「去年は『旅路の果て』みたいなお題だった」
今年は途中なのな。某所在住物書きは過去のお題を辿って、天井を見上げ、ため息を吐いた。
電車旅の途中下車、キャリアアップ旅の途中駅。
言葉を追加すれば「途中」も様々。
物書きにも思うところはあった。というのも、数年前、途中下車した旅があったのだ。
ひとはそれを糖質制限ダイエットといった。
「痩せるっちゃ、痩せるよ。……腎臓への負担が酷いから通風がだな……」
なお通風に関係する数値は、牛乳を飲むと云々――
――――――
ダイエット旅の途中下車と、ストレス解消一人旅の途中寄り道と、それから、人生の旅の途中とをそれぞれ経験中・経験済みの物書きです。
今回は「旅の途中」ということで、「未確認物体を特定する旅の途中」のおはなしをご用意です。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー団体がありまして、
異世界から異世界への渡航許可を受理したり、
滅んだ世界からこぼれ落ちたチートアイテムが他の世界に流れ着いて悪さをせぬよう回収したり、
要するに、世界の円滑な運行をサポートする仕事を、真面目にやっておったのでした。
今回のおはなしのお題回収役は、滅んだ世界からこぼれてきたチートアイテムを安全に、適切に収蔵しておくための部署、「収蔵部収蔵課」の局員で、
なんと、「こっち」の世界の奥多摩地方出身。
都内のブラック企業に比べれば、福利厚生も給料も、やりがいも格別に高待遇だったので、
東京に帰らず、管理局員用の寮で、有意義に厨二局員ライフを謳歌しておりました。
だって3食おやつ付きなのです。
多彩なアクティビティーも完備なのです。
時折敵対組織が悪さをしに来ることを除けば、管理局は理想の職場なのです。
で、奥多摩出身の局員さん、
過去作1月20日投稿分で登場した滅亡世界のチートアイテムの、
すなわち「最初はどこかの宇宙を映していた筈の水晶玉」の性質を知る旅の途中でして。
「ひとまず、水晶玉にアンテナ刺すと、アンテナが作られた世界の映像が映ることは分かった」
奥多摩さん、水晶玉に刺さったレトロなゲーム機の映像端子を、スコスコ抜きながら言いました。
「で、水晶玉にファミキューブの端子刺すと、フツーにファミキューブでケービーのスカイライドが遊べるのも分かった」
本来は自分が生まれた故郷の宇宙を、あっちこっち映していた水晶玉。
故郷が滅んだ今となっては、アンテナを刺せばアンテナの故郷の映像を映し、
レトロなゲーム機の映像端子を刺せばゲーム画面をそこそこの画質で映します。
本当に、この水晶玉は「今」、「何」を映しているのだろう。
奥多摩さん、昼休憩ゆえに中断していた途中の旅を、再開することにしました。
まず奥多摩さん、同じ収蔵部収蔵課の、同僚のところへ行きました。
「故郷の世界が滅んじゃってからぁ、ピタッ、って活動停止しちゃったり、性質が変わっちゃったりするアイテム、意外に少なくないよぉ〜」
同僚が水晶玉に喫茶店の領収書を当てると、
水晶玉はザザザッ、サラサラ。少しの砂嵐だか磁気嵐だかと一緒に、
同僚が昨日食べたチョコスイーツを映しました。
「これも、そのうちのひとつじゃなぁい?」
次に奥多摩さん、収蔵課の同僚の友人が住む、経理部のコタツへ行きました。
「俺様の見解としては、バグかエラーかな」
友人さんが水晶玉にミカンの皮を差し込むと、
水晶玉はザザザッ、サラサラ。相変わらず砂嵐だか磁気嵐だかと一緒に、
ミカンが昨日まで居た「職場」を映しました。
「表計算の関数で、参照してたセルが消えると、エラー吐くだろう。
そんなカンジで、映してた世界が消えちまったから、手当たり次第あちこち映してんじゃね?」
最後に奥多摩さん、法務部おかかえの特殊部門、特殊情報部門に行きました。
「僕の故郷の世界にも、似た玉があったよ」
