「ホントに去年は、ラクだったんだよ。事前に『この物語で行きましょう』があったから」
また会いましょう――どこで?誰と?いつ?
某所在住物書きは去年投稿分を参照しながら、しかしさすがに「それ」のコピペを今回貼り付けるワケのは難しいと、天井を仰いだ。
相変わらずだ。相変わらずの難度である。
「登場人物AとBが恋仲でした。
BがバチクソにAの心を砕いたので、Aは逃げましたが、Bが追ってきました。
CがAの背中を押し、応援してくれたので、Aは面と向かって、Bに言いました。『私はもう、あなたを愛してません。それでもヨリを戻したいなら、赤の他人として、また会いましょう』。
……それ以外のネタで『また会いましょう』?」
何書こう。物書きは小首を傾けて、カキリ。
相変わらずなのだ。相変わらずの途方であった。
――――――
最近最近の都内某所、某アパートの一室、夜。
部屋の主の名前を藤森といい、ぼっちでそこに住んでおるのだが、今日は客人が居る様子。
今年の2月まで同じ職場の同じ本店で仕事をして、今は諸事情で支店に異動となった後輩である。
彼女は神妙な面持ちで、藤森と相対し、テーブルを挟んで向かい合って座って、共に食事をしている。
「付烏月(つうき)から、大体の話は聞いている」
テーブルの上に並べられた料理のメインはパスタ。
レトルトミネストローネとツナ缶と、隠し味に少しのマヨネーズを使った、トマトツナスパゲッティ。
よく煮詰められたミネストローネは、ツナ缶とマヨネーズによくよく混ざり合って、
とろとろ、とろり。パスタとよく絡む。
「一応、お前の言葉で、経緯と要望を聞きたい」
パスタのソースを湯でといて、申し訳程度の野菜を足したスープに口をつけ、藤森が言った。
「で?」
「昨晩、私が走ってるソシャゲで、試験的アップデートが入って、ミニゲームが追加されたの」
「そうか」
「そのミニゲーム、私の推しキャラ2人の、新規収録ボイスが、バチクソに頑張れば聴けるの」
「そうか」
「どうしても聞きたくてちょっと課金しました」
「はぁ」
「更にミニゲームモチーフの、推しの新キャラ2人と、『鳥頭&駄犬タッグ』って界隈で言われてるタッグカードも、限定ガチャに初登場したので、」
「うん」
「最高レア選択可能確定チケットに課金しまして、
ガッツリ、完凸まで、済ませました」
「……」
「今週末の非公式イベントの、戦利品仕入れ費用5万に5000円だけ手をかけてしまいまして」
「それで」
「給料日までガチでお金キツいので、シェアランチとシェアディナーお願いします」
室内に、穏やかな、しかし長いため息が混じった。
「お前には、」
藤森が言った。
「去年の大きな恩がある。金の貸し借り以外であれば、私もお前の困りごとには原則、応じる」
だがな。と藤森。 勝ち確定ムーブで目をキラキラさせて握手を求める後輩の、手を一旦しりぞけた。
「ソーシャルゲームへの課金額を見直せば……」
課金額を見直せば、生活も楽になるのではないか。
言いかけた藤森の言葉を、今度は後輩が制した。
「じゃあ先輩は欲しい本が有ったら我慢できる?」
「ぐっ、」
「めっちゃ分かりやすい法律の本、めっちゃ分かりやすい医療の本、脳科学、心理学、植物、お茶。
買うでしょ。我慢できないでしょ」
「ちがっ、違う、私は、」
「嘘いつわり無く、真実を述べよ」
「……買います」
分かった。わかったよ。参った負けを認める。
静かな部屋に、再度、藤森のため息が混じる。
「今日の残り物でも良ければ、お前の明日の朝メシと弁当を、30分程度で用意する」
藤森が言った。
「給料日までの計画とメニューは、お前の今の冷蔵庫の中身と賞味期限、および消費期限次第だ。
場合によっては、『去年』の恩をこの数日で返す」
ということで、明日の終業後、また会いましょう。
3度目のため息の後で、藤森と後輩は双方、箸をトマトツナスパゲッティへ。
少し冷めた感こそあるものの、元々、熱々の皿。
唇に、舌に当たる分には、丁度良い温度であった。
11/14/2024, 3:46:30 AM