「さよならを、言わないでください。
さよならを言わないで、別の挨拶を言われました。
さよならを言わないで彼女は消えました。
……まぁ、まぁ。色々アレンジはできるわな」
去年は何書いたっけ。食い物料理?
某所在住物書きは天気予報を確認しながら、呟いた。来週の金曜日から東京はストンと気温が落ちるらしい――最高一桁である。
あんまりそんな、突然、「温暖」と「快適」両名におかれては、さよならは言わないでほしい物書きだが、仕方無い。もう、冬である。
「……今年、寒いんだっけ?」
ぽつり。ため息を吐いて、天井を見る。
「暖房、光熱費、風呂……」
――――――
11月30日から続く一連の厨二的物語も、ようやく一旦の終結。ひとまず今回のお題は、最近最近の都内某所、某おでん屋台から幕をあける。
深夜帯であった。ひとりの男がカウンターで、自分をそこに呼びつけた相手を待ちながら、
牛すじ煮込みなり、味しみ大根なり。
賞味しつつ、温めた酒を堪能している。
「探しました。ハシボソガラス前主任」
屋台の客が2人になる。
「ルリビタキ部長からの伝言を伝えます。『長期休暇解除。とっとと戻ってこい』。以上です」
鳥の名前ばかり登場するが、細かいことは気にしてはならぬ。「そういう物語」なのだ。
「長期休暇〜?」
先客はおでんを食うばかり。
「俺、管理局は辞めたし、『カラス』のビジネスネームもとっくの昔に譲渡したハズだけど?」
言うわりに、差し出された写真は受け取るし、それを見て数度頷きもする――茶化しているのだ。
「局員1名が、敵性組織へ機密情報をリークしました。ウサギという、収蔵品保護課の男です。
スフィンクス査問官の『コタツ』による尋問も、キツツキ前査問官によるサルベージも効きません」
「俺、もう部外者だよん。そっちで頑張ってよ」
「あなたは、
『さよなら』は言わないで局を去るし、引き継ぎは残さない、局からの貸与品も返却なさっていない。
戻ってきてください。カラス前主任」
お願いします。本当に今、あなたが必要なんです。
頭を下げる男を、カラスはじっと、見ている。
「おやっさーん」
カラスが言った。
「豚バラ5本追加。こいつのおごりで〜」
――ところで前回投稿分で張った伏線を回収する。
今回お題回収役の後輩、高葉井という女性が、
前回の物語で、喫茶店の店主に、アンティークの鉱石ランタンを手渡した。 それはその喫茶店で獲得した、大食いチャレンジの景品であった。
「さよなら」されたのだ。
せっかく頑張って食ったチャレンジを、無かったことにされて、ランタンを回収されてしまった。
「不具合が見つかった」という名目であった。
高葉井としてはギャン泣きするしかない。
「せんぱぁぁぁい!!わたし、もう、もう、
うわぁあああああん!!」
場面は変わり都内某所、高葉井の先輩のアパート。
コタツのテーブルに高葉井が突っ伏し、
回収されたランタンの代わりとして渡された、別のランタン2個を抱きかかえて、
缶チューハイなど並べ、慟哭している。
「バチクソ気に入ってたの!明かり、付かなくていいの!不具合ぜんぜん気にしないの!
なのにさぁ!いきなりさぁ!突然さぁ!
さよならは言わないでよ!!うわぁああああん」
はぁ。それは、災難だったな。
高葉井の先輩、藤森は完全にチベットスナギツネのジト目で、彼女をどうすることもできぬ。
ただ後輩の心が温まるように、煮込みラーメンの鍋をコタツに持ってきて、ちゃぷり、ちゃぷり。
少し後輩によそってやるばかり。
「伸びるぞ」
淡々と、藤森は事実を述べた。
「聞いてよ、聞いてよせんぱいッ!!」
「聞いている」
「バチクソに、キレイだったの!最初に貰った方のランタン、宝石みたいな、太陽のチャームとか月のチャームとか付いてたの!!」
「そうか」
「太陽と月だよ!光と闇だよ!
