「去年の秋に出たお題が『秋恋』だった」
まだ遭遇してないのは「夏恋」と「冬恋」か?
某所在住物書きは過去のお題を確認しながら、
しかしこの「書く習慣」、恋愛ネタのお題はちょくちょく配信されてくるので、
ぶっちゃけ、夏の恋と冬の恋そのものは、既にお題として配信されておるかもしれないと、
小さな、ため息など吐いている。
物書きに彼女・彼氏は縁が無かった。
「まぁ1人はいたけどさ。
いたけど、そいつが、2年前に投稿してたネタの
『理想押し付け厨かつ厳選厨な、自分の職場にまで押し掛けてくる元恋人』のモデルだもんなぁ」
つまり恋に良い思い出がねぇのよ。
物書きは思う。 あいつ今頃どうしてるだろう。
――――――
狐は春に恋するにあらず。冬に恋して巣を選び、そこで子を産みおとして育てて、
春に巣穴から育った子供が、よちよち、とてちて、おぼつかない足取りで出てくるのです。
稲荷狐も化け狐もだいたい同じで、
冬に恋して、春に恋が巣穴から出てくるのです。
今回は「春恋」のお題ですので、
春になって外に出てきた化け狐の子供と、
その化け狐の親戚の子狐と、
その子供たちの面倒を見る女性2名のおはなし。
最近最近の都内某所、某スイーツフェスの会場は、
「春恋フルーツフェスタ」と題しまして、
あっちにいちごのチョコファウンテン、
そっちに春ミカンのクリームパフェ、
向こうではサクランボのカップケーキと、
春の恋をテーマに、甘酸っぱい幸福をたっぷり積んだキッチンカーがいっぱい、総勢20台。
チケット制で、10枚つづりが5000円。
各スイーツ、1品につき1枚で食べられます。
で、その春恋スイーツと女子ーズと子狐ーズが、どう繋がるかといいますと。
そうです。2人と2匹して、このスイーツフェスに突撃潜入!ガッツリ甘いものを食う算段です。
「いいか、絶対、ゼッタイ!俺様から離れるんじゃねぇぞ!勝手な行動はダメだ」
目を離したらどうなるか、分かったモンじゃねぇ。
女子ーズの1人はビジネスネームを「スフィンクス」といいまして、1人と2匹に警告します。
「必ず全員で固まって、迷子になら……」
迷子にならないように、一旦全部の店を回るぞ!
しっかりもののスフィンクスが言う前に、
「イチゴ大福だぁ~!コンちゃん、行こう!」
もうひとりの女子ーズの「ドワーフホト」と、
「わぁー!いこう、行こう!!
おばちゃんに、おみやげだぁー!」
しっかり人間に化けた子狐と、
「おかあちゃんにも、おみやげ!
おとうちゃんにも、おみやげ!」
その子狐の手をしっかりにぎり、頑張ってついていく、小ちゃな狐耳が出てしまっておる子狐が、
さっそく、スフィンクスから離れていきます。
1人と2匹一緒に行動してるだけ、マシかというと、食いしん坊ズがいつまでも、お行儀よくしているハズも無いわけで、途端にわちゃわちゃ。
「おねーちゃん!あっち!みたらし団子!」
「あたし、そっちのミニパフェ見てくるぅ。
コンちゃん、いっといで!」
「ぱふぇー!おかあちゃんと、ぼんのぶん!」
「よぉし。こっちのコンちゃんは、一緒に行こう」
あーあー、あーあー。
みんな、自分の春恋スイーツ目指してまっしぐら。
だぁれもスフィンクスの正論を聞きません。
「おまえらぁー!」
どうせ全員、あとで迷子になるのです。
どうせ全員、まとめてスフィンクスが探し出して、見つけて、だいたい子狐かドワーフホトが転んで怪我などしてるので、手当てするのです。
なんなら今回は大きい方の子狐の、母親の方の実家の次女さんが、子供を産んで雪国から、母狐を頼って2泊3日の春旅行の最中。
