「ひらがな表記のお題は、個人的に、だいたい漢字変換に逃げ道があると思ってる」
ほら。たとえば「あの、夢平!ゆめへいさんを、窓口に出してもらえませんか」、とかさ。
某所在住物書きは相変わらず、過去配信分のお題を確認している。 これまでも何度か、漢字変換でお題を乗り切ってきたのだ。
たとえば「あたたかいね」を「あ戦いね」とか。
「なるべく、第一印象から離れたアイデアにも、目を向けるようにはしてるぜ」
物書きは言う。 というのも、「夢」のお題はこれでかれこれ3〜4例目なのだ。
「ただ、ド直球にストレートなネタも、時には書きたくなるんよな……」
――――――
最近、諸事情で早寝を実践してる、永遠の後輩ことコウハイ、高葉井です。
3月からお世話になってる都内の私立図書館で、先日副館長と貸し出し窓口業務を体験してたら、
目の前に、御本人と見間違うくらいバチクソに似てる、私の推しゲーの推しカプの、右さんの神レイヤーさんとバッタリ遭遇しまして。
私と私の先輩を図書館に引っこ抜いてきた人は、
「付烏月」と書いてツウキと読む人なんだけど、
その人から事前に、
「極レアだけど来るよ」
って情報は、一応、受け取ってたワケだけど、
いざ実際に目の前に来ると、もう、情緒が情緒で、推しと尊みの供給過多で、急性尊み中毒で。
神レイヤーさんに言えた最初の言葉が「ごめんなさい」だった。 ガチで語彙力が消えた。
人間って急に、突然推しに出会うと、冗談抜きでパニックになっちゃうモンなんだね。
なんなら、途中の記憶も吹っ飛んじゃうんだね。
知らなかった。 録画しとけばよかった。
「高葉井。こうはい」
昼休憩中、お弁当食べてる間に先日の「推しの神レイヤーさん」を、思い返せる限り思い返してるから、多分ポケーっとした顔してるんだと思う。
「最近、ボーっとしているようだが、大丈夫か」
早めにお弁当食べ終えて、先に午後の仕事を始めちゃってる先輩が、私のことを心配そうに。
「睡眠は?ちゃんと、とれているのか」
ガチで、それとなく心配そうに声をかけてくる。
「大丈夫でーす。昨日も10時就寝でーす」
返答する私は先日の神レイヤーさんとの記憶の中。
ああ。夢みたい。確実に現実だけど、夢みたい。
だって推しだ。親の顔より見た顔と、親の声より聞いた声を、そのまま持った神レイヤーさんだった。
完全に「本人です」と、「私がモデルです」と言われたって、誰も疑いやしない。
ああ、夢みたい、夢で見たい。会いたい。
だから私は最近、10時就寝なのだ。
さぁ、夢へ!推しと会ったあの日あの場所へ!
仕事してお金貰えて、推しの神レイヤーさんと至近距離で会えるとか最高か、最高だな。
うん(ありがとうございます)
「ここで昼寝したらル部長の神レイヤーさんと、もしかして、もしかしてだけど、夢で会えるかな」
「ルブチョウ?」
「スパイス。『ボタニカルイラストで見る世界のスパイス・ハーブ図鑑』。スパイスは5類か6類。
ル部長、覚えたよ、勉強したよ……」
「スパイス……?」
えへへ。ル部長。ルリビタキ部長。
正しくはそのコスプレイヤーさんだし、なんなら推しはゲームのキャラクターだからゼッタイ会えないってのは分かってるけど、
それでも、また会えないかな、どうかな。
無意識に口角が上がってる私は時計を見て、
まだ昼休憩がたっぷり残ってるから、
学生がそうするように、自分の机に顔を伏せて、
さぁ、夢へ、夢へ!