いきなりハイさよならは、ひどいよぉ!!」
「そうか」
「代わりに貰ったランタンが完全に私がやってるソシャゲに出てくるランタンだったの」
「はぁ」
「完全再現だよ。公式、グッズ化してないの。
『さよなら』は言わないで、『はじめまして』になっちゃったんだよ。どうしよ、だよ」
「うん」
「聞いてよせんぱい。聞いてるせんぱい?」
「酔ってきたか。少し水でも飲め」
しゃぶしゃぶ、じゅるじゅる。
泣きながら小椀に盛られたラーメンを、スープとともにすする高葉井は、美味に対して幸福な表情。
「とつぜん、さよならはひどいよ」
缶チューハイをつかもうとした高葉井の手は、藤森の計略により、水入りのコップを得た。
「さよならは、はじめまして、なんだよ」
ぐびぐび。おかわり。
ラーメンの汁が飛ばぬよう、光と闇のランタンの代わりに得た新ランタンをどかす後輩を、
先輩の藤森は相変わらず、ジト目で見守っている。
「虚無、混沌、黄昏、冥府。なんなら二重属性。
『光と闇の狭間』なんて、設定付与し放題よな」
個人的には某怪物狩人の「胡麻ちゃん」が好き。
某所在住物書きは大きなため息ひとつ吐いて、昔々のゲームなどプレイしている。
光と闇。狭間。去年はこのお題で何を書いたか。
「……ところで光と闇の『狭間』って、何だろな」
ポツリ。物書きが呟く。
朝と夜なら夕暮れであろう。分かる。
ならば、二項対立に見えなくもない光と闇は?
――――――
11月30日から続いている一連の物語も、ようやくクライマックス。エンディングまであと1話。
まず、伏線設置パートとして、最近最近の都内某所。「明日」投稿分のお題回収役を後輩、もとい高葉井といい、グループチャットのメッセージによって、開店前の某喫茶店に呼び出されていた。
店内は何があったやら、完全に大騒動の後。
誰かがあちこち物色して、破壊して、金銭を取らずに撤収した結果としての散らかり具合。
「ごめんなさいね。気にしないで」
店主は大騒動にもかかわらず、平然としている。
「10月25日の大食いチャレンジで差し上げたランタン、持ってきてくれたかしら?」
「10月25日」とは過去作投稿分の日付のこと。
スワイプが面倒なので、気にしてはならぬ。
高葉井は先々月、ここの大食いチャレンジの景品として獲得した、いわゆる「鉱石ランタン」と呼ばれているアンティークを、2個差し出す。
「ありがとう。一旦、こちらだけ借りるわね」
店主は透明な月のチャームの付いている方を受け取り、高葉井に少し待っているよう指示。
「すぐ、帰ってくるわ」
『Staff Only』の扉へ消えていった。
――場面は変わり、時間も少し戻って、すなわち前回投稿分から直通のおはなし。
「光と闇の狭間」の厨二ちっくフィクションなお題に相応しい、「世界線管理局」なるファンタジーな職場は、まさしく混乱の真っ只中。
管理局に収容・収蔵されている「光のランタン:レプリカ」が、悪しき敵性組織に奪われた。
なんで? そのランタン、チートアイテムなのだ。
ナンデ? 要はお題のせいなのだ。
「ここ」ではないどこか、既に滅んだ世界で、「『光』という概念」が人々から吸収・受け取った信仰、想像、設定が、鉱石内包するランタンの形をとって結晶化したもの、その模造品の、
収蔵場所、セキュリティの抜け方がバレた。
敵性組織にリークしたのは彼等の同僚。
過去作11月2日投稿分までさかのぼる、「ウサギ」のビジネスネームを持つ管理局員。
再度明記する。スワイプが面倒である。
「これが光のランタン、『レプリカ』だって?!