「ぼんもたべる!ぼんもたべるぅ!」
さっきから「おかあちゃん」、「おとうちゃん」と言っている、小ちゃい方の子狐の面倒まで。
「まってまって、好きなの、頼んであげるぅ。
どれ食べたい?キウイ?イチゴ?」
「いちご!」
「おれさま、ミカンジュレのケーキ、くえるかな」
ドワーフホトと小ちゃい方の子狐を、なんとか確保している間に、大きい方の子狐が行方不明。
みたらし団子を食いに行くと言っていました。
みたらし団子のキッチンカーには、大きい方の子狐、並んでいないようでした。
「むりかな。どうだろな」
スイーツフェスのような会場で、食いしん坊1人と2匹の引率も、ラクなものではありません。
それはさながら春恋というより、春騒動、運動会。
保護者な人間スフィンクスは、ドワーフホトと小ちゃい子狐の安全を確保しながら、
大きい方の子狐を探して、10分、20分。
頑張って、歩き回ったとさ。
「去年の4月某日のお題が、『もしも未来を見れるなら』で、6月が『未来』、今年のハナシだと2月に『未来の記憶』を書いたな」
あの時は結局何も思いつかなくて、ほぼお手上げ状態だったわ。某所在住物書きは己の過去投稿分をたどり、当時の失態を思い出してため息を吐いた。
「未来図『は明るい』、未来図『を変えてはいけない』、未来図『が分かってりゃ苦労しない』。
ケツじゃなく、アタマに言葉を足すなら、『10年後の』未来図とか、『人の絶えた』未来図とか、そういうハナシも書けるだろうな」
まぁ、ネタは浮かべどハナシにならぬ、ってのは毎度のことだが。物書きはうなだれて、再度ため息を……
――――――
前々回投稿分から続いてきたおはなしも、ようやく今回でおしまいです。
最近最近の都内某所に、滅んだ世界出身の異世界人が、仕事をしに来ておりまして、
ビジネスネームを「アテビ」といいました。
異世界人のアテビは前々回、ひょんなことから、初任給で買った一目惚れの、薄黄色した一輪挿しを、まっぷたつに割ってしまいました。
そして異世界人のアテビは前回、都内の現地住民の案内で、一輪挿しをキレイに金継ぎしてくれるお店に、一輪挿しを託しました。
現地住民に何度も何度も、なんども深くお礼して、
自分の職場に帰ってきたところから、
さて今回のおはなしの、はじまり、はじまり。
「ただいま戻りました!」
アテビの職場の通称は「領事館」。
アテビのような、滅んだ世界から脱出してきた難民を、密航の形でこの世界に避難させて、
そして、新しい生活ができるように、相談役や手配、支援等々をしておる職場なのです。
アテビはここの、新人職員。
アテビの故郷の世界は壊れてしまっておるので、
領事館に住み込みで、せっせと働いておるのです。
「ああ、キンツギ、すごい!
この世界には、あんな素晴らしい技術がある」
アテビが生まれた世界は技術がすごく進歩していて、たとえば何かが壊れても、原子レベルでそっくりな、完全に酷似したコピーをいくつでも、安価で作ることができます。壊れたものは捨てられます。
だけどこの世界は、アテビの壊れた一輪挿しを、植物と金属のチカラを借りて、
美しく修理して、また使えるようにするのです。
「すごいな。すごいな」
壊れたものを捨てない。無駄にしない。
この世界はアテビの世界より、技術レベルも科学レベルも文明レベルだって劣っていますが、
アテビはこっちの世界の「活かす/生かす」術が、とっても、とっても、好きになりました。
「おい、アテビ。さっきまで酷く落ち込んでたみたいだが、もうあの一輪挿しは良いのか」
「はい、スギ館長。もう大丈夫です!
