かたいなか

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3/11/2025, 4:17:11 AM

「『流れ星に願いを』とかなら、去年書いたな」
願いが3個叶うランプ、願いの映像だけ見せるマッチ、それからあとは何だろう。
某所在住物書きは願いを1つ「叶えてくれる」方の媒体を探して、検索して、
結果、そっち方面で書くことを断念していた。
この2〜3年の間、どこかでそのネタを投稿したような気がしないでもないのだ。

「つっても、どうせ2〜3年だし、
コピペしてもバレないか……??」

物書きはふと考える。願いが1つ叶うなら、昔々の投稿をコピペしてズルして、執筆をサボって……
「サボって時間作っても、その時間で、やることが何も無いんだよな……」

――――――

願いが1つ叶うならば。
なかなか悩ましい仮定であり、同様に、そこそこ難しいお題な気がしないでもない物書きです。
「夏が涼しかった過去に戻りたい」と「5000兆円欲しい」の両端で迷い指をずっとしている物書きが、こんなおはなしをご用意しました。

「ここ」ではないどこかのおはなしです。
「世界線管理局」という、いわゆる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
世界から世界への渡航申請を受理したり、違法な密入出を取り締まったり、
あるいは、滅んだ世界からこぼれ落ちたチートアイテムが、他の世界に流れ着いて悪いことをする前に、回収して保管したり、活用したり。

要するに、その世界が「その世界」として、独自性を保ったまま他の世界と交流できるように、
色々多種多様、せっせこ頑張っておったのでした。

その世界線管理局の環境整備部、空間管理課に、
お題回収役の奥多摩出身者も勤務しておりまして。
まぁ仮に、奥多摩君と名付けておきましょう。

奥多摩くんは、過去投稿分3月3日のおはなしで、
環境整備部所有のチートアイテムが、「仕事に対してオーバースペック過ぎる」と突き止めまして。
一人で頑張って、適切なスペックにダウングレードする偉業を達成したのでした。

奥多摩くんの次の仕事は、ダウングレードしたアイテムの再総点検と、再評価。
管理局の財産にして、「滅んだ世界の遺言」とも「遺産」とも言えるチートアイテムが、
適切な場所、適切な仕事に使われているかを、
数年かけて点検して、それぞれ不具合が発生してないかどうか、評価する仕事を任されました。

『ひとりで良いので、一緒にチェックしてくれる熟練者さんを寄越してください』
奥多摩君にとっての「願いが1つ叶うならば」は、
一緒に環境整備部をまわってくれる先輩の存在。

奥多摩君に総点検を任せた上司さん、「ならば」とイチバンのベテランを用意しました。
「キリン」というビジネスネームで、環境整備部すべてのセキュリティーに責任を持ち、
なにより、確実に奥多摩君を、ありとあらゆるヒヤリハットな状況から守ってくれる局員だそうです。

『シェルターの山奥で毎朝滝行をしてい筈である』
キリンさんに挨拶したくて、どこに居るか訪ねた奥多摩君。 上司は「山奥に居る」と言いました。
『滝までの道は舗装され、手入れも為されているから、気軽に行ってくるが宜しいである』

今の時代に早朝から毎朝滝行???
奥多摩君は宇宙猫の表情。
それでもこれからの相棒ですので、翌日の早朝、
世界線管理局内に作られている「滅んだ世界の人々を収容するための超巨大難民シェルター」の中にある、山の中に入ってゆきまして、
チュンチュン、ちぃちぃ、ギャァン、ぽんぽこ!
いろんな鳴き声がする舗装済みの山道を、森林散歩同然に歩いてゆきました。 すると……、

「待ちかねたぞ、奥多摩君!」
なんということでしょう。大きな大きな滝の下で、
めっちゃ体格の良い細マッチョさんが、まぶしい純白に輝くふんどし一丁で、
本当に、滝行をしているではありませんか!!
「部長から話は聞いている。何も心配はいらない。
私が君を、点検中の危険から守ってしんぜよう!」
謎にイケボ、よく通る低音の声を張って、
ビジネスネーム「キリン」さん、言いました。

