かたいなか

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静かなる森の中で、ちゃんと整備されたウッドテーブルに、ケーキスタンドとティーセットを持ち込んでヌン活。なかなか絵になる状況ですね。
という夢だの理想だのは置いといて、今日のおはなしのはじまり、はじまり。

最近最近のおはなしです。「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこの局員であるところのドラゴンは、静かなる森も見渡す限りの草原も、はるかなる高原も大好き。
緑ゆたかな場所で、ポカポカ陽気を浴びながら、日向ぼっこと昼寝を両立することを好みます。

管理局に身を売ったドラゴンは、ビジネスネームを「ルリビタキ」といいました。
ドラゴンのルリビタキは今日も今日とて、なによりお題がお題でありますので、
管理局内に作られた人工の静かなる森の中で、
先日のお題のように、木漏れ日を浴びながら、穏やかに昼寝をしておりました。

「部長さぁん!ルリビタキ部長さーん!」
そんなルリビタキのもとに駆け込んできたのが、管理局収蔵部の「ドワーフホト」。
「助けて!おねがい!部長さぁん!」
前回投稿分のおはなしに出てきた気がする名前ですが、まぁまぁ、気にしない。

『なんだ……気持ち良く寝ているところに』
ペチペチ、ぺちぺち!
首だの肩だの、あちこち叩かれて、若干寝ぼけていそうなドラゴンが目をこじ開けます。
よほど眠いのでしょう。牙がズラっと並ぶ口を大きく開けて、ポカポカあたたかい乾いた吐息で、
ふわわ、わわぁ。大きなあくびを吐きました。
『例の敵対組織でも、押し掛けてきたのか』

「違うの、聞いてよー!スフィちゃんがぁ!」
『お前の友人が餅か大福でも喉に詰まらせたか』
「あたしのこと!広報さんに売ったぁぁ!!」

『 はァ? 』

「お願い、ホントに、助けて部長さぁん」
お前の友人がお前を広報に売った??
なんだそりゃ?
ドラゴンのルリビタキ、2度目の大きいあくびをして、眠たい頭を持ち上げました。
ドワーフホトには「スフィンクス」という、付き合いの長い経理部の大親友がおりました。
そのスフィンクスが、ドワーフホトを売った?
どういうことでしょう?

「これぇ!」
ビシッ!ドラゴンの目の前に、ドワーフホトの個人端末が突きつけられます――あんまり近過ぎて、ぶっちゃけ、ドラゴンの視点のピントが合いません。
「スフィちゃん、あたしが『最近また体重増えちゃった』って言ったらぁ、勝手に企画課さんにイベントの企画書持ち込んで、通っちゃったのぉ!!」
なにより端末が小さくて、ドラゴンのまんまじゃ端末の画面の文章が読めません。

『ちかい』
「そーでしょ!そーでしょぉ!いくらなんでも、開催日、近過ぎるよぉ! でもそれ以上にさぁ」
『そうじゃない。近過ぎて画面が見えない』

「部長さん老眼?」
『お前は眼前5センチくらいに書類置かれてその内容でも文字でも読めるのか?』
「頑張って読むぅ」
『気合の問題じゃなくてだな?』

ああ。もういい。お前の目線に合わせる。
3度目の大あくびをしたドラゴンは、面倒くさそうではありますが、人間に化けてドワーフホトから端末を受け取りました。
「はぁ。ウォーキングチャレンジ?」
端末に表示されていたのは、「みなぎる活力で夢を描け!ドワーフホトのウォーキングチャレンジ」なるウォーキングイベントでした。

「『ゼッタイ逃げられないように、ゼッタイ結果が出るように運動の日程組んでやった』ってぇ」
スフィちゃん、そんなこと言うんだよ。
ドワーフホトが言いました。
「『企画通ったから、これで大勢のお前のファンと一緒にダイエットできだろ』ってぇぇ。
しかも、6月だよ、来月だよ。早いよ。酷いよぉ」
わぁん。部長さん、法務のチカラでなんとかして。
ドワーフホトは必死に、それはそれは必死に、
人間に化けたルリビタキに、頼み込むのでした。

「はぁ。 うん」
スワイプ、スワイプ、スワイプ。
昼寝のために静かなる森へ来ていたハズのルリビタキは、その静かなる森の中で、自分の職場が企画したダイエットウォークイベントの告知を見ます。
「まぁ頑張れ」
どうやら既に、イベント開催のアナウンスも為されて、参加者募集まで始まっているようです。
これでは、ルリビタキにできることは無いのです。

「頑張れ、じゃなくてさぁぁー!」
やだよぉ!あたし、コスメコラボなら引き受けるけどダイエットイベントとか無理だよぉぉ!
ドワーフホトは、ずっとずっと、だいたい十数分くらい、ルリビタキに泣きついておったとさ。
しゃーない、しゃーない。

5/11/2025, 8:32:43 AM