現地住民の優しいひとが、3ヶ月かかるけど、キレイに生き返らせてくれるそうです」
「お、おお。 そうか。良かったな」
「はい!」
るんるんるん、るんるんるん。
大事な大事な一輪挿しが、また使える、美しい金のラインと絵でおめかしされて戻ってくる。
金継ぎされた一輪挿しの完成予想図を――未来図を貰ってきたアテビは、
その未来図を、帰還途中で買ったキレイな額縁に入れて、一輪挿しを置いていた窓際に置きました。
縦にまっぷたつに割れた、薄黄色の一輪挿しです。
その縦のまっぷたつを、桜の若木に見立てて、
ウルシと金の粉でもって、その若木に枝を、そして桜の花びらを、伸ばして咲かせて散らします。
「ああ、きれい」
日本の伝統技工、金継ぎと蒔絵に、
アテビは小さな、恋をしました。
アテビのまっぷたつに割れた一輪挿しを、「こうやって直します」と描かれた未来図は、
たちまち、アテビの宝物のひとつとなりました。
「キンツギと、マキエか」
未来図をじっくり眺めて、超消費世界出身のアテビは、3ヶ月後を想像します。
不注意で割ってしまった一輪挿しが、
アテビの世界であればカンペキなコピーを作られて、壊れたオリジナルはポイちょのバイバイであっただろう薄黄色の陶磁器は、
金色の木と、金色の花を咲かせて、
また、アテビの手元に、帰ってくるのです。
「この世界には、他にどんな魔法があるんだろう。
どんな素敵があるんだろう……」
自分の故郷と違う技術は、自分の故郷と違う思想。
きっと、超大量消費世界とは違う未来図。
異世界人アテビは一輪挿しが、3ヶ月後に金継ぎを経て、自分のところへ戻って来て、
「壊れたって良いんだよ」と、新しい姿を見せることを、ずっと、ずーっと、想像しておったとさ。
「ひとひら。……『ひとひら』……?」
そういや「ひとひら」って、花びら以外に何に使えるんだ。歌か。 某所在住物書きは頭を抱えた。
ネットを確認すれば、ひとひらの名を持つ、おろし金や菓子、料理皿など。なかなかさまざま。
なんだろ。思いつかね。
物書きは仕方がないので、急須に茶っ葉などブチ込み、85℃より少し上の湯を入れる。
葉のしっかりした静岡茶、川根産の針のようなそれは、しかし温かい湯を受けて、
ひとひら、ひとひら。膨らんでは香りを出す。
――――――
前回投稿分からの続き物。
お題回収役の後輩、もとい高葉井は、近所の稲荷神社でワンワン泣いてる女性を見つけまして、
彼女はつまり、初任給で購入した大事な大事な一輪挿しを、不注意で割ってしまったとのこと。
ふーん。そうなんだ。ネットワークの広いオタク、高葉井は、名案ひとつ、思いつきまして。
それが、金継ぎだったのです。
それが、同じ推しを共有する仲間だったのです。
「ねぇ、アナタさ、その小さい焼き物のためだけに、7千とか1万とか出す覚悟、ある?」
「えっ……?」
高葉井がメッセージを送ったのは、同じ推しとカップリングを信仰する、オタクの知り合いでした。
「金継ぎしてくれるひと、1人知ってるの。
この近くに住んでる。多分やってくれる」
自分の大事なものが壊れてしまったときの絶望を、高葉井は知っておりました。
壊れてしまったものを修理してもらえたときの歓喜も、高葉井は知っておりました。
「相場は1万くらい。割れたとこがくっついて、ヒビのラインが金でキレイになるの。
どうする?1万、出す?やめとく?」
推しゲーコラボの万年筆を落としてしまったとき、
それを直してもらえたとき。
高葉井はこの女性に、過去の自分が見た風景を、重ねておったのでした。
さぁ、今こそオタクの本気を見せるとき!
この尊い、きっと今年か去年上京してきたばかりであろう若い女性の心ひとひらを、
悲しみで、魂の苦痛で、散らしてはなりません!