さっそく、お昼寝をするのでした。
「『元気かな、疲労かな』『元気か、なんともないか』『元気か難儀か』『元気カナリア』。
……他には何があるだろ。あんまり思い浮かばん」
過去のお題では、「元気ですか」を初手で書きそうな手紙系こそ何度か出題された筈である。
某所在住物書きは過去のお題を確認しながら、もふもふ、もぐもぐ。あんぱんなど食っている。
少なくとも「元気か」と聞く程度の状況なら、
100倍の元気な相手ではないだろう。
「元気なぁ」
元気っつーか、常時平常だから、ぶっちゃけ「元気」と言われてもだな。物書きはため息をひとつ。
ただただ、もふもふ、あんぱんを食う。
――――――
前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所に、本物の魔女のおばあちゃんが店主をしている喫茶店がありまして、
そこはたとえば、化け猫が仕事の合間にアフタヌーンティーセットを楽しみに来たり、
あるいはたとえば、心も魂も苦しくなってしまった人間が、店の噂を聞いて助けを求めてきたり。
そしてたとえば、異世界から仕事に来ているドラゴンを、同じく異世界から仕事に来ている人間やら宇宙タコやらが、囲んでお説教していたり。
ドラゴンをお説教していたり?
「あのですね部長。私達は、この世界では、特にこの日本という国ではですね、『よく知られているゲームのキャラクター』なんです。」
ということで今回のおはなしです。
温かみあるアンティークと、魂のにごりを払ってくれそうなオルゴールの音が心地良い喫茶店です。
「そのゲームの、自分が気に入っているキャラクターが、突然目の前に現れたらですね」
心地良い、温かい喫茶店には、
ひとしきり説教を終えて絶賛小言タイム真っ最中の男性が、目の前でスパイスココアを飲んでいる別の男性の、目を見て身振りして、アレコレ。
もう小言が始まってから20分です。
事前の説教タイムも合わせれば、1時間です。
小言さんは、ビジネスネームをツバメといいます。
ツバメは異世界から東京に、仕事のために来ておりまして、ツバメの勤務先はカモフラージュにソーシャルゲーム等々を展開中。
「自分は異世界人ではなく、ゲームキャラです」という位置づけで、都内に忍び込んでおるのです。
「自分の職場はフィクションです」という位置づけで、「この世界」に潜り込んでおるのです。
「……」
小言を言われている方の男性は完全に虚無顔。
小言さんの上司です。これでも上司なのです。
元気かな。もう心がどこかへお散歩中かな。
ただ時折あいづちなどして、機械的にココアでちびちび喉を湿らせて、機械的にうなずいて。
元気かな。もう魂がどこかでお昼寝中かな。
ともかく、たまに小さなため息など吐いています。
虚無顔のそばでは不思議なチカラを持つハムスターが不思議なネズミ車をガラガラガラ。
ハムスターの首(……「くび」?)にはプレート。
『わたしはこの喫茶店のコードをかじりました』
ハムスターからはユラユラ、ゆらゆら。かげろうが出ています――ハムスターが熱を発して、その熱でじっくり、コーヒー豆を焙煎しているのです!
ガラガラガラ、がらがらがら。
高温高熱のハムスターが、とっとこ走ります。
ハムスターの熱がネズミ車に伝わって、豆の容器にも伝わって、その中のコーヒー豆を熱します。
ガラガラガラ、がらがらがら。
ハムスターは名前を「ムクドリ」といいまして、
ネズミ車式コーヒー焙煎器で全力疾走を始めてから、かれこれ5分が経過しました。
元気かな、元気かな。
とっとこムクドリ、ちょっと速度が落ちました。
ネズミ車式焙煎の何が助かるって、コーヒー1杯分だけとか、2杯分だけとか、
少量だけ焙煎したいときに、それができるのです。
「良いですか。ルリビタキ部長」
やっと小言の締めくくりでしょうか。ツバメが虚無顔男性に語りかけます。
「今回は仕方ないとして、高葉井さんにも『あなた』が『あなたによく似たコスプレイヤー』と認識してもらったから良かったとしてですね。
本当に、ご自身がこの世界では『ゲームキャラ』であるという認識を、ちゃんと持っていただいて。
誰かに会う際はちゃんとカモフラージュを……」
ああ、ああ。まだ終わらない。まだ終わってない。
虚無顔さんは更に虚無顔。
チラリ、アンティークの柱時計を確認します。
「ちゃんと聞いていますか。部長」
「ああ、きいてる、きいてる。もんだいない」
元気かな、元気なのかな。
虚無顔さんは機械的に返答。
その近くでは、とっとこムクドリのネズミ車が、
チリン!キレイなベルを美しく鳴らして、
焙煎終了をお知らせした。
「焙煎終わったかしら?」
コードをかじられた魔女の店主が言いました。
「そう、お疲れ様。じゃあ次はそこのアイスクリームの材料、マイナス20℃で冷やしてちょうだい」