「ち、ちぇんじ、 チェンジ……」
イケボふんどしキリンさん。 パワーワードならぬパワー局員とエンカウントした奥多摩君です。
奥多摩君、さっきまでの「1つ願いが叶うならば」を取り消したくなってきましたが、
ここまで来たら、もう止まりません。

「さぁ、奥多摩君。きみも精神統一、心身鍛錬!
共に活力100倍、滝行をしようではないか!」
「俺、着替え持ってきてないので結構です!
失礼します!明日からよろしくお願いします!!」

「私のふんどしを貸してあげよう」
「結構ですぅぅぅぅぅぅ!!」

さぁさぁ、やぁやぁ、ぎゃーぎゃー。
難民シェルターの滝の下で、大きな大きな声が響いて、今回のおはなしはおしまい。
最終的に奥多摩君が、キリンさんと滝行したのかしてないのかは、今後のお題の配信次第……

3/10/2025, 3:57:56 AM

「昔はよく使ってたな。格好良いから」
懐かしいねぇ。何年前だろう。某所在住物書きは黒歴史となった二次創作を、久しぶりに読み返す。

嗚呼(ああ)、一寸(ちょっと)、巫山戯(ふざけ)た、五月蠅(うるさ)い、科白(せりふ)。
いわゆる「知らないと読めない」単語といえる。
あるいは「使うと格好良いが、読めない人は読めない」文字とも言える。当て字の類だ。

昔々の純文学、たとえば太宰治が筆を執っていた時代の物語にはよく使われていたかもしれないが(※個人の偏見です)、
いわゆる新聞記者必携、『記者ハンドブック 新聞用字用語集 第12版』においては、そのことごとくがひらがなに直すよう指示されている。
使いたいならば、ルビを振るのが親切であろう。

ところで「夜露死苦」は今も通用するのだろうか。

――――――

前回投稿分の翌日が舞台。
最近最近の都内某所、某稲荷神社のおはなしです。
不思議な不思議な稲荷神社は、少し深めの森の中。
いつか昔の自然を残して季節の花が咲き誇ります。

最近は絶滅危惧種、キバナノアマナという小さな花が、神社の庭を少しずつ、少しずつ、黄色く染めてゆきまして、稲荷の神様の御力を示します。
「今日はどれだけ増えたかな」
そのキバナノアマナを、毎日見に来て、写真に収めている者が在ります。
風吹き花咲き誇る、雪国の田舎出身者です。
田舎者は名前を、藤森といいました。

「ああ。嗚呼。 美しい」
藤森が稲荷神社に、まずお賽銭して、きちんとお参りして、参道をてくてく歩いていくと、
ぽっかり日だまりの落ちるあたりに、キバナノアマナの花畑が見えてきます。
「今年も、よく咲いてくれた」

東京では数を劇的に減らしつつあるこの黄色。
藤森の故郷では、そこそこ、よく見かけるのです。
よって藤森、この黄色を見るたび、
自然あふれる片田舎の早春を、思い出すのです。

ところで今日は、花畑に先客が居ますね??

「ああ、嗚呼、ダメ、だめ、」
昨日も花畑に来ていて、突然逃げ出してしまった、
たしか、「アテビ」と名乗った女性です。
「おねがい、枯れないで、嗚呼、あっ……」
キバナノアマナの花畑の、すみっこにしゃがみこんであわあわ、ふたふた。
とても、悲しそうにパニクっています。
どうしたのでしょう?

