「脳裏をよぎる、脳裏にひらめく、脳裏に焼き付く。……脳裏に『秘める』と言わないんだろうな」
頭の中、心の中。「心に秘める」は言うだろうけれど「脳裏に秘める」は聞かない気がする。
某所在住物書きはネット検索の結果を見ながら、ふと閃いた――まぁニュアンスの関係であろう。
要は、登場人物に何かを閃かせれば、あるいは記憶に刻み込ませれば、それでお題回収完了なのだ。
「で、どうやって?」
良い香り、美味い味、凄惨な光景に事故の瞬間。
「強烈に残る記憶」は多種多彩ながら、物書き本人としては、どれも縁が遠い気がしてならぬ。
「初めて自作した水炊きモドキの味とかどうだ?」
それは最後に七味を入れ過ぎて地獄であった。
――――――
脳裏に浮かんだ物体「A」の名前が、どうしても出てこなくて、ネット検索しても分からない。
そういう経験ありませんか、物書きは「A」に「タオル」が代入されたことがあります。
という脳裏は置いといて、今回は前回投稿分からの続き物。こんなおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。都内某所と、ここではない「どこか」のおはなしです。
「どこか」サイドの方に、「世界線管理局」なんていう厨二設定爆盛りな機関がありました。
そこは異世界間の渡航申請を受理したり、
世界同士の交流や交易なんかを調整したり、
密航・密輸組織や悪質な侵略者を取り締まったり、
滅んだ世界のアイテム・結晶が他の世界に漂着して妙なことになる前にアイテムを収容して回ったり。
つまり世界線管理局は、世界と世界の円滑かつ秩序だった運行のための、歯車だったのでした。
世界線管理局は、すべての世界線に対して、公正公平、平等かつ中立でなければなりません。
世界線管理局に収容された物は一切の偏見無く適切な方法で保管されなければなりませんし、
世界線管理局に迷い込んだ者は一切のヒイキ無く迅速に「在るべき世界」へ送還されねばなりません。
殺伐としてるのです。仕事に癒やしが無いのです。
そんな癒やし無き荒野の職場に先週あたりからモフモフキュートな子狐が巡回を始めまして。
「子狐ちゃん!また勝手に来ちゃったんですか!」
管理局の窓口係、受付対応局員一同は、ジャーキー持ってきたり写真を撮ったり。
「けしからん、実にけしからん!何度も『来てはいけない』と言ったのに。悪い子だ!」
猫吸いならぬ狐吸いをしてる局員も、猫じゃらしで遊んでやる局員も居るありさま。
「僕達が責任持って、全力で接待するからね〜」
ソッコーで上の部署から指導が入りました。
世界線管理局は、すべてに対してヒイキ無く、公平であるよう心がける必要があるのです。
モフモフに心を乱されては、ならぬのです。
数日で子狐巡回の入口には「鍵」が実装され、
管理局の受付は癒やし無き荒野に戻りました、
で終わってしまっては今回のお題が回収できぬ。
「ふふふ。法務の鳥頭め。我等受付を甘く見たな」
管理局の受付に、「コリー」というビジネスネームの女性職員がおり、受付いちのモフモフキュートジャンキー。癒やしに超絶飢えておるのです。
「『就労規則で子狐を接待してはならぬ』というなら、規則およばぬ休日があるじゃないか」
休日を利用して、管理局の懲罰部門にバレぬよう、「完璧な」変装をして都内某所に休日訪問。
ペットショップでジャーキーを買ったり、道行く人間に稲荷神社の場所を聞いたりして、
受付職員コリー、子狐のおうちであるところの、不思議な不思議な稲荷神社に辿り着きました。
「ははは、ふはははは!」
法務部敗れたり! 私達窓口係、受付の局員から癒やしを奪うなど、100天文単位早いのだ!!
受付職員コリー、脳裏で勝利のBGMを盛大に流しながら、稲荷神社の石の階段を、
「よぅ。遅かったな駄犬」
上がりきったところで、赤い鳥居に、自分の職場の上の部署、法務の局員が寄りかかっているのを、
ガッツリ、ばっちり、見かけたのでした。
「世界線管理局、法務部執行課、実働班特殊即応部門、ルリビタキだ。……分かってるよな?」
不敵に笑う法務部局員の顔を見て、コリーの脳裏に、ひとつ閃いたものがありました。
天文単位は時間じゃない。
それは、距離でありました。
法務部局員の隣では、穏やかな微笑した子狐のお母さんが、美しい姿でコリーを見つめておりました。
11/10/2024, 3:48:21 AM