「『Where?』の『どこ?』の他にも、言葉を付け足せば『ずんどこ?』とか、『ねどこ?』とか、まぁまぁ、色々書けそうではある」
寝床、川床、土鼓(どこ)、大所(おおどこ)。
マクドナルド湖という湖もあるらしい。某所在住物書きはさっそく「ケンタッキー湖」で検索して、実在したので、今度は「バーモント湖」を試した。
カツサンドだのポテトだのが食いたくなる湖である。ところでバーモントなる地名はどこ?
「ぬか床も書けるじゃん」
100均でぬか床を見つけて、「ぬかどこ??」と驚いたのは最近の思い出。
「あとはそろそろアレか、稲や農作物の苗床?」
今年こそは米の価格が下がってほしいものである。
――――――
前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某アパートの一室の、部屋の主を藤森といいまして、
防音防振完備の静かな室内で、1人と1匹、数枚の書類をじっくり読んでおりました。
なお「1匹」は近所の稲荷神社在住の子狐。
「おいしい。おいしい。おかわり」
藤森の部屋のロックも気にせず入ってきて、
藤森から貰ったリンゴをカシュカシュしゃきしゃき幸福な音を出しながら食いまくって、
芯も種もポンポンおなかに収容したら、日本語でもって次のリンゴをリクエスト。
生物学ガン無視ですね。 そういうおはなしです。
完全に非科学的ですね。 そういうおはなしです。
細かいことは気にしない、気にしない。
「『世界多様性機構』か」
藤森が見ている書類には、「ここ」ではないどこかの世界の、非現実的で不思議な組織の情報が、
丁寧に、詳しく、記載されていました。
日本語によるネット検索では、「世界規模生物多様性情報機構」なる別の組織が出てくるばかり。
ごくわずかに得られた「世界多様性機構」そのものの情報としてはたったひとつ。 すなわち、
『昔そんなカンジの名前のソシャゲがリリース間近まで来たけど、いつの間にか潰されてたよね。
アレを出そうとしてたのって、どこ?』
「……信じがたい」
かさ、カサリ。 藤森は何度も読み返した情報を、
もう一度、更にもう一度流し見て、
長く小さなため息を、静かな室内に溶かしました。
この書類をくれたのは、条志と名乗ったお隣さん。
そのお隣さんが言うには、
藤森が過去作3月8日頃投稿分に会った女性はここの所属で、「こっち」の世界の出身ではなく、
世界多様性機構は「この世界」に、
他の「既に滅んだ世界」から生き延びた難民を、こっそり密航させているのだそうです。
可能でしょうか。 条志は「そうだ」といいます。
事実でしょうか。 条志は「信じろ」といいます。
「信じがたいが、私に嘘を言うメリットは?」
条志が藤森に、こんな非現実的な「嘘」を、丁寧かつ詳しく吹き込むメリットは、どこ?
藤森は完全に、真実所在不明な迷路の深みにハマってしまっておったのでした。
ところでおはなしの雰囲気は突然変わりますが
さっきから遠くでガサガサごそごそ
子狐が藤森の朝食の選択肢にしているグラノーラの袋をキツネパンチしていますが
子狐はいったい全体何をどうしたのでしょう??
「ネズミ、ねずみ! ねずみがいる!」
藤森がグラノーラの袋に近づきますと、コンコン子狐、遊びたい気持ちを爆発させて言いました。
「キツネ、うそつかない!キツネ見た!
袋のなかに、ネズミがいる!」
シャッ!シャシャッ!
子狐は袋をロックオンしたまま、反復横跳び。
「ネズミ??」
いやいや、まさか?このアパートにネズミ?
藤森が半信半疑でグラノーラの袋を開けますと、
「……カナリア?」
そこには、前々回投稿分あたりで藤森が出会った、
日本語を話しカナリアと名乗ったハムスターが、
「や、やぁ。コンニチハ」
頬をグラノーラの袋の中の、カボチャの種とココナッツチップとアーモンドで膨らませて、
気絶一歩手前、子狐の度重なるキツネパンチによって、ぷるぷる震えておりました。
ところで袋の中に大量にブチまけられている何かの花粉は、いったいどこから??
「カナリアさん、あの、何のイタズラだ?」
「違う、違うよ、僕はそういうハムスターなんだ」
「花粉を人間の食べ物にブチまける?」
「違うよ!僕は危険を感じると、防衛本能として花粉を周囲にバラまいちゃうんだ!
