かたいなか

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11/15/2024, 3:07:14 AM

「秋風に『邪』の字をつければ、秋風邪ネタよな」
駆逐艦秋風に、松尾芭蕉の句「物言えば唇寒し」。
なかなか物語に組み込めそうなネタが無い。
某所在住物書きは結局、このアプリを入れて合計3回目(あるいはそれ以上)の風邪ネタを投稿することにした――本当にネタが思いつかぬのだ。

「インフルエンザとかが流行し始める時期よな」
と物書き。先日、全国的な流行期に入ったとの報道を、観たような、気のせいのような。
「あきかぜ。アキカゼなぁ……」
今年の秋風は、ちゃんと肌寒くなるのだろうか。

――――――

わたくし、後輩こと高葉井、
諸事情で今月の生活費がキッツキツでございまして、週末の推しゲー非公式イベント用の軍資金4万5千円を抜いて、ジリ貧でございます。

2月まで一緒の本店で仕事をしていた先輩と、
生活費および料理の水道光熱費節約を目的として、
なにより、私自身、気温差とか自律神経の影響とかで、ガチで体がダルくなることが時折あるんで、
数年前からシェアランチ・シェアディナーなんかをしてもらってる仲だったおかげで、
今日から給料日まで、先輩が、ごはんやお弁当をシェアしてくれることになりました。

ありがとうございます。
(戦利品仕入れ費用には極力手を出せぬ)
ありがとうございます。
(多分この4万5千円は来週には消えてる)
今、私のお財布には、秋風が吹いております。

さて。 今日がその、シェアごはん初日。
私の冷蔵庫からも食材を整理して、今日使えそうなのを引っ張り出してきて、
さて先輩のアパートへ出発、と思ったら、

ピンポン、ピンポン!
インターホンが鳴って、ドアを開けると、
郵便屋さん風のポンチョを付けた子狐が、部屋の中にとたたっ!入ってきた。
先輩のアパートの近所にある、不思議な稲荷神社に住んでる子狐だ。 あるいは、先輩がお得意様認定されてる茶っ葉屋さんの、看板子狐だ。

ヘソ天のポンポンおなかに、手紙がくっついてた。
『秋風邪を引いた。 本日に限り、晩メシおよび明日の弁当の用意ができない。
茶葉屋の店主が気を利かせて、常連専用飲食スペースのまかない飯を分けてくれるそうなので、
手数だが、自分で取りに行ってほしい。
 追伸:見舞いには来るな 藤森』

「あのお茶っ葉屋さんの、まかないか……」
見舞いに来るなって、どういうことだろう。

…――子狐くんと一緒に茶っ葉屋さんに行くと、店主さんは私をすぐ見つけて、レジ袋に入ったホッカホカのテイクアウトボックスを差し出した。
「事情はお得意様より、伺っています」
店主さんが言った。
「お得意様には日頃から、よくよくヒイキ頂いています。これくらい、ご愛顧特典としましょう」
中身は分からないけど、すごく良い匂い。
優しい甘じょっぱさを連想させる匂いだ。

「ところで、」
お礼を言って、お茶のテイクアウトを買って帰ろうとしたら、店主さんに呼び止められた。
「お得意様のアパートには、決して、けっッして、
お見舞いに行っては、なりませんよ」

そこまで言われたら逆に「行ってください」に聞こえるんだけど。そうだよね。間違ってないよね。
で、ご要望どおり、先輩のアパートに行った。
合鍵は借りてたから、それで部屋のドアを……

「あだだだだだだ!!!
ちょっ、待、あの!! 少し加減を!!」
「数時間で、秋風邪を治したいのでしょう。
狐の薬を使ったお灸とツボは、よく効きますよ。
ほら、 ほら。 もういっちょ」
「あ、 っぐ! ぎゃおぁぁああぁあぁ!!!」