「直せるんですか」
パッ、と顔を上げた女性の瞳には、涙のせいもあるでしょうけれど、光が宿っておりました。
「直してもらえるんですか。この世界には、これを元に戻す技術があるんですか」
女性はポケットから、きっとソッコーで支払いをするつもりだったのでしょう、
財布を取り出そうとして、でも割れた一輪挿しが両手をふさいでおるので、ただただ高葉井に、
文字通り、すがるように、言いました。
「お願いします、連れてってください、
直せるひとに、会わせてください」
あ、わたし、アテビといいます。
慌てて自己紹介を始める女性を、高葉井は自分がフォローしているオタク仲間のお店に、
さっそく、案内するのでした。
――さて。時が進んで場所も変わって、
涙の女性こと「アテビ」と高葉井は、蒔絵細工と金継ぎされた小物が置かれた、昔は高級パン屋さんだったと思しき小さな小物屋さんにゆきました。
「おお、高葉井氏!待っておったですぞ」
店の多くから現れたのは、数枚の紙を持った、若い男性の店主さん。
「高葉井氏は小生の、俺の魂の恩人。頼みとあらば引き受けざるを得ない。ふんふん」
わぁ。随分と特徴的な店主さんだ。
アテビがきょとんとしておると、店主は持っていた紙をテーブルの上に広げまして、
「さてと」
その紙には、割れた一輪挿しの修理後イメージが、
そのまま金継ぎだけで直したものと、
金継ぎの他に蒔絵も施したデザインの3種類が、
それぞれ丁寧に、1枚ずつ、書かれておりました。
「小生、『ツルの金継ぎ師』の名前で、SNS活動しておりましてな。金継ぎにプラスアルファで、蒔絵のイラストなど、ご提案してる次第」
これなど、いかがですかな。
店主がアテビに見せたのは、縦に割れた一輪挿しのヒビを、金継ぎの技術でもって若木に見立てて、
その若木から蒔絵の技術で、ひとひら、ひとひら。
桜の花と桜吹雪を描いたイラスト。
薄黄色の背景と合わせて、とても明るく、とても春らしい美しさが、そこにありました。
「お渡しは、3ヶ月後になりますな」
店主さんが言いました。
「お値段、けっこうかかりますぞ。
アテビ氏、金銭面が不安であれば、普通の金継ぎだけの方をセレクトすべき」
「この花のイラストを、いれてください」
アテビは感極まって、また泣いてしまいました。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
一輪挿しを直すだけでなく、その割れたラインを「それで良いんだよ」、「それが良いんだよ」と花を添えてくれる店主さんの提案は、
それはそれは、見事なものでした。
まだ大丈夫だよと、言われているようでした。
「『景色』に関しては、去年の9月に『窓から見える景色』っつーお題があった」
あと先月も「景色」のお題が来てたわな。
これまで投稿してきた約700個分のお題を思いながら、某所在住物書きが呟いた。
景色ならば、ちょうどネタを仕入れていた。
「金継ぎ」である。アレが生み出す金のラインを、そのおもむきを、景色というそうである。
「風景」らしい。
風景、ふうけいねぇ。
思い出したくない風景なら心当たりのある物書きである。それはすなわち、去年の合計課金額である。
見たいけど見られない風景ねぇ。
それも心当たりのあるもの下記である。それはすなわち、札束でパンパンの財布である。
「……今年は節約、せつやく、……くぅ……」
――――――
前回投稿分からの続き物。
自分の職場で推しによく似た神レイヤーさんと出会い、あんまりそのひとを想い過ぎたので、
職場で昼寝をしておったところ、夢に推しがでてきてしまった、今回のお題回収役です。
名前を後輩、もとい高葉井といいまして、
推しはゲームのキャラクター。
メインキャラ、主人公サイドのひとりでして、
