かたいなか

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11/10/2024, 3:48:21 AM

「脳裏をよぎる、脳裏にひらめく、脳裏に焼き付く。……脳裏に『秘める』と言わないんだろうな」
頭の中、心の中。「心に秘める」は言うだろうけれど「脳裏に秘める」は聞かない気がする。
某所在住物書きはネット検索の結果を見ながら、ふと閃いた――まぁニュアンスの関係であろう。
要は、登場人物に何かを閃かせれば、あるいは記憶に刻み込ませれば、それでお題回収完了なのだ。
「で、どうやって?」

良い香り、美味い味、凄惨な光景に事故の瞬間。
「強烈に残る記憶」は多種多彩ながら、物書き本人としては、どれも縁が遠い気がしてならぬ。
「初めて自作した水炊きモドキの味とかどうだ?」
それは最後に七味を入れ過ぎて地獄であった。

――――――

脳裏に浮かんだ物体「A」の名前が、どうしても出てこなくて、ネット検索しても分からない。
そういう経験ありませんか、物書きは「A」に「タオル」が代入されたことがあります。
という脳裏は置いといて、今回は前回投稿分からの続き物。こんなおはなしをご用意しました。

最近最近のおはなしです。都内某所と、ここではない「どこか」のおはなしです。
「どこか」サイドの方に、「世界線管理局」なんていう厨二設定爆盛りな機関がありました。

そこは異世界間の渡航申請を受理したり、
世界同士の交流や交易なんかを調整したり、
密航・密輸組織や悪質な侵略者を取り締まったり、
滅んだ世界のアイテム・結晶が他の世界に漂着して妙なことになる前にアイテムを収容して回ったり。
つまり世界線管理局は、世界と世界の円滑かつ秩序だった運行のための、歯車だったのでした。

世界線管理局は、すべての世界線に対して、公正公平、平等かつ中立でなければなりません。
世界線管理局に収容された物は一切の偏見無く適切な方法で保管されなければなりませんし、
世界線管理局に迷い込んだ者は一切のヒイキ無く迅速に「在るべき世界」へ送還されねばなりません。
殺伐としてるのです。仕事に癒やしが無いのです。

そんな癒やし無き荒野の職場に先週あたりからモフモフキュートな子狐が巡回を始めまして。

「子狐ちゃん!また勝手に来ちゃったんですか!」
管理局の窓口係、受付対応局員一同は、ジャーキー持ってきたり写真を撮ったり。
「けしからん、実にけしからん!何度も『来てはいけない』と言ったのに。悪い子だ!」
猫吸いならぬ狐吸いをしてる局員も、猫じゃらしで遊んでやる局員も居るありさま。
「僕達が責任持って、全力で接待するからね〜」

ソッコーで上の部署から指導が入りました。
世界線管理局は、すべてに対してヒイキ無く、公平であるよう心がける必要があるのです。
モフモフに心を乱されては、ならぬのです。
数日で子狐巡回の入口には「鍵」が実装され、
管理局の受付は癒やし無き荒野に戻りました、

で終わってしまっては今回のお題が回収できぬ。

「ふふふ。法務の鳥頭め。我等受付を甘く見たな」
管理局の受付に、「コリー」というビジネスネームの女性職員がおり、受付いちのモフモフキュートジャンキー。癒やしに超絶飢えておるのです。
「『就労規則で子狐を接待してはならぬ』というなら、規則およばぬ休日があるじゃないか」

休日を利用して、管理局の懲罰部門にバレぬよう、「完璧な」変装をして都内某所に休日訪問。
ペットショップでジャーキーを買ったり、道行く人間に稲荷神社の場所を聞いたりして、
受付職員コリー、子狐のおうちであるところの、不思議な不思議な稲荷神社に辿り着きました。
「ははは、ふはははは!」

法務部敗れたり! 私達窓口係、受付の局員から癒やしを奪うなど、100天文単位早いのだ!!
受付職員コリー、脳裏で勝利のBGMを盛大に流しながら、稲荷神社の石の階段を、

