前回投稿分からの続き物。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこに前回、大きな大きな船が、バチクソ大量の難民を乗せて、収容されてきたのでした。
「わぁー!竜神さまだ!竜神さまがいるぅ!」
「ちがうよ。あのフォルムは、ドラゴンだよ」
「りゅーじんさまぁー」
「ねー竜神さま、こっちの竜神さまも早く寝ない悪い子に法力つかってオネショさせるの?」
管理局の難民シェルターに収容された難民には、もちろん、子供も大勢乗っておりまして、
その子供たちに管理局のドラゴンは大人気!
シェルターの広い草原で、人工太陽を浴びながら昼寝をしておったところ、
無事収容処理を終えて難民シェルターに入ってきた子供たち十数名に、乗っかられて引っ張られて。
完全に、遊び道具か遊具か、大きなペット同然に、もみくちゃにされておったのでした。
『ぐ……グ……』
管理局所属のドラゴン、人間にせよ宇宙タコにせよ、子供は弱いと知っています。
『あのな。俺はお前たちの神様じゃない。お前たちの世界も知らない。他の竜をあたってくれ』
背中の上でジャンプされたり、尻尾をぎゅーぎゅー引っ張られたりの、文字通り「踏んだり蹴ったり」に、ドラゴンは反撃せず、じっと耐えます。
だって、ドラゴンが尻尾をひと振りすれば、きっと子どもたちは吹き飛ばされ、ケガしてしまいます。
「しらなーい!」
「知らなぁい!!」
「ねーねー竜神さま水吐いてー」
「噴水やって、噴水やって」
「竜神さま、シツモンに答えてぇ」
『だから、俺は、お前たちの竜神じゃないし、水も吹かん。俺は炎と雷と光のドラゴンだ』
「りゅーじんさまノドかわいたぁ」
『ハナシを聞け』
炎と雷と光のドラゴンは、罪無い弱き者を傷つけないように、慎重に体を揺らしてゆらして、
「わぁー!」
「おちる、おちるぅ!わぁーい」
ともかく安全だけを第一に考えて、子供たちを体から揺り落としてゆきます。
『くそっ。竜神とやら。恨むぞ』
ただ君だけは、すなわち子供たちの言う竜神だけは、ドラゴン、ちょっと許せないのです。
「もっかいやって!もっかいやって!」
『他をあたれ!俺に構うな!』
「竜神さまが、にげるぞ!つかまえろー」
『あのな!俺は、俺の世界を壊しかけた悪いドラゴンだぞ!危ないから近寄るんじゃない!』
「ウソ言ったらエンマさまに舌抜かれるんだよ」
「悪い竜神さまだ!悪い竜神さまだぁ!」
「やっつけろー!」
「わぁー!」 「やぁぁー!」
「竜神様」
もみくちゃ、もみくちゃ!
どれだけ驚かせてもサッパリ怖がらない子供たちに、ドラゴンがとうとう抵抗を断念、
しかけた、そのときでした。
人間の小ちゃな子供を背負う深淵タコの子供が、
ドラゴンの前に進み出てきて、
「竜神様。どうか、この子のために」
大事そうに持ってきた、大きな大きな絵本を、ドラゴンの目の前に、差し出したのでした。
「なかなか、寝てくれないのです。
どうか、絵本を読んでくださいませんか」
それは、深淵タコの子供や人間の子供たちがよく知っている、昔話の絵本でした。
それは、子供たちが大きな大きな船に乗る前からずっと使われておったのでしょう、
少し、ボロっぽくなってきておる本でした。
絵本はドラゴンが読むには丁度良い大きさ。
きっと「竜神」とやらが、船の中でずっとずっと、何度も、読んで聞かせておったのでしょう。
「絵本!」 「えほん!」 「えほんだ」
深淵タコの子供、ただ君だけの一言で、すべての子供たちが静かになり、絵本の前に集まりました。
みんな、昔話が大好きなのです。
みんな、それを読んでもらうことが娯楽なのです。
『……』
ドラゴンが子供たちを見渡すと、
皆、みんな、ドラゴンが絵本を読んでくれることを期待して、ドラゴンを見つめ返しています。
『 はぁ 』
ここまで期待されては、無下にもできません。
『「むかしむかし、 ある村に」』
炎と雷と光のドラゴンは、とうとう観念して、
『「心やさしい若者がいて、 名前を」……』
ドラゴンが使う言語と少し違うことに少し苦戦しながら、それを何度も何度も、なんども、
読んできかせて、やりましたとさ。
5/13/2025, 3:32:22 AM