十分じゃねぇか!アハハハ!!」
厨二ちっくファンタジーのお題に従い、光のランタン:レプリカは、己の内包する鉱石の魔力により管理局内の「光」を上書きする。
「これからは俺達が全世界線の支配者だ!」
あちらの陽光には炎が代入され、そちらの天井照明からの人工光は鋼の針に書き換わる。
すなわち窓辺には業火あたる陽だまり。
天井のライトは周囲に鋭利な針の雨をばらまく。
「非戦闘局員は敵襲訓練どおり、シェルターへ!」
受付係の局員が、経理部はじめ従業員を誘導する。
「慌てないで!押さないように!」
鳥頭め。何をそんなに苦戦しているのだ!最後の非戦闘員を送り出した犬耳の女性が振り返ると、
局員避難の時間稼ぎと敵性対象捕縛のため、法務部執行課実動班、「ツバメ」と「ルリビタキ」が、飛んで跳ねての激戦を繰り広げている。
「畜生、あの馬鹿ウサギ!」
小さなペンで業火や針の雨を「ただの光」に常時書き直しながら、タバコの香りする「ルリビタキ」が、現在独房に収容中のリーク者を罵倒した。
「光」が制服の端を焼き、「光」が袖を引き裂く。
「書き直し」が可能な「助言者の校生ペン:イミテーション」をもってしても、所詮、彼のそれはオリジナルに比べれば粗悪品。レプリカにすら劣る。
「どうする、どうすれば……!」
と、そろそろお題回収。
伏線設置パートの老淑女、喫茶店の店主がさっそうと現れて、月のチャームが揺れるランタンを、
毅然とかかげると、そのランタンから闇があふれ、
光のランタン:レプリカの光とぶつかり、
光と闇の狭間で火花が数秒爆発して、パキン。
敵性人物の手にあるランタンが、音をたて壊れた。
「闇のランタン:オリジナル」
老淑女が朗々と、己の持ち物の名を紹介した。
「あなたが私の『収蔵庫』……お店を荒らして、結局見つけられなかったものの、『本物』よ」
残念だったわね。信頼できるお客様に預けていたの。淑女は穏やかに笑い、自分の仕事が終わったので、扉に手をかけ去っていく。
「私は世界線管理局、収蔵品保護課のアンゴラ」
法務部によって拘束される――しかし暴れる敵性人物に、店主が笑って、手を振った。
「私の収蔵庫修理の請求書は、後で郵送するわ」
パタン。扉が閉まる。
「光と闇の狭間で」のお題は無事回収され、管理局内はようやく、静寂と平和を取り戻した。
「距離イコール、時間かける速さ。つまりバチクソひねくれた考え方をすれば、今回のお題って、『時間と速度』に読み替えられたりする……か?」
まぁ、ぶっちゃけ時間にせよ距離にせよ、何をどう書きゃいいんだよってハナシには、なるけどな。
某所在住物書きは今日も今日とて、相変わらず。
上を見て、ため息を吐き、途方に暮れている。
距離をどうするのだ。距離を計算するのか、稼ぐのか、短縮それとも偽装するのか。
「時間に関するお題は、結構大量に見た気がする」
物書きはつぶやく。
「距離な……」
昔々「1万光年は時間じゃない。距離だ」というネタを見た。どれほどの距離になるのだろう?
――――――
前回からの続き物。完全にフィクションでファンタジーな、厨二要素満載のおはなし。
前回のお題回収役であった犠・牲・者サン、もといギ・S・シャサンは、膨大な富と不思議なアイテムを所蔵する某管理局に忍び込み、
ガッツリ潜入がバレて、仲間ともども、己の魂を美味しいミカンに変えられてしまった。
なんで?? そんなコタツが管理局にあるのだ。
ナンデ?? 細かいことは気にしてはいけない。
そのまま皮をむかれて、コタツの中で、美味しい美味しい「いよかん」として、食われておしまいかと思われた、あわれな犠牲者サンのシャサン。
意識が戻り、目を覚ますと、彼はどこかの神社の拝殿の中に居て、両手両足を縛られていた。
「両手両足」だ。シャサンは安堵した。
人間に戻れたのだ。ああ、助かった……
「『助かった』? どうだろうねぇ?」
途端、目の前の巫女姿がニヤリ、にやり。
銀色の狐耳と狐尻尾はピコピコ、ゆらゆら。
「化け狐」。シャサンの脳裏に3文字が浮かんだ。
「あんたをミカンにした若い子ちゃんが、
何故あんたが管理局に忍び込めたか、あんたのアジトがどこに在るのか、聞き忘れたらしくてね」
したり、したり。ぱたり、ぺたり。
化け狐の女はイタズラな笑顔で距離を詰めてくる。
「私は、元世界線管理局員、先代の『キツツキ』」
人差し指と中指で、シャサンの胸を――心臓のあたりを、コン、コン。 まさしくキツツキが樹木にそうするように、突いてくる。
「尋問……査問官をしていたのさ。こうやって」
コン。化け狐の中指がシャサンを強く叩くと、
ああ、 指が、手が、 シャサンの中に、
シャサンの、記憶と魂の奥底に。
――…「『法務部情報管理課キツツキ前査問官』。
管理局に『黒穴』のノウハウを提供した張本人。
経理部の先代『スフィンクス』、つまり今の『ノラ』査問補佐官と実質上のタッグを組んだ方だ」
同時刻。場面は変わり、拝殿近くの小さな座敷。
シャサンに忍び込まれた管理局の従業員2名が、上記「化け狐」について、情報を共有している。
ギャーギャー悲痛な、あわれな犠牲者の大声がわずらわしいものの、仕方無い。気にしてはならぬ。
「元々、俺達が現在専売特許として使っている『黒穴』、世界と世界の間の距離をほぼほぼゼロにできる術は、『ここ』の世界に存在していたんだ」
火の付いていないタバコを噛みながら、2名のうちの片方、ルリビタキが言った。
「『稲荷神術:狐の巣穴』。魔法より科学に舵を切ったこの世界では、ほぼほぼ失われた秘術だ。
それを、ここの稲荷神社の狐が、俺達管理局に」
「私達の管轄外の『黒穴』がこの世界にあるのも、そもそも元々『黒穴』の原型が、この世界のものであったから、ということですか」
「イタズラギツネの大イチョウ」も、これで説明が付くわけだ。 ルリビタキの情報に、2名のうちのもう片方、ツバメが納得して数度頷く。
イタズラギツネの大イチョウとは?
