かたいなか

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11/29/2024, 3:44:05 AM

「終わらせないで欲しい、なのか、終わらせないで良かった、なのか。他にも色々考えつきそうよな」
昨日18℃だった東京の、今日の最低気温が7℃。
去年は20℃から6℃に落ちていたらしいので、それよりは、ひょっとしたら快適、かもしれない。
某所在住物書きは、モフモフにしてフカフカな、偉大なる2枚合わせハーフケットを肩より羽織って、ぬっくぬくの至福に浸っていた。
誰かが「肩は寒さを感じやすい」と言っていた。
事実か虚偽かは知らない。

「個人的にはな」
物書きは呟いた。
「コンビニのおでん、冬限定は惜しい気がすんの。いろんな具の出汁吸ったスープがたまんねぇのよ。
冷やしおでんとかで夏、いや、需要少ないか……」

――――――

まさかまさかの続き物。前回投稿分から、1日か2日経った頃のおはなしです。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、そのうち末っ子の子狐が今回のお題回収役。不思議な不思議な、稲荷の子狐です。

子狐は家の中の秘密の部屋の、ぽっかりあいた黒穴を通って、不思議な職場に辿り着きました。
辿り着いた不思議な職場は、動物のビジネスネームを採用する職場で、子狐は「ノラ」、「野良」を名乗るおばあちゃんの腕の中で、丸くなって、すやすや、幸福にお昼寝をしたのでした。

ここまでが前回投稿分。
ここからが今回のお題回収。

「ノラばーば、ノラばーば!」
コンコン子狐、すっかりノラばーちゃんに懐いてしまいまして、その日も秘密の部屋の黒穴を通って、例の職場へ向かいました。
ノラばーちゃんは、コタツの中で毛糸の編み物をして、ちっともジャーキーをくれませんでしたが、
それでも、子狐は優しいノラばーちゃんを、すぐ大好きになってしまいました。
「ノラばーば、きょうも、会いたい!」

秘密の部屋の、不思議な黒穴を通って、コンコン子狐は「ここ」ではないどこかの職場へ向かいます。
「ここ」ではないどこかの職場の、受付窓口をひらりと抜けて、コンコン子狐は「経理部」と書かれたブースへ。陽光当たるコタツへ向かいます。
先日、そこでノラばーちゃんと会ったのです。

「ノラばーば!」
コタツで今日も編み物をしているノラばーちゃんを見つけて、コンコン子狐は尻尾をぶんぶん!
「ノラばーば!」
今日もキツネを撫でて。キツネといっしょにネンネして。子狐は猛ダッシュでノラばーちゃんに……

「確保ッ!!」
ノラばーちゃんに、突撃しようとしたら、
「お前か。先日、俺様のコタツに来た子狐は」
前回投稿分で爆睡していたコタツムリ姉さんが、
がばちょ!子狐を捕まえてしまいました!
「あ〜。あったけぇ。やっぱり、魂ある生き物のぬっくぬくは、格別だぜぇー」
コタツムリ姉さんは、子狐をぎゅっと抱きしめて、すりすり、スリスリ。
「よし。お前の名前は今日から、ゆたんぽだ!」
子狐を、ちっとも逃がしてくれませんでした。

「なにするの、なにするの!はなして!」
「やーだね。ゆたんぽ、テメェはこれから、俺様の湯たんぽだ。俺様の膝の上でネンネしろ」
「はなせ!しらないおばちゃん!はなせっ!!」
「おばちゃんじゃねぇ!俺様は『スフィンクス』。この経理部で最も寒がりな万年コタツムリだ」

コンコン子狐、「スフィンクス」と名乗ったコタツムリ姉さんから逃げたくて、前あんよも後ろあんよもジタジタバタバタ。必死に動かします。
「へへへっ。ゆたんぽ。お前は、あったかいなぁ」
だけど、スフィンクスは、のらりくらり。
子狐のジタバタパワーを器用に逃がして、ぎゅっと、抱きしめ続けます。
「なぁ、ゆたんぽ。ハウスミカン食わねぇか。ハウス食って、コタツの中に入らねぇか」