「よぅ。遅かったな駄犬」

上がりきったところで、赤い鳥居に、自分の職場の上の部署、法務の局員が寄りかかっているのを、
ガッツリ、ばっちり、見かけたのでした。
「世界線管理局、法務部執行課、実働班特殊即応部門、ルリビタキだ。……分かってるよな?」
不敵に笑う法務部局員の顔を見て、コリーの脳裏に、ひとつ閃いたものがありました。
天文単位は時間じゃない。
それは、距離でありました。

法務部局員の隣では、穏やかな微笑した子狐のお母さんが、美しい姿でコリーを見つめておりました。

11/9/2024, 3:22:17 AM

「少し違うが、『積み重ねた努力は裏切らない』に対して、『縦に積み重ねるな。平面に並べろ』っつった人なら知ってるわ」
今日も今日とて難題続き。なんなら自分は実は執筆自体が苦手じゃないか。連日の超苦戦に対し、某所在住物書きは己の得意不得意を疑い始めた。
実は俺、そもそも他人からのお題でハナシ書くの、バチクソ苦手?

「一点突破で努力を積むと、その一点が崩れたら全部やり直しだけど、意味ある努力も意味ない努力も等しくズラッと並べておけば、崩れる心配ないし、いつか『意味ない努力』が役立つ日が来るかも、だったか」
懐かしいな。あの先生、今何してるだろう。
物書きは自室の窓から、空を見上げため息をつく。

――――――

職場で長いこと一緒に仕事してる先輩のアパートに向かってたら、なんか私の推しゲーセンサーにバチクソ反応する妙なひとを見かけた。
「すいません」
黒メガネに白マスク、猫耳帽子ならぬ犬耳帽子。
茶色いオータムコートに手を突っ込んで、
怪しい、あきらかに、あやしい。
「このあたりに、言葉を話す子狐の居る稲荷神社がある筈なのですが、ご存知ありませんか」

「ことばをはなす、こぎつね……?」
その怪しいひとは私が推してるゲームの、
だいたい二次創作界隈でも公式のギャグパートでも、私の推しカプのうちの片方、ルリビタキっていう男性キャラと喧嘩してる、
モフモフキュートが大好きで、モフモフキュートなら敵でも味方でも密航者でも接待しちゃう
組織の受付さんと同じ声で、私に話しかけてきた。
「稲荷神社ならこの道まっすぐ行った先にありますけど、言葉を話す狐はちょっと知りませんね」

「ありがとう。行ってみます」
声が私の推しゲーのキャラに似てる不審者は、私に軽く会釈して、とことこ神社の方に歩いてった。
声しか似てなさそうな不審者に、なんで私の推しゲーセンサーが反応したのか意味不明だ。

誰だったんだろう。あの変人。
「意味ない。考えても、多分、意味ないや」
忘れよう。そうだ、わすれよう。
私は小さく首を振って、先輩のアパートに急いだ。

――「言葉を話す子狐の神社の場所を聞いてくる女性なら、私もつい1時間前、会った」
先輩のアパートに到着すると、先輩は相変わらずの手際の良さで、シェアランチの準備をしてた。
「服装が服装で、質問が質問だったから、知らぬ存ぜぬで通したら、今度は『この近辺に美味いペットフードを取り扱っている、可能ならジャーキーの店は無いか』だとさ。本当に意味がわからない」

私と先輩は、食費と調理費とガス光熱費の節約を目的に、たまにこうしてシェアランチをする。
私が食材だのお金だの持ってきて、先輩がそれと自分の冷蔵庫の中身で料理をする。
『1人分作るのも、2人分作るのも、光熱費だけ見ればほぼ一緒』と、先輩は言う。
おかげで私は今日みたいな、給料日前でお金使いたくない日とか、自律神経等々の影響でガチで体が動かない時なんかは、ラクをさせてもらってる。

