「ざわめきじゃねぇけど、『ココロオドル』ってお題なら、たしか去年書いたわな」
やべーやべー。余裕こき過ぎた。
某所在住物書きは心をザワザワさせながら、しかしタイムリミットには間に合いそうなので、
ぴりぴり、焦りで舌から血流が引いていくのを知覚しながら、それでも最後の作業として、誤字チェックを始めた。 先日酷いヘマをしたのだ。
「ざわめき。……ざわめきねぇ」
どことなくざわざわすること、騒がしく聞こえること、またはその声や音。「ざわめき」を検索すると、だいたいこのような意味らしい。
物書きは回想する。最近心がザワついたことなど、あっただろうか。
――――――
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。都内某所の某稲荷神社は、深めの森の中にあり、
いつか昔の東京を、静かにとどめています。
今はフクジュソウも時期を終えてきて、もっぱらスミレやキバナノアマナ、それからヒロハノアマナなんかが、陽光おちる庭をキレイに飾っています。
白に黄色、青紫。今年の稲荷神社も春いっぱい。
あと数日も待てば、カタクリやヒナギクなんかも、徐々に顔を出すことでしょう。
昨今の東京の春は、すぐに暑い夏と交代します。
よく「雪国の春は短い」といいますが、
東京の春もまた、短くなってきておりました。
で、その短い春に咲く花に、心のざわめき……というか、少し焦りを感じておる若者が、今回のお題の回収役。名前を藤森といいました。
「今年も、本当によく増えた」
稲荷神社の花を、スマホでパシャリ。雪国出身の藤森が、寂しそうな顔して呟きます。
花が大好きな藤森は、この神社の花畑が、いかに奇跡的で希少なものか、よく知っておるのです。
「キバナもヒロハも、絶滅危惧種だ。都内でこれだけ見事な花畑が見られるのは、本当に珍しい」
それは、小ちゃな小ちゃな星の形をした花でした。
それは、人間が土地開発だの乱獲だの、あらゆる方法で花を荒らして、数を減らした花でした。
絶滅危惧種だったり、既に他県で絶滅してたり。
そんな奇跡が、いつか消えるかもしれない景色が、
この神社では今もたしかに、息づいておりました。
「そうだ。いつか、消えるかもしれない」
パシャリ、ぱしゃり。
春の花を慈しむように、人間の開発行為を恨むように、藤森は神社の花を取り続けます。
「この神社の花畑も、いつまで見られるだろう」
希少な花を守るための方法が欲しい。
何でも良い、この十数年後に絶滅しているかもしれない種を、後世まで守る手段が欲しい。
「まぁ、そんなもの。どこを探しても」
どこを探しても、見つからないだろうさ。
諦めるようにため息を吐く藤森は、それでも自分にできることだけはしたくて、
敷地内のゴミを拾ったり、花やツボミの上に積もる枯れ葉を払ってやったり――
「あの、こ、こんにちは!」
なんやかんや、しておったところ、藤森にひとりの女性が、声をかけてきました。
「また会いましたね、あの、覚えてますか」
それは先週、具体的には過去作3月10日投稿分のあたりで藤森とバッタリ会った女性でした。
まるでどこか、別の世界の住人のように、妙で不思議な結晶を使って、キバナノアマナの花数本を、一気に種まで成長させてしまった女性でした。
詳しくは過去作3月10日参照です。
だけどスワイプが面倒なので、まぁまぁ、細かいことは気にしない、気にしない。
「アテビさん、でしょう」
『不思議な女性だ』。それが第一印象でした。
「覚えて……」
『覚えていますよ』。言おうとしたところで藤森、ふと、「心のざわめき」を感じました。
妙で不思議な結晶を使って、キバナノアマナの花数本を、一気に種まで成長させたアテビです。
もしかして彼女は、藤森が「そんなものは無い」と思っていた奇跡を――
つまり、絶滅危惧種の花々を、一気に増やす方法を、実は知っているのではないだろうか。
「アテビさん、」
ざわざわ、ザワザワ。心のざわめきそのままに、藤森はアテビにダメ元で、聞いてみました。
「変なことを聞きますが、もしかして、希少な花を増やす方法をご存知だったり、しませんか」
「えっ?ああ、」
アテビはまるで、簡単なことを聞かれたように、
ポケットをごそごそかき回しまして、
「知ってますよ!今は無いですけど」
そしてにっこり、笑いました。
「あの、私の職場に、来ませんか!どのお花を増やしたいとか、どのお花を保護したいとか」
色々、話しませんか。
アテビからの提案に、藤森は心のざわめきが、いっそう強くなってゆくのを感じました……
3/16/2025, 7:44:30 AM