喋るハムスターが水晶玉の上に乗っかると、
水晶玉はザザザッ、サラサラ。今度はくっきり鮮明な画質と明るさでもって、
ハムスターの故郷にある世界、そこの広大な花畑を映し出しました。
「1万個くらい作られて、そのうち100個が不良品。その不良品は手当たり次第、自分に触れてる誰かの何かを、映していたよ」
「手当たり次第、何か、ねぇ」
奥多摩さんの、水晶玉の性質特定作業は、まだまだ、旅の途中の模様。
「その何かって、何だろうな?」
奥多摩さんが水晶玉を照明にかざすと、
水晶玉はザザザッ、サラサラ。砂嵐だか磁気嵐だかを映して、それから、だんまりだったとさ。
「『まだ知らない』のが、自分なのか、相手なのかで、変わってくるわな」
今日は随分長い文章になっちまった。某所在住物書きは今回投稿分の字数を確認して、ぽつり。
アプリをインストールして投稿を始めた当初は、800字もあれば多い方であった。
それが投稿を重ねるごとに、1000字突破が普通となり、1500字を超えるようになり、
今では、400字詰原稿用紙が4枚必要な状況。
2025年の終わりは何文字の投稿をするのか。
「知らねぇよな。知らねぇな……」
それこそ、「まだ知らない」。
――――――
前回投稿分からの続き物。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界多様性機構」なる厨二ふぁんたじーな団体組織があり、
ここの特殊潜入課、通称「特潜課」には「ミカン休暇」なる隠語が存在している。
その「ミカン休暇」とは、何ぞや。
妙な謎を残して終わったのが前回投稿分であり、
今回投稿分がまさしく解答編。
ミカン休暇の何たるかを「まだ知らない新人君」のおはなしである。
多様性機構には「世界線管理局」なる敵対組織が存在しており、
ミカン休暇は、特潜課をはじめとした機構側の職員が、スパイなり工作員なりとして管理局に潜り込んだ結果として発生する休暇のこと。
要するに何がどうしてどのようにミカンなのか、
詳細をまだ知らない新人君は、その日が初めての管理局潜入任務であった。
「おまえの仕事は、収蔵庫の撮影だ」
ミカン休暇をまだ知らない新人君の、最初の仕事は敵対組織の内情記録である。
世界線管理局は、滅んだ世界から漂着したチートアイテムを、回収して、収蔵している。
それらが他の世界に流れ着いて、悪さをしないようにするためだ。
収蔵品の中には光を金に変える貯金箱だの、
生い茂る雑草を水晶に書き換える万年筆だの、
どこかの漫画かカートゥーンで見たようなご馳走をたわわに実らせるヤシの木だの、
多様性機構の組織運営に非常に役立ちそうなアイテムが多種多様、大量大漁。
多様性機構には、資金が無い!
よって、管理局の収蔵品を、拝借できるものなら片っ端から拝借して、それで機構の運営資金節約の足しにしようと、
日々、虎視眈々、狙っているのである。
新人君はその収蔵庫のひとつの撮影を任された。
「いいか。絶対に、ゼッッタイに、『ミカン』の前で怪しい行動をするな」
新人君の教育係が言った。
「収蔵庫に居るミカンは、『管理局の悪魔』の監視カメラであり、警備員だ。収蔵部の制服を着ていても、妙な真似をすればすぐバレる。
いいな。ミカン休暇を取りたくなければ、『ミカン』の前で、怪しい行動をするなよ」
はい、はい。フラグである。
管理局の悪魔をまだ知らない新人君はお約束どおり、収蔵庫でコロコロ自発的に転がる「しらぬいタイプのミカン」を見つけると、
「なんだ。本当に、ただのミカンじゃないか」
コロコロミカンの行く手をさえぎり、ぽぉん、軽く蹴飛ばしていじめてみせた。
「何故先輩は、こんなものを怖がっているんだ」
その「軽くいじめた」のがよくなかった。
ビーッ、ビーッ、ビーッ!
怒ったらしい「いじめられたミカン」が、ポンポンジャンプして警告音を鳴らすと、
ころころころ、ゴロゴロゴロ!
