かたいなか

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10/27/2024, 4:54:40 AM

「3月を起点とすれば『愛』はこれで4回目。『恋』も含めりゃ9回目なんよ……」
某所在住物書きは頭を抱え、天井を見上げた。
ほぼほぼ、1ヶ月に1回のペースといえる。統計として、来月で祝10回目、年越し12月で11作品を投稿する計算になる、かもしれない。
無論、所詮、過去からの統計である。
未来を保証するものではない。

「そういや『愛は食卓にある』って言葉がある」
技術に対する愛がマリアナ海溝と思われる、某魔改造番組を観ながら、物書きは呟いた。
愛が食卓にあるなら、「愛言葉」は「いただきます」か、「食ったら食器洗って片付けろ」だろうか。

――――――

誰かが執筆した同人小説の1〜2ページ。
ツバメとルリビタキの非公式カップリング信奉者による、己の好きを詰め込んだ物語。

「ツバメ」のビジネスネームを持つ世界線管理局職員、主神 公助は、昼休憩に淹れていたコーヒーをひとくち、ふたくち、喉に流し入れて数秒、
すとん、 特定の単語・概念に対する理性のブレーキが、頭と心魂と理性から外されたのを知覚した。
「愛」である。 執着であり、独占欲ともいう。
あるいは思いやりや優しさのタガが外れたのだ。

それから膝という膝、背筋という背筋からチカラが抜けて、ぱたん、床に倒れ伏して、
気が付けば、後ろ手に手首を縛られて椅子にぐるぐる巻き。個人面談用の個室の中。

コーヒーに「何か」を入れられた。
薬物に相当する物質のせいで頭が過負荷とタスク過多のツバメ。状況を把握しようと思考にもがく。
何故?誰が、何の目的で?
考えられるのは局内の抜き打ち危機管理テストと
医療班随一のマッドサイエンティスト、「ヤマカガシ」による無作為抽出の強制治験と
同期同僚の「兎」のイタズラだが、
敵対組織による襲撃の可能性は?どうだろう?

「やぁ。随分早いお目覚めじゃないか」
ツバメの背後から聞こえたのはヤマカガシの声。
あぁ、なるほど。自分は「捕まった」のだ。
ツバメはすべてを察し、抵抗を放棄した。

そろそろこの毒蛇は局に対する危険因子として「懲戒解雇」でも言い渡されるんじゃなかろうか。

「ヤマカガシ医務官。私はこれからルリビタキ部長と、閉鎖世界からの漂着物回収業務に行かなければならないので、非常に申し上げにくいのですが」
「それはそれは、良かったじゃないか。業務をサボる言い訳に、私への『協力』は非常に有用だ」
「困ります。局の業務が、とどこおります」

「率直に聞こう。ツバメくん、きみはルリビタキ部長を心魂の底から、愛しているね?」
「はい心魂の底から憧れています。
 じゃなくて、ヤマカガシ医務官、私にも仕事が」
「ふむ。薬の効きは私の想定通りのようだ。君は今、『愛』という概念においてのみ、完全に正直で、素直で、私の質問にすべて事実を述べている。
素晴らしい!やはり私は天才だ。

で、ツバメくん。君がルリビタキ部長をどれだけ愛しているか、君からの愛言葉を是非聞きたい」
「はい私はルリビタキ部長からの恩を忘れません。私はルリビタキ部長を誰よりも尊敬しています。
……あの、ヤマカガシ医務官、そろそろ解毒を」
「もっと。もっとだツバメくん。愛言葉をささやき続けたまえ。君の愛を、さらけ出すのだ!」
「ヤマカガシ医務官……?」

…………………………

「――もどかしい!これは、非常にもどかしい!」
都内某所、某アパート。
かつての物書き乙女、元夢物語案内人であった社会人が、某同人誌マーケットにおける過去の戦利品を1冊1冊愛でて、昔を懐かしんでいる。
購入して飾って、そのまま読んでいないものが1冊あったのだ――己の好きなカップリングの愛物語を前提とした、拘束にお薬のシチュエーションが。

