かたいなか

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5/15/2025, 6:48:17 AM

袋の中のポテチを酸素による酸化から守るため、使用されている技術を窒素充填というそうです。
というお題回収は置いといて、今日のおはなしのはじまり、はじまり。

「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織があり、
そこの規格外にデカい難民シェルターは、ガチの意味で「規格外」にデカく、
滅んでしまった世界からこぼれ落ちた難民たちを、
何万、何千万、いいや何億と、収容していました。
三食おやつ、昼寝付き。キャンプ用の山やバーベキュー用の海もあり、余暇だって充実。
あんまり居心地が良いので、収容された者の中には、そこを「楽園」、「天国」、「浄土」と言うものさえ、居るほどでありました。

そんな難民シェルターは、管理局の技術で作られた人工太陽が、1年区切りの正確な運行計画のもと、定時で昇って定時で沈みます。
今回のおはなしでは、ちょうど夜。
最近収容されてきた難民の子供たちが、管理局の職員であるところのドラゴンと一緒に、
ごおぉぉぉ、ごわおぉぉぉ、
キャンプファイヤーを、楽しんでいます。

「火だ!」 「火だぁ!」 「明るいなぁ」
難民の子供たちは日常的に火を使う種族でないのか、
大きな大きなたき火を、とても珍しそうに、すごく瞳を輝かせて、興奮しながら見ています。

あるものは火の粉に手を伸ばし、
あるものは「この先進入禁止」の柵から身を乗り出してでもたき火に近づこうとして、
そして、美しい赤とオレンジと黄の色をした激しい酸化反応は――すなわち酸素のお題回収にふさわしい光の世話をするドラゴンは、
ごおぉぉぉ、ごわおぉぉぉ、
時折火を足して、あるいは湿った風を送って勢いを弱めて、ともかく虚無顔をしておりました。

だって子供たちが云々。

「悪い竜神さま!もっと火、大きくして!」
「悪いりゅーじんさま!もっと!もっとぉ!」
「わりゅーじんさま、ましまろ、すまー」

大勢の子供たちはキャンプファイヤーに釘付け。
でも他の子供たちは、管理局のドラゴンに登ったり、尻尾を引っ張ったりして、まだまだ遊び足りないようです。絵本を読めとせがむ者もおります。
「わりゅーじんさまー」
おやおや。管理局のそのドラゴンは、「悪い竜神様」として認識されているようですよ。

何故でしょう? すべては前々回投稿分です。
何故でしょう? ドラゴンがそう言ったのです。
あんまり子供たちがドラゴンを、遊べあそべとモミクチャするので、ドラゴン、子供たちを怖がらせようとしたのです――が、失敗したようで。

「わぁー!!」 「きゃー!!」
キャンプファイヤーを見ていた子供たちから、歓喜の悲鳴と興奮の大声が上がりました。
酸素による燃焼反応に、別の粉が割り込んで、
一気に、ごうごうと、ピンクだの黄緑だの、別の色でもって光りはじめたのです!

「悪い竜神さま!!もっと!もっと!もっと!!」
「わりゅーじんさま、もっとぉー!!」
こうなっては子供たち、制御不能です。
「悪い竜神さま」に次をねだり、更に瞳を輝かせ、完全に夜ふかしモードとして覚醒するのです。
「友達起こしてくる」
「おれも」
「ぼくも」
しまいには仲間を呼んでくる始末。

ああ、ああ。酸素よ。
汝、医療現場の酸素ボンベからロケット燃料の酸化剤まで幅広く活躍しているオールラウンダーよ。
すなわちお前の燃焼反応は、このおはなしのガキんちょにとって完全に魔法の芸術なのです。

『……』
で、そのガキんちょたちは、これだけ運動させて疲れさせているのに、いつになったら寝るんだ。
ごおぉぉぉ、ごわおぉぉぉ。
管理局のドラゴンは、酸素の激しい反応を世話して、制御して、時折見飽きるので色を変えて。
虚無目のまま、子供たちがたき火でケガなどせぬよう、ちゃんと見守っておったとさ。

5/14/2025, 6:06:08 AM

前回投稿分からの続き物。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」なる組織がありまして、
そこは滅んだ世界から保護された難民用の、世界規模に広く、宇宙規模に多種多様な民を収容できる、
「シェルター」とは名ばかりの空間がありました。

三食おやつ、昼寝付き。
赤いスカーフした狐ーズが各地に散って、あらゆるレストラン、あらゆる喫茶店、あらゆるパン屋におにぎりスタンド等々を個人経営しておるので、
食事もお酒も、ちっとも飽きません。
コンコンズがあんまり良いものを提供するので、
昼食を食べに、あるいは夕食をテイクアウトするために、管理局員も来店するほどです。