「アテビさん」
あんまりアテビが不憫なもので、藤森、誠実に、静かに声をかけてやりました。
「こんにちは。どうしたんですか」
アテビが見ているあたりのキバナノアマナは、小さな範囲で異常に、葉が色あせておりました。

「あっ、嗚呼、あの、わたしッ、違うんです」
あわあわ、ふたふた。酷く困った風のアテビです。
「この黄色い花、昨日、とっても貴重と聞いたから、私、お花を、大きく増やす結晶を持ってるから、
それで、それでっ、ああ、嗚呼……」
ただ、ただ、この貴重でキレイな花を、増やしてやりたかっただけなんです。
アテビはとうとう涙を流してしまいました。

あー、なるほど。分かった。
藤森、科学的な思考を停止しました。
このひとも、非科学的な魔法か何かを使うのだ。
この「不思議な稲荷神社」に住まう「不思議な子狐」と同じように、非科学的な術を行使するのだ。
藤森は物理法則的反論を、完全に、放棄しました。

「キバナノアマナの成長を、うながした?」
「はい。はいッ。よく育つように、願いを込めて」
「そうしたら、すぐに花が終わった?」
「そうなんです。すぐ、すぐ」

「それが『春の妖精』、キバナノアマナです。
あなたが何か間違えたのではない。彼女たちは、ほんの数日、1週間程度美しく咲いて、実を結んで、
すぐ、葉を枯らして土の中に戻るんです。
夏を迎える前に早々に寝床に戻り、次の春を待つ。
だから、『春の妖精』なんです」

「はるの、ようせい。 数日だけ……」

数日をどうぞ、楽しんで。愛でてやってください。
藤森はそう言い終えると、少し花畑を撮って、周囲のゴミ拾いをしてやって、
それで、アテビを置いて立ち去ろうとしました。
「あ、あッ!あの!!」
去っていく背中に、アテビが声を投げます。
「なまえ、お名前!聞いてもいいですか!!」

「藤森です。今の時期は、ほぼ毎日来ます」
藤森は立ち止まって、少し振り返って、
軽く会釈して去ってゆきます。
「フジモリさん。ふじもりさん……」
アテビは自分に、黄色い花のことを教えてくれた藤森の名前を、よくよく、心に残しましたとさ。

3/9/2025, 3:18:19 AM

「秘密基地、穴場、地元民しか知らない系。
あとは、別の言い方としては『例の場所』?」
地元の絶景スポットとかは、それこそ悪質な方の観光客から守りたいから、秘密にはしておきたい。
某所在住物書きは桜のシーズンを想起した。
オーバーツーリズム問題が全国的に顕在化してきたこの頃である。秘匿は金にはならないが、その場所を保全保護する絶対条件だ。
「でも最終的にバレるんだろうなぁ……」

秘密。ひみつねぇ。
物書きはため息を吐き、天井を見る。
何億・何十億のスマホカメラがひしめく昨今、「秘密」にできている地域は残っているだろうか。

――――――

前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の花畑から、ひとりの女性が必死に逃げてきました。
女性は、ビジネスネームをアテビといいまして、
「ここ」ではないどこかに本拠地のある厨二ふぁんたじー組織、「世界多様性機構」の支援拠点、
通称、「領事館」の職員でした。

「はぁっ、はぁ、はぁ……!!」
領事館のアテビが必死で逃げておるのには、「機構」の職員ゆえの、理由がありました。
「はやく、にげなきゃ、逃げなきゃ!」
アテビは某稲荷神社敷地内の花畑で、
アテビの「機構」が敵視している組織、「世界線管理局」の局員と、出会ってしまったのでした。

機構は、あらゆる世界を平等に救うため、
滅んだ世界からこぼれ落ちた難民に、「他の世界」という避難場所を提供します。
それは「まだ滅んでいない世界」への密航という手段でもって、異世界渡航を管轄する管理局の目を盗んで、秘密裏に為されます。
管理局はこの仕事が、気に入らないのです。
滅んだ世界の全部を救って、全員を他の世界に避難させ続けていては、
いずれ、すべての世界が「滅んだはずの世界の難民」で、パンクしてしまう、というのです。