元気かな、元気なのかな。
とっとこムクドリは数秒、呆然としておったとさ。
「『物語のお約束』といえば、爆破オチに主人公補正、それから恋愛系に鈍感。
『物語の約束』は、有名どころでは『ノックスの十戒』とか『ヴァン・ダインの二十則』とかか?」
公的文章の約束としては、会話文は「このように。」カギカッコの最後に句点を付けるそうだが、
大抵の現代小説、ライトノベル、雑誌編集等々では最後の句点が省略されがちである。
なんでだろな。某所在住物書きは首を傾けた。
理由は諸説あるらしい。
「かく言う俺も、最後の句点は省略してるわな」
ところで物書きは、個人的になるべく正午から午後2時近辺の間で、2000字未満の文章を投稿できるよう、自身に対して約束を課している。
3年前は1000字未満、600字程度だった。
来年には2500字にでもなっているのだろうか?
――――――
前回投稿分と繋がるおはなし。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織があり、
そこの組織理念は、
「それぞれの世界が、それぞれの世界として独自性を保ち、独立して在れるように」。
すなわち途上世界が先進世界によって、侵略・略奪・植民されないように。
あるいは「その世界」のものではない技術が、秘密裏に持ち込まれてその世界を壊さないように。
世界間を取り締まり、支援し、円滑な運行を実現する。それが世界線管理局。
前回投稿分で雪国出身の東京都民が、異世界人と接触して、その異世界人の職場へ向かってしまった。
世界渡航技術が確立していない東京、日本、地球。
その現地住民が異世界人と接触した場合、
管理局はその現地住民に対し、記憶処理を為すのが遠い遠い昔からの約束、ないし慣例である。
この世界が「この世界」であり続けるためにも、
異世界渡航技術が確立されていない今の東京において、「異世界」は「まだ」夢物語。
異世界は「まだ」、「ゲームや漫画、アニメ等々の中だけのおはなし」でなければならない。
「どうします、ルリビタキ部長」
世界線管理局法務部の特殊即応部門、ビジネスネーム「ツバメ」が、上司の部門長に伺いをたてる。
「あそこまで異世界人と関わってしまったら、我々としても、もう黙っていられませんよ」
「少し様子をみる」
尋ねられた「ルリビタキ部長」は短く答えた。
「あの雪の現地住民がどう動くか、少し見たい。
それから、そいつにコンタクトをとって自分の職場に招いた、多様性機構の職員の方も」
とはいえ、そろそろ動く必要はあるだろうな。
そう付け足したルリビタキは小さなため息ひとつ吐くと、仕事前の一服として、タバコケースを掴み法務部の外へ出ていく。
一服が終われば仕事の始まり。
タバコは所定の、決められた喫煙スペースで。
1回に吸うのは3本まで、1日あたり■■本だけ。
それがルリビタキに課せられた遠い約束。
「異世界の組織、『世界多様性機構』と接触した現地住民、藤森 礼の間接的監視と評価を開始する。
まずは藤森の後輩、高葉井 日向に接触して、情報収集だ。藤森が現段階で、どこまで他人に異世界を吹聴しているか、していないか、確認だ」
異世界はまだ、ゲームや漫画、アニメ等々の中だけのおはなしでなければならない。
ルリビタキは東京に、管理局がリリースしたゲームのキャラクター「ルリビタキ」の、
「バチクソよく似たそっくりさん」あるいは「声まで似ている神レイヤー」として、潜っていく。
それぞれの世界が「それぞれの世界」であり続けるために、独自性を保って独立していられるように。
ところで突然ながら、
ルリビタキが接触しようとしている「藤森の後輩」の高葉井 日向(こうはい ひなた)なる女性だが、
実はゲームのキャラクターとしてのルリビタキとツバメを推しとして崇拝する、ツバメ&ルリビタキの元二次創作執筆者にしてツル信奉者でして。
「うー。図書館、意外と覚えること多い……」
場面変わって、こちらは最近最近の都内某所、「世界線管理局」のゲームの聖地にして生誕の地たる某私立図書館、その第一閲覧室。
「0類がなんだっけ、1類が宗教で、ひとまずマンガが7類にあって小説はだいたい9類、913……」
今年3月から図書館に転職してきた高葉井が、
自分の推しのルリビタキが自分を通して自分の先輩を監視しようとしていることなどいざ知らず、
図書館の貸し出し受付窓口のカウンターで、「どの書架にどの本があるか」を勉強している最中。
ひとまずあの本がそこにあって、その図鑑がここにあって、世界線管理局のゲームの聖地ゆえに存在する世界線管理局コーナーは第二閲覧室。
あーあー。キンタイって、禁帯って、なんだっけ。
何の略だっけ。勤怠?金帯?ガチャ?
