「『景色』に関しては、去年の9月に『窓から見える景色』っつーお題があった」
あと先月も「景色」のお題が来てたわな。
これまで投稿してきた約700個分のお題を思いながら、某所在住物書きが呟いた。
景色ならば、ちょうどネタを仕入れていた。
「金継ぎ」である。アレが生み出す金のラインを、そのおもむきを、景色というそうである。
「風景」らしい。
風景、ふうけいねぇ。
思い出したくない風景なら心当たりのある物書きである。それはすなわち、去年の合計課金額である。
見たいけど見られない風景ねぇ。
それも心当たりのあるもの下記である。それはすなわち、札束でパンパンの財布である。
「……今年は節約、せつやく、……くぅ……」
――――――
前回投稿分からの続き物。
自分の職場で推しによく似た神レイヤーさんと出会い、あんまりそのひとを想い過ぎたので、
職場で昼寝をしておったところ、夢に推しがでてきてしまった、今回のお題回収役です。
名前を後輩、もとい高葉井といいまして、
推しはゲームのキャラクター。
メインキャラ、主人公サイドのひとりでして、
正体はドラゴン、人の姿をとって現れる、特殊組織の部門長さん。ビジネスネームは「ルリビタキ」。
高葉井の夢の中の推しは、稲荷神社におりました。
高葉井の夢の中で推しは、子狐と戯れていました。
右にルリビタキ、左にルリビタキの部下を据えて参拝して、愛でて、崇拝するのが高葉井です。
ぐーすぴ寝てるルリビタキの上に、稲荷の子狐が乗っかって、ポンポン跳ねたりとんだり、おなかを小ちゃい爪で掘り掘りしている夢の風景は、
文字通り、そのままの意味で、夢のよう。
なんならその稲荷神社が実際に実在するから云々。
「ここだ」
仕事を終えた高葉井は翌日、夢に出てきた稲荷神社を参拝しまして、もう合掌、もう一礼。
「この神社で、ル部長はお昼寝してたんだ」
ああ、尊い、尊みが満ちている。
完全に口角が上がりっぱなしの高葉井は、そのまま夢と同じように、参道を進んでゆきまして……
「あれ?先輩?」
夢で見た花畑で、夢で見た推しではなく、
現実の職場で一緒に仕事をしている先輩を発見。
「ちょっと、どうしたの、」
その花畑には、先輩の他にもうひとり、女性が座り込んでおり、しくしく、しくしく。泣いています。
「あなた……」
花畑で泣いておったのは、高葉井の図書館に一度来館したことがある女性でした。
たしか過去投稿分でいうところの、3月21日。
(当時のお題は「君と見た『景色』」でした)
スワイプが面倒なので、細かいことは気にしない。
「大事にしていた一輪挿しを、割ったそうだ」
稲荷神社の花を撮りにきていたのでしょう。
花を撮りにきたら、ちょうど女性を見つけてしまって、色々、話を聞いておったのでしょう。
「初任給で、初めての東京で、一目惚れして買ったそうだ。酷くショックだったらしい」
ほら。そこの、彼女の手の中。
先輩が視線を投げた先には、女性の手の中で、まっぷたつに割れてしまった薄黄色の一輪挿し。
コピーは簡単なのだそうです。
でも、コピーは、「これ」ではないのです。
「それ」を、まさに「その」一輪挿しを、自分の不注意で割ってしまったのが、
ゆえにその一輪挿しが存在する自分の部屋の風景が二度と戻ってこないのが、
ただただ悲しくて、苦しくて、痛いのだそうです。
「焼き物だ」
一輪挿しの色と光沢と、それから音によって、
高葉井は一輪挿しが陶磁器であると予想しました。
「アナタ、それ、そんなに大事なの」
「ここに来て、 初めて見た、黄色だったんです」
ぐっす、ひっく。両手で一輪挿しを包んだまま、以前高葉井の職場に来ていた女性が言いました。
「ぜったい、買おうって決めて。
お店の人に、取り置いてほしいと、無理を言って」
それで、買ったものなんです。
女性はそう結ぶと、ぱたり、ぱたり。
また大粒の涙を、こぼしました。
「接着剤では、経年劣化のリスクがある」
なんとか、助けてやれないか。
お人好しな高葉井の先輩、高葉井を見て言います。
「お前が使っている、光で固まるアレはどうだ?」
きっと、レジンのことを言っているのでしょう。
先輩はハンドメイドを、よく知らぬのです。
「UV-LEDレジンはダメだよ」
後輩の高葉井、ひとつの一輪挿しに大粒の涙を流す女性を、じっと見て、小さく頷いて、
「黄変するし、接着には向かない」
そして、スマホを取り出し、ポンポンポン。
数回操作して、メッセージを送信し始めました。
「ねぇ、アナタさ、その小さい焼き物のためだけに、7千とか1万とか出す覚悟、ある?」
高葉井が言う、7千とか1万とかで焼き物を直す方法とは? そうです。金継ぎです。
高葉井は女性に、金継ぎで、初任給で一輪挿しを買ったという女性の尊い風景を守る提案を――
4/13/2025, 7:51:39 AM