アテビを見つけた管理局員は、アテビを拘束して、きっと尋問することでしょう。
アテビが務める「領事館」の位置、そこに務める異世界人の数、東京に潜伏している滅亡世界の難民のリスト、それから、それから。
ありとあらゆることを、尋問するでしょう。

アテビは逃げて、逃げて、逃げ続けました。
そして、管理局に知られていない、アテビたち世界多様性機構の職員だけが知っている秘密の場所へ、
全力で、逃げ込んだのでした。

「はぁ、これでもう、大丈夫」
そこは、「この世界」がまだ到達できない、先進世界の技術で作られた、不思議で秘密の場所。
空間を捻じ曲げて作る、非科学の場所。
アテビがここに逃げ込めば、管理局員は原則として、絶対に、アテビを見つけられません。
「あれが、世界線管理局。なんておそろしい」

こわい、ああ、怖い。
アテビは秘密の場所で、ころんと倒れ込んで、
ぜぇぜぇ、はぁはぁ。乱れた息を整えながら、
「おそろしいけど、あのとき出会った現地住民さんの方は、優しそうだったなぁ……」
管理局員に見つかる前に、アテビが稲荷神社の花畑で出会った、「この世界」のネイティブさんを、
ポワポワ、ほわほわ、思い出しました。

「はるのようせい、キバナノアマナ」
この世界のネイティブさんの、名前をアテビ、聞き忘れてしまいました。
「とっても貴重で、珍しい花、」
名前を知らないネイティブさんは、アテビが見ていた花畑の花の、名前を教えてくれました。

『黄花の、甘菜。『春の妖精』のひとつです。
このあたりでは、とても貴重で珍しい花です』

『きっと、良いことがありますよ』

「明日もあのひと、来るかな」
管理局の局員は怖いものの、花の名前を教えてくれたネイティブさんの名前を、アテビは知りたくて知りたくてたまりません。
「花が、好きな人なのかな」
明日、また会えますように。
だけど、明日、見つかりませんように。
アテビは秘密の場所で息を整えながら、
またこの世界のネイティブさんと会えるように、そして今度は管理局の人間と会わないように、
ひっそり、誰かにお祈りしたのでした。

3/8/2025, 3:00:01 AM

「アラララ、オラララ、ららら。
ゲームキャラの鳴き声ネタとか、歌のタイトルとか、それから映画やアニメの名前にもあるわな」
個人的に第一印象は某モンスター、灰色の抜け殻さんだわな。某所在住物書きは昔を懐かしんだ。
なお、未プレイである。第4世代と、飛んで第6世代で、アラララ、物書きの時は止まっている。
今の図鑑は全何匹??

「ご当地キャラの名前にもなってんの?」
ららら、ラララ。「らららとは」の検索結果に出てきたのは、某氏のPRキャラクター。
ポケ◯ンもそれぞれ、ご当地キャラもそれぞれ。
双方、急激に個体数を増やしたのは、それこそ「あららら」の驚愕かもしれない。

――――――

前回投稿分から、続くかもしれないおはなし。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内には、かつて昔の東京に当たり前のように在った美しい花畑が残っており、今まさに春の花が咲き誇る頃。
雪国では冬終了を宣言し、ここ東京では春到来を告げる「スプリング・エフェメラル」が、
敷地に黄色と白と、少しの薄紫を散らしている。

フクジュソウは丁度、見頃のピークを過ぎ始めた。
今の主役はキバナノアマナ。
ユリ科の小さな黄色い星型。都内のレッドデータブックに掲載され、神奈川等では既に絶滅したとされている、春の妖精である。
「今年も、よく咲いたな」
そのキバナノアマナを、毎年見に来ては写真を撮って、愛でる者が在る。
「新芽もある。来年はもっと、花が増えそうだ」

名前を、藤森という。
風吹き渡り花咲き誇る、雪国の田舎の出身で、
東京で珍しいキバナノアマナは、藤森の故郷の春の日向で、その黄色を温かい陽光に向けていた。
キバナノアマナは望郷の花のひとつであった。