今日は関西方言風の赤狐のお店でお好み焼き定食、
明後は沖縄方言風の銀狐のお店でスパム寿司、
東京方言モドキの大耳狐のお店で鉱石糖入りジャリジャリパンを堪能するのも、
昔々の宇宙言葉な砂狐のお店で氷鳥とツララ鮭の他人丼を楽しむのも、全部自由。

シェルターに収容された半数以上の難民たちは、
故郷で食べた味に一番近い料理を出すコンコンや、故郷の言語ニュアンスに一番近い方言を話すコンコンのお店を渡り歩いて、あるいは入り浸って、
つかの間の間、料理の幸福による船で、自身の思い出と記憶の海を楽しむのです。

で、その日はニセモノ京言葉を話す3本尻尾の白狐のお店に、管理局の法務部職員さんがご来店。
「あら。ツバメさんやないのん」
二足歩行な白狐に赤い首元スカーフが、まるで日本のお狐様。コンコンはその局員を知っておるので、初手の2品は注文を聞きません。
「アイスコーヒーとサンドイッチでよろしい?
その様子なら、どうせお急ぎでっしゃろう?」

はい。準備してる間に、間引きワサビの醤油漬け。
小鉢にサッサとお通しを盛って、
白狐、局員の返事も聞かず、ザッカザッカと氷をグラスに入れ始めました。

「ありがとう。助かります」
醤油漬けされたワサビの茎を、1本つまんだ局員。
「先日収容完了した難民が、シェルター内で突然、無断で自分たちの祭りを開催したらしくて」

その一連の事案の、緊急出動なんですよ。
彼はそう言うと、またワサビの茎をつまんで、白米が欲しくなってしまって白狐の方を見ると、
「お揚げさんと炊いたん、置いときましたえ」
カラン、しっとり汗をかいた美しいグラスにアイスコーヒー、それから油揚げと一緒に炊かれた白米、更におかずに最適な具材ばかりが絶妙に詰められたサンドイッチが、局員の隣に置いてありました。

「てっきり、『祭り開催前に申請書を提出してください』の注意で、終わると思っていたんですよ」
「はぁ」
「10年前から収容中の、別の難民のグループが、なんでも今回祭りを開催したグループの、数千年越しの子孫だったらしくて」
「あらあら」
「『その祭りは、我々の代では完全に絶えている祭りだ』と。『名称しか記憶の海に残っていない、完全に幻の祭りだ』と。よって記録したいと」
「あっ。 あー……

ハナシが飛び火で、大騒動になってはるんと違う?」
「はい。 はい……」

ごちそうさま。行ってきます。
おかずサンドと白米をキンキンアイスコーヒーと醤油漬けで流し込んだ局員さんは、
料金置いて、礼を言って、誰かと連絡をとりつつ、白狐のお店からすっ飛んでゆきました。
「似たハナシ、今朝聞いた気がするわぁ」
局員さんの食器の後片付けをしながら、3本尻尾の白狐、記憶の海の表層を泳ぎます。
「どなたやったっけ。 どなたやったろう」

プカプカ、ちゃぷちゃぷ。
白狐の記憶の海は、あいにく濁り気味。
結局思い出せず、こやん、首を傾けておったとさ。

5/13/2025, 3:32:22 AM

前回投稿分からの続き物。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこに前回、大きな大きな船が、バチクソ大量の難民を乗せて、収容されてきたのでした。

「わぁー!竜神さまだ!竜神さまがいるぅ!」
「ちがうよ。あのフォルムは、ドラゴンだよ」
「りゅーじんさまぁー」
「ねー竜神さま、こっちの竜神さまも早く寝ない悪い子に法力つかってオネショさせるの?」

管理局の難民シェルターに収容された難民には、もちろん、子供も大勢乗っておりまして、
その子供たちに管理局のドラゴンは大人気!
シェルターの広い草原で、人工太陽を浴びながら昼寝をしておったところ、
無事収容処理を終えて難民シェルターに入ってきた子供たち十数名に、乗っかられて引っ張られて。
完全に、遊び道具か遊具か、大きなペット同然に、もみくちゃにされておったのでした。

『ぐ……グ……』
管理局所属のドラゴン、人間にせよ宇宙タコにせよ、子供は弱いと知っています。
『あのな。俺はお前たちの神様じゃない。お前たちの世界も知らない。他の竜をあたってくれ』
背中の上でジャンプされたり、尻尾をぎゅーぎゅー引っ張られたりの、文字通り「踏んだり蹴ったり」に、ドラゴンは反撃せず、じっと耐えます。
だって、ドラゴンが尻尾をひと振りすれば、きっと子どもたちは吹き飛ばされ、ケガしてしまいます。