あっちから、そっちから、上から横から、24個のしらぬいタイプミカンが一気に集まってきて、
たちまち、新人君を縛り上げ、ベルトコンベアで運ばれる梱包物よろしく輸送を開始したのだ。
「わっ!なんだ!やめろ!降ろせ!」
何も知らない新人君は、ミカンのコロコロローラーにのせられて、廊下をわたり角を曲がる。
その間に遭遇した管理局員は、
また敵さん、ウチにスパイをよこしたの?
だの、
どうせ不知火さんとポンデコさんに見つかっちゃうんだから、諦めれば良いのに
だの、
言いたい放題、珍しがりもしない。
スパイの摘発と運送は日常茶飯事なのだ。
ころころころ、ゴロゴロゴロ。
自分の結末をまだ知らない新人君が、連れてこられたのは管理局の、経理部のコタツの前。
「おまえか!俺様の大事な大事な、不知火たちをいじめた悪いスパイは」
水晶の透明度と輝きを放つ文旦を、ふきふき、フキフキ。コタツの主の女性が言った。
「いつもなら、お前から情報を抜けるだけ抜いて、それから最後にこのコタツ、Ko-Ta2でスポンしてやるところだが、
今の俺様は機嫌が悪い。お前を携帯型Ko-Ta2の試作機、Ko-Ta4の実験台にしてくれる!」
うぃんうぃん、ウィンウィン、ピピピッ
意味不明を言い続けるコタツの主は、なにやら小さなコタツを組み立ててボタンを押した。
コタツなのに妙なモーター音と電子音がひとしきり鳴り続けて、ピタリ。
「よし。スイッチ、オン!」
コタツの主が再度ボタンを押した。
うぃんうぃん、ウィンウィン。
コタツの中に、新人君の足がのまれていく。
うぃんうぃん、ウィンウィン。
コタツの中に、新人君の体がのまれていく。
ピピピッ、ピーピー、うぃぃーん!
新人君のすべてを飲み込んだ携帯型コタツは、コタツらしからぬ音を鳴らし続けて、
スポン。 コタツの上に設置されたカゴに、1個のミカンを生成した。
「あるぇ?ミカンっつーか、レモンじゃん。
アレだ日向夏とレモンの交配種だ。
……まだ調整が完璧じゃねぇのかな???」
これが、「ミカン休暇」の真相であった。
これこそが、前回投稿分で濁したミカン休暇の過程と結果であった。
その後新人君がどうなったか、救出されたのかカゴの上に取り残されたままなのかは、
新人君の仲間のみ知るところである。
「最初に思いついたのは、食い物の『保存方法:直射日光を避けて保存してください』だわ」
直射日光を避けるっつーことは、日陰だもんな。
某所在住物書きは、昨日投稿分の「イタズラクッキー」の元ネタを見ながら呟いた。
「直射日光、高温多湿を避けて保存してください」とのことである。要は日陰であろう。
食い物ネタが書ける。食い物ネタは、この物書きの十八番である。
何故食い物は食い物でも、「ミカン休暇」なんて不思議ワードの話が完成したのか。
「要は去年の12月1日投稿分なんだわ……」
さて、次回のお題、何になるかな。
物書きは謎ワードの解説を、過去作12月か、あるいは次回配信分のお題に、丸投げすることとした。
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陽光当たらぬ日陰の職業と聞いて、真っ先にスパイや諜報員を思い浮かべる物書きです。
今回は厨二ふぁんたじーな組織の諜報・工作部門のおはなしをご用意しました。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界多様性機構」という、厨二全開な団体がありまして、
滅んだ世界の難民を別世界に密航させてあげたり、発展途上の世界に先進世界の技術を導入して一気に文化レベルを上げてやったり、
共助共栄、困っている世界を見捨てないことを団体理念として、日々カッツカツの資金を、やりくりしておったのでした。
多様性機構にはお金がない!!