ところで藤森、子狐が僕のこと、すごくその、あの、要するに、たすけて」
「ハムスターが花粉……??」
ねぇ!藤森!たすけて!助けてってば!
まてっ!ネズミ、まて!あそべ!
ハムスター特有の速さで室内を逃げ回るカナリアと、カナリアを追っかけ室内を駆け回る子狐。
カナリアが子狐に追いつかれてキツネパンチをお見舞いされるごとに、ユリの香りやリンゴの香り、色々な花粉がパッと咲きます。
藤森はただただ呆然と、立ち尽くして、開いた口が塞がらなくて、ひとまず花粉をどうにかしようと掃除用具入れに向かったとさ。
「去年3月のお題に『大好きな君に』があった」
当時は「大好きな佐藤君」だの「大好きな大君」だの、色々考えて結局シンプルイズベストで書いた。
某所在住物書きは過去投稿分を確認して、今回の「大好き」をどうするか熟考した。
言葉を足せば「大好き『じゃない』」が書ける。
あるいは「大好き『にさせる』」も行けるだろう。
ところで「大好(おおよし)」なる名字もあるらしい。ならば「おおよし きよみ」のような名前ネタも書こうと思えば、まぁまぁ。
「名字か……」
大好 きよみ、大好 きら、大好 ききょう。「大好き」で作れそうな名前を列挙する物書きである。
次にこのお題が来たらネタにできるかもしれない。
――――――
前々回投稿分から続くおはなしも、そろそろ区切りをつけたいところですが、はてさて次回配信のお題がどうなることやら。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某アパートの一室の、部屋の主を藤森といいまして、風吹き花咲き誇る雪国の田舎出身。
近所の不思議な不思議な稲荷神社で、希少な絶滅危惧種の花を愛でたり、花のためにゴミ拾いをしたりしておったところ、
一昨年から、不思議な子狐が藤森の部屋に、餅売りに来たり、遊びに来たり、するようになりました。
この子狐がドチャクソに非科学的な子狐でして。
「おいしい。おいしい」
今日もコンコン子狐が、藤森の部屋に餅を売りに、
アパートのセキュリティーもロックもどこ吹く風、コンコンこやこや、やってきました。
「おとくいさんのリンゴ、おいしい」
子狐はお供え物とお賽銭と、それから稲荷寿司をはじめとした、美味しい食べ物が大好き。
その日はお得意様の藤森に、稲荷神社のご利益ゆたかなお餅を1個200円で売って、
藤森の実家から雪国の美味・雪中リンゴが段ボールの冷蔵便で届いておったので、
しゃくしゃくしゃく、しゃりしゃりしゃり!
藤森におねだりして、5個ほど貰って、尻尾をぶんぶん振り倒しながらそれらを堪能しておりました。
で、肝心の藤森は何をしておるかというと。
部屋に招いたお客様と一緒に、シェアディナーとして、柚子胡椒香る白ネギと鶏手羽元の塩出汁そうめんを楽しんでおりました。
お客様は名前を、条志と名乗りました。
このお客様もバチクソに非現実的なお客様でして。
「俺も、先日お前が会った『アテビ』と名乗る女も、『こっち』出身ではない」
藤森から「聞きたいことがある」と言われた条志。
アレと、コレと、ソレを聞かれるんだろうなと覚悟して藤森の部屋に行きますと、
やはり想像通りのことを聞かれました。
というのも条志、なんと異世界から仕事で「こっち」の世界に来ている民でして。
「お前が信じようと信じまいと、
事実として、アテビが所属している組織はこの世界に、別の世界からの難民を密航させている。
俺はやつらの密航を摘発して、支援拠点を潰すために、アテビとは違う組織から来た。
アテビが俺を怖がったのは、それが理由だろう」
「他の世界から、東京に?どうやって?」
「『こっち』でまだ開発されていない技術だ」
