かたいなか

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「今回のお題は『スリル』の3文字!
去年は楽勝、今年どうしよう?
体験談ネタ?共感生む話題?
過去作コピペは要検討?
たったひとつの『いいね』求める、
見た目連載風、中身ほぼ飯ネタ!
その名は、食いしん坊かたいなか!」

突然、特定の楽曲を再生しながら、若い世代には伝わらぬポージングを始める某所在住物書き。
――20年以上前である。伝わるものか。しかし物書きには「スリル」といえば、あの「見た目は子供」のパラパラなのだ。仕方無い。

「……俺の誤字とかサイレント修正とか、現代知識との矛盾とかがいつバレるかはスリルだと思う」
なるべく投稿前には一度音読して、誤字チェックはしている、つもりなのだ。

――――――

最近最近の都内某所、某職場の某支店、昼休憩。
お題回収役の名前を後輩、もとい高葉井といい、
スマホにかじりつき、タップタップ、スワイプ、ドラッグ。ソーシャルゲームに真剣。
前日の夜遅く、2時間のメンテナンス延長を経て実装された、試験的アップデートにご執心。

ガチャ周回サポート用のミニゲームである。
そこそこの高難度ながら、リターンが神。
ガチャ石は勿論のこと、11連ガチャチケットや、
その気になれば100連チケット、
望めば最高レアの選択確定チケットまで、到達レベルと確率と、課金と広告のチカラで手に入る。
界隈にはサ終間近のウワサが飛び交った。
あまりにもアイテムが大盤振る舞いだから。
実際は広告収入増加および、広告削除の50日500円オプションへ誘導できるかの実験である。

高葉井が求めていたのは100連チケットでも最高レア選択確定チケットでもなかった。

「名接待コリー、っていうミニゲームなの」
高葉井は言う。
「デフォルメされたワンコのコリーを操作して、法務部実動班の局員に見つからないように、受付の待合席に座ってるモフモフキュートキャラにお菓子をあげて回って、自分の席に戻って来るの」

レベルが上がるごとに、「見つからないように」の敵性キャラは増えて、「お菓子をあげて回って」のモフモフキュートキャラには偽物が混じる。
自機といえるキャラの操作には、一瞬の判断と空間認識、それから偽物への観察眼が求められた。
そしてなにより、驚異的な集中力が。
あるいは財力、もしくは広告視聴の忍耐が。

「最高レアを選択できて、かつ確定なアイテムが手に入るなら、そりゃ頑張るよねー」
後輩ちゃん頑張って〜。
高葉井の向かい側でのんびり大きなチキンカツサンドなど食うのは、同僚の「付烏月」と書いてツウキ。

「レア選択確定チケット?」
淡々と反論する高葉井。彼女もサンドイッチをミニゲームの合間合間につまんでいた――ひとくちサイズの、スッと取ってパッと放り込める、すなわち「ゲームの進行を妨げない最適解」を。
「レア選択確定チケは、お布施すれば何枚でも手に入るから、私には重要じゃないんだよね」

お布施すれば。課金すれば手に入る。何枚でも。
付烏月は高葉井の言葉で悟った。
彼女はガチだ。少なくとも末席には確実に居る。
「食費に手を出してからが本番」を実践する「ソシャゲを支える者」のひとりだ。

彼女は何度、生活費と課金費用の境界を攻めて、そこにスリルと緊張を見出しただろう。

「チケットはね。課金すりゃ手に入るの。
でも高いレベルのステージでしか出現しない推しキャラの、コリーを捕まえたときの新規収録ボイスは、なんぼ課金したって絶対手に入らないの。
これよ。私が欲しいのは、これよ……」

ぱく、ぱく。もぐもぐ。
高葉井のサンドイッチは高葉井自身のスリルの高まりとともに、減って、減って、無くなって。
途端黙り込んだ彼女はミニゲームの鬼か求道者。
昼休憩の終盤、ぽつり最後に言ったのは、完全にプレイ中のミニゲームの操作キャラのセリフ。
「こいよ、ツバメ、『とりあたま』……!」

ああ、これは、明日も続きそうですな。
付烏月は容易にそれを予測できたし、彼女の給料日までの残り1週間がワイヤーの綱渡りほどの高難度となることもまた、見越すことができた。

11/13/2024, 3:50:18 AM