すべては敵対組織、世界の独自性と独立性を重んじる「世界線管理局」のせいなのです。
今回のおはなしのお題回収役は、世界線管理局に忍び込んで情報収集や妨害工作なんかをする、
まさしく「日陰」の部門、世界多様性機構の特殊潜入課、略して「特潜課」のおはなし。
「日陰」のお題のわりに、
明るい日向のような名前の隠語というか、
都市伝説みたいなワードが、存在するようで。
すなわち、「ミカン休暇」というそうです。
「最近、特潜課からの人員補充と給料アップの要請が多過ぎる!どうなってるんですか」
組織の日陰で活躍する部署、特潜課の偉い人に、金融課と人事課の偉い人が言いました。
「難民支援にも、支援のための『領事館』にも、閉鎖世界へ難民救助のために出動する部隊のためにも、膨大な資金と人員が必要です。
なのに特潜課は、人員を入れればすぐどこかに消えるし、成果もあまり上がってきていないし」
「ウチには『ミカン休暇』が多くてですね」
怒りカンカンな日向の部署、金融課と人事課に、
日陰の部署、特潜課の偉い人、言いました。
「管理局の連中に見つかった部隊は根こそぎ、管理局の悪魔にミカンにされて、強制的に『ミカン休暇』をとらされてしまうのです。
ミカン休暇に入れば、九割九分、帰ってこない」
だから、特潜課は万年人員不足なのです。
真面目な顔して、特潜課の偉い人、言いました。
ミカン休暇とは、何でしょう?
金融課も人事課も、ジョークか何かと思って、ちっとも本気にしません。
「本当ですよ」
それでも日陰の特潜課、言うのです。
「嘘じゃない。管理局に捕まった機構の人間は、半数が、ミカン休暇となるのです」
特潜課の他の職員も、
うんうん、そうそう、それよそれよ。
深く頷いて、ひそひそ、話をしています。
ミカン休暇は、広く特潜課に信じられているようですが、人事課も金融課も「それ」が「何」なのか、サッパリ、わからないのです。
「気になるなら、実際に行ってみればよろしい」
日陰の特潜課の偉い人が、ニヤリ、日陰らしい影をさした笑顔で金融課と人事課を誘います。
「明日か明後日にでも、どうですか?
管理局へのエスコートなら、引き受けますよ」
金融課と人事課の偉い人、双方が双方と顔を見合わせて、難しそうな顔をして、
「……そう、ですね」
渋々、しぶしぶ、特潜課のブースから離れます。
「部署に持ち帰って、検討します」
ともかく!
特潜課の方でも節約につとめてくださいね!
負け惜しみのように声を張って、金融課と人事課の偉い人は、帰ってゆきました。
「なんですか、『ミカン休暇』って」
金融課と人事課が帰った後、特潜課の新人さんが先輩職員に聞きました。
「ん?おまえ、知らないのか」
日陰の先輩、新人に怖い笑顔で答えます。
先輩職員が言うことには、
「俺達の潜入先、世界線管理局には、『管理局の悪魔』が居るんだ。
管理局の悪魔は、経理部のコタツに住んでいて、24個と1個の使い魔でもって、俺達のようなスパイを探している。
見つかったら、最後。 その悪魔に俺達は、情報を抜かれて、文字通り、ミカンにされるんだ」
「ぇえ……??」
特潜課の新人さん、金融課や人事課の偉い人と同じように、信じていない様子。
彼が「ミカン休暇」の真実を、
次回投稿分のおはなしで理解するか、
そのまま「ミカン休暇」の真相が過去投稿分12月1日投稿分に丸投げになるかは、
1月31日に配信されるお題次第……
おしまい、おしまい?