今日は100均の鍋キューブを使った、鶏塩そば。
私が買ってきた半額の刻みねぎと半額の刻み柚子が、良い味出します(多分)。
「先輩、ニンニク無いの、ニンニク」
「にんにく?なぜ?」
「味変するときに入れたい。にくにく」

「当店ガーリックの在庫はございません」
「ちぇっ」
「めんつゆか胡椒か七味あたりで我慢してくれ」

おててをパッチン、いただきます。
温かいそば茶と一緒に、鍋キューブの鶏塩味で整えられたおそばを、ちゅるちゅる、ずるずる。
「稲荷神社といえば」
「なぁに」
「妙な男が神社に入っていくのを見た」
「みょーなオトコ?」
「黒いスーツに黒いネクタイ。胸ポケットに青いスズメかシマエナガのようなモチーフのブローチ」

「ルリビタキ。その青い鳥、ルリビタキ」
「るりびたき?」
「ツルカプの、ルの方、私の推しのコスプレ」
「はぁ」

「ちょっと神社行ってくる」
「そば伸びるが?」

ツの方で即興合わせできるかな。
まだその人、神社で撮影してるかな。
私、受付さんに声が似た不審者じゃなくて、ルリビタキ部長コスの人の方と遭遇したかった。
あーだこーだ、云々。
私は先輩と、特に先輩が見たコスプレの人がゲーム内でどういうことをしてる人か話しながら、
ちゅるちゅる、ずるずる。鶏そばを食べた。

何かの関係で、ルリビタキコスのひと、まだ稲荷神社に居るかなって、お昼ご飯の後の散歩を兼ねて先輩と一緒に神社に行ったけど、
参道にも、拝殿にも、お守り売り場にも居なくて、
結局、ルリコス捜索は意味がないことで終わった。

11/8/2024, 3:50:08 AM

「……栗の木の童謡しか思い浮かばねぇ」
大きな栗の木の下?栗拾いのハナシでも書くか?某所在住物書きは、今日も今日とて、難題に挑む受験生の心地でスマホと向き合っている。
あなたとわたし、出題者と回答者。せめてもう少し難易度を下げた出題が欲しいところ。
「まぁ頭のトレーニングにはバチクソ丁度良いけど」

つまり、物語には「あなた」と「わたし」の2名以上が必要というワケだ。物書きはガリガリ頭をかきながら、基本設定を詰めていく。
「……いや『多重人格』だったら1人で事足りる?」
物書きはふと、変わり種だの、からめ手だのを思いつき、しかしその書きづらさに結局挫折した。

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室、夜。
部屋の主を藤森といい、非常に神妙な顔つきで、
コロコロ、ころころ。ベッドに粘着ロールクリーナーをかけている――前回投稿分に似た構図だ。
部屋の床には一旦退けられて、クリーナーの順番を待っている某アタタカイウォームの毛布。
複数箇所にくっついているのは獣の毛。稲荷寿司の黄土色と白米の白を連想させる狐の夏毛。

毛布の隣では子狐がスケッチブックを首から下げて、マンチカン立ちで静止している。
スケッチブックには桔梗色のクレヨンでぐりぐりされた、判読困難ながらこのような文言。

『いつも あそんでくれて ありがとう』

――今回もさかのぼること、数十分前。
その日も藤森は己の居城であるところのアパートで、翌日の仕事の準備をしていたが、
遅々として進まず、いっそ進み具合について諦めの境地に達しており、その理由が前述の子狐。
どだだどだだ、ばびゅん!
子狐は己の前あんよと後ろあんよでもって、風のように全力疾走し、床を蹴り、跳躍。
藤森の膝の上に1〜2kg程度の己の体重を、
もふん!綺麗に着地させて即座に反転。
藤森に背中を向けて、尻尾をびたんびたん。
前方へ投げてほしいのだ。

藤森は虚無の目で、ぽぉん!子狐を放り投げる。
夏毛の抜けきらぬモフモフは美しい弧を描き、毛布で温かく整えられたベッドに着地。
子狐がまた全力で、藤森の膝に戻る。
藤森は子狐を再度、再度、さいど。ベッドへ放る。