逃さねぇぜ、ぐへへ。
スフィンクスがコタツの上の、どっさり積まれたカゴからミカンを、ひとつ掴んで子狐のクチに……

「そこまで」
子狐のクチに、ミカンが突っ込まれる前に、
タバコの香りのするおじさんが、子狐をスフィンクスから引き剥がしてくれました。
「こいつは俺達の管轄だ。勝手に所有物にするな」
オッサン!オッサンが、たすけてくれた!
子狐はタバコのおじさんを知っていたので、ぶんぶんぶん!尻尾をバチクソに振り回します。

「茶番は終わり。業務に戻れ。泥棒猫」
タバコのおじさん、子狐を抱えて言いました。
「あーん?法務の小鳥サマが何か鳴いてんな?」
対してスフィンクス、すぐには引き下がりません。
「こちとら、ゆたんぽと取込み中だ。お楽しみを勝手に終わらせないでほしいんだが?
なぁ、ルリビタキ部長。デコポンぶつけるぞ」
タバコのおじさんとスフィンクスの口喧嘩は、その後コンコン5分ほど、続きましたとさ。

11/28/2024, 3:00:13 AM

「愛情1本、愛情サイズ、愛は食卓にある、今日を愛する。……愛情と愛の違いって何だろな?」
アイ ラブ マニー、その神引きがアイラビュー。某所在住物書きは「愛」に関するキャッチコピーを検索しながら、もしゃもしゃ、むしゃむしゃ。
サンドイッチなど食い、コーヒーをすすっている。

「書く習慣」のアプリに恋愛のお題は多い。今年の3月からのカウントで、「愛」の字を明確に含むお題だけでも、これで5回目である。
「『恋』も含めればもっと増える」
で、俺が去年の10月31日に投稿したハナシに出した低糖質キューブチョコのモデル、来月値上げだって?――物書きは呟き、ため息をひとつ。
愛情とは何だろう。味は?価格は?

――――――

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、最近、お父さん狐の隠し部屋にある黒い穴から、「ここ」ではないどこかの職場に忍び込むのがトレンド。

そこは非常に、厨二設定はなはだしい職場です。
「世界線管理局」といって、あっちの世界からこっちの世界への渡航の申請を受理したり、
そっちの世界が別の世界に悪さをするのを監視したり、もしくは止めさせたり、
あるいは、滅びそうな世界を保全したり、
既に滅んだ世界の欠片が、どこかの世界に流れ着いて、良くない影響を及ぼす前に回収したり。
要するに、とってもフィクションでファンタジーなことを、ガチで仕事にしている職場なのです。

で、そのフィクションファンタジーな職場の受付職員、癒やしにバチクソ飢えてるらしく、
子狐が来ると、やれジャーキー、それモフモフと、完全にお祭り状態。子狐それが楽しいのです。
なお、偉い法務部さんにバレると叱られます。
コンコン子狐、ジャーキースニーキングなのです。

さて。そんなこんなの子狐です。
今回のお題が「愛情」ということもありまして、
愛情たっぷりな高級ジャーキー、あるいは愛情どっぷりな頭ナデナデ、おなかスリスリが欲しくて、
その日もその日とて、お父さん狐の秘密の部屋から、世界線管理局に堂々潜入、
できたのは、まぁまぁ、良かったとして、
どうやら子狐が忍び込んだのがバレたらしく、もう既に、子狐の知らない法務部職員がスタンバイ。子狐を追い返すべく、目を光らせています。

「きょうは、ほかのところをタンケンしよう!」
みすみす、おとなしく捕獲されて、黙って強制送還されてやる子狐ではないのです。
受付の窓口を抜けて、子狐の背丈が小ちゃいのを良いことに、するり、するり、コンコンこやん。
稲荷の狐の不思議なチカラも上手に使います。
そしてコンコン子狐は、「経理部」と書かれた、陽光よく当たるポカポカブースに、やって来ました。