先日、ひょんなことから突然、職場の先輩宅の近所の稲荷神社の大掃除に駆り出された。
心的休息が必要であった。それがコレであった。
すなわち推しカプの物語の摂取である。

「愛だよ、愛の言葉だよ!なのに『憧れています』とか『尊敬してます』とかだって。んん……」
最高か?最高に、ぷらとにっくな愛言葉だな?
かつての物書き乙女は「誰よりも尊敬しています」の愛言葉をかみしめ、堪能し、余韻を味わっている。
完全に全年齢な愛も恋も、乙女の好物。
それらはフレッシュな新米、新茶、ボージョレ・ヌーボーを初めて胃袋におさめる幸福に似ている。
「で。ルリビタキ部長はいつ助けに来るのだ」

美しい愛言葉、ダイレクトに「愛」と言わない愛のカタチ。おお、汚れ無き物語よ。他者が執筆した推しカプのひとつの空想的日常よ。
かつての物書き乙女はページをめくり、めくり、
読了して悶絶して合掌。2周目の巡礼を開始した。

10/26/2024, 4:24:54 AM

「友達は、何回も類似のお題と遭遇しててだな」
友だちの思い出、友情、絆、子供の頃は。
3月から数えて何回、「友達」に類似したお題を物語にしてきたことだろう。
某所在住物書きは過去の投稿分を辿りながら、ため息。だいぶネタが出尽くしていたのだ。

たとえば冷蔵庫のプリン食って喧嘩とか。
あるいは実山椒を口にシュートして喧嘩とか。
そして必ず、後日ケロっと元の大親友に戻る。
過去を振り返り、物書きは己のクセに気づいた。
「喧嘩してケロリの友達、俺、書き過ぎでは?」
しゃーない。そもそも「友達」をよく知らぬ。
「友達。ともだちねぇ……」
少なくとも「夏休みの友達」は友ではないと思う。

――――――

前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所。深めの不思議な森の中の、不思議な不思議な狐の家族が住まう稲荷神社。
時の流れがおかしいのか、森と参道は在来種の宝庫。そこそこ希少な花から、そこを根城にする蝶まで、いつか昔の東京を留めて息づいている。

なお「不思議な森」に相応しく、この稲荷神社の森と参道、時折妙な珍客も顔を出す。
たとえば小指程度の大きさにアクアマリンの光沢と透過性を秘め、ノリノリダンスをキメるキノコ。
たとえば木の根元に1匹だけで巣を作り、刺した相手を一時的に重度のチョコミン党員にするハチ。
だいたいそういう妙な客は、神社に住まう一家の父親に見つかって、『世界線管理局 ◯◯担当行き』と書かれた黒穴に、ドンドとブチ込まれる。

多分気にしてはならない。
今回のお題とは無関係なおはなしである。
「ここ」ではない、別の世界のおはなしである。

本編開始。ようやくのお題回収。
上記稲荷神社の大座敷で、友達同士の2名が、
手足を投げ出し疲労コンパイの荒い呼吸をして、
バッタン。大の字に倒れている。
ひとりは、よく花を撮りに来る雪国からの上京者。
もうひとりは上京者の親友で妻子持ち。
藤森と宇曽野である。

藤森が稲荷神社の掃除の手伝いに呼ばれて24時間、チャットにも着信にも音信不通だったのだ。

藤森が上京してきてから面倒をみている宇曽野。
友達の安否不明で居ても立ってもいられず、目撃情報のあった稲荷神社へ向かった。
その神社は「本物」の稲荷狐が住まう神社として、一部の地元民から畏怖の対象となっていた。
社に不敬・悪意を為す人間の心魂を狐が食らうと。
まさか。ひょっとしたら。
花を愛し何事にも誠実な藤森に限って、そんな。

フタを開けてみれば稲荷神社の大掃除である。
友達を想って神社に乗り込んだ宇曽野は黒髪の女性にソッコーで見つかり、手伝い要員として確保。
『丁度良い。あなたのお友達同様、あなたにも』
によろるん。女性は妖狐の美しい微笑を浮かべた。
『お掃除を手伝っていただきましょう。
神ご不在の10月、神無月の今のうちに』