「しらなーい!」
「知らなぁい!!」
「ねーねー竜神さま水吐いてー」
「噴水やって、噴水やって」
「竜神さま、シツモンに答えてぇ」

『だから、俺は、お前たちの竜神じゃないし、水も吹かん。俺は炎と雷と光のドラゴンだ』
「りゅーじんさまノドかわいたぁ」
『ハナシを聞け』

炎と雷と光のドラゴンは、罪無い弱き者を傷つけないように、慎重に体を揺らしてゆらして、
「わぁー!」
「おちる、おちるぅ!わぁーい」
ともかく安全だけを第一に考えて、子供たちを体から揺り落としてゆきます。
『くそっ。竜神とやら。恨むぞ』
ただ君だけは、すなわち子供たちの言う竜神だけは、ドラゴン、ちょっと許せないのです。

「もっかいやって!もっかいやって!」
『他をあたれ!俺に構うな!』
「竜神さまが、にげるぞ!つかまえろー」

『あのな!俺は、俺の世界を壊しかけた悪いドラゴンだぞ!危ないから近寄るんじゃない!』
「ウソ言ったらエンマさまに舌抜かれるんだよ」
「悪い竜神さまだ!悪い竜神さまだぁ!」
「やっつけろー!」
「わぁー!」 「やぁぁー!」

「竜神様」

もみくちゃ、もみくちゃ!
どれだけ驚かせてもサッパリ怖がらない子供たちに、ドラゴンがとうとう抵抗を断念、
しかけた、そのときでした。
人間の小ちゃな子供を背負う深淵タコの子供が、
ドラゴンの前に進み出てきて、

「竜神様。どうか、この子のために」
大事そうに持ってきた、大きな大きな絵本を、ドラゴンの目の前に、差し出したのでした。
「なかなか、寝てくれないのです。
どうか、絵本を読んでくださいませんか」

それは、深淵タコの子供や人間の子供たちがよく知っている、昔話の絵本でした。
それは、子供たちが大きな大きな船に乗る前からずっと使われておったのでしょう、
少し、ボロっぽくなってきておる本でした。
絵本はドラゴンが読むには丁度良い大きさ。
きっと「竜神」とやらが、船の中でずっとずっと、何度も、読んで聞かせておったのでしょう。

「絵本!」 「えほん!」 「えほんだ」
深淵タコの子供、ただ君だけの一言で、すべての子供たちが静かになり、絵本の前に集まりました。
みんな、昔話が大好きなのです。
みんな、それを読んでもらうことが娯楽なのです。

『……』
ドラゴンが子供たちを見渡すと、
皆、みんな、ドラゴンが絵本を読んでくれることを期待して、ドラゴンを見つめ返しています。
『 はぁ 』

ここまで期待されては、無下にもできません。
『「むかしむかし、 ある村に」』
炎と雷と光のドラゴンは、とうとう観念して、
『「心やさしい若者がいて、 名前を」……』
ドラゴンが使う言語と少し違うことに少し苦戦しながら、それを何度も何度も、なんども、
読んできかせて、やりましたとさ。

5/12/2025, 3:11:06 AM

前回投稿分からの続き物。「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
今回のお題回収役の収蔵部局員は、ビジネスネームを「ドワーフホト」といいました。

世界線管理局の収蔵部の、主な仕事は「チートアイテムの受け入れと保管」。
滅んだ世界からこぼれ落ちた、すごいチカラを持った道具が、他の世界に流れて悪さをしないように、
あるいは、それを他の「まだ生きている世界」のそれぞれが奪い合って、戦争にならないように。
管理局に収容して、適切に管理するのです。

「うぅぅ。酷いよ。ひどいよぉ」
で、その収蔵部に勤めているドワーフホトが、
前回投稿分で、局主催のダイエットウォークイベントに強制参加させられることが決定したワケで。
「そりゃあ、痩せたいしー、運動しなきゃだしー、スフィちゃんが企画書出してくれたのは、心遣いは嬉しいけどさぁぁ……」

もちょっと、あたしに、事前に相談してくれたって、良いじゃんってさぁ。
ドワーフホトはしくしく、ぐすぐす。
来月強制参加が決定してしまったことについて、まだまだ、しょんぼりしている様子。
というのも、ドワーフホトが指定したイベントの6月某日から某日までの2日間は、
まとめて休みをとっていた5日のうちの2日。
この間にドワーフホト、大好きなスイーツ&グルメツアーを、計画しておったのです。

