かたいなか

Open App
12/2/2024, 4:30:48 AM

「距離イコール、時間かける速さ。つまりバチクソひねくれた考え方をすれば、今回のお題って、『時間と速度』に読み替えられたりする……か?」
まぁ、ぶっちゃけ時間にせよ距離にせよ、何をどう書きゃいいんだよってハナシには、なるけどな。
某所在住物書きは今日も今日とて、相変わらず。
上を見て、ため息を吐き、途方に暮れている。

距離をどうするのだ。距離を計算するのか、稼ぐのか、短縮それとも偽装するのか。
「時間に関するお題は、結構大量に見た気がする」
物書きはつぶやく。
「距離な……」
昔々「1万光年は時間じゃない。距離だ」というネタを見た。どれほどの距離になるのだろう?

――――――

前回からの続き物。完全にフィクションでファンタジーな、厨二要素満載のおはなし。
前回のお題回収役であった犠・牲・者サン、もといギ・S・シャサンは、膨大な富と不思議なアイテムを所蔵する某管理局に忍び込み、
ガッツリ潜入がバレて、仲間ともども、己の魂を美味しいミカンに変えられてしまった。

なんで?? そんなコタツが管理局にあるのだ。
ナンデ?? 細かいことは気にしてはいけない。

そのまま皮をむかれて、コタツの中で、美味しい美味しい「いよかん」として、食われておしまいかと思われた、あわれな犠牲者サンのシャサン。
意識が戻り、目を覚ますと、彼はどこかの神社の拝殿の中に居て、両手両足を縛られていた。
「両手両足」だ。シャサンは安堵した。
人間に戻れたのだ。ああ、助かった……

「『助かった』? どうだろうねぇ?」
途端、目の前の巫女姿がニヤリ、にやり。
銀色の狐耳と狐尻尾はピコピコ、ゆらゆら。
「化け狐」。シャサンの脳裏に3文字が浮かんだ。

「あんたをミカンにした若い子ちゃんが、
何故あんたが管理局に忍び込めたか、あんたのアジトがどこに在るのか、聞き忘れたらしくてね」
したり、したり。ぱたり、ぺたり。
化け狐の女はイタズラな笑顔で距離を詰めてくる。
「私は、元世界線管理局員、先代の『キツツキ』」
人差し指と中指で、シャサンの胸を――心臓のあたりを、コン、コン。 まさしくキツツキが樹木にそうするように、突いてくる。
「尋問……査問官をしていたのさ。こうやって」
コン。化け狐の中指がシャサンを強く叩くと、
ああ、 指が、手が、 シャサンの中に、
シャサンの、記憶と魂の奥底に。

――…「『法務部情報管理課キツツキ前査問官』。
管理局に『黒穴』のノウハウを提供した張本人。
経理部の先代『スフィンクス』、つまり今の『ノラ』査問補佐官と実質上のタッグを組んだ方だ」
同時刻。場面は変わり、拝殿近くの小さな座敷。
シャサンに忍び込まれた管理局の従業員2名が、上記「化け狐」について、情報を共有している。
ギャーギャー悲痛な、あわれな犠牲者の大声がわずらわしいものの、仕方無い。気にしてはならぬ。

「元々、俺達が現在専売特許として使っている『黒穴』、世界と世界の間の距離をほぼほぼゼロにできる術は、『ここ』の世界に存在していたんだ」
火の付いていないタバコを噛みながら、2名のうちの片方、ルリビタキが言った。
「『稲荷神術:狐の巣穴』。魔法より科学に舵を切ったこの世界では、ほぼほぼ失われた秘術だ。
それを、ここの稲荷神社の狐が、俺達管理局に」

「私達の管轄外の『黒穴』がこの世界にあるのも、そもそも元々『黒穴』の原型が、この世界のものであったから、ということですか」
「イタズラギツネの大イチョウ」も、これで説明が付くわけだ。 ルリビタキの情報に、2名のうちのもう片方、ツバメが納得して数度頷く。
イタズラギツネの大イチョウとは?
詳細は前々回投稿分参照である。
スワイプが面倒なので、気にしない、気にしない。