ベッド、膝、ベッド、膝。
「もっかい、もっかい!」
あなたとわたし、わたしからあなたへ。
前回投稿分で「人の部屋のクッションを破壊しても、良いことは何も無い」と学習した子狐は、
物を破壊しない方法であれば、この部屋の主は己と問題無く遊んでくれるだろうと認識。
「もっかぁあい!!」
ベッドに放り投げられる浮遊感と、ベッドに着地する弾力性を、ことさらに気に入ったのだろう。
子狐は藤森に何度も、何度も、なんども。この浮遊と落下のアトラクションをせがんだ。

これで20回目である。

「こぎつね。そろそろ、私も仕事をしたい」
21、22、23。
投げて、戻ってきて、投げて、戻ってきて。
あなたとわたし、あなたがわたしのもとへ。藤森のルームウェアは夏毛の抜け残りでいっぱい。
ベッドも同様の惨事である――寝る前にコロコロの往復が必要となるだろう。
今回はクッションを破壊されて中から柔らかい雨を降らされているワケではないので、前回の掃除よりは、まぁまぁ、ラクでは、あるかもしれない。

「しごと」
くわわっ。くわぅ。
日本語を話すコンコン子狐、こっくり首を傾けて、
「しごとは、ショクバ、職場でするものだって、ととさん言ってた。ここ、ショクバじゃない!
だから、しごとない。しごといらない」
最強の子狐論理で、藤森を論破してしまった。
「もっかい、もっかい!ベッドに、なげて!」
子狐の2個の真ん丸宝石が、コヤンと光った。

藤森は深い、長いため息を吐いたが、表情は穏やかで、そこには少しの微笑があった。
反論を断念したのだ。 子狐の遊びざかりに藤森自身の幼少期を――田舎の山野で駆け回っていた頃のやんちゃを見て、懐かしんだ結果でもあった。

「そうだな」
再開される「あなたとわたし」、ベッドと膝。
「そうだ。 ここは、職場ではない」
防音防振の床を、子狐が駆け抜け、藤森の膝に戻ってきて、ベッドへと離陸――着地。

最終的に藤森が子狐を30回ベッドに投げて、子狐が満足したところで、物語は冒頭へ。
コロコロ、ころころ。粘着ロールクリーナーによる掃除が開始されることになる。

11/7/2024, 3:21:08 AM

「ああ、うん、降ってるらしいな。『柔らかい』どころか冷たい雪が。北国で」
なお、このアカウントで連載風の舞台にしている東京は「雨」の「あ」の字も無い晴天です。
某所在住物書きはアプリの通知画面を見ながら、今日も今日とて途方に暮れている。
まさしく、これである。リアルタイムネタ、現代時間軸の連載風、「最近のフェイクな東京」を描くにあたり、時に題目と「現在」がズレる場合がある。
たとえば「雨」のお題の日に東京は快晴、とか。

「まぁ、しゃーねぇわ。このアプリ、雨ネタと空ネタが結構エンカウント率高いから……」
だって「雨」の字が確実に入ってるってだけでも、3月から数えてこれで6回目の雨だぜ。物書きは小さく首を振り、観念したように物語を組む。

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室、夜。
部屋の主を藤森といい、非常に神妙な顔つきで、
ガー、ぐぁー、コードレス掃除機をかけている。
部屋の隅には無惨な姿でゴミ収集袋に詰められた、クリームホワイトの綿とパールブルーの布。
すなわち低反発クッションの成れの果て。