食べるから体重が増えるのです。
「だってぇ、美味しいものは、美味しいよぉ」
グルメツアーが白紙になったので、その分の体重増加は、無事阻止されたのです。
「そりゃそうだけど、そうだけどさぁぁ……」

うぅ。もう、良いもん。仕事するもん。
意気消沈のドワーフホト、管理局に収容された「滅んだ世界からの遺物」の、収蔵作業に戻りました。
「で、コレが今日収容されてきた船〜?」

その日、ドワーフホトたち収蔵部に搬入されてきたのは、大きな大きな船でした。
「おっきいにも、ほどがあるよぉ」
それは、滅びに向かっていた世界を抜け出し、世界と世界の狭間のあたりを漂流していた船でした。
それは、世界間渡航できるところまで技術レベルの到達していなかった世界が、自分たちの生存する未来をかけて、開発して建造した船でした。

世界の狭間に完全に引っかかっておったので、どの世界にも行けやしない船ですが、
別の世界が他の世界へ異世界渡航する際に、邪魔や障害になるかもしれないので、
管理局が回収して、管理局の世界に持ってきて、収蔵部に収蔵登録と収容を指示したのでした。

「あたし、中、見てくるぅ」
ドワーフホトによく似た人形1号が、とってって、とってって。さっそく収容作業を始めます。
「じゃあ、あたし記録撮影する〜」
人形2号がカメラを持って後ろに続き、
「護衛は〜任せろぉー」
人形3号4号がそれぞれ、拘束銃とパルス銃を持ち、万が一に備えます。

「いってらっしゃーい。おみやげ待ってるぅ」
おや。5号は白いハンカチ振って、お見送り??
「一緒に来るの〜」
「いらないじゃん!あたし!いらないじゃーん!
1号2号3号4号でぇ!足りてるじゃぁぁん!
わぁーん本体のあたし〜助けてぇぇー」

わらわら、ぞろぞろ。
ドワーフホトの人形たちは、皆みんな、楽しそう。
収容されてきた船の、扉とおぼしき構造物の前に進み出て、それぞれの仕事を始めました。

「こんにちはぁ!こんにちはー!」
翻訳機能付きの拡声器でもって、ドワーフホトは船に呼びかけます。
「こちらは、世界線管理局ですぅ!
こちらは、あなたがたの、敵ではありませぇん!
入局・収容手続きをしたいのでぇ、この声が聞こえたら、応答おねがいしまぁーす!」

すると……?

『おお、おお!素晴らしい!成功だ!』
世界と世界の間に挟まっておった船から、返事と大きな歓声とが、それぞれ湧き上がったのです!
『諸君!我々はとうとう、成し遂げたのだ!
「未来への船」を、まさしく、完成させたのだ!
技術レベルから推測して、ここは数千年先の未来に違いない。 バンザイ、ばんざい!』

おやおや、船に乗っていた方々、
世界から世界への並行移動を、過去から未来への垂直移動と、勘違いしてしまっている様子。
まぁ、しゃーないといえば、しゃーないのです。
彼等は自分たちの命のために、今まで成功していなかった技術を、急ピッチで完成させたのです。
それが時間ではなく空間を飛び出していたなど。

「生きてたー」「有人船だったぁ」
人形たちは、さっそく、難民シェルターを管理している空間管理部の難民支援課に、
連絡を、とったは良いものの……、

「おお!美しい!ここが数千年後の世界」
「世界線管理局ですって。大きな組織だこと」
「俺の子孫とか親戚とか、まだ生きてるのかな」
「神よ。ありがとうございます!助かった!」
ぞろぞろぞろ、わらわらわら。
もともと大きな船ではありましたが、
その船の中の、いったいどこにこれほど乗っておったのだと、ツッコミを入れたくなる量の知的生命体が、小さな人間も大きなタコも、次から次から次の次と、一気に下船してきたのです!

