「去年3月のお題に『大好きな君に』があった」
当時は「大好きな佐藤君」だの「大好きな大君」だの、色々考えて結局シンプルイズベストで書いた。
某所在住物書きは過去投稿分を確認して、今回の「大好き」をどうするか熟考した。
言葉を足せば「大好き『じゃない』」が書ける。
あるいは「大好き『にさせる』」も行けるだろう。
ところで「大好(おおよし)」なる名字もあるらしい。ならば「おおよし きよみ」のような名前ネタも書こうと思えば、まぁまぁ。
「名字か……」
大好 きよみ、大好 きら、大好 ききょう。「大好き」で作れそうな名前を列挙する物書きである。
次にこのお題が来たらネタにできるかもしれない。
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前々回投稿分から続くおはなしも、そろそろ区切りをつけたいところですが、はてさて次回配信のお題がどうなることやら。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某アパートの一室の、部屋の主を藤森といいまして、風吹き花咲き誇る雪国の田舎出身。
近所の不思議な不思議な稲荷神社で、希少な絶滅危惧種の花を愛でたり、花のためにゴミ拾いをしたりしておったところ、
一昨年から、不思議な子狐が藤森の部屋に、餅売りに来たり、遊びに来たり、するようになりました。
この子狐がドチャクソに非科学的な子狐でして。
「おいしい。おいしい」
今日もコンコン子狐が、藤森の部屋に餅を売りに、
アパートのセキュリティーもロックもどこ吹く風、コンコンこやこや、やってきました。
「おとくいさんのリンゴ、おいしい」
子狐はお供え物とお賽銭と、それから稲荷寿司をはじめとした、美味しい食べ物が大好き。
その日はお得意様の藤森に、稲荷神社のご利益ゆたかなお餅を1個200円で売って、
藤森の実家から雪国の美味・雪中リンゴが段ボールの冷蔵便で届いておったので、
しゃくしゃくしゃく、しゃりしゃりしゃり!
藤森におねだりして、5個ほど貰って、尻尾をぶんぶん振り倒しながらそれらを堪能しておりました。
で、肝心の藤森は何をしておるかというと。
部屋に招いたお客様と一緒に、シェアディナーとして、柚子胡椒香る白ネギと鶏手羽元の塩出汁そうめんを楽しんでおりました。
お客様は名前を、条志と名乗りました。
このお客様もバチクソに非現実的なお客様でして。
「俺も、先日お前が会った『アテビ』と名乗る女も、『こっち』出身ではない」
藤森から「聞きたいことがある」と言われた条志。
アレと、コレと、ソレを聞かれるんだろうなと覚悟して藤森の部屋に行きますと、
やはり想像通りのことを聞かれました。
というのも条志、なんと異世界から仕事で「こっち」の世界に来ている民でして。
「お前が信じようと信じまいと、
事実として、アテビが所属している組織はこの世界に、別の世界からの難民を密航させている。
俺はやつらの密航を摘発して、支援拠点を潰すために、アテビとは違う組織から来た。
アテビが俺を怖がったのは、それが理由だろう」
「他の世界から、東京に?どうやって?」
「『こっち』でまだ開発されていない技術だ」
「あなたとアテビさんが、その、『異世界』出身の人だという証拠は?」
「まだ見せられない。俺の職場では、現地住民に対して、むやみやたらに他の世界の技術を見せたり使ったりすることは禁止されている」
「どうして」
「この世界が『この世界』で在り続けられるように。独自性と独立性を保全するためだ」
「アテビさんは違うのか。アテビさんは、積極的に『自分が居た世界では』と、」
「肉が美味い。ラー油取ってくれないか藤森」
「ハナシをそらさないでくれ条志さん」
話せない、見せられない。
聞きたい情報の核心をなかなか教えてくれない条志に、藤森はちょっと不信感。
しゃくしゃくしゃく、室内には大好きなリンゴを胃袋に次々収容していく子狐の、軽快な音だけが幸福に、明るく、響いています。
「……この子狐も?」
「いや。そいつは正真正銘『この世界』の狐だ。お前が思うよりこの世界は、まだ神秘と魔法と術が生き残っている。こいつはその証明だ」
カサ、かさり。
藤森に不信感を持たれ始めている条志ですが、
美味いディナーのお礼とばかりに、数枚の文書をテーブルに出して、藤森の方に押しました。
「すまんがまだ、『まだ』、俺から『俺達』について話せることは少ない」
藤森がそれを見てみると、「世界多様性機構」なる、聞いたこともない組織の情報の模様。
「だがお前自身の自衛のためにも、『俺達じゃない方』の情報は、知っておくべきだろう」
パラパラ、ぱらぱら。文書をめくってみればそこには、滅んだ世界からの難民がどうとか、「こっち」の世界に密航させて違法に住まわせているとか。
「それがアテビの組織。『機構』だ」
食事代としてヒラリ、柴さんを1枚置いていく条志が、最後の最後に言いました。
「覚えておけ。やつらは故意にせよ不本意にせよ、
滅んだ世界からの密航と定住支援と、それから途上世界に対する先進世界の技術供与で、結果的にやつら自身の大好きな世界を、100は壊した」
条志が渡した文書の上には、その文書の責任の所在として、「ルリビタキ」と書かれていました。
3/19/2025, 3:38:34 AM