正体はドラゴン、人の姿をとって現れる、特殊組織の部門長さん。ビジネスネームは「ルリビタキ」。
高葉井の夢の中の推しは、稲荷神社におりました。
高葉井の夢の中で推しは、子狐と戯れていました。
右にルリビタキ、左にルリビタキの部下を据えて参拝して、愛でて、崇拝するのが高葉井です。
ぐーすぴ寝てるルリビタキの上に、稲荷の子狐が乗っかって、ポンポン跳ねたりとんだり、おなかを小ちゃい爪で掘り掘りしている夢の風景は、
文字通り、そのままの意味で、夢のよう。
なんならその稲荷神社が実際に実在するから云々。
「ここだ」
仕事を終えた高葉井は翌日、夢に出てきた稲荷神社を参拝しまして、もう合掌、もう一礼。
「この神社で、ル部長はお昼寝してたんだ」
ああ、尊い、尊みが満ちている。
完全に口角が上がりっぱなしの高葉井は、そのまま夢と同じように、参道を進んでゆきまして……
「あれ?先輩?」
夢で見た花畑で、夢で見た推しではなく、
現実の職場で一緒に仕事をしている先輩を発見。
「ちょっと、どうしたの、」
その花畑には、先輩の他にもうひとり、女性が座り込んでおり、しくしく、しくしく。泣いています。
「あなた……」
花畑で泣いておったのは、高葉井の図書館に一度来館したことがある女性でした。
たしか過去投稿分でいうところの、3月21日。
(当時のお題は「君と見た『景色』」でした)
スワイプが面倒なので、細かいことは気にしない。
「大事にしていた一輪挿しを、割ったそうだ」
稲荷神社の花を撮りにきていたのでしょう。
花を撮りにきたら、ちょうど女性を見つけてしまって、色々、話を聞いておったのでしょう。
「初任給で、初めての東京で、一目惚れして買ったそうだ。酷くショックだったらしい」
ほら。そこの、彼女の手の中。
先輩が視線を投げた先には、女性の手の中で、まっぷたつに割れてしまった薄黄色の一輪挿し。
コピーは簡単なのだそうです。
でも、コピーは、「これ」ではないのです。
「それ」を、まさに「その」一輪挿しを、自分の不注意で割ってしまったのが、
ゆえにその一輪挿しが存在する自分の部屋の風景が二度と戻ってこないのが、
ただただ悲しくて、苦しくて、痛いのだそうです。
「焼き物だ」
一輪挿しの色と光沢と、それから音によって、
高葉井は一輪挿しが陶磁器であると予想しました。
「アナタ、それ、そんなに大事なの」
「ここに来て、 初めて見た、黄色だったんです」
ぐっす、ひっく。両手で一輪挿しを包んだまま、以前高葉井の職場に来ていた女性が言いました。
「ぜったい、買おうって決めて。
お店の人に、取り置いてほしいと、無理を言って」
それで、買ったものなんです。
女性はそう結ぶと、ぱたり、ぱたり。
また大粒の涙を、こぼしました。
「接着剤では、経年劣化のリスクがある」
なんとか、助けてやれないか。
お人好しな高葉井の先輩、高葉井を見て言います。
「お前が使っている、光で固まるアレはどうだ?」
きっと、レジンのことを言っているのでしょう。
先輩はハンドメイドを、よく知らぬのです。
「UV-LEDレジンはダメだよ」
後輩の高葉井、ひとつの一輪挿しに大粒の涙を流す女性を、じっと見て、小さく頷いて、
「黄変するし、接着には向かない」
そして、スマホを取り出し、ポンポンポン。
数回操作して、メッセージを送信し始めました。
「ねぇ、アナタさ、その小さい焼き物のためだけに、7千とか1万とか出す覚悟、ある?」
高葉井が言う、7千とか1万とかで焼き物を直す方法とは? そうです。金継ぎです。
高葉井は女性に、金継ぎで、初任給で一輪挿しを買ったという女性の尊い風景を守る提案を――
「先週『君と』ってお題を書いたばかりだが??」
過去投稿分のお題を「君と」で検索していた某所在住物書きである。「君の」や「君へ」を含めれば、更に件数は増えるだろう。
