「街」「街の明かり」、「遠くの街へ」。
街を冠するお題もこれで、少なくとも4例目となりました。今回は「見知らぬ街」だそうです。
見知らぬ街より知ってる街に行く方が多い物書きが、こんなおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。「ここ」ではないどこか、別の世界で、世界線管理局なる厨二ふぁんたじー組織の職員が、捜し物をしておりました。
「んんー。この酒も、美味いけど、違うなぁ」
絶賛捜し物中の職員は、ビジネスネームをスフィンクスといいまして、「こっち」の世界の神社に奉納するお酒を選んでおる最中。
「もーちょっと、こう、こう…… うーん」
都内某所の稲荷神社の、稲荷狐が言うことには、
『一番良い味の酒と餅を奉納しなさい』
『どっさり、気前よく、奉納しなさい』
『やはり日本ではなく、地球でもなく、別の世界に存在する、旨い酒が良いでしょう』
地球が存在するこの宇宙をはじめ、いろんな宇宙、いろんな世界で仕事をしておる世界線管理局に、稲荷狐が言うのでした。
『稲荷の神様に、最高の酒と餅を献上するのです。
さすれば、世界線管理局よ、お前たちの望むことを、稲荷の神様がお許しになるでしょう』
何故でしょう。
過去作7月27日投稿分あたりから始まって、8月に終わったおはなしが原因です。
何故でしょう。
世界線管理局が東京に来るために使っておった「通勤路」が、まさかの不具合を起こしたのです。
詳しいことは気にしない、気にしない。
要するに諸事情なのです。
「で、あっちこっち、酒を探してみたのは良いが、
なかなか俺様が認める味が、無いのよな……」
うん、仕方無い!
お酒を探しているスフィンクス、自分ひとりで探すのを、とうとう諦めてしまいまして、
同じ職場、別の部署の友人の、ドワーフホトに助言を頼むのでした。
というのもこのドワーフホト、美味しい食べ物や美味しい飲み物がとっても大好き!
お茶にクッキー、ケーキにお酒、庶民の美味からほぼ情報と物語を食ってるような規格外まで、
味と香りのあらゆる幸福を、自分の財産と給料と休日とで、探求しておったのでした。
「おーい、ホト。 酒。なんか良いの知らねぇか」
「おさけ〜?」
「あの世界の地球の、日本に行くためのゲート、諸事情で不通になっちまったじゃん?
設置元の稲荷神社がよ、『直通ゲートを直してやる代わりに、そっちの世界の良い酒と良い餅、どっさり持って来い』、だとさ」
「んんー、甘口ぃ?辛口ー?」
「全部」
「わぁお。選び放題ぃ」
さぁ、お題を回収しましょう。
見知らぬ街へ、いきましょう。
ドワーフホトは持ち前の、あらゆる辛口のお酒の記憶、あらゆる甘口のお酒の記憶をかき集めて、
そして、管理局内に存在する難民シェルターの世界の中の、とある街を紹介しました。
「いろんな世界の難民さんが出資して、シェルターの中に作った、『酒蔵歴史街』ってゆーのがね、
難民お酒ドランカーさんの間でホット〜」
「さかぐら?」
「酒蔵歴史街〜」
「まち?」
「滅んで無くなっちゃった世界のお酒を、難民シェルターの中で再現しましょー、ってスタンスぅ」
「まち?」
「そりゃ街にもな〜る。何百だよ。何千だよ」
「何千何百の滅亡世界の酒?」
「れつごー」
オススメはこの街の、この区画のこのお店の、
甘いお酒はこれとこれ、辛いお酒はそれとそれ。
ドワーフホト、いつの間にかその街の、その日に開催されておるというお酒フェスのチラシを提示。
お土産用の配達伝票と、お土産用のキャリーワゴンを、ゴロゴロ、がらがら、持ってきます。
「なるほど!コレに入れて、稲荷神社用の酒を持って帰ってくれば良いn」
「私が飲む分のキャリーだよぉ〜」
「 」
「スフィちゃんの分は、神社に奉納するんだから、ゴロゴロ振動あんまり無い方が良いよぉ」
「まぁ、 うん、 もっともだわな」
いざ、見知らぬ街へ!滅亡世界の酒の歴史街へ!
スフィンクスとドワーフホトは、
片や稲荷神社に奉納するための依頼品を探しに、
片やまだ知らぬ幸福と芳醇の雫を探しに、
世界線管理局の中に作られている、滅亡世界からこぼれ落ちてきてしまった人々のための、難民シェルターへと向かいます。
「いつの間に建てたんだよ。酒の街なんて」
「デンセツのカモシカさんが本気出したらし〜ぃ」
見知らぬ街、見知らぬ酒蔵、見知らぬ美味。
スフィンクスとドワーフホトは、それから数時間、いや十数時間、最寄りのホテルも上手に使って、
良いお酒というお酒を、しこたま、たんまり、どっさり、買い込んだとさ。 おしまい。
8/25/2025, 3:44:45 AM