「まさか、彼女の孫狐が最近、ウチの局のセキュリティをすり抜けて遊びに来るのも?」
「いや。それは完全に、ウチの受付連中の手引だ。
ただ、あの末っ子子狐、『ばあちゃん』のチカラを『父親』以上に引き継いでるらしくてな。
『母親』の霊力がカンフル剤になったんだろうさ」
「『距離』のチカラを?」
「『距離』以外にも。おそらく他の概念も」

「やー、久しぶりに管理局時代を思い出したよ!」
こんこん、コン。2名の会話に、狐耳と狐尻尾の巫女姿が、上機嫌で割り込んできた。
手には赤と白で編まれた少々太めの1本縄。
その縄は成人男性ひとりをぐるぐる巻きにしており、それはすなわち虚ろな目を晒して気絶している犠牲者サン、もといシャサンであった。
「懐かしいねぇ。百何年ぶりにヤンチャしたね」

ほら。コレが欲しいんだろう。
化け狐がルリビタキに差し出したのは、1枚の紙切れ。シャサンから抜いた情報のメモである。
「なるほど」
ルリビタキは軽く礼をして、すぐさまツバメの背中をたたき、退室をうながした。
「管理局にとんぼ返りだ」
ルリビタキが言った。
「先月11月2日あたりの、例の『永遠』の一件が、酷いところに飛び火した。
局の収蔵品が――とびきりヤバいのが狙われてる」

12/1/2024, 3:33:47 AM

「泣かないでください、ここで泣かないでどうするの、泣かない-でも哀しい。
ある程度の変化球は書けそうだけど、ぶっちゃけそこまで、キレイな感情を美しく書けねぇのよ」
だって、俺のオハコ、食い物ネタだぜ。食い物でどう涙を書けって? 某所在住物書きはカップうどんをすすりながら、味変したくて七味を少々。
喉の痛いところに引っ付いた。落涙。

「玉ねぎで『泣かないで』は、書けそう」
いつかそれで投稿するか。物書きは呟く。
予定は未定。しかしメモしておけば、忘れない。

――――――

前々回から続く一連のフィクションファンタジー。
「ここ」ではないどこか、世界を繋いだり保護したり、あるいは監視したり、警察のような博物館のような業務もおこなう、不思議な組織のおはなし。
そこは「世界線管理局」といい、ワールドワイドどころか幾百・幾千の異世界と渡り合う巨大組織。
滅びた世界の財宝、滅ぼされた世界の最終兵器、滅びに向かっている世界から回収した情報資源等々も、多数収容・保全管理されている。

盗み取ろうと忍び込むネズミは多い。
今回のお題回収役は特に、管理局が持つ情報と資金を狙って、数十人の精鋭を集めて潜り込んだ。
管理局内の各課に散らばって架空の伝票をはじき、
少額ずつ、しかしチリツモ方式ですみやかに、管理局から巨額の経費を吸い取る。
お題回収役の「彼」は、経理部担当である。

ところで最近泥棒仲間が「管理局員からハウスみかんを貰った/それを食った」という連絡を最後にパッタリ姿を消す事例が急増している。
「彼」も――ギ・S・シャサンも、経理部の「先輩」からハウスみかんを受け取った。

美味そうだ。 皮をむく。果肉をかじる。
甘酸っぱい幸福なジュースがくちのなかにひろがり
それは とても かぐわしく

――…「よぅ。お目覚めかい。いよかん」
パン! シャサンの目の前で、ねこだましの拍手。
一瞬で意識が戻ってきたシャサンは、自分が経理部ブースのコタツに座っている事実を認識した。
「ハウスみかん、美味かっただろう。アレはイチバンの一級品さ。数年に1個の逸品だ」
目の前でニャーニャー鳴いているのは「万年コタツムリ」の若い女性。ビジネスネームをスフィンクスといった――無毛の寒がり猫が由来だろう。

「取り敢えず、聞きてぇことが山程あるんだ。この俺様と、なぞなぞ大会でもしてくれよ」
にゃーにゃー。スフィンクスは言った。
「なぁ。いよかん」
相変わらずシャサンを、いよかんと呼んでいる。

「要するにオチが『そういうこと』」である。
シャサンもすぐ、「その可能性」に勘付いた。
いやまさか。そんな非科学的な。非人道的な。
世界線管理局は世界の円滑な運行と平和と、治安の維持をつかさどる正義のヒーローだろう?