ところでこのフィクションファンタジーな管理局、ビジネスネーム制を採用しておりまして、
経理の職員は全員、猫に関係した名前で統一されているんだとか。にゃーにゃー。

「なんか、みんな、ごーいんぐまいうぇい」
コンコン子狐、経理の職員を見て、気付きました。
経理部の職員は、みんな、自分の思い思いの場所で仕事をして、自分の思い思いのタイミングで休憩しているようなのでした。
ほら、目の前に、大きめのコタツがあります。
そこには、ぐーぐー爆睡しているコタツムリなお姉さんと、ちまちま編み物をしている優しそうなおばあちゃんがいます。

「あら。かわいい子狐ちゃん」
優しそうなおばあちゃんは、「ノラ」、「野良」と名乗りました。そして愛情に満ちた笑顔を子狐に向けて、子狐を腕の中に迎え入れました。
「あなたのことは、知っているわ。最近しょっちゅう、管理局に忍び込んで、法務部を困らせている、『稲荷神社の末っ子子狐』ちゃんでしょう。
悪い子ね。あなたのおばあちゃんに、そっくり」
子狐を抱き寄せるノラばあちゃんは、とっても温かくて、とってもいい匂い。子狐はすぐ、ノラばあちゃんを好きになりました。

「おばーばのこと、しってるの?」
「よーく知ってるわ。昔一緒に働いていたのよ。そして若い頃、一緒にね、やんちゃしてたの」
「ヤンチャ?」
「そう。やんちゃ」

さぁさぁ、今日はどこの部署にもイタズラしないで、おばあちゃんのところでおネンネなさい。
ノラばあちゃん、子狐をモフモフとフカフカで包んで、ゆっくりゆっくり、背中をなでます。
それは正しく愛情で、それは正しく優しさでした。
愛情と優しさに包まれて、こっくり、こっくり。
コンコン子狐はものの数秒で寝落ち寸前。
その日はなんにも迷惑かけず、どこからも叱られず、幸福にお昼寝して過ごしましたとさ。

11/27/2024, 3:59:29 AM

「微熱は知らんが、『発熱』の定義って、世界と日本とで、微妙に違うのな」
日本の法律において37.5℃以上を発熱、38℃以上を高熱といい、アメリカで売っている内科の教科書では午前と午後で体温の基準を変えているという。
「発熱 定義 世界的」等々で検索をかけていた某所在住物書きは、「ハリソン内科学」なる単語を見つけて、ぽつり。完全に初耳であった。

「風邪とか体調崩したとかのネタは、何度か書いて、複数回実際に投稿してるのよな」
なんなら、俺から出せるほぼほぼ風邪ネタは書き尽くした説。 物書きは言う。
「風邪以外の『微熱』っつったら、たとえば、そうさな、強火じゃない方の微熱調理とか……?」
ひと、それを微熱より「低温」という。

――――――

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内に、稲荷の子狐と化け子猫と、それから子猫又が集まって、
小さな広場のような場所で、小さな小さな火にかけられた茶釜をかこみ、なにやら、わちゃわちゃ。
「がんばれ、がんばれ!」
「見て、ちょっとお肉、色が変わってきた!」
茶釜に対して、話しかけておりました。

ところでこの茶釜、タヌキの尻尾が生えています。
「ねぇ、後で、ちゃんと洗ってよ。約束だよ」
なんなら茶釜、言葉も発しています。
そうです。小さな小さな火に、微熱の火加減であぶられているのは、化け子狸なのです。

惣菜屋の娘にして、近所の魚屋でお魚の修行をしておる化け子猫が、このたび実家の惣菜屋から豚バラブロックを貰ってきまして。
こう言われたのです。「友達皆で、これを料理して、食べてごらん」――すなわち修行の一環です。

で、美味そうなお肉だったもので、
都合のつかぬ子カマイタチを除いた友達全員呼んで、稲荷神社に集まって食べよう!
というハナシになったのですが。
丁度稲荷の母狐が晩ごはんの仕込みで厨房を使っておったので。調理場が使えない。

