かたいなか

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「ススキって、ススキ茶とかいうの、あるのな」
マジかよ。お茶……? 某所在住物書きは「ススキ 食べ方」で検索した結果を見て、ぽつり。
よもや食えるとは思わなかったのだ。
なんなら効用・効能が存在するとも、オマケ情報として秋の七草であったことも。
「まさか食えないだろう」、「よもや◯◯だろう」の先入観でも、調べてみる価値はあるらしい。

「だいたい見頃が9月下旬〜11月上旬らしくて、今頃は見頃の最盛期からは外れてるかもしれない、ってのは、事前情報として持ってた」
それでも「お題」には、向き合わなければならぬ。
「そもそもススキ、最近見たっけ……?」
都会には少々少ないかもしれない。

――――――

今年の3月から一緒の支店で仕事してる付烏月さん、ツウキさんってひとが、
去年か今年のあたりからお菓子作りがマイトレンドになってるらしく、たまに自作のスイーツ持ってきて、小さな支店内でシェアしてくれる。
プチシュー、プチカップケーキ、最近はスイートポテトにバター塩など振ってオシャレ。
支店の常連さんにも好評で、わざわざ私達の昼休憩に、「お菓子と一緒にお茶いかが」って、高価なおティーなど、あるいはおコーヒーなど。

今日の付烏月さんがシェアしてくれたのは、上に白ごまが3つのラインを描いて飾られた、全3種類とおぼしき、ひとくちサイズのおまんじゅう。
菓子折りみたいな箱に並べて、お昼休憩に、
こんなこと言いながら、それをテーブルに置いた。

「すすき〜コウ。すすき〜コウ!」

ススキーコウ is なに……?(素っ頓狂)

「ススキ講っていうの」
俺の父方の、ばーちゃんの集落にあった会合だよ。
付烏月さんは菓子折りモドキから、ぽんぽん、おまんじゅうを取り出して小皿にのせて、言った。
「無礼講とか恵比寿講みたいなやつ。11月のススキが終わる頃、丁度寒くなる時期だから集落の皆で集まって、ススキまんじゅう食べたんだって」

「ススキまんじゅう?」
「ススキまんじゅう」
「コレがススキまんじゅう?」
「きなこ砂糖と、ごまあずきと、栗」

「ススキ味無いの」
「ススキ味は無いよ……」

「ススキまんじゅう」を貰って、見てみる。
言われてみれば、まんじゅうの上に飾られた白ごまのラインの3本線は、微妙にカーブを描いて、
なんとなく、ススキの穂に見えなくもない。

ひとくちで食べられそうだから、食べてみた。
「ススキじゃない」
「ごまあん。こしあんだよ」
すられたゴマの風味が、こしあんを押しのけて香ってきて、バチクソに素朴。シンプル。
できたてホヤホヤだったのか、じんわりした温かさが、口の中に広がった。

「ばーちゃんの、ダムに沈む前の集落では、」
きなこをまとったススキまんじゅうを食べながら、付烏月さんが言った。
「ススキが枯れる時期が近づくと疑心が湧き、心魂の病がはやる、って俗信があったらしくてね。
多分その頃ってゆーと、丁度寒さと寒暖差が顔出してくる頃合いだから、自律神経だのホルモンバランスだのが不安定、ってハナシだろね。
だから集落の皆で集まって、『甘いススキ』を食べて、心の栄養を補充したんだってさ」
面白い風習だよね。 付烏月さんが笑った。

「寒暖差大きくなると落ち込むの、わかる」
「女性は特に、ホルモンバランスに左右されやすいし、統計としてツラい人が多いもんねー」
「ススキ食べると元気になる?」
「ススキ食べても元気になんない……」

「ススキの効能の講義が必要かな?」

ニヨリ。通称「教授支店長」の支店長が、バチクソに良い笑顔して、受講案内のアナウンス。
民俗学系統の、特に民話や俗信のハナシになると、支店長は「教授」に変貌して、
バチクソ長いけど分かりやすいけど、なんなら少し面白いけど、「本ッ当にバチクソ長い」講義を、
ガラガラガラ、支店の物置からホワイトボードを引っ張り出してきて、始めることがある。
「ススキは解毒に効果があるとされているほか、魔除けとして用いられているハナシがあってだな」

起立(昼休憩が短くなります)
礼(教授支店長のハナシをやめさせましょう)
着席(ススキまんじゅう渡して座らせましょう)

「ほら教授。教授支店長。お茶冷めるよ」
「むっ、」
「私、ススキまんじゅう、全部食べちゃうよ」
「むむ……」

はいはい、休憩、休憩。
私と付烏月さんとで、ウチの支店長の長話にシズマリタマエーして、はい講義終了。
お弁当囲んで、新人ちゃんにもススキまんじゅう配って、お茶飲んで。その日はすごく久しぶりに、「ススキ」の概念をたっぷり摂取したと思う。

11/11/2024, 3:27:17 AM