「あなたとアテビさんが、その、『異世界』出身の人だという証拠は?」
「まだ見せられない。俺の職場では、現地住民に対して、むやみやたらに他の世界の技術を見せたり使ったりすることは禁止されている」
「どうして」
「この世界が『この世界』で在り続けられるように。独自性と独立性を保全するためだ」
「アテビさんは違うのか。アテビさんは、積極的に『自分が居た世界では』と、」
「肉が美味い。ラー油取ってくれないか藤森」
「ハナシをそらさないでくれ条志さん」
話せない、見せられない。
聞きたい情報の核心をなかなか教えてくれない条志に、藤森はちょっと不信感。
しゃくしゃくしゃく、室内には大好きなリンゴを胃袋に次々収容していく子狐の、軽快な音だけが幸福に、明るく、響いています。
「……この子狐も?」
「いや。そいつは正真正銘『この世界』の狐だ。お前が思うよりこの世界は、まだ神秘と魔法と術が生き残っている。こいつはその証明だ」
カサ、かさり。
藤森に不信感を持たれ始めている条志ですが、
美味いディナーのお礼とばかりに、数枚の文書をテーブルに出して、藤森の方に押しました。
「すまんがまだ、『まだ』、俺から『俺達』について話せることは少ない」
藤森がそれを見てみると、「世界多様性機構」なる、聞いたこともない組織の情報の模様。
「だがお前自身の自衛のためにも、『俺達じゃない方』の情報は、知っておくべきだろう」
パラパラ、ぱらぱら。文書をめくってみればそこには、滅んだ世界からの難民がどうとか、「こっち」の世界に密航させて違法に住まわせているとか。
「それがアテビの組織。『機構』だ」
食事代としてヒラリ、柴さんを1枚置いていく条志が、最後の最後に言いました。
「覚えておけ。やつらは故意にせよ不本意にせよ、
滅んだ世界からの密航と定住支援と、それから途上世界に対する先進世界の技術供与で、結果的にやつら自身の大好きな世界を、100は壊した」
条志が渡した文書の上には、その文書の責任の所在として、「ルリビタキ」と書かれていました。
「3月10日のお題が『願いが1つ叶うならば』だったから、『当時書いたネタが叶わぬ夢と消えました』ってハナシに持ってけば、まぁまぁ」
花粉症消滅、花粉鎮静、宝くじ当選、アレコレ。
「夢」より「欲望」が相応しいものならいくらでも思いつく某所在住物書きである。
「あるいは『叶わぬ夢に近づいた』とか、『叶わぬ夢と諦めるのは早い』とかにすれば、ハッピーエンドも書ける……のか?」
スギ花粉症に至っては、現在、無花粉の杉が存在しており、苗木を育てている段階だとか。
関係者におかれては、ぜひ、全花粉症持ちの希望として頑張ってほしい。
――――――
前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某不思議な不思議な稲荷神社で、藤森という雪国出身者が不思議なハムスターとエンカウントしまして、
そのハムスターは、なんと言葉を話すのでした。
「カナリア」と名乗ったそのハムは、藤森とおなじく花が大好きな様子。
1人と1匹はたちまち意気投合しまして、
藤森はカナリアを、自分の自宅アパートに招待して、一緒におやつなど、食うことにしたのでした。
「んんん、これはッ、なかなか美味」
コリコリコリ、かりかりかり!
とっとこカナリア、藤森から出されたカボチャの種やクルミ、それから乾燥したココナッツチップスなんかを、幸福そうに食っては、ほっぺに詰めます。
「ああ、ここに、僕の仲間も呼べたらなぁ。
でも、仲間は僕よりすごく危険だから、『こっち』の世界ではそんなことは、叶わぬ夢だもんな」
コリコリコリ、かりかりかり!