たしか先週は海苔茶漬けに柚子胡椒を入れたハナシを書いた。ピリッとして、なかなか美味なのだ。
「君と、ボク、しもべ、やつがれ。読み方が指定されてねぇから、下僕の話も書けるし一人称が『やつがれ』な誰かの話も書けるワケだ」
下僕っつったら、猫飼ってるひとの、飼い主のことを「猫の下僕」って表現する場合があるわな。
物書きの興味は過去のお題から猫の画像へ。
「君とぼく、君としもべ、君と、……んー」
猫に似た神様と、その下僕のハナシ、とかはアリなのかな。物書きは考え、すぐ首を横に振る。
「多分書けねぇ」
――――――
前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某私立図書館の昼休憩、
後輩もとい高葉井という女性が、自分の机に突っ伏して、幸せそうに、寝ておりました。
「えへへ……るぶちょ……るぶちょー……」
3月からこの図書館で仕事をしている高葉井です。
最近ようやく少しずつ、仕事を覚えてきまして、
先日貸し出しの受付業務をしておったところ、
あらあら、まぁまぁ。高葉井の推し①にすごくよく似た男性が、目の前に現れたのです。
高葉井の推し①は、通称「ル部長」。
ビジネスネームを「ルリビタキ」といいました。
ルリビタキはゲームのキャラクター。
もちろん高葉井、ゲームのキャラクターと会えるなんて、そんなこと、信じていません。
でも高葉井が見たその人は、あんまり顔も声もルリビタキに似ておったので、
高葉井、そのひとが、ウワサの「ルリビタキにとてもよく似た神的コスプレイヤー」だと、
一発で、一瞬で、パチン!思い至りました。
それからというもの頭の中は、ルリビタキによく似たその人でいっぱい!寝ても覚めてもです。
しまいには、夢の中で会えないものかと、早寝早起き、それからお昼寝まで始めたのでした。
――『あれ、ここは、』
夢の中で高葉井は、見知った稲荷神社にいて、
その稲荷神社の、陽光よく当たる花畑で、ルリビタキが本来の姿……ドラゴンとしての姿をさらして、
ぐーすぴ、かーすぴ、ヘソ天しています。
『ドラゴン形態のル部長!ルブゴンだ!』
やばい、ホントに会えた。
夢の中の高葉井、夢の中でスマホを出して、パシャパシャ、ぱしゃぱしゃ、写真撮影です。
ヘソ天ドラゴンの上には稲荷の子狐。
ドラゴン姿のルリビタキと遊びたくて、おなかの上で跳んだり、はねたり、小ちゃい爪で掘り掘りしたり。芸術点が高くて尊い光景です。
『ヤバい、ル部長、尊い、とうとい……』
君と僕、夢の中で参拝です。
君と僕、お昼寝の短時間で推し摂取です。
『おい……こぎつね、ねかせてくれ……』
おやおや。高葉井が夢の中で動画を撮り始めたところで、ドラゴンが何か言い始めましたよ。
『高葉井の件で、ツバメから3時間、みっちり小言耐久レースだったんだ。ねかせてくれ……』
まぁまぁ。高葉井の血中推し濃度が高値に達したところで、ドラゴンが高葉井の名前を言いましたよ。
どうしましょう、どうしましょう。
高葉井の心中尊み濃度は急上昇!
君と僕、夢の中で合掌です。
君と僕、お昼寝の短時間で二礼二拍手一礼です。
ところで「ツバメから3時間小言レース」とは?
それは前々回投稿分のおはなしが、ごにょごにょ。
スワイプが面倒なので、気にしない、気にしない。
『わぁ、ル部長、私の名前言ってくれた。
夢の中なのに、ヤバい、やばい、ごいりょく……』
夢の中でまで情緒が吹き飛んで、どうしようもなくなってしまった高葉井は、
「ツバメ」なる推し②の名前が夢の中に登場したことで、とうとう急性尊み発作を発症。
ドラゴンにぺたぺたペタペタさわっていたあたりで、昼休憩終了5分前のアラームに起こされたとさ。
おしまい、おしまい。