かたいなか

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私、永遠の後輩こと高葉井は、先日ドチャクソに妙な光景に遭遇した。
蒸し暑い東京の真夏の、深夜を散歩していたら、
多分私がお酒を飲んでた影響だと思うけど、妙な幻覚というかなんというか、ファンタジーというか、
ともかく、狐火みたいなものが、フワフワ浮いて、私に話しかけてくるのを聞いたし、見た。

何度も言うけど、多分、お酒飲んでたからだ。
あと真夜中の散歩が意外と暑かったからだ。
ホントに最近の東京の熱帯夜は酷いと思う。

『おや。こんばんは』
Midnight Blueの熱帯夜に、キレイな金色した炎が、ふわふわ浮いて紙袋なんか持ってる。
『今夜も暑いですね』
紙袋の中身はよく見えなかったけど、
少なくとも、何かの串料理がどっさり入ってるってのだけは、ちょっと分かった。

『お散歩ですか?』
金色の狐火(仮称)は、まさかの日本語話者だったらしい。私に話しかけてきた。
友好的で串料理の紙袋持ってる狐火とかウケる
(これぞ酔っ払いの夢心地)

『聞いてください。私の末っ子がね』
触らぬ神に祟り無し。 触らぬ狐火に呪い無し。
放ったらかして散歩を切り上げて、アパートに帰ろうと思ったら、狐火(仮)が追っかけてきた。
『私の末っ子が、見習いに認められたのです』

狐火( )の末っ子さんだって。
狐火( )に子供が居るんだって。
Midnight Blueに浮かぶ金色は明確に嬉しそう。
子供が居て串料理の紙袋持ってる狐火。ウケる
(やっぱり酔っ払いの夢心地)

『私はもう嬉しくて嬉しくて、だって、あの子がやっと、やっと、ウカサマに認められたんです』
こっちが触らぬ神してるのに、
まぁ私が酔っ払って夢心地で、私自身がそういう夢を見てる影響だから、ってのは分かるけど、
狐火さんは狐火さんの子供自慢をずっとしてくる。
『それでね、あの子、先日の旅行で和牛を覚えて帰ってきて、ハマってしまったらしいのでね。
ああ、ああ、今行くよ、お土産買ったよ……』

お酒飲むと想像と妄想の扉が一気にババンと開くってタイプの絵師さんや物書さんが居るらしい。
ここまで鮮明に空想が目に見えるなら、もしかしたら、私もそのタイプだったのかもしれない……

それにしたって狐火、狐が夢見心地に出てくるとか、狐憑きみたいでちょっと怖い。
『お利口さんに待ってるんだよ、ああ、今行くよ』
ずっとずっと触らぬ神ムーブして、そのときはそのまま自分のアパートに戻ってぐっすり寝た。
不思議と夢見は良くて、悪夢とは無縁だった。

起きてから、
Midnight Blueの中の金色のキレイさを思い出して、
狐火だと思って、
途端に狐で不安になったから、
早めに出勤して、
途中で近所の稲荷神社に駆け込んで、
経緯を話してお祓いしてもらった。

「すいません。すいません」
お祓いしてくれた神職さんの声が、
なんだかどこかで聞き覚えが、あるような。
「ご迷惑を、おかけしました」
何故かタダでお祓いしてもらって、御札とお守りまで貰って、それから、職場に急いだ。

なんだったんだろう(しらない)
……なんだったんだろう(だから、しらない)
と、いうのが私の真夜中のハナシ。
Midnight Blueの散歩道に金色を見たって夢見心地。

あんまりヘンテコな未知との遭遇だったから、
職場の私立図書館に着いてからも、朝礼が終わって業務が始まってからも、お弁当食べるときも、
ずーっと、そのことを考えてたら、
昼休憩中に、先輩から普通に心配された。

そりゃそうだと思う(ぶっちゃけ当然の経緯)

「どうした」
「んー?」
「何か悩んでいるように見える」
「んー。悩んで『は』、いないから大丈夫」
「心配事か?何かその、たとえば、懸念事項?」
「心配でも懸念でもないから大丈夫」
「なら、どうした」

「真夜中の散歩中に狐火見たからお祓いしてきたって言ったら先輩信じるタイプ?」
「ん、 ん?」
「でしょ?だから大丈夫」
「んん……??」

私を心配した先輩に、私の謎が数秒だけ伝染して、
先輩も先輩で少しだけ、首を傾けて考えてたみたいだけど、最終的に探求を放棄したみたいだった。
そりゃそうだと以下略(ぶっちゃけ略)
「書庫整理に行ってくる。
高葉井、電話番を頼む」
「あーい」

なんだったんだろう。
ホントに、なんだったんだろう。
ずっとずっと考え続けたけど、結局何も分からないし、分かるハズもないし、仕方無い。
その日の昼休憩はクルクル、くるくる、
稲荷神社で貰ったお守りを手元でいじって、回して、それで10分くらい時間が潰れた。
しゃーない、 しゃーない。

8/23/2025, 3:02:38 AM