「去年の4月某日のお題が、『もしも未来を見れるなら』で、6月が『未来』、今年のハナシだと2月に『未来の記憶』を書いたな」
あの時は結局何も思いつかなくて、ほぼお手上げ状態だったわ。某所在住物書きは己の過去投稿分をたどり、当時の失態を思い出してため息を吐いた。
「未来図『は明るい』、未来図『を変えてはいけない』、未来図『が分かってりゃ苦労しない』。
ケツじゃなく、アタマに言葉を足すなら、『10年後の』未来図とか、『人の絶えた』未来図とか、そういうハナシも書けるだろうな」
まぁ、ネタは浮かべどハナシにならぬ、ってのは毎度のことだが。物書きはうなだれて、再度ため息を……
――――――
前々回投稿分から続いてきたおはなしも、ようやく今回でおしまいです。
最近最近の都内某所に、滅んだ世界出身の異世界人が、仕事をしに来ておりまして、
ビジネスネームを「アテビ」といいました。
異世界人のアテビは前々回、ひょんなことから、初任給で買った一目惚れの、薄黄色した一輪挿しを、まっぷたつに割ってしまいました。
そして異世界人のアテビは前回、都内の現地住民の案内で、一輪挿しをキレイに金継ぎしてくれるお店に、一輪挿しを託しました。
現地住民に何度も何度も、なんども深くお礼して、
自分の職場に帰ってきたところから、
さて今回のおはなしの、はじまり、はじまり。
「ただいま戻りました!」
アテビの職場の通称は「領事館」。
アテビのような、滅んだ世界から脱出してきた難民を、密航の形でこの世界に避難させて、
そして、新しい生活ができるように、相談役や手配、支援等々をしておる職場なのです。
アテビはここの、新人職員。
アテビの故郷の世界は壊れてしまっておるので、
領事館に住み込みで、せっせと働いておるのです。
「ああ、キンツギ、すごい!
この世界には、あんな素晴らしい技術がある」
アテビが生まれた世界は技術がすごく進歩していて、たとえば何かが壊れても、原子レベルでそっくりな、完全に酷似したコピーをいくつでも、安価で作ることができます。壊れたものは捨てられます。
だけどこの世界は、アテビの壊れた一輪挿しを、植物と金属のチカラを借りて、
美しく修理して、また使えるようにするのです。
「すごいな。すごいな」
壊れたものを捨てない。無駄にしない。
この世界はアテビの世界より、技術レベルも科学レベルも文明レベルだって劣っていますが、
アテビはこっちの世界の「活かす/生かす」術が、とっても、とっても、好きになりました。
「おい、アテビ。さっきまで酷く落ち込んでたみたいだが、もうあの一輪挿しは良いのか」
「はい、スギ館長。もう大丈夫です!
現地住民の優しいひとが、3ヶ月かかるけど、キレイに生き返らせてくれるそうです」
「お、おお。 そうか。良かったな」
「はい!」
るんるんるん、るんるんるん。
大事な大事な一輪挿しが、また使える、美しい金のラインと絵でおめかしされて戻ってくる。
金継ぎされた一輪挿しの完成予想図を――未来図を貰ってきたアテビは、
その未来図を、帰還途中で買ったキレイな額縁に入れて、一輪挿しを置いていた窓際に置きました。
縦にまっぷたつに割れた、薄黄色の一輪挿しです。
その縦のまっぷたつを、桜の若木に見立てて、
ウルシと金の粉でもって、その若木に枝を、そして桜の花びらを、伸ばして咲かせて散らします。
「ああ、きれい」
日本の伝統技工、金継ぎと蒔絵に、
アテビは小さな、恋をしました。
アテビのまっぷたつに割れた一輪挿しを、「こうやって直します」と描かれた未来図は、
たちまち、アテビの宝物のひとつとなりました。
「キンツギと、マキエか」
未来図をじっくり眺めて、超消費世界出身のアテビは、3ヶ月後を想像します。
不注意で割ってしまった一輪挿しが、
アテビの世界であればカンペキなコピーを作られて、壊れたオリジナルはポイちょのバイバイであっただろう薄黄色の陶磁器は、
金色の木と、金色の花を咲かせて、
また、アテビの手元に、帰ってくるのです。
「この世界には、他にどんな魔法があるんだろう。
どんな素敵があるんだろう……」
自分の故郷と違う技術は、自分の故郷と違う思想。
きっと、超大量消費世界とは違う未来図。
異世界人アテビは一輪挿しが、3ヶ月後に金継ぎを経て、自分のところへ戻って来て、
「壊れたって良いんだよ」と、新しい姿を見せることを、ずっと、ずーっと、想像しておったとさ。
4/15/2025, 3:09:48 AM