「あ?正義のヒーロー?イイなソレ」
スポン、スポン。 スフィンクスがコタツに手を入れ、何かのボタンを押すたび、コタツの上の網カゴにみかんが増える、増える。スポン。
「次の『ソシャゲ版』で、ヒーロー・ヒロインコスガチャの実装でも、広報課に掛け合ってみるか」
スフィンクスが、ひとつ、みかんをつまむ。
「アイデアのお礼に、教えてやるよ。

アンタに食わせたハウスみかん、とぉーっても、美しい魂だったぜ。管理局から資金チューチューしようとしてたネズミのわりにな。
最後まで崇高だったよ。『あいつには手を出すな』、『この命にかけても、あいつの潜伏場所は絶対に吐かない』。涙ぐましいね!俺様感動しちゃった。
つまり、あいつ、俺様の『なぞなぞ大会』には全問不正解っつーか、無回答だったってワケ。

美 味 か っ た だ ろ う ?
『セイ』ってミドルネームだった」

途端、シャサンはすべてを理解した。
シャサンが――ギ・セイ・シャサンが冒頭で食った「ハウスみかん」は、己の弟であったのだ。
そうだ。美味かった。甘酸っぱい幸福なジュースで、とても、かぐわしくて。
あっという間に食い尽くした。皮と筋は捨てた。
「ぁ、あ……」
あれが、つまり、ああ。コタツの上のみかんは。

「泣くなよ。なぁ。『泣かないで。ギ兄ちゃん』」
によろるん。スフィンクスが嗜虐に笑った。
「アンタもきっと、イイいよかんになるよ」
彼女の手には、ケーブルで繋がったコントローラー。みかんのイラストのボタンに指が置かれている。
「味は弟のハウスみかんの劣化版だろうけどな。
それとも、俺と『なぞなぞ大会』する?俺にアンタの情報、全部流してからにする?」

第1問。アンタらの親玉、だーれだ。
スフィンクスが笑う。指に力を入れる。ああ、押される、答えなければ、「押されてしまう」――

「そこまで!」
遠くから響く男声が、スフィンクスの指を止めた。
「それ以上の敵性組織の『消費』は許可しません。
スフィンクス査問官、その男を我々法務部に、即刻引き渡してください」
「法務部」。シャサンの緊張は一気に解けて、安堵と安心に涙が溢れ出した。
良かった。助かった。命だけは救われtn

   スポン。

11/30/2024, 4:04:15 AM

「11月17日が『冬になったら』、14日が『秋風』で先月10月18日が『秋晴れ』。
去年と同じお題なら、12月も季節の、特に冬のネタはバチクソ渋滞するんだわ……」
まぁ、そもそもこの「書く習慣」、季節ネタと雨ネタと、それから年中行事ネタに空ネタにエモネタでほぼ過半数と思われるから、ぶっちゃけお題の重複なんざ日常茶飯事なのよな。
某所在住物書きは完全にコタツムリならぬ毛布ツムリ。おお、ぬくもりの中で食うポテチの美味さよ。

「去年は『ぶっちゃけ最近「冬のはじまりが迷子」』ってハナシを書いた気がする」
物書きは言う。
「今年は冬っつーか、秋も迷子だったよな……?」
一応、北日本では今雪が降っているらしい。

――――――

大きな樹、美しい泉、高い山にありがちなハナシ。
すなわち「何がそこに居るか」、「何故そこに在るか」を辿る、不思議な不思議な物語。
花咲き風吹き渡る雪国に、樹齢数百年とも千年とも言われるイチョウの大樹があり、
まさしくお題のとおり、「冬のはじまり」の頃、他のイチョウから遅れに遅れて見頃を迎える。
大樹の下には小さな小さな祠があり、
それは「イチョウギツネの祠」と言われている。

『他のイチョウより遅れて、冬のはじまりにようやく色づくのは、きっと理由があるに違いない』
『狐だ。きっと狐がイチョウに化けているのだ』

『昔々、悪い狐が妖術で、この場所に黒い穴をこさえて、そこから魑魅魍魎を招き入れ、
悪行の限りを尽くしたものの、その悪行のせいで狐の母親が病に弱り、倒れてしまった。
ようやく己の所業を悔いて、泣いて、反省したイタズラ狐は、イチョウの大樹に身を変じて、自分でこさえた黒い穴を塞いだのだ』
『寒くて寒くて、変化が解けそうになるから、冬のはじまりに葉が狐色になるに違いない』
イタズラギツネの大イチョウは、数百年、上記のおとぎ話を現地住民と共有してきた。