『僕、茶釜に化けられるよ』
化け子狸が代替案を出しました。
『火は、狐火で、がんばって』
で、稲荷の子狐が頑張って、火事や延焼の心配が無い狐火をポツポツ起こして、
沸騰してるかしてないかの温度で、タヌキの茶釜に、豚バラブロックを調味料と一緒に、ポン!
入れてみたのでした。

「沸騰しなくても、お肉ってなんとかなるのね」
コンコン子狐が頑張って、おりゃー!とりゃー!
狐火を焚き続けているのを見ながら、
にゃーにゃー、子猫又が言いました。
「低温調理、っていうの」
微熱な火加減で、じっくり火を通すのよ。
お肉の提供者、化け子猫が言いました。
「テーオンチョーリ。 どこかで聞いた」
「多分、あなたの雑貨屋さんの、家電コーナーに、その調理器具があるんだと思う」

「テーオンチョーリの家電?」
「温度と、時間をセットして、放っとくの。そうすれば、勝手に温めてくれて、料理ができる」

ぽつぽつ、ぷかぷか。 子猫ーズがおしゃべりをしている隣で、稲荷の子狐、茶釜に火をくべます。
まだまだ修行の途中なので、使える狐火は小ちゃいし、温度も大人狐に比べれば、微熱なのです。
まぁ、おかげでポンポコ子狸も、茶釜の底、つまりおなかを焦がさず茶釜の中を、ポコポコ温めることが、できておるワケなのですが。
「お肉って、ニオイ、残るかな」
「だいじょーぶだよ。ちゃんと、あらうよ」
「ところでさ。低温調理って、あとどれくらいお肉茹でるんだろう。そろそろ僕、眠くなってきた」
「わかんない!」

そりゃ!えいやぁ! 狐火の微熱は相変わらず。
茶釜に化けて微熱に温められている子狸は、
あんまり微熱の狐火が心地良いので、こっくり、こっくり。もうちょっとで寝落ちてしまいそう。
「がんばれー!ねちゃダメー!」
「がんばる、がん……ばる……!」
最終的に子狐たちの「なんちゃって屋外調理実習」に気付いた母狐が、釜から豚バラを取り出して、
美味しく、ジューシーに、仕上げをしてくれましたとさ。 おしまい、おしまい。

11/26/2024, 4:48:08 AM

「『太陽の下』って言葉の第一印象が夏なのは、だいたい理由分かるけどさ。
『月の下』って言われても、そういえばいまいち、特定の季節と結びつきづらいよなって」
なんでだろうな。不思議だけど、俺だけかな。某所在住物書きはポツリ呟き、太陽と夏の妙な結びつきを引き剥がそうと、懸命な努力を続けていた。

今は冬である。一部地域は平地で雪が降った。
東京の明日が20℃超え予想だろうと、どこかで寝ぼけた桜が狂い咲こうと、今は冬である。
寒空の太陽の下はさぞ、さぞ……どうであろう。
「放射冷却?寒い?それか道路の雪が溶ける?」
ヤバい。分からん。物書きは首を大きく傾けた。

――――――

最近最近の都内某所、某職場の、完全に倉庫かゴミ置き場と化した支店、朝。
お題回収役を藤森といい、まさしく「おてんとさまの下」すなわち「緒天戸」という男の下で、彼の指示に従い、本店から業務用車両で、ここに来た。
『混沌倉庫支店の整理をせよ』とのお達しである。

制服の上着を脱ぎ、汚れないように車に収納して、
ひとり、腕まくり、腕まくり。
「で?」
どこから手をつけろとのご命令だったか。
無人支店のドアを開け、一歩踏み出すと、
カサリ、靴と紙との接触音。
足をどける。 踏んだのは数年前の競馬新聞だ。

…――発端は昨日、本店の昼休憩にさかのぼる。
「おい。藤森」
緒天戸と藤森、ふたりで昼食を食っていたところ、
藤森の上司のお天道、もとい緒天戸が言った。
「お前このまま、俺の下で仕事しねぇか」
藤森の職場において、役員であるところの緒天戸。
藤森が今年の春まで抱えていた「職場内の恋愛トラブル」の一時的な避難先として、己の部屋の整備役という立場を提供していた。