……開けたら、あの静かな先輩の、聞いたことない断末魔が、聞いたことない声量でぶつかってきて、
「はい、これでヨシと」
「が…………ッ!!!」
こと切れちゃったと思しき先輩の、さいごの悲鳴を聞きながら、私は先輩の部屋のドアを閉めた。

なんだアレ。
(たしか茶っ葉屋さんの店主さんの旦那さんだ)
なんだ、アレ。
(病院で漢方医をやってるって聞いた)

翌日先輩は宣言通り、1日いや数時間で秋風邪治して、私のシェアランチを用意してくれたけど、
首筋や手のひら、足の裏なんかをさするあたり、お灸とツボの痛みを、まだ覚えてるんだと思う。

11/14/2024, 3:46:30 AM

「ホントに去年は、ラクだったんだよ。事前に『この物語で行きましょう』があったから」
また会いましょう――どこで?誰と?いつ?
某所在住物書きは去年投稿分を参照しながら、しかしさすがに「それ」のコピペを今回貼り付けるワケのは難しいと、天井を仰いだ。
相変わらずだ。相変わらずの難度である。

「登場人物AとBが恋仲でした。
BがバチクソにAの心を砕いたので、Aは逃げましたが、Bが追ってきました。
CがAの背中を押し、応援してくれたので、Aは面と向かって、Bに言いました。『私はもう、あなたを愛してません。それでもヨリを戻したいなら、赤の他人として、また会いましょう』。
……それ以外のネタで『また会いましょう』?」
何書こう。物書きは小首を傾けて、カキリ。
相変わらずなのだ。相変わらずの途方であった。

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室、夜。
部屋の主の名前を藤森といい、ぼっちでそこに住んでおるのだが、今日は客人が居る様子。
今年の2月まで同じ職場の同じ本店で仕事をして、今は諸事情で支店に異動となった後輩である。
彼女は神妙な面持ちで、藤森と相対し、テーブルを挟んで向かい合って座って、共に食事をしている。

「付烏月(つうき)から、大体の話は聞いている」
テーブルの上に並べられた料理のメインはパスタ。
レトルトミネストローネとツナ缶と、隠し味に少しのマヨネーズを使った、トマトツナスパゲッティ。
よく煮詰められたミネストローネは、ツナ缶とマヨネーズによくよく混ざり合って、
とろとろ、とろり。パスタとよく絡む。
「一応、お前の言葉で、経緯と要望を聞きたい」
パスタのソースを湯でといて、申し訳程度の野菜を足したスープに口をつけ、藤森が言った。
「で?」

「昨晩、私が走ってるソシャゲで、試験的アップデートが入って、ミニゲームが追加されたの」
「そうか」
「そのミニゲーム、私の推しキャラ2人の、新規収録ボイスが、バチクソに頑張れば聴けるの」
「そうか」

「どうしても聞きたくてちょっと課金しました」
「はぁ」
「更にミニゲームモチーフの、推しの新キャラ2人と、『鳥頭&駄犬タッグ』って界隈で言われてるタッグカードも、限定ガチャに初登場したので、」
「うん」
「最高レア選択可能確定チケットに課金しまして、
ガッツリ、完凸まで、済ませました」
「……」

「今週末の非公式イベントの、戦利品仕入れ費用5万に5000円だけ手をかけてしまいまして」
「それで」
「給料日までガチでお金キツいので、シェアランチとシェアディナーお願いします」

室内に、穏やかな、しかし長いため息が混じった。
「お前には、」
藤森が言った。
「去年の大きな恩がある。金の貸し借り以外であれば、私もお前の困りごとには原則、応じる」
だがな。と藤森。 勝ち確定ムーブで目をキラキラさせて握手を求める後輩の、手を一旦しりぞけた。
「ソーシャルゲームへの課金額を見直せば……」