「わぁぁぁぁ!!いっぱい乗ってたぁ!」
どうしよう、どうしよう!
予想の2倍も3倍も、なんなら5倍くらいの乗船者に、ドワーフホトはびっくり!
それから48時間かけて、ようやく、すべての乗船者を難民シェルターに収容しましたとさ。

5/11/2025, 8:32:43 AM

静かなる森の中で、ちゃんと整備されたウッドテーブルに、ケーキスタンドとティーセットを持ち込んでヌン活。なかなか絵になる状況ですね。
という夢だの理想だのは置いといて、今日のおはなしのはじまり、はじまり。

最近最近のおはなしです。「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこの局員であるところのドラゴンは、静かなる森も見渡す限りの草原も、はるかなる高原も大好き。
緑ゆたかな場所で、ポカポカ陽気を浴びながら、日向ぼっこと昼寝を両立することを好みます。

管理局に身を売ったドラゴンは、ビジネスネームを「ルリビタキ」といいました。
ドラゴンのルリビタキは今日も今日とて、なによりお題がお題でありますので、
管理局内に作られた人工の静かなる森の中で、
先日のお題のように、木漏れ日を浴びながら、穏やかに昼寝をしておりました。

「部長さぁん!ルリビタキ部長さーん!」
そんなルリビタキのもとに駆け込んできたのが、管理局収蔵部の「ドワーフホト」。
「助けて!おねがい!部長さぁん!」
前回投稿分のおはなしに出てきた気がする名前ですが、まぁまぁ、気にしない。

『なんだ……気持ち良く寝ているところに』
ペチペチ、ぺちぺち!
首だの肩だの、あちこち叩かれて、若干寝ぼけていそうなドラゴンが目をこじ開けます。
よほど眠いのでしょう。牙がズラっと並ぶ口を大きく開けて、ポカポカあたたかい乾いた吐息で、
ふわわ、わわぁ。大きなあくびを吐きました。
『例の敵対組織でも、押し掛けてきたのか』

「違うの、聞いてよー!スフィちゃんがぁ!」
『お前の友人が餅か大福でも喉に詰まらせたか』
「あたしのこと!広報さんに売ったぁぁ!!」

『 はァ? 』

「お願い、ホントに、助けて部長さぁん」
お前の友人がお前を広報に売った??
なんだそりゃ?
ドラゴンのルリビタキ、2度目の大きいあくびをして、眠たい頭を持ち上げました。
ドワーフホトには「スフィンクス」という、付き合いの長い経理部の大親友がおりました。
そのスフィンクスが、ドワーフホトを売った?
どういうことでしょう?

「これぇ!」
ビシッ!ドラゴンの目の前に、ドワーフホトの個人端末が突きつけられます――あんまり近過ぎて、ぶっちゃけ、ドラゴンの視点のピントが合いません。
「スフィちゃん、あたしが『最近また体重増えちゃった』って言ったらぁ、勝手に企画課さんにイベントの企画書持ち込んで、通っちゃったのぉ!!」
なにより端末が小さくて、ドラゴンのまんまじゃ端末の画面の文章が読めません。

『ちかい』
「そーでしょ!そーでしょぉ!いくらなんでも、開催日、近過ぎるよぉ! でもそれ以上にさぁ」
『そうじゃない。近過ぎて画面が見えない』

「部長さん老眼?」
『お前は眼前5センチくらいに書類置かれてその内容でも文字でも読めるのか?』
「頑張って読むぅ」
『気合の問題じゃなくてだな?』

ああ。もういい。お前の目線に合わせる。
3度目の大あくびをしたドラゴンは、面倒くさそうではありますが、人間に化けてドワーフホトから端末を受け取りました。
「はぁ。ウォーキングチャレンジ?」
端末に表示されていたのは、「みなぎる活力で夢を描け!ドワーフホトのウォーキングチャレンジ」なるウォーキングイベントでした。

「『ゼッタイ逃げられないように、ゼッタイ結果が出るように運動の日程組んでやった』ってぇ」
スフィちゃん、そんなこと言うんだよ。
ドワーフホトが言いました。
「『企画通ったから、これで大勢のお前のファンと一緒にダイエットできだろ』ってぇぇ。
しかも、6月だよ、来月だよ。早いよ。酷いよぉ」
わぁん。部長さん、法務のチカラでなんとかして。
ドワーフホトは必死に、それはそれは必死に、
人間に化けたルリビタキに、頼み込むのでした。

「はぁ。 うん」
スワイプ、スワイプ、スワイプ。
昼寝のために静かなる森へ来ていたハズのルリビタキは、その静かなる森の中で、自分の職場が企画したダイエットウォークイベントの告知を見ます。
「まぁ頑張れ」
どうやら既に、イベント開催のアナウンスも為されて、参加者募集まで始まっているようです。
これでは、ルリビタキにできることは無いのです。

「頑張れ、じゃなくてさぁぁー!」
やだよぉ!あたし、コスメコラボなら引き受けるけどダイエットイベントとか無理だよぉぉ!
ドワーフホトは、ずっとずっと、だいたい十数分くらい、ルリビタキに泣きついておったとさ。
しゃーない、しゃーない。

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