「8月12日に、季節ネタとして『麦わら帽子』なら書いたけど、季節関係なしの帽子は初だな」
そもそも衣服系のネタ自体、珍しい気がする。
某所在住物書きは過去投稿分のお題を確認しながら、数度、小さくうなずいた。
8月に「麦わら帽子」、11月に「セーター」を書いた他に、衣服のお題を書いた記憶が無い。
「『烏』の字をくっつけたら、『烏帽子かぶって』で、昔々のおとぎ話とかも書けるわな」
まぁ、思いつかないから普通に「帽子」で行くけど。物書きは天井を見上げて、ネタを考える。
帽子である。 猫耳帽子もある。
さすがに今の時期に麦わらは難しいだろう。
――――――
私、後輩こと高葉井には、学生時代から追っかけてる推しゲーがある。
「世界線管理局」っていう架空の団体組織が、
いろんな世界の独自性を保つべく敵と戦ったり、
滅んだ世界から流れ着いたチートアイテムが他の世界で悪さをしないように収容したりする、
いわゆる、「組織もの」のゲームだ。
私の推しカプは通称「ツル」って言われてる。
「ツバメ」ってひとと、「ルリビタキ」ってひとだから、頭の文字をとって「ツル」。
ツバメが部下でルリビタキが部長、上司。
つまり、主従カプだ。
で、このたび、
ツルカプの「とあるエピソード」をすごくイメージしやすい、完全完璧概念スイーツが、都内の某アンティーク風カフェで発見されまして。
すなわち、「帽子かぶってる雪だるまの入浴風プチタルト」と、「石炭のイタズラクッキー」だ。
このプチタルトとクッキーに酷似したものが、
実は私の推しゲーの、すごく平和な日常回のエピソードに、ガッツリ登場しておりまして。
SNSにスイーツ発見報告が上がるや否や、カフェの場所と営業時間を知ってるツル信奉ガチ勢さんは、さっそく自作ぬいだの自作アクスタだのを持って参拝に云々、巡礼にかんぬん。
私も1日で2個のスイーツをコンプリートすべく、長いこと一緒に仕事してる私の先輩(なお比較的少食)を連れ出して、カフェに向かった。
「雪だるまのプチタルトと、石炭のクッキー?」
また随分と、妙なものを見つけてきたな。
私が注文した2種類のスイーツを、双方見比べて、先輩が言った。
カフェにはそこそこ多くの「同志」が、既に同じものを頼んで相席なんかもしてるようで、
みんな、マナーよく、静かに喜びと尊みを共有してるようだった。
「入浴タルトは、雪と氷の世界の温泉回で、ルー部長がツー様へのお土産に買ってったの。
で、石炭クッキーは、世界間航行の幽霊列車回で、ツー様がルー部長と一緒に食べたの」
先輩に自作ぬいを支えてもらいつつ、スマホで写真を撮って、双方のスイーツの説明をした。
「入浴タルト、実はロシアンルーレットになってて、ハズレの2個はタルトの底に唐辛子ホイップが仕込まれてるの」
カフェで提供されてる「コレ」は、唐辛子ホイップ、どうだろうね。
私はまず、入浴タルトから食べることにした。
ホイップクリームとプラスアルファで満たされた小さなタルトカップに、白玉で作られた雪だるまが浸かってて、
その白玉雪だるまは、ピンクや黄色、黄緑や水色、かわいいアイシングな帽子をかぶってる。
雪だるまが雪のお風呂に入ってるみたいだから、「入浴プチタルト」って名前だ。
「ホイップの下にカスタードが仕込まれてる」
「私のはチョコホイップだったよ」
推しゲーでは、ベージュの帽子かぶってる子と白い帽子かぶってる子が「ハズレ」だった。
今回、その2個は居ないらしい。
追加オプションか何かかな(ロシアンの期待)
石炭クッキーの方は、推しゲーの方と違って、白いホイップが一緒に付いてきてた。
「ココアクッキーに、一味の粒が入ってるのか」
ふーん。なるほどね。
いびつな小さい石ころの形の黒を手に取った先輩は、炭モチーフのクッキーに思い出がある様子。
「私の故郷で似たものを見た」
先輩は雪国の出身だ。
石炭ストーブとか、薪ストーブとかの関係で、似たクッキーがお土産に並んでるんだろう。
しらんけど。
「故郷のより、からい」
カリリ。ひとくち「石炭」を食べた先輩は、一味の粒が丁度舌に当たったみたい。
甘さを求めて、でも一度噛んだものだからホイップに今更ディップするわけにもいかなくて、
薄紅色の帽子かぶってる雪だるまのプチタルトを緊急投入して、
