「あーい」
なんだったんだろう。
ホントに、なんだったんだろう。
ずっとずっと考え続けたけど、結局何も分からないし、分かるハズもないし、仕方無い。
その日の昼休憩はクルクル、くるくる、
稲荷神社で貰ったお守りを手元でいじって、回して、それで10分くらい時間が潰れた。
しゃーない、 しゃーない。
「君と」から始まるお題とも、かれこれ約900日、付き合いの長い物書きです。
覚えているだけでも「君と一緒に」「君と見た虹」「君と見た景色」「君と歩いた道」「君と最後にあった日」「君と僕」と、少なくとも6回以上。
今回はどうやら、飛び立つとのこと。
最後に飛行機を利用したのはいつだったやら。
日常的な飛び立ちといったら空港くらいしか思いつかない物書きが、こんなおはなしをご用意です。
最近最近のおはなしです。
都内某所、某深めの森の中に、本物の稲荷狐の家族が住まう稲荷神社がありまして、
みんな仲良く、参拝者との付き合いも長く、ご利益もそこそこ多めに盛って、過ごしておりました。
稲荷狐の家族の中の、末っ子子狐は最近ようやく、修行の成果を認められまして、
稲荷神社の神様から、名前を授かったところ。
稲荷狐の見習い、御狐様見習いの第一歩です。
末っ子の成長に、お母さん狐もお父さん狐も、おじいちゃん狐もおばあちゃん狐も、もちろんお兄さん狐もお姉さん狐も、
皆みんな、とっても喜んで、お祝いなど丸一日かけて、盛大に開催したのでした。
『見習いから一人前までの道程は長いぞ』
『今までどおり、一生懸命頑張るのよ』
『大丈夫。ウカサマはすべて、見てくださるから』
お祝いパーティーが終わって、お兄さん狐とお姉さん狐がそれぞれの家に帰るとき、
皆みんな、子狐をよく撫でて、よく抱きしめて、
そして、言葉を渡してゆきました。
『がんばる!がんばる!』
コンコン子狐の末っ子は、尻尾をピタピタ振り倒して、とってもとっても嬉しそう!
『しゅぎょー、いっしょーけんめ、がんばる!』
自分たちの家に帰るお兄さんとお姉さんを、和牛ハンバーグをもぐもぐしながら、見送りました。
さぁ、明日からまた、修行です。
稲荷のご利益たっぷりなお餅を作って売って、人間の社会を勉強して、狐の秘術も習って、
少しずつ、ゆっくり、末っ子子狐のペースでもって、一人前の御狐様に育ってゆくのです。
で、ここからようやくお題回収。
末っ子子狐の御狐見習いの認定を、末っ子子狐のお父さん、ドチャクソに喜びまくっておりまして。
興奮さめやらず、1人もとい1匹して、数日かけて2次会3次会5次会など、やっておりました。
丁度良い距離のところに、子狐が作った餅巾着を仕入れている、大古蛇のおでん屋台があるのです。
子狐のお父さん、そこで夜な夜な飲むのです。
その日も子狐のお父さんは、おでん屋台で末っ子の、思い出話と自慢話を、延々と話すのです。
「もうね、私は嬉しくて嬉しくて、号泣するくらい嬉しくて、分かるかい、店主さん」
何杯目のお酒か知りませんが、お父さん狐が前足で、器用に手酌してお猪口をキュッ!
まだまだ呂律は回っておるようですが、言葉の繋ぎ方が少しだけ、崩れてきている様子。
「ああ、店主さん、店主さん。聞いてください。
私の末っ子は、あの子は、とっても元気で、食いしん坊で、それから、ええと、元気で」
あの子はなにより、優しいんですよ。
そう言ってからお父さん狐、にっこり幸福に笑いまして、もう一度お猪口をキュッ……
しようとして、おでん屋台の店主がそれとなく、水入りコップにすり替えました。
さすがに飲み過ぎなのです。ベロンベロンです。
「あれ。わたしのオチョコが、おおきくなった。
店主さん、不思議ですね」
「そーだね」
「ああ、店主さん、聞いてください、私の末っ子」
「そーだね」
「ああ、ああ……あの子が、呼んでる……」
「そーだ、 ん? え?」
「今帰るよ、お土産も、買ったよ……」
ほわほわ、ほわほわ。
稲荷狐のお父さん、幸福そうに天を見上げます。
ほわほわ、ほわほわ。
不思議な狐のお父さん、自宅の稲荷神社がある方向に耳を向け、マンチカンよろしく立ち上がります。
そのままお父さんの魂だけが抜けてって、
末っ子へのお土産と一緒に、飛んでゆきます。
「あーあー。行っちゃった」
稲荷狐のお父さんが買ったお土産は、子狐が最近ひょんな理由からハマってしまった、和牛串。
ああ、ああ。和牛串よ、汝、1本800円よ。
君と飛び立つお父さん狐は、とっても幸福。
子狐の喜ぶ顔を、想像しておるのです。
『今行くよ、いまいくよ……』
あんまり酔っ払ってしまって、自分の体を屋台に忘れてってることに、お父さん狐は気付きません。
そのまま霊狐よろしく、管狐よろしく、
魂だけでふわふわ、ふよふよ、気合いと御狐のチカラだけで牛串20本入りの紙袋を抱きしめて、
末っ子が待つ我が家へと、帰ってゆきましたとさ。
牛串と飛び立つ、稲荷狐のおはなしでした。
お父さん狐はその後、「あなた、また魂だけで帰ってきて」と、お母さん狐に指摘されるのですが、
まぁまぁ、その辺は以下略。 しゃーない。