高葉井が勉強用のメモを、一生懸命辿っていると、
「本を探している」
ようやく登場。高葉井が座るカウンターの真ん前に、物語の前半で登場していたルリビタキである。
「『ボタニカルイラストで見る世界のスパイス・ハーブ図鑑』という名前だ。調べてくれ」
「へっ、」
高葉井は硬直した。ルリビタキである。
「る、るっ、るり、るーぶちょう、」
親の声より聞いた声が、親の顔より見た顔をして、自分の前に立っている。自分に話しかけている。
「ルリビタキか」
そこに更に爆弾が投下。
「よく間違われる。ゲームのキャラがここに居るわけないだろう。ともかく、調べてくれないか」
「ひ、ひゃ、ご、」
「『ご』?」
「ごめんなさぁぁぁぁぁぁい!!!」
「は?」
自分の推しが突然現れて、短期間で許容量を超える尊みに曝露してしまったことで、
耐えきれず、高葉井は重篤な急性推し中毒を発症。
「すいません、ごめんなさい、わ、わぁぁ!」
「落ち着け、おちつけ!俺が何をした」
「存在した!」
「そんざいした????」
その後1時間ほど、情緒不全であったとさ。
「花のお題はけっこう多く書いてきたんよ。なんなら花ネタの投稿、複数回書いてるのよな……」
某所在住物書きは、今回ばかりは物語の書きづらさを、己の失態によるものと認めた。
これまで桜吹雪を流れ星に見立てたり、
ポットの中に工芸茶の花を咲かせたり。
季節の花をそのまま登場させたこともあった。
花はこの物書きにとって書きやすかったのだ。
「去年は星空を花畑に例えたっけ」
なかなかの苦しまぎれよな。物書きは回想する。
「まぁ。今年も今年で、強引なネタ書くけど」
そろそろネタを発掘する必要がある。今まで考え付きもしなかった、一度も擦っていないネタを。
――――――
過去作3月16日投稿分あたりの頃に、「先」に一度進みかけて、そのまま停滞した「その後」。
異世界要素をガッツリ挟んだ、厨二ふぁんたじーで前回投稿分とも繋がりそうなおはなしです。
最近最近の都内某所、某不思議な稲荷神社には、
かつて昔の美しい花、可憐な花、今となっては見るのも難しくなってしまった花が、
稲荷の狐に見守られながら、あるいは稲荷神社の花畑を未来に残したい人々に保全されながら、
今年も早春の花をいっぱい、咲かせておりました。
稲荷の花々はしあわせもの。
それを見に来た参拝者に、それを保全する全員に、
少しずつ、稲荷のご利益を分け与えます。
稲荷の花々はしあわせもの。
「そこ」に在ることを願われて、「そこ」で増えることを望まれて、大事に大事にされています。
「同じ花が、実はこの近くの自然公園にもある」
今回の物語の進行役の1人、花咲く雪国から上京してきた藤森が、小さな黄色の花をつけたランの仲間、キンランのまわりの草を整理してやりながら、
「全部事務的に、刈り取られてしまうんだ。
花の知識を持たない公園の管理者によって」
ため息ひとつして、言いました。
「公園に咲いている絶滅危惧種を、行政が認識しておらず、他の雑草と一緒に草刈り機で。
……多くの都道府県で、よくあることらしい」
キンランとは、小ちゃい特徴的な黄色い花をポツポツ咲かせる絶滅危惧Ⅱ類。今もどこかで数を減らしている、保全されるべき花なのです。
「コピーできないんですか?」
私の世界の技術なら、簡単そうに見えるけど。
そう付け足すのが今回の、物語の進行役のもう1人。ビジネスネームを「アテビ」といいます。
アテビはココではないどこか、別の世界から来た異世界人。「世界多様性機構」なる組織の職員。
低コストの高タイパ、ただ1輪の絶滅フラワーを、たちまち100本増やすなど、朝飯前なのです。
「こいつは、ここから動けない」
藤森、小さく首を振りました。
「特定の木の根っこから栄養を、ごはんを貰っている。それを知らずに鉢植えなんかに入れると、キンランはごはんが貰えないから、死んでしまう」
絶対、ぜっッたい、自分からは働かないんだ。