なにやら物騒なことが聞こえた気がします。
とっとこカナリアはそんな物騒を、完全に独り言のように何でもない様子で、
藤森が出してくれたナッツをほっぺに詰めます。
「ところで藤森、さん?」
「なんだ」
「コレ、どこのナッツ?セレクトショップとか?」
「私が食ってるグラノーラの中身だ」
「ぐらのーら」
「最近は、ココナッツチップだのカボチャの種だの、そういうのも入っているやつが。
普通にドラッグストアで買える、600g入り800円とか、500g入り500円とかのタイプだ」
「ナッツの海で泳げる」
「ナッツよりオーツ麦とか、コーンフレークとかの量が多いぞ?それに種類によってはチョコが」
「大丈夫僕気にしてない」
もっもっ、きゅっきゅっ。
よほどカボチャの種を気に入ったのか、とっとこカナリア、種を1個2個と口の中に押し込みます。
「あの、そんなに気に入ったなら、わざわざ頬袋に貯めなくてもカボチャの種くらい、」
カボチャの種くらい、土産で少し用意しようか。
藤森が提案しようとした、そのときです。
「あ!そうだそうだ」
どうやってほっぺたパンパンの状態でしゃべっているのか分かりませんが、
とっとこカナリア、藤森の方を見て言いました。
「藤森さん、きみ、『機構』のひとに会ったね」
「きこう、」
「あの『アテビ』って女のひとさ。
せっかくだから、種のお礼に、情報をひとつ。
信じるか信じないかは任せるけど、彼女は『こっちの世界』とは別の世界から来た異世界人なんだ」
「はぁ。そうか」
「……全然驚かないね。異世界だよ。『ここではないどこか』の世界だよ。もうちょっと、こう、」
「言葉を話すハムスターにそれを言われてもだな」
「あっ。 うん」
そうだよね。
そもそも目の前に、「僕」がこうして居るものね。
そりゃあ、まぁ、「こっちの世界」の常識感覚も麻痺しちゃうよね。うん。
もっもっ、きゅっきゅっ。
とっとこカナリアは妙に納得して、ハナシのネタがスベったように照れて、うつむいて、
機械的に全部のカボチャの種を、ほっぺに詰め込んでしまいました。
(カナリアは、条志さんの仲間?)
藤森が「言葉を話すハムスター」にも、「異世界」にも驚かなかったのには、理由がありました。
藤森の部屋のお隣さんです。
条志と名乗ったそのひとは、カナリアが言ったそのまんまのようなハナシを、
警告として、藤森に話しておったのでした。
アテビが所属している「機構」なる組織は、「この世界」を、発展途上の難民シェルターか何かと勘違いしている連中だと。
「カナリア、」
詳細は過去作3月8日〜10日のあたり参照ですが、スワイプが面倒なので、気にしない。
「『条志』という人間を、知らないか」
ダメもと。ものは試し。
藤森は自分の直感を、カボチャの種でほっぺをパンパンにしたカナリアに、聞きました。
「じょーし?」
種を詰め込み過ぎたらしいカナリアは、ハッと正気に戻って頬袋を整理しようとしますが、
「じょーし、上司、条志。 ああ!知ってるよ」
右の頬袋をいじると左の頬袋が妙なことになって、
左の頬袋を整理すると右の頬袋の数が増えます。
「正直者だから、あいつ自身に、」
あいつ自身に聞けば、話せる範囲まで話すと思う。
そう言いたいとっとこカナリアは、ほっぺをポンポン、ぷにぷに、ぽすぽす。
叩いて押さえて、押してを繰り返し、最終的に、
「ねぇ、ふじもり、ごめん、てつだって」
詰め込みすぎたカボチャの種について、藤森にエマージェンシーコールしたとさ。
「キンモクセイに北限が存在して、それが秋田と岩手のあたりだから、ガチの北日本とそれ以南では、9月10月の『街の花の香り』が違う。
っていうのは、ネットで知ったわ」
耐寒性が無いらしいから、秋田・岩手以南でも、標高高い場所とかでは見かけなかったりするんかな。
某所在住物書きは「花の香り」の小ネタを探して、ネットを検索したり、本棚を見たり。
誤食で事故が多いスイセンやイヌサフランは、ニラや行者にんにくの香りがしないという。
「山菜採りは花の香りとともに、ってか?」
あるいはそもそも自己判断せず、信頼できるスーパー等々で購入するのが賢明であろう。
――――――
前回投稿分からの続き物。
都内某所、不思議な不思議な某稲荷神社の敷地内。
藤森という雪国出身者がポツンとひとり、
「ここ」ではない別の世界から来たような女性を、指定された時刻に指定された花畑で、