「茶ァ淹れるのうめぇし、掃除丁寧だし、電話もすぐ出るから、総務課連中が助かっててよ」
「一時的」で終わらせる仮の仕事が、絶妙かつ高効率的に機能・貢献を果たしてしまい、
今ではお天道の下、もとい緒天戸の下で、藤森が緒天戸の仕事部屋を完璧に整えていることが「あたりまえ」になってしまった。

「『ヒラ』の私には、荷が重過ぎます」
あくまで自分は、「一時的」なのだ。藤森は緒天戸の残留の指示に、「否」を突きつけた。

「そこをなんとかしてくれよ。俺の下の方が、給料良いだろ?有給もとりやすいだろ?」
「ごもっともですが、私にできることは、誰でもできる雑用です。私のトラブルが解決して、ここに置いていただく必要が無くなった以上、」
「その『誰でもできる雑用』を、総務課の連中はお前ほど完璧には、やってくれねぇんだって」
「あの、」
「考え直せよ。藤森。

あ、そうそう。お前のウデを見込んで頼みてぇことがあってだな。『混沌倉庫支店』、『ブラックホール倉庫』のことは知ってるだろ。あそこの――」

――…「さすが『混沌倉庫支店』だ。置かれているもののラインナップが酷い」
時は進み場所も変わって、現在。
「競馬新聞、雑誌、本来なら廃棄されているべき契約書と解約書のセットにポテチの袋……
なんだこれは。『コンコン稲荷ブライダル』?」

その混沌倉庫に放り込めば、二度と戻ってこないが、確実にありとあらゆる物がそこに眠っている。
ブラックホールの異名と噂はダテではなく、混沌の比喩は直喩かと疑うほどのごちゃつき。
ひとまず「確実にゴミと断定できるもの」の回収から、藤森の混沌整理が始まった。

「あの人の下で、こんな酷い『ゴミ箱』が残っているとは……あー、20年前の退職届けまである」
菓子の袋、タバコの箱、ペットボトル。
紫外線に焼けた紙には昭和の日付が記されていたり、あるいはつい数ヶ月前の、「本来各支店・本店に並べられて在るべきチラシ」が数枚落ちていたり。
「いや、その『支店と本店に在るべきチラシ』が『ここにある』のは一大事では?」
ゴミとゴミでない物、正体不明と出所明確な物。
分けて、まとめて、袋の山が1時間も経たずにどっさり。撤去にはトラックが必要だろう。

「これ、今日で終わるのか……?」
「太陽」の下で働くのも、ラクじゃない。
大きなため息をひとつ吐いた藤森の手に、複数枚の紙の束が当たる。ほこりの付き具合から、最近置かれたものだろうと、藤森は推理した。
「えっ?」
それは現在、実際に効力を持っている最中であるところの、本店の従業員が取った契約書。
契約を取ってきた者の枠には、すべて、同一人物の名前が手描きで記入されている。

従業員の名前は、
「『藤森 礼(ふじもり あき)』……、」

藤森は業務用のスマホを取り出し、
「お疲れ様です。藤森です」
緒天戸に電話をかけた。
『お前の契約書、見つけたか』
太陽もといお天道、緒天戸はお見通しだった様子。
『お前が俺の下で働いてるのを、よく思ってない総務課のいち派閥、数名の悪いイタズラさ』
緒天戸が言った。
『「それ」をやったヤツの証拠が欲しい。
お前もちょっと手伝えよ。藤森』

11/25/2024, 3:50:58 AM

「何が面白いって、静電気すごそうな『ペット用セーター』って商品があって、
そのわりに『ウチのわんこ、別に静電気起きませんよ』ってネットの投稿があるってハナシよな」
セーターっつったら、それこそ静電気と髪ボサと、指バッチンが王道なネタだと思ってたんだがな。
某所在住物書きは「ペット セーター 静電気」の検索結果をスワイプしてスワイプして、ため息。