「あっ、……ア!………が!」
なんか、悶絶して、口を押さえて、
私が私のホットココアを差し出したら、すごく感謝しつつそれを飲み干しちゃった。
「『入ってた』?」
口をあけて舌を冷やしてる先輩に聞くと、
先輩は苦しそうに、小さく、数度頷いた。
「たぶん、はばねろか、そういう、なにか、ふつうのとうがらしとちがう、なにか……」
店の奥の奥の席からも、小さな悲鳴に似た咳込みが聞こえたけど、
なんとなくその声は、聞き覚えがあるような、気のせいなような、気がしないでもなかった。
「小さな勇気。……普通に『勇気』って名前の小さなガキのハナシも書けるわな」
まぁ、前回のお題同様、俺の投稿の持ちキャラに「勇気」って名前のやつは居ないから、普通に勇気のハナシになるけど。
某所在住物書きは前回投稿分を確認して、「わぁ!」と「勇気」のお題から、「瀬川 勇気(10歳)」なる名前と年齢を爆誕させた。
「せがわぁ!」なんて名字で呼ばれているなら、小さな勇気くん/勇気ちゃんは中学生かもしれない。
なお書かない。
「まぁ、普通に居そうな名前だけどな」
――――――
最近最近の都内某所、早朝。
某アパートの一室の、部屋の主を藤森といい、
ひょんなことから、客に海苔茶漬けと鶏ささみ肉のサラダを提供している。
昨日の夜、藤森のアパートの裏道で、ぐったり壁に寄りかかっているのを見つけたのだ。
念のために救急車を呼ぼうとしたところ、「誰も呼ぶな」と鋭い目で威嚇された。
大きなケガも無かったようだし、見知らぬ初対面の相手でもなかったので、
仕方なく、藤森は彼を自分の部屋に運んだのだ。
「うまい。美味いワサビモドキだ」
海苔茶漬けのアクセントは少しの柚子胡椒。
客からの評価は上々だ。
「高葉井にも、これを出しているのか」
高葉井とは、藤森と長年共に仕事をしている後輩のこと。3月に一緒に、藤森の前々職、都内の私立図書館に転職する。
客の男は、その図書館の職員らしい。
先日、藤森と高葉井を図書館に誘った「藤森の友人」が言っていた。
「すごく面倒な説明を全部端折って、誤解覚悟で言えば、俺達と同じ職場で仕事してる人」と。
「すごく厳密に言うと、こいつは俺の上司で、俺はこいつの指示で図書館に出向してきてて、図書館は俺達と別の団体とでの共同経営だよん」と。
客は「条志」と名乗った。
条志は今年の3月から、藤森の隣の部屋に越してくる予定となっていた。
彼が3月から隣に入居することを、
藤森は決して、けっして、高葉井に話してはならないことになっている。
条志は一体「何者」なのだろう。
「柚子胡椒茶漬けを出したことはありません」
あなたは、一体誰ですか。
条志に尋ねてみたい藤森である。
「ただ、高葉井が私の部屋に飯を食いにくることは、諸事情で、ちょくちょくあります」
あなたは誰ですか。
なぜ、私と高葉井を知っているのですか。
なぜ昨晩、あそこでぐったりしていたのですか。
私の友人はあなたを「同じ職場で仕事してる人」と言ったが、本当に、図書館に勤めているのですか。
小さな勇気でもって、目の前の男に聞いてしまえば、すべての答えが分かるだろうに、
藤森はその勇気を、なかなか出せない。
直感であった。
それを聞くのは、初対面に支持政党を尋ねるような、あるいは信仰している宗教を探るような、
なにか、良くないことのように藤森には思えた。
「俺が怖いか」
藤森の疑念と心配を察したらしい条志が、柚子胡椒茶漬けの最後の1口を胃袋に収めて言った。
「ツウキ……付烏月といったか。『お前の友人』がお前と高葉井を、図書館に誘ってしまったのは、すまないと思ってる。
悪いことは言わん。本当にあそこに転職すべきか、今の職場に残るべきか、よく考え直せ」
邪魔したな。ワサビモドキ茶漬け、美味かった。
それだけ言って、礼とおぼしき肖像画&ホログラム付きピラピラを1枚机に置くと、
条志は静かに、藤森の部屋から出ていった。
「条志さん、」
条志が何者で、何故彼が「図書館に転職すべきか考え直せ」と忠告してきたのか、
この時の藤森には推測するための材料も無く、
この時の藤森には問いただす小さな勇気も無く、
「あなたに出したのは、ワサビモドキ茶漬けじゃなくて、柚子胡椒茶漬け……」
すべての伏線の答え合わせは、更に数ヶ月後の物語を待つことになる。