課金額を見直せば、生活も楽になるのではないか。
言いかけた藤森の言葉を、今度は後輩が制した。
「じゃあ先輩は欲しい本が有ったら我慢できる?」

「ぐっ、」
「めっちゃ分かりやすい法律の本、めっちゃ分かりやすい医療の本、脳科学、心理学、植物、お茶。
買うでしょ。我慢できないでしょ」
「ちがっ、違う、私は、」

「嘘いつわり無く、真実を述べよ」
「……買います」

分かった。わかったよ。参った負けを認める。
静かな部屋に、再度、藤森のため息が混じる。
「今日の残り物でも良ければ、お前の明日の朝メシと弁当を、30分程度で用意する」
藤森が言った。
「給料日までの計画とメニューは、お前の今の冷蔵庫の中身と賞味期限、および消費期限次第だ。
場合によっては、『去年』の恩をこの数日で返す」

ということで、明日の終業後、また会いましょう。
3度目のため息の後で、藤森と後輩は双方、箸をトマトツナスパゲッティへ。
少し冷めた感こそあるものの、元々、熱々の皿。
唇に、舌に当たる分には、丁度良い温度であった。

11/13/2024, 3:50:18 AM

「今回のお題は『スリル』の3文字!
去年は楽勝、今年どうしよう?
体験談ネタ?共感生む話題?
過去作コピペは要検討?
たったひとつの『いいね』求める、
見た目連載風、中身ほぼ飯ネタ!
その名は、食いしん坊かたいなか!」

突然、特定の楽曲を再生しながら、若い世代には伝わらぬポージングを始める某所在住物書き。
――20年以上前である。伝わるものか。しかし物書きには「スリル」といえば、あの「見た目は子供」のパラパラなのだ。仕方無い。

「……俺の誤字とかサイレント修正とか、現代知識との矛盾とかがいつバレるかはスリルだと思う」
なるべく投稿前には一度音読して、誤字チェックはしている、つもりなのだ。

――――――

最近最近の都内某所、某職場の某支店、昼休憩。
お題回収役の名前を後輩、もとい高葉井といい、
スマホにかじりつき、タップタップ、スワイプ、ドラッグ。ソーシャルゲームに真剣。
前日の夜遅く、2時間のメンテナンス延長を経て実装された、試験的アップデートにご執心。

ガチャ周回サポート用のミニゲームである。
そこそこの高難度ながら、リターンが神。
ガチャ石は勿論のこと、11連ガチャチケットや、
その気になれば100連チケット、
望めば最高レアの選択確定チケットまで、到達レベルと確率と、課金と広告のチカラで手に入る。
界隈にはサ終間近のウワサが飛び交った。
あまりにもアイテムが大盤振る舞いだから。
実際は広告収入増加および、広告削除の50日500円オプションへ誘導できるかの実験である。

高葉井が求めていたのは100連チケットでも最高レア選択確定チケットでもなかった。

「名接待コリー、っていうミニゲームなの」
高葉井は言う。
「デフォルメされたワンコのコリーを操作して、法務部実動班の局員に見つからないように、受付の待合席に座ってるモフモフキュートキャラにお菓子をあげて回って、自分の席に戻って来るの」

レベルが上がるごとに、「見つからないように」の敵性キャラは増えて、「お菓子をあげて回って」のモフモフキュートキャラには偽物が混じる。
自機といえるキャラの操作には、一瞬の判断と空間認識、それから偽物への観察眼が求められた。
そしてなにより、驚異的な集中力が。
あるいは財力、もしくは広告視聴の忍耐が。

「最高レアを選択できて、かつ確定なアイテムが手に入るなら、そりゃ頑張るよねー」
後輩ちゃん頑張って〜。
高葉井の向かい側でのんびり大きなチキンカツサンドなど食うのは、同僚の「付烏月」と書いてツウキ。

「レア選択確定チケット?」
淡々と反論する高葉井。彼女もサンドイッチをミニゲームの合間合間につまんでいた――ひとくちサイズの、スッと取ってパッと放り込める、すなわち「ゲームの進行を妨げない最適解」を。
「レア選択確定チケは、お布施すれば何枚でも手に入るから、私には重要じゃないんだよね」