パシャパシャ、ぱしゃぱしゃ。
数を著しく減らしつつある黄色に、ひざまずき、スマホを離して近づけて、また離す。
寂しそうに笑うのは、その黄色が将来、東京からも姿を消す可能性があることを知っているから。
「綺麗な黄色だ」
その綺麗な黄色が、外来種の侵略や人間の心無い開発によって、いずれ姿を消すのだ。
キバナノアマナはAランクの絶滅危惧種であった。

「ん?」
と、しんみりムードのところで唐突にお題回収。
「うた?」
神社敷地内、キバナノアマナの花畑、
片隅で見慣れぬファッションの女性が小さな声でラララ、ららら。花に声を聞かせている。
「誰だろう」

ラララ、ららら。
小さい声に誘われ、藤森は花畑をフララ、ふらら。
歌っている女性は藤森に気づかない。
藤森の退廃的なそれとは反対に、幸福そうな笑顔でもって、ラララ、ららら。
彼女は藤森の知らない歌を、キバナノアマナに嬉々として、聞かせていた。

「わわ!ここ、こんにちわッ!!」
こんにちは。 歌、お上手ですね。
そんな藤森の声がけに、不思議な歌姫はコテン!
尻もちをつき、起き上がって、相当に慌てている。

「あ、あの、アテビといいます、『領事館』で、今年から、働いてますッ」
「アテビ」と名乗った女性は、藤森が聞いてもないことをアラララ、あららら。
「あのっ、私の故郷の世界、黄色は幸福の色で、
その年の春、外で見つけた黄色い花に歌を聞かせると、良いことがあるって言われてて」
それで、この、星みたいな黄色い花に、歌を。
アテビは握った右手を左手で隠し、すりすり。さすって照れ隠し。心細いのだ。

「私の故郷の『世界』」なる言葉は引っかかる。
日本にルーツを持つ人ではないのだろう。
藤森は想像し、誠実に言葉を渡した。

「キバナノアマナです」
「きばな?」
「黄花の、甘菜。『春の妖精』のひとつです。
このあたりでは、とても貴重で珍しい花です」
「はるの、ようせい」
「きっと、良いことがありますよ」

「あっ、あの!私の世界にも!」
私の世界にも、「春の黄色」って言葉が。
アテビの瞳が友好に輝き、藤森をまっすぐに、
「あ、 ア……!!」
見つめたと思うと、すぐ「藤森の背後」に視線が釘付けとなって、アラララ、あららら。

「どうした」
藤森の背後から、静かな男性の声がした。
「気にするな。おまえの世界に、なんだって」

藤森が振り返った先に居たのは、3月から藤森の部屋の隣に越してきた「条志」と名乗る男。
藤森が振り返っている間に、アテビは一目散。
走って遠くへ逃げてしまった。

「『機構』の人間だ」
藤森が尋ねる前に、条志が解説を始めた。
「きこう?」
「ここの人間ではない。『ここ』を、発展途上の難民シェルターか何かと勘違いしている連中だ」
「はぁ」

「何かあれば、すぐ俺に言え」
アテビを追うように、条志も藤森から離れていく。
「相談には乗る。俺に、隠し事をするなよ」
ひとり残された藤森は、何が何だか分からない。
ただキバナノアマナと一緒に、風に吹かれて、
小さく、首を傾けておったとさ。

3/7/2025, 4:09:06 AM

「『風に乗って』、『風に身をまかせ』、『追い風』に『風のいたずら』。これで何個目だろうな」
風のお題とはよく遭遇する気がする某所在住物書きである。今回は「風が運ぶもの」らしい。
花粉、火種、水しぶきを始めとした物理的なものの他にも、「風の噂」なんて言葉もある。

匂いも風が運ぶもののひとつ。
物書きの職場には、ドチャクソに美味そうな香りを風に乗せるのが上手な飯テロリストがいる。
オツボネである。
「……ちなみに今日は酢豚らしいぜ」

