「キンモクセイに北限が存在して、それが秋田と岩手のあたりだから、ガチの北日本とそれ以南では、9月10月の『街の花の香り』が違う。
っていうのは、ネットで知ったわ」
耐寒性が無いらしいから、秋田・岩手以南でも、標高高い場所とかでは見かけなかったりするんかな。
某所在住物書きは「花の香り」の小ネタを探して、ネットを検索したり、本棚を見たり。
誤食で事故が多いスイセンやイヌサフランは、ニラや行者にんにくの香りがしないという。
「山菜採りは花の香りとともに、ってか?」
あるいはそもそも自己判断せず、信頼できるスーパー等々で購入するのが賢明であろう。
――――――
前回投稿分からの続き物。
都内某所、不思議な不思議な某稲荷神社の敷地内。
藤森という雪国出身者がポツンとひとり、
「ここ」ではない別の世界から来たような女性を、指定された時刻に指定された花畑で、
静かに、丁度良い倒木に座り、待っておりました。
藤森の待ち人は、名前を「アテビ」と言いました。
アテビは不思議な不思議な道具を持っており、
その道具は、あらゆる花の成長を、良いように、急速に、進めることができるものでした。
なんだか非科学的ですね。
大丈夫。そういうおはなしなのです。
「……来ない」
さて。 アテビと待ち合わせていた藤森、時計を確認して、ため息を小さく吐きました。
東京はじめ、日本の貴重な花が、人間のアレやらコレやらのせいで消えていくのが寂しい藤森に、
アテビは明るい声で言いました。
アテビが勤めている職場には、絶滅危惧種な花を保護するアイテムも、絶滅した花を増やす技術も、
どちらも、あるらしいのでした。
で、そのアテビの「職場」とやらに、これから連れてってもらう約束であったのですが、
待てど暮らせど、肝心のアテビがここに来ない。
理由はだいたい、想像が付きました。
藤森から遠く離れた場所に隠れて藤森を見守っている、「藤森の自室のお隣さん」、条志です。
アテビは条志が怖くてこわくて、彼が藤森の近くに居ると、姿を現さないのです。
「アテビさん……」
理由と詳細は、過去作3月8日投稿分参照ですが、
ただただスワイプが面倒なので、気にしない。
ちらり。 神社の深めの森に潜んで、遠くからこちらを見守る条志に、藤森は視線を向けます。
目が合っても条志は無反応。
藤森に何も言わず、藤森に何も示しません。
ただこちらを見て、たまに神社の入口を見て、また藤森の方を見るばかり。
だけど藤森はなんとなく、条志が自分とアテビが接触するのを、あまり好ましく思っていないように、
本当に、なんとなくですが、見えたのでした。
アテビは悪い人間なのでしょうか?
(まさか。そうは見えない)
では、条志の方が悪い人間なのでしょうか?
(それも、考えづらい)
と、そろそろお題回収。
「ん?」
ガサガサ、ごそごそ。 神社の美しい花畑の中で、小さな動物が、キバナノアマナを揺らしています。
「リスかな」
情報不足なものを、どれだけ悩んで考えたって、答えはいつまでも、出てきません。
藤森がアテビと条志の両端から離れて、花揺れるあたりに、静かに近づいてみると……??
「わッ!見つかった!!」
なんということでしょう。
キバナノアマナを揺らしておったのは、
アマナの成長を邪魔する雑草をムシャムシャ食べる、言葉を話すハムスターだったのです!
完全に非生物学的ですね。
大丈夫。そういうおはなしなのです。
「えーと、僕、怪しいハムスターじゃないよ!
普通のハムスターだよ!チューチュー!」
「普通のハムスターは喋らないと思う」
「あっ。 うん」
自分を見ても不思議がらない藤森を見て、不思議なハムスターはすっかり安心して、
むしゃむしゃ、ムシャムシャ。アマナの発芽を邪魔する雑草の処理に戻りました。
「僕はカナリア」
不思議な不思議なハムスターが言いました。
「この神社の花が気に入ったから、君たちの世界の技術の範囲で、花畑の手入れを手伝ってるんだ」
『君たちの世界の技術』。藤森はカナリアの言葉に、ハッとなりました。カナリアも、アテビ同様、不思議なチカラを持っているようでした。
「別の世界の技術なんか、アテにしちゃダメだよ」
むしゃむしゃ、ムシャムシャ。花の香りと共にカナリア、藤森を諭すように言いました。
「先進国に作ってもらった最新鋭の道路より、
自分たちのチカラ、現地の材料だけで整備した道路の方が、ずっと続くし、メンテナンスもできる。
それと一緒さ。まず、君たちが頑張らなきゃ」
気候変動の影響で、絶滅危惧種の花を保護保全するのに、なりふり構っていられない時期に来ている。
藤森は理解しているつもりです。
しかし、カナリアが言うとおり、「自分たちのチカラで整備した道路の方がずっと続く」。
藤森はそのハナシの元ネタもよく知っています。
「自分たちのチカラで」。
藤森の葛藤を見抜くカナリアの言葉に、藤森の心は酷く、ひどく揺れました。
「ひとまず、」
物語のシメにカナリア、提案しました。
「一緒にこの花畑のゴミ拾いでもしないかい?」
「そうだな」
藤森は深くうなずきました。
「そうしよう」
それは確実に、藤森が自分のチカラでできる、いちばん善良で、いちばん近道なことでした。
3/17/2025, 3:00:14 AM