興味深い検索結果である。毛糸と毛皮でバチバチしない状況があるというのだろうか。
どうやって?それとも、どのような湿度等々で?
「まぁ、セーター着ないから、俺には関係無いが」
だってガキの頃、バチクソにバチバチし過ぎて、酷い目に遭ったんだぜ、と物書き。
みなまでは言わぬ。すべては数十年の過去である。
「だって素材が、ガチの、アクリル毛糸……」

――――――

静電気が怖くて、静電気対策スプレーや静電気対策ブレスレットの有無にかかわらず、セーター絶対着たくないマンの物書きです。
今回はその「セーター」がお題とのことで、こんなおはなしをご用意しました。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。今回のお題回収役の名前を、藤森といいます。
藤森もセーターはニガテな民でして、
しかし、近所のリユースイベントの、福引きでリユース毛糸セーターが当たってしまうという。

「毛糸タワシとか帽子とか、お茶が好きならポットカバーに、リサイクルしちゃえば良いんですよ」
福引きスタッフさんが、言いました。
「ペットがいらっしゃれば、腹巻きなんかにも、丁度良いかもしれませんね」
なるほど。それならば、セーターと上手に付き合えるかもしれない。藤森少し納得しました。
藤森にペットは居ませんが、時折、藤森のアパートを訪ねてくる、近所の稲荷神社在住の、不思議な不思議な餅売り子狐が1匹おるのです。

静電気は気になるものの、スタッフさんいわく、「これは静電気が起きにくい素材です」とのこと。
手芸は不慣れな藤森ですが、そこはまぁまぁ自分なりに、頑張って、ハサミで切ってかぎ針で少しだけ編み直して、セーターをリサイクル。
1着のリユース毛糸セーターから、子狐用の腹巻きモドキ1個と、毛糸タワシに似た何かを複数個、
それから、子狐が遊びそうな毛糸トンネルひとつを、なんとか、作成、したつもりだったのですが。
藤森のアパートの近くにある、稲荷神社在住の子狐は、それら全部がおもちゃに見えたようで。

「えい!やあ!おりゃー!」
藤森のアパートにその日もやって来た子狐は、
まず本題として、藤森に稲荷のご利益ゆたかなお餅を2個ほど売って、おはなしして、
藤森が腹巻きを作ってくれたと聞いて大喜び、
「ぶんぶんぶん!えいやぁ!」
したのも束の間、腹巻きを藤森に付けてもらった途端、他の毛糸オブジェクトがあんまりにも振り回しやすそうな形をしておりますので、
毛糸タワシも、毛糸トンネルも、全部、ぜんぶ、
「どうだ!まいったかぁ!!」
噛んで振り回して引っ張って、バチクソ元気に遊び始めてしまったのでした。

ところで、子狐のふかふかモフモフな毛がなんとなく、ピンと立っているように見えますね。
気のせいでしょうか。 いいえ、静電気です。
「静電気が『起きにくい』」は「起き『にくい』」であって、「起き『ない』」ではありません。
知ってたのです。 知って、いたのです。

「んんん、ばちばち、してきた!」
遊びざかりのコンコン子狐、静電気で毛が立つのも、パチパチ鳴るのも楽しいらしく、上機嫌。
セーターの腹巻き付けたまま、見て見てと尻尾を振り回し、ポカン顔の藤森目がけて、
めがけて……?

「待て子狐、待っ……、ステイ!!」
パチパチ、バチバチ!
稲荷の不思議なチカラで増幅された静電気は、稲荷のコンコン御狐パワーに変換されて、子狐のまわりに小さな小さな、美しい稲妻の火花を咲かせます。
痛そうです。 だって、静電気です。
「待てと!言っているだろう!こぎつね!!」

案の定、パチパチ御狐スパークに触れると、
やはり、元々静電気だったところの火花は痛い。
なのに子狐、藤森が遊んでくれていると思ったのでしょう、追いかけっこを始めます。
最終的に5分ほど、子狐と藤森は防音防振アパートの一室で運動会。藤森は完全にヘトヘトです。
逆に子狐は大満足。セーターの腹巻きも、毛糸タワシも全部ぜんぶ、貰って帰りましたとさ。

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