「おい、ふじもり、おまえなんで、そうじなんか」
肩で息をする宇曽野。重い家具や高価な調度品の持って移動して置いてを何度繰り返したことか。
「わたしだって、しるものか。センブリを撮っていたら、いつのまにか、あれよこれよで」
呼気に小さな疲労の喘ぎ声が交じる藤森は、稲荷神社に住まう子狐に髪をカジカジ。遊ばれている。
宇曽野がどかした家具の下を、藤森は丁寧かつ効率的な作業で拭いたり、掃いたり。綺麗に整えた。

「おまえの後輩、既読が付かない、通話が繋がらないって、酷く心配してたぞ。なんで……」
「仕方ないじゃないか。かえすヒマが、……よゆうが、無かったんだ。わかるだろう?」
「時間が無かったにしても、だな」
「それ、今じゃなきゃダメか。疲れてつかれて」

「「はぁ……」」

雪の人、藤森と、その友達の宇曽野。
ふたりして稲荷神社の大掃除を手伝って、疲れ果てて、大座敷に体を投げ出して大きなため息。
揃って音を上げて、揃って目を閉じる。
「残りの場所は……?」
「私達が任された場所では、残りは……」

残りは、このだだっ広い大座敷と、それから。
藤森が喉から疲労をこぼしながら言うと、
カタン。突然、大座敷のふすまが開いた。

「掃除の奉仕、感謝します」
藤森を神社掃除に誘い、宇曽野を手伝い要員に確保した例の女性が、穏やかな微笑を浮かべている。
「掃除の手伝いをしてくださる方が、もうひとり、いらっしゃいましたよ」
微笑の女性の隣には、困惑千万の女性がひとり。
藤森の後輩、高葉井であった。

かじかじ、カジカジ。子狐は相変わらず。
相手が一切抵抗してこないのを良いことに、宇曽野の友達の髪を遊び半分で噛んでいる。

10/25/2024, 3:34:23 AM

「『ダメ。そこへ行かないで』と、
『私はAには行かないで、Bに行きました』と、
『豪雨だったらしい。行かないで良かった』と?
他には『今行かないで、いつ行くの』とか?」
「行かないで」に繋げられそうなハナシ、昨日、まさしく書いたばっかりだな。
スマホの通知画面、今回のお題の5文字を見て、某所在住物書きは頭をガリガリかいて天井を見上げた。
「続編モドキ程度は許容範囲よな?」

再度、ため息。物書きは昨日の文章を読み返す。
「なんで今日じゃなく昨日あのネタ書いたし……」
すなわち喫茶店の奥に「この先に行かないで」の注意書きがある、というネタが書けた筈なのだ。

――――――

頑張って貯めたガチャ石が、ジャンジャンどぶどぶ溶けて流れて、消えゆく濁流に絶叫。
その「行かないで」をガチャ爆死と言うそうです。
という物書きの◯週間前の慟哭は放っておいて、今回のおはなしのはじまり、はじまり。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。
某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
その日は一家総出で稲荷神社の大掃除。
そろそろ神無月の10月から、霜月の11月に変わります。出雲へご出立なさった稲荷の神様が、狐たちの稲荷神社へ、お戻りになるのです。

さぁさぁ、神社を清めましょう。
それそれ、汚れを払いましょう。
新しい器も美しい飾りも、ちゃんと用意するのです。
稲荷の神様の神使たる不思議な化け狐の一家は、
神様と一緒に出雲には行かないで、稲荷神社で神様の留守を、しっかり守っておるのです。
稲荷の神様がちょっと早めにお戻りになっても大丈夫なように、ぱたぱたぱた、どたどたどた。
あっちこっち、掃除しておくのです。

で、今回のお題が「行かないで」のせいで、
化け狐一家の大掃除に、ひとり人間が巻き込まれて、末っ子子狐と組んで一緒にお掃除。
哀れな人間は名前を藤森といいました。
花咲き風吹く雪国出身の、心魂清き人間でした。