ゴミ袋の隣では子狐がスケッチブックを首からさげて、マンチカン立ちで静止している。
スケッチブックには藤森による丁寧な楷書体。

『私は藤森の部屋に綿の雨を降らせました』

――さかのぼること、数十分前。
藤森は己の居城であるところのアパートで、翌日の仕事の準備をしていた。
部屋は防音防振の整った設計で、外の騒音は少ししか届かない。上階がピアノのシフトペダルをダンダン踏んでも、隣の育ち盛りが父親にプロレスを仕掛けても、それらは一切、藤森の耳に入らない。
藤森には静寂が必要であった。 それは藤森が、元々花咲き風吹く雪国の田舎の出身で、人工の騒音から離れた環境で幼少時代を過ごしたためであった。

その静かな室内を、どだだどだだ!ばびゅん!
駆け抜けて跳び上がって、めちゃくちゃに遊び回るモフモフが、冒頭の子狐である。
アパート近所の稲荷神社に住まう、稲荷の狐。
言葉を話し、術を心得ており、
稲荷のご利益ゆたかな子狐特製の餅を藤森がよく買ってくれるので、そこから藤森に懐いた。

近頃は諸事情で、訪問すれば必ずジャーキーを貰えたジャーキービュッフェ、もといどこか誰かの職場への出入りが制限されてしまい、少々不満。
持て余した食いしん坊と遊び足りなさが、そのまま優しい藤森に向いた。

仕方ないさと藤森。子供は得てして、そういうもの。今は静かな藤森も、◯◯年前はやんちゃして、森山同然の遊歩道を駆け回り、アケビを採って桜と遊び、遠くに佇むリスや狐を追いかけた。
「私の邪魔だけは、しないでくれよ」
藤森は稲荷の子狐の爆走を、それでも許した。
結果が冒頭であった。

たたんタタンたたんタタン、ぼふん!
静かな室内を駆け回り、駆け上がり、飛び跳ねる子狐は、お題回収役であるところの低反発クッションに衝突。その柔らかさと噛みやすさを知った。
「ぎゃっ!ぎゃぎゃっ!!」
持て余すやんちゃと体力に従い、子狐ぶんぶん、びたんびたん、比較的小さめのクッションに深く噛みついて、上下左右に振り回した。
「えい!!やあっ!!」

ぶんぶんぶん、びたんびたん。何やら騒がしい。
藤森は仕事の手を休めて、音のする方を見た。
そのときであった。まさしく、その直後であった。
びりっ、ビリ、 ぱん。
藤森の目の前で、パールブルーの柔らかい塊が一直線に空を飛び、中から綿の柔らかい雨が、ばらばら、ぱらぱら。ゆっくりと、床に散らばった。

開いた口が塞がらない藤森。
「仕事の邪魔」はするなと子狐に伝えていたものの、クッションを破壊するとは予想外。
「……こぎつね?」
子狐には散らばった低反発の綿すら遊び道具。
跳びついて、くわえて放り上げて、尻尾を業務用扇風機のごとく歓喜に振り回している。
「子狐」
藤森はゴミ袋を取ってきて、掃除を始めた。
「すまないが、それは、ちょっと私もお前を叱らなければならない、かもしれない」

――「たのしかった」
床に残った小さな綿と、綿埃と、それから子狐の夏毛の抜け残りとを、掃除機で吸っていた藤森。
子狐はマンチカン立ちに、己の罪状を首からさげたまま、謝罪ではなく感想を述べた。
「そうか」
深く、長いため息を吐いて、掃除機を戻す。
「……そうか」
そうだろうな。藤森は複雑な笑顔をして、スケッチブックを子狐から取り除いてやり、
わしゃわしゃと、頭を撫でてやった。

11/6/2024, 5:43:35 AM

「理想郷、永遠、鏡の中、哀愁。ここ1週間、ガチでエモい系のお題が渋滞だったわな」
光と言ったら、何故か某カードゲームの召喚方法の一種を思い出しちまうんだよな。
某所在住物書きは、いつもより少々遅れた投稿時刻を「仕方無い」としながら、ぽつり。
過去配信されたお題の履歴を確認している。