それこそ風が運んできた噂では、昔そのオツボネも、オツボネからしごかれていたらしい。
ミイラ取りがミイラであろう。

――――――

前々回投稿分からの続き物。
最近最近の都内には、「ここ」ではないどこかの世界に本拠地を持つ、厨二ふぁんたじーな組織がふたつ、こっそり暗躍しておりまして、
ひとつは、それぞれの世界が「独立したそれぞれの世界」であることを尊重し、独自性を保全したい「世界線管理局」、通称「管理局」と、
もうひとつは、それぞれの世界が「様々な世界と一緒に繁栄し続ける」ことを善良とする「世界多様性機構」、通称「機構」でありました。

機構は東京を含めたこの世界を、
他の既に滅亡してしまった世界からの難民の避難先にしたいと考えており、
そのためにも東京に住まう現地住民を、ひそかに機構側に引っ張り込もうとしておりました。

機構は東京を含めたこの世界に、
滅亡世界からの難民が過剰に流入してくることを、過去の経験から阻止したいと考えており、
機構が東京に住まう現地住民を「さらって行く」のを、検知しては引き止めて、都民が機構の手先になることを防いでおりました。

すべては、滅んだ世界からこぼれ落ちた難民が、次の故郷で永住するため。
すべては、この世界が「この世界」として、誰からも侵略されず「この世界」で在り続けるため。
機構と管理局はずっと、対立し続けておりました。

で、前々回と前回のおはなしの裏側で、
「機構」のスパイが都内某所のアパートの一室に、
盗聴器なり隠しカメラなりを設置しようと不思議なチカラで不法侵入しまして、
それを「管理局」の局員に見つかり、部屋主やその親友が気づく前にポイポイ片付けたワケです。

機構の連中はカメラで情報収集して、そこの部屋主の弱みや興味関心を把握して、
「これでどうですか」と機構サイドに、勧誘しようとしておったようですが、
ザンネン、今回も失敗したようです。

任務失敗の速報は、機構のスパイさんの不思議アイテム「魔法の手紙」によって、
風に運ばれて、機構が都内に建てた支援拠点、通称「領事館」に、たどり着くのです。
そうです。お題回収です。
このおはなしで、「風が運ぶもの」は、
すなわち「ゴメン失敗した」の6字をしたためた、魔法の手紙だったのです。

「だぁから、『失敗するから、そいつに手を出すのはやめとけ』って、俺は言ったのによ……」
領事館のトップ、通称「館長」さんが、
風に運ばれて手元に来た6字を見て、大きな大きなため息を吐きました。 そら見ろよ、と。

「仕方ありませんよ」
館長のサポート役のひとりが言いました。
「彼等、都の現地住民へのアプローチ実績に、ノルマがあるそうですよ。毎年何人勧誘、って」
その点私達領事館は、難民さんのケアと支援に集中していれば基本オッケーだから、天国ですよね。
サポート役さんもため息をひとつ吐くと、
館長さんのテーブルに、新しい大容量ティッシュ箱を設置しました。

……「ティッシュ箱」???

「その難民のケアと支援に、集中するためにも、上には至急この領事館に、業務用の高性能空気清浄機を入れてほしいて何度も何度も、何度も……!」
ぐしゅぐしゅ、ぐすっ、 チぃーン!!
館長さん、箱からティッシュを2〜3枚取り出すと、鼻をかんで、またかんで。
そうです。領事館の館長さん、この領事館に来てから、スギ花粉症を発症してしまったのです!

「くそっ。忌々しい。黄色の風の悪魔どもめ!!」
ぐしゅぐしゅ、ぐしゅぐしゅ。
今年もスギ花粉が風で運ばれてくる季節です。
「機構」の領事館の館長さんは、今年も管理局とスギ花粉とを、両方同時に、相手にすることになるのです。 しゃーない、しゃーない。

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