詳細は前々回投稿分参照である。
スワイプが面倒なので、気にしない、気にしない。
「まさか、彼女の孫狐が最近、ウチの局のセキュリティをすり抜けて遊びに来るのも?」
「いや。それは完全に、ウチの受付連中の手引だ。
ただ、あの末っ子子狐、『ばあちゃん』のチカラを『父親』以上に引き継いでるらしくてな。
『母親』の霊力がカンフル剤になったんだろうさ」
「『距離』のチカラを?」
「『距離』以外にも。おそらく他の概念も」
「やー、久しぶりに管理局時代を思い出したよ!」
こんこん、コン。2名の会話に、狐耳と狐尻尾の巫女姿が、上機嫌で割り込んできた。
手には赤と白で編まれた少々太めの1本縄。
その縄は成人男性ひとりをぐるぐる巻きにしており、それはすなわち虚ろな目を晒して気絶している犠牲者サン、もといシャサンであった。
「懐かしいねぇ。百何年ぶりにヤンチャしたね」
ほら。コレが欲しいんだろう。
化け狐がルリビタキに差し出したのは、1枚の紙切れ。シャサンから抜いた情報のメモである。
「なるほど」
ルリビタキは軽く礼をして、すぐさまツバメの背中をたたき、退室をうながした。
「管理局にとんぼ返りだ」
ルリビタキが言った。
「先月11月2日あたりの、例の『永遠』の一件が、酷いところに飛び火した。
局の収蔵品が――とびきりヤバいのが狙われてる」
「泣かないでください、ここで泣かないでどうするの、泣かない-でも哀しい。
ある程度の変化球は書けそうだけど、ぶっちゃけそこまで、キレイな感情を美しく書けねぇのよ」
だって、俺のオハコ、食い物ネタだぜ。食い物でどう涙を書けって? 某所在住物書きはカップうどんをすすりながら、味変したくて七味を少々。
喉の痛いところに引っ付いた。落涙。
「玉ねぎで『泣かないで』は、書けそう」
いつかそれで投稿するか。物書きは呟く。
予定は未定。しかしメモしておけば、忘れない。
――――――
前々回から続く一連のフィクションファンタジー。
「ここ」ではないどこか、世界を繋いだり保護したり、あるいは監視したり、警察のような博物館のような業務もおこなう、不思議な組織のおはなし。
そこは「世界線管理局」といい、ワールドワイドどころか幾百・幾千の異世界と渡り合う巨大組織。
滅びた世界の財宝、滅ぼされた世界の最終兵器、滅びに向かっている世界から回収した情報資源等々も、多数収容・保全管理されている。
盗み取ろうと忍び込むネズミは多い。
今回のお題回収役は特に、管理局が持つ情報と資金を狙って、数十人の精鋭を集めて潜り込んだ。
管理局内の各課に散らばって架空の伝票をはじき、
少額ずつ、しかしチリツモ方式ですみやかに、管理局から巨額の経費を吸い取る。
お題回収役の「彼」は、経理部担当である。
ところで最近泥棒仲間が「管理局員からハウスみかんを貰った/それを食った」という連絡を最後にパッタリ姿を消す事例が急増している。
「彼」も――ギ・S・シャサンも、経理部の「先輩」からハウスみかんを受け取った。
美味そうだ。 皮をむく。果肉をかじる。
甘酸っぱい幸福なジュースがくちのなかにひろがり
それは とても かぐわしく
――…「よぅ。お目覚めかい。いよかん」
パン! シャサンの目の前で、ねこだましの拍手。
一瞬で意識が戻ってきたシャサンは、自分が経理部ブースのコタツに座っている事実を認識した。
「ハウスみかん、美味かっただろう。アレはイチバンの一級品さ。数年に1個の逸品だ」
目の前でニャーニャー鳴いているのは「万年コタツムリ」の若い女性。ビジネスネームをスフィンクスといった――無毛の寒がり猫が由来だろう。