静かに、丁度良い倒木に座り、待っておりました。
藤森の待ち人は、名前を「アテビ」と言いました。
アテビは不思議な不思議な道具を持っており、
その道具は、あらゆる花の成長を、良いように、急速に、進めることができるものでした。
なんだか非科学的ですね。
大丈夫。そういうおはなしなのです。
「……来ない」
さて。 アテビと待ち合わせていた藤森、時計を確認して、ため息を小さく吐きました。
東京はじめ、日本の貴重な花が、人間のアレやらコレやらのせいで消えていくのが寂しい藤森に、
アテビは明るい声で言いました。
アテビが勤めている職場には、絶滅危惧種な花を保護するアイテムも、絶滅した花を増やす技術も、
どちらも、あるらしいのでした。
で、そのアテビの「職場」とやらに、これから連れてってもらう約束であったのですが、
待てど暮らせど、肝心のアテビがここに来ない。
理由はだいたい、想像が付きました。
藤森から遠く離れた場所に隠れて藤森を見守っている、「藤森の自室のお隣さん」、条志です。
アテビは条志が怖くてこわくて、彼が藤森の近くに居ると、姿を現さないのです。
「アテビさん……」
理由と詳細は、過去作3月8日投稿分参照ですが、
ただただスワイプが面倒なので、気にしない。
ちらり。 神社の深めの森に潜んで、遠くからこちらを見守る条志に、藤森は視線を向けます。
目が合っても条志は無反応。
藤森に何も言わず、藤森に何も示しません。
ただこちらを見て、たまに神社の入口を見て、また藤森の方を見るばかり。
だけど藤森はなんとなく、条志が自分とアテビが接触するのを、あまり好ましく思っていないように、
本当に、なんとなくですが、見えたのでした。
アテビは悪い人間なのでしょうか?
(まさか。そうは見えない)
では、条志の方が悪い人間なのでしょうか?
(それも、考えづらい)
と、そろそろお題回収。
「ん?」
ガサガサ、ごそごそ。 神社の美しい花畑の中で、小さな動物が、キバナノアマナを揺らしています。
「リスかな」
情報不足なものを、どれだけ悩んで考えたって、答えはいつまでも、出てきません。
藤森がアテビと条志の両端から離れて、花揺れるあたりに、静かに近づいてみると……??
「わッ!見つかった!!」
なんということでしょう。
キバナノアマナを揺らしておったのは、
アマナの成長を邪魔する雑草をムシャムシャ食べる、言葉を話すハムスターだったのです!
完全に非生物学的ですね。
大丈夫。そういうおはなしなのです。
「えーと、僕、怪しいハムスターじゃないよ!
普通のハムスターだよ!チューチュー!」
「普通のハムスターは喋らないと思う」
「あっ。 うん」
自分を見ても不思議がらない藤森を見て、不思議なハムスターはすっかり安心して、
むしゃむしゃ、ムシャムシャ。アマナの発芽を邪魔する雑草の処理に戻りました。
「僕はカナリア」
不思議な不思議なハムスターが言いました。
「この神社の花が気に入ったから、君たちの世界の技術の範囲で、花畑の手入れを手伝ってるんだ」
『君たちの世界の技術』。藤森はカナリアの言葉に、ハッとなりました。カナリアも、アテビ同様、不思議なチカラを持っているようでした。
「別の世界の技術なんか、アテにしちゃダメだよ」
むしゃむしゃ、ムシャムシャ。花の香りと共にカナリア、藤森を諭すように言いました。
「先進国に作ってもらった最新鋭の道路より、
自分たちのチカラ、現地の材料だけで整備した道路の方が、ずっと続くし、メンテナンスもできる。
それと一緒さ。まず、君たちが頑張らなきゃ」
気候変動の影響で、絶滅危惧種の花を保護保全するのに、なりふり構っていられない時期に来ている。
藤森は理解しているつもりです。
しかし、カナリアが言うとおり、「自分たちのチカラで整備した道路の方がずっと続く」。
藤森はそのハナシの元ネタもよく知っています。
「自分たちのチカラで」。
藤森の葛藤を見抜くカナリアの言葉に、藤森の心は酷く、ひどく揺れました。
「ひとまず、」
物語のシメにカナリア、提案しました。
「一緒にこの花畑のゴミ拾いでもしないかい?」
「そうだな」
藤森は深くうなずきました。
「そうしよう」
それは確実に、藤森が自分のチカラでできる、いちばん善良で、いちばん近道なことでした。
「ざわめきじゃねぇけど、『ココロオドル』ってお題なら、たしか去年書いたわな」
やべーやべー。余裕こき過ぎた。