お布施すれば。課金すれば手に入る。何枚でも。
付烏月は高葉井の言葉で悟った。
彼女はガチだ。少なくとも末席には確実に居る。
「食費に手を出してからが本番」を実践する「ソシャゲを支える者」のひとりだ。

彼女は何度、生活費と課金費用の境界を攻めて、そこにスリルと緊張を見出しただろう。

「チケットはね。課金すりゃ手に入るの。
でも高いレベルのステージでしか出現しない推しキャラの、コリーを捕まえたときの新規収録ボイスは、なんぼ課金したって絶対手に入らないの。
これよ。私が欲しいのは、これよ……」

ぱく、ぱく。もぐもぐ。
高葉井のサンドイッチは高葉井自身のスリルの高まりとともに、減って、減って、無くなって。
途端黙り込んだ彼女はミニゲームの鬼か求道者。
昼休憩の終盤、ぽつり最後に言ったのは、完全にプレイ中のミニゲームの操作キャラのセリフ。
「こいよ、ツバメ、『とりあたま』……!」

ああ、これは、明日も続きそうですな。
付烏月は容易にそれを予測できたし、彼女の給料日までの残り1週間がワイヤーの綱渡りほどの高難度となることもまた、見越すことができた。

11/12/2024, 2:56:17 AM

「ヒクイドリ、ペンギン、ダチョウ。『飛べない鳥類』は結構多いんだわ」
ニワトリも、「『あんまり』飛べない翼」の持ち主だったな。某所在住物書きは去年の投稿分を確認しながら、ずるずる、ちゅるり。
某チキンのラーメンなど、すすっていた。
個人的に卵は入れぬ。そのまま食いたい。

「クマバチは、『本来なら』、飛べないんだっけ」
でもアレは、翼じゃなく羽だもんな。と物書き。
クマバチは理論上飛べない、という話を聞いた――飛べない翼で、気合で飛んでいるらしい。

――――――

職場の同僚から、ススキまんじゅうってのを貰った。おまんじゅうの上に、白ごまのラインで3本線、ススキが描かれたおまんじゅうだ。
なかなか美味しかったんで、ちょっと貰って、長い仕事上の付き合いの先輩におすそ分け。
今年の2月まで一緒に本店で仕事してたけど、諸事情で、私は支店へ。先輩は本店の別の部屋へ。

ところでその先輩とは、
生活費および食費ならびに料理から生じる水道光熱費の節約を目的として
時折食材だの調理費だの持ち寄ってシェアランチ・シェアディナーなどしておるのですが。
私、値引き品獲得の戦場的時刻に、半額の手羽元と手羽先をゲットする大偉業を成し遂げまして。

早速、先輩のアパートへ、戦利品とススキまんじゅうを届けに向かうのです。
飛べない翼になってしまった鶏さんの、飛べない翼になってしまった手羽元と手羽先を、
ありがたく、美味しく、頂くのです。

「ご要望通り、材料は整えておいた」
私の注文を事前にチャットで聞いてた先輩は、コンソメの粉スープとクラッシュタイプのオートミールと、それから少しの野菜を揃えてくれてた。
「鶏肉を使った、オートミール入りのオニオンコンソメ。随分とピンポイントなオーダーだな?」

部屋には先輩の他に、「エキノコックス・狂犬病対策済」の木札を首からかけた子狐が居て、
先輩の髪の毛でかじかじ、遊んでた。
アパートの近所、稲荷神社の子狐だ。
ロックやセキュリティーはちゃんと整った部屋なのに、何故かそのロックもセキュリティーもスルーして、部屋に入ってくるらしい。
こやーん(コンコンかわいいです)