「取り敢えず、聞きてぇことが山程あるんだ。この俺様と、なぞなぞ大会でもしてくれよ」
にゃーにゃー。スフィンクスは言った。
「なぁ。いよかん」
相変わらずシャサンを、いよかんと呼んでいる。
「要するにオチが『そういうこと』」である。
シャサンもすぐ、「その可能性」に勘付いた。
いやまさか。そんな非科学的な。非人道的な。
世界線管理局は世界の円滑な運行と平和と、治安の維持をつかさどる正義のヒーローだろう?
「あ?正義のヒーロー?イイなソレ」
スポン、スポン。 スフィンクスがコタツに手を入れ、何かのボタンを押すたび、コタツの上の網カゴにみかんが増える、増える。スポン。
「次の『ソシャゲ版』で、ヒーロー・ヒロインコスガチャの実装でも、広報課に掛け合ってみるか」
スフィンクスが、ひとつ、みかんをつまむ。
「アイデアのお礼に、教えてやるよ。
アンタに食わせたハウスみかん、とぉーっても、美しい魂だったぜ。管理局から資金チューチューしようとしてたネズミのわりにな。
最後まで崇高だったよ。『あいつには手を出すな』、『この命にかけても、あいつの潜伏場所は絶対に吐かない』。涙ぐましいね!俺様感動しちゃった。
つまり、あいつ、俺様の『なぞなぞ大会』には全問不正解っつーか、無回答だったってワケ。
美 味 か っ た だ ろ う ?
『セイ』ってミドルネームだった」
途端、シャサンはすべてを理解した。
シャサンが――ギ・セイ・シャサンが冒頭で食った「ハウスみかん」は、己の弟であったのだ。
そうだ。美味かった。甘酸っぱい幸福なジュースで、とても、かぐわしくて。
あっという間に食い尽くした。皮と筋は捨てた。
「ぁ、あ……」
あれが、つまり、ああ。コタツの上のみかんは。
「泣くなよ。なぁ。『泣かないで。ギ兄ちゃん』」
によろるん。スフィンクスが嗜虐に笑った。
「アンタもきっと、イイいよかんになるよ」
彼女の手には、ケーブルで繋がったコントローラー。みかんのイラストのボタンに指が置かれている。
「味は弟のハウスみかんの劣化版だろうけどな。
それとも、俺と『なぞなぞ大会』する?俺にアンタの情報、全部流してからにする?」
第1問。アンタらの親玉、だーれだ。
スフィンクスが笑う。指に力を入れる。ああ、押される、答えなければ、「押されてしまう」――
「そこまで!」
遠くから響く男声が、スフィンクスの指を止めた。
「それ以上の敵性組織の『消費』は許可しません。
スフィンクス査問官、その男を我々法務部に、即刻引き渡してください」
「法務部」。シャサンの緊張は一気に解けて、安堵と安心に涙が溢れ出した。
良かった。助かった。命だけは救われtn
スポン。
「11月17日が『冬になったら』、14日が『秋風』で先月10月18日が『秋晴れ』。
去年と同じお題なら、12月も季節の、特に冬のネタはバチクソ渋滞するんだわ……」
まぁ、そもそもこの「書く習慣」、季節ネタと雨ネタと、それから年中行事ネタに空ネタにエモネタでほぼ過半数と思われるから、ぶっちゃけお題の重複なんざ日常茶飯事なのよな。
某所在住物書きは完全にコタツムリならぬ毛布ツムリ。おお、ぬくもりの中で食うポテチの美味さよ。
「去年は『ぶっちゃけ最近「冬のはじまりが迷子」』ってハナシを書いた気がする」
物書きは言う。
「今年は冬っつーか、秋も迷子だったよな……?」
一応、北日本では今雪が降っているらしい。
――――――
大きな樹、美しい泉、高い山にありがちなハナシ。
すなわち「何がそこに居るか」、「何故そこに在るか」を辿る、不思議な不思議な物語。