藤森は言って、微笑しました。
「この花も、私の世界の技術じゃ増やせないんだ」
異世界人にして、異世界の職場で働くアテビ。
深くふかく頷いて、さらり、メモに記します。
東京より文明の進んだ世界を故郷とするアテビは、
最初、東京の問題なんて全部ぜんぶ、異世界の技術で簡単に一瞬で解決可能だと思っておったのです。
実は過去作3月10日投稿分で、アテビ、東京の花を数輪「異世界の技術」で枯らしてしまいまして。
前科持ちなのです。
今回も、危なく花を枯らすところだったのです。
「この花も、私の世界の技術じゃ、枯れちゃう」
「いや。どうだろう」
「『どうだろう』、というと?」
「ある人から情報を貰った。あなたが勤めている組織には、たくさんの異世界の技術や道具がたくさん存在していて、私達の技術の先を行っていると」
「そうですね。 そうだと思います」
「アテビさん。あなたの組織のチカラを使えば、
もしかしたら、この地球全部とは言わずとも、東京の貴重な花を少しずつでも増やせるかもしれない」
あなたの職場に、連れていってほしい。
日本の花を愛する藤森、アテビに頭を下げます。
どうぞ、ぜひ私達を知ってください。
異世界から来たアテビ、藤森に頭を下げ返します。
アテビと藤森が一緒になって、稲荷神社から出ていって、これにて物語の新しい花が、さっそく開花。
ここから先どういう結末になるかはお題次第。
ところでその頃、藤森の高葉井、もとい後輩の高葉井が、アテビの敵対組織に勤めている「推し」と、
とうとう、ようやく、エンカウントしまして……?
「カーナビはWi-Fi繋ぐの面倒で、全然新しい地図に更新してねぇから、それはネタにできるわな」
意外と「新しい◯◯」、「◯◯の地図」みたいなお題が来ていなかったらしい。
某所在住物書きは過去のお題を確認しながら、その意外性に、ふーん、鼻を鳴らした。
新しい地図、新しい勢力図、新しい配管図。
書こうと思えば新しい人間関係の再構築も、書けるかもしれない、かもしれない。
「新しい防災マップ?」
そういえば朝、千葉県東方沖震源で地震があった。
防災マップをチラリ、見ても良いかもしれない。
――――――
前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某不思議な稲荷神社には、
人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く住んでおりまして。
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
稲荷のご利益ゆたかなお餅を作って売って、人間の世界を勉強しておったのです。
前回投稿分では、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織にお餅を巡回販売。
法務部で七色に光り輝く宇宙的なたこ焼きを盗み食いした結果、七色に光り輝くゲーミング子狐が堂々爆誕してどうしましょ、というおはなしでした。
はてさて、今回はどうなることやら。
――前回投稿分から、少し時が進みます。
「ここだ」
子狐がお餅の巡回販売に来た管理局に、なにやらタブレットを持って、こそこそ、こそり。
「気をつけろ。勘付かれるな」
不法侵入する敵対組織が、数人おりました。
「管理局に収容された難民の開放ミッションだ。
定刻になった。これより潜入を開始する」
敵対組織は、「世界多様性機構」といいました。
機構は管理局をバチクソに敵視しておりまして、
というのも管理局、滅んだ世界から脱出して生き延びてきた難民を、皆みんな、難民シェルターに押し込んでしまっておるのです。
どれだけシェルターが広かろうと、シェルターに花や水や娯楽施設や、なんなら三食昼寝とおやつとお酒と、無料のレジャーまで揃っていようと、
閉じた世界で与えられるものなど、いつわりの平和であり、いつわりの幸福なのです!