某所在住物書きは心をザワザワさせながら、しかしタイムリミットには間に合いそうなので、
ぴりぴり、焦りで舌から血流が引いていくのを知覚しながら、それでも最後の作業として、誤字チェックを始めた。 先日酷いヘマをしたのだ。
「ざわめき。……ざわめきねぇ」
どことなくざわざわすること、騒がしく聞こえること、またはその声や音。「ざわめき」を検索すると、だいたいこのような意味らしい。
物書きは回想する。最近心がザワついたことなど、あっただろうか。
――――――
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。都内某所の某稲荷神社は、深めの森の中にあり、
いつか昔の東京を、静かにとどめています。
今はフクジュソウも時期を終えてきて、もっぱらスミレやキバナノアマナ、それからヒロハノアマナなんかが、陽光おちる庭をキレイに飾っています。
白に黄色、青紫。今年の稲荷神社も春いっぱい。
あと数日も待てば、カタクリやヒナギクなんかも、徐々に顔を出すことでしょう。
昨今の東京の春は、すぐに暑い夏と交代します。
よく「雪国の春は短い」といいますが、
東京の春もまた、短くなってきておりました。
で、その短い春に咲く花に、心のざわめき……というか、少し焦りを感じておる若者が、今回のお題の回収役。名前を藤森といいました。
「今年も、本当によく増えた」
稲荷神社の花を、スマホでパシャリ。雪国出身の藤森が、寂しそうな顔して呟きます。
花が大好きな藤森は、この神社の花畑が、いかに奇跡的で希少なものか、よく知っておるのです。
「キバナもヒロハも、絶滅危惧種だ。都内でこれだけ見事な花畑が見られるのは、本当に珍しい」
それは、小ちゃな小ちゃな星の形をした花でした。
それは、人間が土地開発だの乱獲だの、あらゆる方法で花を荒らして、数を減らした花でした。
絶滅危惧種だったり、既に他県で絶滅してたり。
そんな奇跡が、いつか消えるかもしれない景色が、
この神社では今もたしかに、息づいておりました。
「そうだ。いつか、消えるかもしれない」
パシャリ、ぱしゃり。
春の花を慈しむように、人間の開発行為を恨むように、藤森は神社の花を取り続けます。
「この神社の花畑も、いつまで見られるだろう」
希少な花を守るための方法が欲しい。
何でも良い、この十数年後に絶滅しているかもしれない種を、後世まで守る手段が欲しい。
「まぁ、そんなもの。どこを探しても」
どこを探しても、見つからないだろうさ。
諦めるようにため息を吐く藤森は、それでも自分にできることだけはしたくて、
敷地内のゴミを拾ったり、花やツボミの上に積もる枯れ葉を払ってやったり――
「あの、こ、こんにちは!」
なんやかんや、しておったところ、藤森にひとりの女性が、声をかけてきました。
「また会いましたね、あの、覚えてますか」
それは先週、具体的には過去作3月10日投稿分のあたりで藤森とバッタリ会った女性でした。
まるでどこか、別の世界の住人のように、妙で不思議な結晶を使って、キバナノアマナの花数本を、一気に種まで成長させてしまった女性でした。
詳しくは過去作3月10日参照です。
だけどスワイプが面倒なので、まぁまぁ、細かいことは気にしない、気にしない。
「アテビさん、でしょう」
『不思議な女性だ』。それが第一印象でした。
「覚えて……」
『覚えていますよ』。言おうとしたところで藤森、ふと、「心のざわめき」を感じました。
妙で不思議な結晶を使って、キバナノアマナの花数本を、一気に種まで成長させたアテビです。
もしかして彼女は、藤森が「そんなものは無い」と思っていた奇跡を――
つまり、絶滅危惧種の花々を、一気に増やす方法を、実は知っているのではないだろうか。
「アテビさん、」
ざわざわ、ザワザワ。心のざわめきそのままに、藤森はアテビにダメ元で、聞いてみました。
「変なことを聞きますが、もしかして、希少な花を増やす方法をご存知だったり、しませんか」
「えっ?ああ、」
アテビはまるで、簡単なことを聞かれたように、
ポケットをごそごそかき回しまして、
「知ってますよ!今は無いですけど」
そしてにっこり、笑いました。
「あの、私の職場に、来ませんか!どのお花を増やしたいとか、どのお花を保護したいとか」
色々、話しませんか。
アテビからの提案に、藤森は心のざわめきが、いっそう強くなってゆくのを感じました……