「去年の今日、そういえば食べたなって」
「『去年の今日』?」
「オニオンとレタスと、鶏と、オートミール入りのコンソメスープ。去年の今日。」
「はぁ」
「それ食べながら、先輩の『名字』と『名前』と、『加元さんとの最終決戦』のハナシをした」
「そうだったか?忘れてしまった」

結構重要な記念日、イベントでしょ。
あの日の手羽元、忘れたとは言わせないけど。
そう思いながら買い物バッグのチャックを開けて、手羽元と手羽先のパックと、それから同僚から分けてもらったススキまんじゅうを出す。
「『また会いましょう』発言から、1年だね」
しんみり。私がひとつ、ため息をついて先輩に、
手羽先のパックを手渡そうとしたら、

突然先輩の髪をかじかじしてた子狐ちゃんがせわしなくなって、鼻を忙しく動かし始めて、
その鼻が手羽先パックに付いた瞬間、
ばくっ!!
と手羽先パックに噛みつき、引ったくり、
バチクソにぶんぶん尻尾を回して遠くにダッシュ。
メッチャくぅくぅきゃうきゃう鳴きながら、
私達から離れたところで、ひとり手羽先(未調理)パーティーを始めてしまった。

「あっ、こら、コンちゃん」
ぎゃぎゃっ、ぎゃん!ぎゃん!!
お肉を取られて牙を立てられたのは、仕方無い。
でもせめて熱は一度通した方が良いと思って、子狐ちゃんからパックを取り上げようとしたら、
私がご馳走を横取りするとでも思ってるらしく、子狐ちゃんは私を威嚇して、後ろ向いて、がぶり。
バチクソ美味しそうに、手羽先に噛みついた。

「コンちゃん。鶏肉は、一度熱通した方が良いよ」
ぎゃぎゃっ、ぎゃぎゃっ!!ぎゃん!!
「ほら、数分焼いてもらって、冷ますだけだから」
ぎゃぁっ!!ぎゃぁっ!!ぎゃうぅっ!!
「コンちゃーん……」
がぶがぶ、かじかじ、くぅくぅ。

「仕方無い。手羽元だけで作ろう」
ああなってしまっては、もう放っておくしかない。
先輩は小さく首を振って、子狐ちゃんの注意が手羽先に向いてる間に、食材を全部キッチンの調理台に避難させて料理を始めた。
「元々のオーダーは、手羽元と野菜とオートミールのオニオンコンソメなんだろう。丁度良いさ」

ことこと、コトコト。小さな鍋の中でお湯が沸く。
手羽元が鍋に入れられて、段々色が変わっていく。
子狐ちゃんは必死に手羽先の、太い骨を噛み砕こうとかじかじしてたけど、
まだそれを砕けるだけの力が無いらしくて、最終的にアゴが疲れちゃったみたいで、
どちゃくそ悲しそうな声して、お耳ペタリで、手羽先のパックを引きずって先輩の足元へ。

食べれない翼を食べれるようにして欲しいんだろう。こやーん(しゃーない)

11/11/2024, 3:27:17 AM

「ススキって、ススキ茶とかいうの、あるのな」
マジかよ。お茶……? 某所在住物書きは「ススキ 食べ方」で検索した結果を見て、ぽつり。
よもや食えるとは思わなかったのだ。
なんなら効用・効能が存在するとも、オマケ情報として秋の七草であったことも。
「まさか食えないだろう」、「よもや◯◯だろう」の先入観でも、調べてみる価値はあるらしい。

「だいたい見頃が9月下旬〜11月上旬らしくて、今頃は見頃の最盛期からは外れてるかもしれない、ってのは、事前情報として持ってた」
それでも「お題」には、向き合わなければならぬ。
「そもそもススキ、最近見たっけ……?」
都会には少々少ないかもしれない。

