「『風に乗って』、『風に身をまかせ』、『追い風』に『風のいたずら』。これで何個目だろうな」
風のお題とはよく遭遇する気がする某所在住物書きである。今回は「風が運ぶもの」らしい。
花粉、火種、水しぶきを始めとした物理的なものの他にも、「風の噂」なんて言葉もある。
匂いも風が運ぶもののひとつ。
物書きの職場には、ドチャクソに美味そうな香りを風に乗せるのが上手な飯テロリストがいる。
オツボネである。
「……ちなみに今日は酢豚らしいぜ」
それこそ風が運んできた噂では、昔そのオツボネも、オツボネからしごかれていたらしい。
ミイラ取りがミイラであろう。
――――――
前々回投稿分からの続き物。
最近最近の都内には、「ここ」ではないどこかの世界に本拠地を持つ、厨二ふぁんたじーな組織がふたつ、こっそり暗躍しておりまして、
ひとつは、それぞれの世界が「独立したそれぞれの世界」であることを尊重し、独自性を保全したい「世界線管理局」、通称「管理局」と、
もうひとつは、それぞれの世界が「様々な世界と一緒に繁栄し続ける」ことを善良とする「世界多様性機構」、通称「機構」でありました。
機構は東京を含めたこの世界を、
他の既に滅亡してしまった世界からの難民の避難先にしたいと考えており、
そのためにも東京に住まう現地住民を、ひそかに機構側に引っ張り込もうとしておりました。
機構は東京を含めたこの世界に、
滅亡世界からの難民が過剰に流入してくることを、過去の経験から阻止したいと考えており、
機構が東京に住まう現地住民を「さらって行く」のを、検知しては引き止めて、都民が機構の手先になることを防いでおりました。
すべては、滅んだ世界からこぼれ落ちた難民が、次の故郷で永住するため。
すべては、この世界が「この世界」として、誰からも侵略されず「この世界」で在り続けるため。
機構と管理局はずっと、対立し続けておりました。
で、前々回と前回のおはなしの裏側で、
「機構」のスパイが都内某所のアパートの一室に、
盗聴器なり隠しカメラなりを設置しようと不思議なチカラで不法侵入しまして、
それを「管理局」の局員に見つかり、部屋主やその親友が気づく前にポイポイ片付けたワケです。
機構の連中はカメラで情報収集して、そこの部屋主の弱みや興味関心を把握して、
「これでどうですか」と機構サイドに、勧誘しようとしておったようですが、
ザンネン、今回も失敗したようです。
任務失敗の速報は、機構のスパイさんの不思議アイテム「魔法の手紙」によって、
風に運ばれて、機構が都内に建てた支援拠点、通称「領事館」に、たどり着くのです。
そうです。お題回収です。
このおはなしで、「風が運ぶもの」は、
すなわち「ゴメン失敗した」の6字をしたためた、魔法の手紙だったのです。
「だぁから、『失敗するから、そいつに手を出すのはやめとけ』って、俺は言ったのによ……」
領事館のトップ、通称「館長」さんが、
風に運ばれて手元に来た6字を見て、大きな大きなため息を吐きました。 そら見ろよ、と。
「仕方ありませんよ」
館長のサポート役のひとりが言いました。
「彼等、都の現地住民へのアプローチ実績に、ノルマがあるそうですよ。毎年何人勧誘、って」
その点私達領事館は、難民さんのケアと支援に集中していれば基本オッケーだから、天国ですよね。
サポート役さんもため息をひとつ吐くと、
館長さんのテーブルに、新しい大容量ティッシュ箱を設置しました。
……「ティッシュ箱」???
「その難民のケアと支援に、集中するためにも、上には至急この領事館に、業務用の高性能空気清浄機を入れてほしいて何度も何度も、何度も……!」
ぐしゅぐしゅ、ぐすっ、 チぃーン!!
館長さん、箱からティッシュを2〜3枚取り出すと、鼻をかんで、またかんで。
そうです。領事館の館長さん、この領事館に来てから、スギ花粉症を発症してしまったのです!
「くそっ。忌々しい。黄色の風の悪魔どもめ!!」
ぐしゅぐしゅ、ぐしゅぐしゅ。
今年もスギ花粉が風で運ばれてくる季節です。
「機構」の領事館の館長さんは、今年も管理局とスギ花粉とを、両方同時に、相手にすることになるのです。 しゃーない、しゃーない。
3/7/2025, 4:09:06 AM