当分、少し難度の下がったお題が続く筈である――ただ■日後、ようやく差した低難度、一筋の光が、ドンと落とされる可能性もあるわけで。
「……厨二ちっくファンタジーの物語の何がラクチンって、トンデモ設定をねじ込んでも『だって厨二だもん』で済ませられることよな」
ひとつ、ため息。1年半程度物語の投稿を続けているが、相変わらずエモいお題が得意になれない。

――――――

10月30日から始まった一連の奇想天外物語も、ようやく一旦の解決。つまり前回投稿分からの続き物。
小綺麗な、白と薄い水色を基調とした応接室。
客側の席に、言葉を話す稲荷の雄狐がお座りしていて、その隣には、ペット用のキャリーケース。
中にはジャーキーをちゃむちゃむ食べる子狐。
彼等、特に雄狐の視線の先では、男女の2名がポコポコ、取っ組み合いの喧嘩をしている。

喧嘩の原因は、キャリーケースの中の子狐。食べ盛りの食いしん坊で、客側の席に座る雄狐の末っ子。
何度も何度も、なんども、「来るな」と言われているのに、子狐は職場に侵入してきた。
その子狐侵入の理由を喧嘩の片方が作っていた。

何度も何度も来てほしくない先方と、
何度も何度も行ってしまう子狐。
何故何度も行ってしまうかといえば、つまり職場の受付係が毎度毎度子狐にジャーキーを与え、モフモフわしゃわしゃ、構っていたから。
『子狐に餌付けをするから、そちらにお邪魔してしまうんです。餌付けを止めてみてください』。
雄狐は受付係による餌付けの事実を、「来るな派」の部署へリークしに来たのである。

受付係による部外者への完全内緒なジャーキーパーティーは、先方の規則に反する行為であった。

「あれほど餌付けするなと言っただろう!」
女に掴みかかる喫煙者は「ルリビタキ」と、
「餌付けではない、接待だ!我々受付が受付としての接待業務をして、何が悪い!」
男を問答無用で投げ飛ばす犬耳は「コリー」と。
それぞれ、雄狐に名乗った。

「言い訳するな駄犬、報告義務放棄と規則違反を適用して『72条9項特例』でしょっぴくぞ!」
「おーおー法務の鳥頭サマは規則規則!柔軟な対応をできないご様子、オイタワシイかぎりですな!」

ポコロポコロ、どたんばたん。男女平等、投げて飛ばされて、飛んだ勢いで云々、かんぬん。
目の前で喧嘩している「ルリビタキ」と「コリー」の互角な構図がシュールで秀逸。
彼等のドタバタに関して、男性がひとり、こちらに申し訳無さそうに頭を下げている。

「すいません。すぐ、やめさせますので」
苦労人と思しき仲裁役の男性は、「ツバメ」と名乗り、証拠として雄狐に名刺を手渡した。
ここの職場は、ビジネスネーム制を採用している。
「鳥類」ということは彼は法務部だ――つまり、「来るな派」。ルリビタキの部下かもしれない。

ツバメが己の腕からトパーズのミサンガを外し、喧嘩中の2名に向けて放ると、
ミサンガは一筋の光を放ち、たちまちその一筋で、両名をぐるぐる巻きに捕縛してしまった。
「世界線管理局収蔵、『はいはい黙れ黙れミサンガ:喧嘩両成敗のトパーズ』」
ツバメが言った。
「とある閉鎖した世界から収容されたアイテムです。便利ですよ。問答無用で縛れるので」
必要になったら、是非我々、世界線管理局の法務部管理課まで。貸与書類をご用意しますので。
ツバメは完全な業務用スマイルで穏やかに笑った。

ずるずるずる。
一筋の光でもって、ぐるぐる巻きにされたふたりは、しかしギャーギャーわんわん言い争いをし続けており、ツバメに引きずられて応接室から退場。
「とりあえず……」
雄狐と子狐で、喧嘩を見送る。
「これで餌付けが無くなって、末っ子の侵入癖解消に、一筋でも、光がさせば良いな」
雄狐は雄狐で、己の末っ子に関して、ようやく、肩の荷が下りたようであった。

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