花咲き風吹き渡る雪国に、樹齢数百年とも千年とも言われるイチョウの大樹があり、
まさしくお題のとおり、「冬のはじまり」の頃、他のイチョウから遅れに遅れて見頃を迎える。
大樹の下には小さな小さな祠があり、
それは「イチョウギツネの祠」と言われている。
『他のイチョウより遅れて、冬のはじまりにようやく色づくのは、きっと理由があるに違いない』
『狐だ。きっと狐がイチョウに化けているのだ』
『昔々、悪い狐が妖術で、この場所に黒い穴をこさえて、そこから魑魅魍魎を招き入れ、
悪行の限りを尽くしたものの、その悪行のせいで狐の母親が病に弱り、倒れてしまった。
ようやく己の所業を悔いて、泣いて、反省したイタズラ狐は、イチョウの大樹に身を変じて、自分でこさえた黒い穴を塞いだのだ』
『寒くて寒くて、変化が解けそうになるから、冬のはじまりに葉が狐色になるに違いない』
イタズラギツネの大イチョウは、数百年、上記のおとぎ話を現地住民と共有してきた。
で、ここからがようやく本編。
「イタズラギツネの大イチョウ」のおとぎ話をガチで本気にしている成人男性が約2名。
別の「黒い穴」を実際に、業務として管理・運用している、「世界線管理局」なる所属の2名である。
――「実際に来て見ると、デカいな」
冬のはじまり、イタズラギツネの大イチョウが見頃の早朝。野郎2人がポツンと、感嘆のため息を真っ白に吐き出して、黄色の氾濫を見上げている。
「これが、『イタズラギツネ』か」
この下に「黒穴」が、実際にあるとしたら、相当な規模だが。どうだろうな。
男その1はポツリ呟くと、「この世界」に売っていない銘柄のタバコで口元を隠し、深く吸って、灰もろとも携帯灰皿に吸い殻を押し付ける。
双方、「ここ」ではないどこかの住人であった。
「現地の方々には、丁度良い観光名所ですね」
男その2は非喫煙者らしい。流れてくる煙を片手で軽く払いながら、手元の小さなタブレットを見る。
「異なる世界同士を繋ぐ『黒穴』は、『この世界』の人類からすれば、非科学的なフィクション。
彼等が『それ』を発見すれば、大騒動の大混乱だ」
へっッ、くしゅん!! 雪国の寒さに、その2の方が小さなくしゃみをひとつ。
現地の気温は一桁前半で、明るい晴天に白い雪。
なぜこんな悪天候に、わざわざ彼等は雪国へ赴いたか。「冬のはじまり」のお題のせいである。
しゃーない。
ピリリリリ、ピリリリリ!――途端、着信音。
『やほー、バチクソ久しぶりぃ。俺だよん』
男その1、喫煙者の端末に音声通話。
『経理部が、「何回呼び出しても繋がらない」って。「すぐ帰ってきてほしい」だってさ』
「スフィンクス」が早速「ドSふぃんくす」してるらしいから、早めに行ってあげてね〜。
ひとしきり伝えることだけ伝えて途切れたそれは、野郎2名の昔の同僚。過去の同期。
「で、なんですって?」
非喫煙者が喫煙者に訪ねた。
「先代の『ハシボソガラス』からだ」
喫煙者が口にしたのは、通話相手が昔名乗っていた、いわゆるビジネスネーム。
「経理部でスパイが見つかったらしい。先月から忍び込んで、俺達の資金と情報を持ち出していたと」
冬のはじまり早々から、随分とまた、面倒なハナシが続く。 喫煙者は完全に携帯灰皿をしまった。
「行こう」
ぽつり。喫煙者が非喫煙者に呼びかけた。
「戻るぞ。俺達の『世界線管理局』に」
冬の風が吹き、イタズラギツネのイチョウの葉を巻き上げ、いつの間にか2人の姿が消える。
その後の展開については次回投稿分の展開となるが、特に劇的な物語となるワケでもないので、ぶっちゃけ、気にしてはいけない。