で、ここからがようやく本編。
「イタズラギツネの大イチョウ」のおとぎ話をガチで本気にしている成人男性が約2名。
別の「黒い穴」を実際に、業務として管理・運用している、「世界線管理局」なる所属の2名である。

――「実際に来て見ると、デカいな」
冬のはじまり、イタズラギツネの大イチョウが見頃の早朝。野郎2人がポツンと、感嘆のため息を真っ白に吐き出して、黄色の氾濫を見上げている。
「これが、『イタズラギツネ』か」
この下に「黒穴」が、実際にあるとしたら、相当な規模だが。どうだろうな。
男その1はポツリ呟くと、「この世界」に売っていない銘柄のタバコで口元を隠し、深く吸って、灰もろとも携帯灰皿に吸い殻を押し付ける。

双方、「ここ」ではないどこかの住人であった。

「現地の方々には、丁度良い観光名所ですね」
男その2は非喫煙者らしい。流れてくる煙を片手で軽く払いながら、手元の小さなタブレットを見る。
「異なる世界同士を繋ぐ『黒穴』は、『この世界』の人類からすれば、非科学的なフィクション。
彼等が『それ』を発見すれば、大騒動の大混乱だ」

へっッ、くしゅん!! 雪国の寒さに、その2の方が小さなくしゃみをひとつ。
現地の気温は一桁前半で、明るい晴天に白い雪。
なぜこんな悪天候に、わざわざ彼等は雪国へ赴いたか。「冬のはじまり」のお題のせいである。
しゃーない。

ピリリリリ、ピリリリリ!――途端、着信音。

『やほー、バチクソ久しぶりぃ。俺だよん』
男その1、喫煙者の端末に音声通話。
『経理部が、「何回呼び出しても繋がらない」って。「すぐ帰ってきてほしい」だってさ』
「スフィンクス」が早速「ドSふぃんくす」してるらしいから、早めに行ってあげてね〜。
ひとしきり伝えることだけ伝えて途切れたそれは、野郎2名の昔の同僚。過去の同期。

「で、なんですって?」
非喫煙者が喫煙者に訪ねた。
「先代の『ハシボソガラス』からだ」
喫煙者が口にしたのは、通話相手が昔名乗っていた、いわゆるビジネスネーム。
「経理部でスパイが見つかったらしい。先月から忍び込んで、俺達の資金と情報を持ち出していたと」

冬のはじまり早々から、随分とまた、面倒なハナシが続く。 喫煙者は完全に携帯灰皿をしまった。
「行こう」
ぽつり。喫煙者が非喫煙者に呼びかけた。
「戻るぞ。俺達の『世界線管理局』に」

冬の風が吹き、イタズラギツネのイチョウの葉を巻き上げ、いつの間にか2人の姿が消える。
その後の展開については次回投稿分の展開となるが、特に劇的な物語となるワケでもないので、ぶっちゃけ、気にしてはいけない。

11/29/2024, 3:44:05 AM

「終わらせないで欲しい、なのか、終わらせないで良かった、なのか。他にも色々考えつきそうよな」
昨日18℃だった東京の、今日の最低気温が7℃。
去年は20℃から6℃に落ちていたらしいので、それよりは、ひょっとしたら快適、かもしれない。
某所在住物書きは、モフモフにしてフカフカな、偉大なる2枚合わせハーフケットを肩より羽織って、ぬっくぬくの至福に浸っていた。
誰かが「肩は寒さを感じやすい」と言っていた。
事実か虚偽かは知らない。

「個人的にはな」
物書きは呟いた。
「コンビニのおでん、冬限定は惜しい気がすんの。いろんな具の出汁吸ったスープがたまんねぇのよ。
冷やしおでんとかで夏、いや、需要少ないか……」

――――――

まさかまさかの続き物。前回投稿分から、1日か2日経った頃のおはなしです。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、そのうち末っ子の子狐が今回のお題回収役。不思議な不思議な、稲荷の子狐です。

子狐は家の中の秘密の部屋の、ぽっかりあいた黒穴を通って、不思議な職場に辿り着きました。
辿り着いた不思議な職場は、動物のビジネスネームを採用する職場で、子狐は「ノラ」、「野良」を名乗るおばあちゃんの腕の中で、丸くなって、すやすや、幸福にお昼寝をしたのでした。