機構は彼等を、開かれた、自由な、まだ生きている世界へ開放してやるために、
管理局に、潜入したのです。
「ここを右に曲がるぞ」
機構の工作員が持ってきたタブレットは最新型。
難民たちが閉じ込められている難民シェルターに続くルートを示した、新しい地図が入っています。
「慌てるな。周囲に気を配れ」
暗いくらい、管理局員の警備の穴を突くルートは、
静かで少しの小さな声でも、壁が拾って反響させるくらいの無人ルート。人間は誰もいません。
ところで、
「何か音がする」
その、人間が誰も居ないハズのルートで、
ドゥンドゥンドゥン、ドゥンドゥンドゥン。
カッコつけた車から漏れてきそうな重低音が、
遠くから七色の光を放ちながら、近づいてきます。
そうです。前回投稿分のゲーミング子狐です。
「おじちゃん!ホントに、ほんとに、何かみつけたら、たこ焼きのおかわり、くれる?」
ドゥンドゥンドゥン、ドゥンドゥンドゥン。
前回投稿分で爆誕した、七色に光り輝くゲーミング子狐が、誰かと通信で会話しながら、
ふわふわふわ、ふよふよふよ。
高さのZ軸がバグったように浮きながら、犬かきならぬ狐かきでもって、進んできます。
『ちょっと失礼ね!アタシのこと「おじちゃん」なんて。アタシはいわゆる「オネェ」よ!』
通信相手はどうやら、子狐に宇宙の七色たこ焼きを食われてゲーミング子狐を爆誕させてしまった、法務部のオネェな宇宙タコ。
『いいこと、見つけるだけで良いんだからね。
見つけたらすぐ逃げる。噛みつくんじゃないわよ』
どうやら機構の人間が入り込んだことは勘付かれていたらしく、子狐を調査に向かわせた様子。
『撤収』
指文字でもって機構のリーダー、作戦中止を告げます。だってバレて捕まっちゃ困ります。
『ミッション失敗。プランC。総員、透明化装備を起動しつつ、回収ポイントAへ移動せよ』
「おじちゃん!おじちゃん!人間みつけた!」
新しい地図が入ったタブレットをしまって、機構の工作員は散り散りに、脱出ポイントへ逃げ出しますが、どうやら狐の鼻は誤魔化せない様子。
「キツネ、わるいやつ、やっつける!」
ドゥンドゥンドゥンドゥン!
ゲーミング子狐、工作員ひとりの右腕めがけて、
がぶーっ!ぶんぶんぶん!
七色の500ルーメンと狐の野生を開放し、噛みついて、振り回します!
「チッ、こいつ、」
この狐畜生め!噛みつかれた工作員が子狐を、機構の技術で作られた強いつよい銃で撃ち殺そうと、
「え?」
カチリ!子狐に狙いを定めた、その時です!
なんということでしょう。子狐から七色の光が消え去って、かわりに噛みつかれた方の工作員が、
ドゥンドゥンドゥン!ドゥンドゥンドゥン!
七色の光と重低音をまとい、ゲーミング工作員になってしまったのです!
「ウソだろぉ!?」
その後の物語の詳細は、いちいち書きません。
子狐は逃げたし、工作員はドゥンドゥンだし、
ゲーミング工作員さんは捕まって尋問です。
新しい地図は管理局に没収されたとさ。