――――――

今年の3月から一緒の支店で仕事してる付烏月さん、ツウキさんってひとが、
去年か今年のあたりからお菓子作りがマイトレンドになってるらしく、たまに自作のスイーツ持ってきて、小さな支店内でシェアしてくれる。
プチシュー、プチカップケーキ、最近はスイートポテトにバター塩など振ってオシャレ。
支店の常連さんにも好評で、わざわざ私達の昼休憩に、「お菓子と一緒にお茶いかが」って、高価なおティーなど、あるいはおコーヒーなど。

今日の付烏月さんがシェアしてくれたのは、上に白ごまが3つのラインを描いて飾られた、全3種類とおぼしき、ひとくちサイズのおまんじゅう。
菓子折りみたいな箱に並べて、お昼休憩に、
こんなこと言いながら、それをテーブルに置いた。

「すすき〜コウ。すすき〜コウ!」

ススキーコウ is なに……?(素っ頓狂)

「ススキ講っていうの」
俺の父方の、ばーちゃんの集落にあった会合だよ。
付烏月さんは菓子折りモドキから、ぽんぽん、おまんじゅうを取り出して小皿にのせて、言った。
「無礼講とか恵比寿講みたいなやつ。11月のススキが終わる頃、丁度寒くなる時期だから集落の皆で集まって、ススキまんじゅう食べたんだって」

「ススキまんじゅう?」
「ススキまんじゅう」
「コレがススキまんじゅう?」
「きなこ砂糖と、ごまあずきと、栗」

「ススキ味無いの」
「ススキ味は無いよ……」

「ススキまんじゅう」を貰って、見てみる。
言われてみれば、まんじゅうの上に飾られた白ごまのラインの3本線は、微妙にカーブを描いて、
なんとなく、ススキの穂に見えなくもない。

ひとくちで食べられそうだから、食べてみた。
「ススキじゃない」
「ごまあん。こしあんだよ」
すられたゴマの風味が、こしあんを押しのけて香ってきて、バチクソに素朴。シンプル。
できたてホヤホヤだったのか、じんわりした温かさが、口の中に広がった。

「ばーちゃんの、ダムに沈む前の集落では、」
きなこをまとったススキまんじゅうを食べながら、付烏月さんが言った。
「ススキが枯れる時期が近づくと疑心が湧き、心魂の病がはやる、って俗信があったらしくてね。
多分その頃ってゆーと、丁度寒さと寒暖差が顔出してくる頃合いだから、自律神経だのホルモンバランスだのが不安定、ってハナシだろね。
だから集落の皆で集まって、『甘いススキ』を食べて、心の栄養を補充したんだってさ」
面白い風習だよね。 付烏月さんが笑った。

「寒暖差大きくなると落ち込むの、わかる」
「女性は特に、ホルモンバランスに左右されやすいし、統計としてツラい人が多いもんねー」
「ススキ食べると元気になる?」
「ススキ食べても元気になんない……」

「ススキの効能の講義が必要かな?」

ニヨリ。通称「教授支店長」の支店長が、バチクソに良い笑顔して、受講案内のアナウンス。
民俗学系統の、特に民話や俗信のハナシになると、支店長は「教授」に変貌して、
バチクソ長いけど分かりやすいけど、なんなら少し面白いけど、「本ッ当にバチクソ長い」講義を、
ガラガラガラ、支店の物置からホワイトボードを引っ張り出してきて、始めることがある。
「ススキは解毒に効果があるとされているほか、魔除けとして用いられているハナシがあってだな」

起立(昼休憩が短くなります)
礼(教授支店長のハナシをやめさせましょう)
着席(ススキまんじゅう渡して座らせましょう)

「ほら教授。教授支店長。お茶冷めるよ」
「むっ、」
「私、ススキまんじゅう、全部食べちゃうよ」
「むむ……」

はいはい、休憩、休憩。
私と付烏月さんとで、ウチの支店長の長話にシズマリタマエーして、はい講義終了。
お弁当囲んで、新人ちゃんにもススキまんじゅう配って、お茶飲んで。その日はすごく久しぶりに、「ススキ」の概念をたっぷり摂取したと思う。

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