ここまでが前回投稿分。
ここからが今回のお題回収。

「ノラばーば、ノラばーば!」
コンコン子狐、すっかりノラばーちゃんに懐いてしまいまして、その日も秘密の部屋の黒穴を通って、例の職場へ向かいました。
ノラばーちゃんは、コタツの中で毛糸の編み物をして、ちっともジャーキーをくれませんでしたが、
それでも、子狐は優しいノラばーちゃんを、すぐ大好きになってしまいました。
「ノラばーば、きょうも、会いたい!」

秘密の部屋の、不思議な黒穴を通って、コンコン子狐は「ここ」ではないどこかの職場へ向かいます。
「ここ」ではないどこかの職場の、受付窓口をひらりと抜けて、コンコン子狐は「経理部」と書かれたブースへ。陽光当たるコタツへ向かいます。
先日、そこでノラばーちゃんと会ったのです。

「ノラばーば!」
コタツで今日も編み物をしているノラばーちゃんを見つけて、コンコン子狐は尻尾をぶんぶん!
「ノラばーば!」
今日もキツネを撫でて。キツネといっしょにネンネして。子狐は猛ダッシュでノラばーちゃんに……

「確保ッ!!」
ノラばーちゃんに、突撃しようとしたら、
「お前か。先日、俺様のコタツに来た子狐は」
前回投稿分で爆睡していたコタツムリ姉さんが、
がばちょ!子狐を捕まえてしまいました!
「あ〜。あったけぇ。やっぱり、魂ある生き物のぬっくぬくは、格別だぜぇー」
コタツムリ姉さんは、子狐をぎゅっと抱きしめて、すりすり、スリスリ。
「よし。お前の名前は今日から、ゆたんぽだ!」
子狐を、ちっとも逃がしてくれませんでした。

「なにするの、なにするの!はなして!」
「やーだね。ゆたんぽ、テメェはこれから、俺様の湯たんぽだ。俺様の膝の上でネンネしろ」
「はなせ!しらないおばちゃん!はなせっ!!」
「おばちゃんじゃねぇ!俺様は『スフィンクス』。この経理部で最も寒がりな万年コタツムリだ」

コンコン子狐、「スフィンクス」と名乗ったコタツムリ姉さんから逃げたくて、前あんよも後ろあんよもジタジタバタバタ。必死に動かします。
「へへへっ。ゆたんぽ。お前は、あったかいなぁ」
だけど、スフィンクスは、のらりくらり。
子狐のジタバタパワーを器用に逃がして、ぎゅっと、抱きしめ続けます。
「なぁ、ゆたんぽ。ハウスミカン食わねぇか。ハウス食って、コタツの中に入らねぇか」

逃さねぇぜ、ぐへへ。
スフィンクスがコタツの上の、どっさり積まれたカゴからミカンを、ひとつ掴んで子狐のクチに……

「そこまで」
子狐のクチに、ミカンが突っ込まれる前に、
タバコの香りのするおじさんが、子狐をスフィンクスから引き剥がしてくれました。
「こいつは俺達の管轄だ。勝手に所有物にするな」
オッサン!オッサンが、たすけてくれた!
子狐はタバコのおじさんを知っていたので、ぶんぶんぶん!尻尾をバチクソに振り回します。

「茶番は終わり。業務に戻れ。泥棒猫」
タバコのおじさん、子狐を抱えて言いました。
「あーん?法務の小鳥サマが何か鳴いてんな?」
対してスフィンクス、すぐには引き下がりません。
「こちとら、ゆたんぽと取込み中だ。お楽しみを勝手に終わらせないでほしいんだが?
なぁ、ルリビタキ部長。デコポンぶつけるぞ」
タバコのおじさんとスフィンクスの口喧嘩は、その後コンコン5分ほど、続きましたとさ。

11/28/2024, 3:00:13 AM

「愛情1本、愛情サイズ、愛は食卓にある、今日を愛する。……愛情と愛の違いって何だろな?」
アイ ラブ マニー、その神引きがアイラビュー。某所在住物書きは「愛」に関するキャッチコピーを検索しながら、もしゃもしゃ、むしゃむしゃ。
サンドイッチなど食い、コーヒーをすすっている。

「書く習慣」のアプリに恋愛のお題は多い。今年の3月からのカウントで、「愛」の字を明確に含むお題だけでも、これで5回目である。
「『恋』も含めればもっと増える」
で、俺が去年の10月31日に投稿したハナシに出した低糖質キューブチョコのモデル、来月値上げだって?――物書きは呟き、ため息をひとつ。
愛情とは何だろう。味は?価格は?

――――――

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、最近、お父さん狐の隠し部屋にある黒い穴から、「ここ」ではないどこかの職場に忍び込むのがトレンド。

そこは非常に、厨二設定はなはだしい職場です。
「世界線管理局」といって、あっちの世界からこっちの世界への渡航の申請を受理したり、
そっちの世界が別の世界に悪さをするのを監視したり、もしくは止めさせたり、
あるいは、滅びそうな世界を保全したり、
既に滅んだ世界の欠片が、どこかの世界に流れ着いて、良くない影響を及ぼす前に回収したり。
要するに、とってもフィクションでファンタジーなことを、ガチで仕事にしている職場なのです。

で、そのフィクションファンタジーな職場の受付職員、癒やしにバチクソ飢えてるらしく、
子狐が来ると、やれジャーキー、それモフモフと、完全にお祭り状態。子狐それが楽しいのです。
なお、偉い法務部さんにバレると叱られます。
コンコン子狐、ジャーキースニーキングなのです。

さて。そんなこんなの子狐です。
今回のお題が「愛情」ということもありまして、
愛情たっぷりな高級ジャーキー、あるいは愛情どっぷりな頭ナデナデ、おなかスリスリが欲しくて、
その日もその日とて、お父さん狐の秘密の部屋から、世界線管理局に堂々潜入、
できたのは、まぁまぁ、良かったとして、
どうやら子狐が忍び込んだのがバレたらしく、もう既に、子狐の知らない法務部職員がスタンバイ。子狐を追い返すべく、目を光らせています。

「きょうは、ほかのところをタンケンしよう!」
みすみす、おとなしく捕獲されて、黙って強制送還されてやる子狐ではないのです。
受付の窓口を抜けて、子狐の背丈が小ちゃいのを良いことに、するり、するり、コンコンこやん。
稲荷の狐の不思議なチカラも上手に使います。
そしてコンコン子狐は、「経理部」と書かれた、陽光よく当たるポカポカブースに、やって来ました。

ところでこのフィクションファンタジーな管理局、ビジネスネーム制を採用しておりまして、
経理の職員は全員、猫に関係した名前で統一されているんだとか。にゃーにゃー。

「なんか、みんな、ごーいんぐまいうぇい」
コンコン子狐、経理の職員を見て、気付きました。
経理部の職員は、みんな、自分の思い思いの場所で仕事をして、自分の思い思いのタイミングで休憩しているようなのでした。
ほら、目の前に、大きめのコタツがあります。
そこには、ぐーぐー爆睡しているコタツムリなお姉さんと、ちまちま編み物をしている優しそうなおばあちゃんがいます。

「あら。かわいい子狐ちゃん」
優しそうなおばあちゃんは、「ノラ」、「野良」と名乗りました。そして愛情に満ちた笑顔を子狐に向けて、子狐を腕の中に迎え入れました。
「あなたのことは、知っているわ。最近しょっちゅう、管理局に忍び込んで、法務部を困らせている、『稲荷神社の末っ子子狐』ちゃんでしょう。
悪い子ね。あなたのおばあちゃんに、そっくり」
子狐を抱き寄せるノラばあちゃんは、とっても温かくて、とってもいい匂い。子狐はすぐ、ノラばあちゃんを好きになりました。

「おばーばのこと、しってるの?」
「よーく知ってるわ。昔一緒に働いていたのよ。そして若い頃、一緒にね、やんちゃしてたの」
「ヤンチャ?」
「そう。やんちゃ」

さぁさぁ、今日はどこの部署にもイタズラしないで、おばあちゃんのところでおネンネなさい。
ノラばあちゃん、子狐をモフモフとフカフカで包んで、ゆっくりゆっくり、背中をなでます。
それは正しく愛情で、それは正しく優しさでした。
愛情と優しさに包まれて、こっくり、こっくり。
コンコン子狐はものの数秒で寝落ち寸前。
その日はなんにも迷惑かけず、どこからも叱られず、幸福にお昼寝して過ごしましたとさ。

Next