「何故私が?」
深いことを気にしてはなりません。
それが今回のおはなしです。今回のお題回収です。
しゃーない、しゃーない。

「あなたは、この部屋を掃除してください」
狐一家のお母さん、美しい黒髪の女性の姿で、藤森ににっこり。お手伝い内容を伝えます。
「奉仕の報酬として、この廊下の突きあたりの部屋に、お茶とお菓子と軽食を用意してあります。
好きに行き、好きに食べて、よく働いてください。

ただし突きあたりから伸びる廊下の先には、特に廊下の先、稲荷狐の四宝の意匠が付いた部屋へは、
決して、けっッして、 行かないでください。」

行っては、なりませんよ。 ふふふ。
絶対、ぜったい行ってはなりませんよ。 うふふ。
いわゆる「押すなよ」みたいなフリなのか、「鶴の恩返し」みたいな本当の禁止事項なのか、狐のお母さんはちっとも説明しません。
ただ穏やかに微笑み、部屋から出ていきました。

さぁさぁ、神社を清めましょう。
それそれ、汚れを払いましょう。
藤森と末っ子のコンコン子狐、放り込まれた部屋のお掃除を、さっそく始めたのでした。

「子狐。稲荷狐の四宝というのは」
「カギ、まきもの、ほーじゅ、イネのほ。
行っちゃダメ!ゼッタイ、いかないでください」
「行くなと言われている場所に立ち入るつもりは無い。言葉を知らなかったから、聞いただけだ」
「ダメ!だめ! いかないで、ください」
「分かった。わかったよ。行かない」

「ゼッタイゼッタイ、絶対、行かないでください」
「……あの、子狐。実は逆に『行け』なのか?」
「そのけんにつきましては、キツネ、もくひ」
「もくひ……?」

行けなのか、行くななのか。
なんともモヤモヤしてスッキリしない藤森です。
仕方がないのでモヤモヤを放ったらかして、ハタキにほうき、濡れ雑巾に大きなゴミ箱。
ぶんぶんビタンビタン尻尾を振りながら壺を拭く子狐と一緒に、神社掃除のお手伝い。

途中で藤森、少し喉が乾いたので、
「お茶とお菓子と軽食を用意してある」とお母さん狐が言っていた、突きあたりの部屋へ、
お茶を飲みに、歩いていったところ、
お母さん狐が「行かないでください」と言っていた「突きあたりから伸びる廊下」の先の扉が、
チラリ、はっきり、見えたのでした。

鍵と巻物と、宝珠と稲の穂の意匠が付いた扉です。
廊下の先にあるのに、何故かよく見える扉です。
あれが、 「行かないで」 と言われた扉だ。
真面目で誠実な雪の人、藤森はコクリと唾液を飲み込み、廊下の先に向いたつま先を、
ちゃんとソッポ向かせて、結局、「行かないで」の部屋へは行きませんでした。
行かないでの部屋が何の部屋で、行けば何が起こったのかは、結局分からなかったとさ。 おしまい。

10/24/2024, 3:36:53 AM

「『空』はねぇ、3月から数えて、『星空』2回に『空模様』等の天候ネタ3個、その他空ネタ2個に今回のコレで、合計8個目なんよ……」
「空」明記のお題だけでコレだから、他に「雨」とか含めれば、きっと20は空ネタ書いてきたな。
某所在住物書きは過去配信されたお題を追った。
確実に、空ネタは多い。いくつかネタをストックしておけば、いつか、お題配信とほぼ同時にコピペでズルできる日が来るだろう。 多分。

「……問題は空と雨がネタ切れ寸前ってことよな」
去年同様であれば、「空」はまだ1〜2回遭遇するし、天候として「雪」出題はほぼ確定である。
それまでにネタ枯渇を解消できるだろうか。

――――――

私が推してる同人発祥・原作のゲームに、いわゆる鉱石ランタンみたいなアイテムが出てくる。
複数個あって、それぞれ「偽物」が作られてるから、「ランタンシリーズ」と「ランタン:レプリカシリーズ」って言われてる。

有名どころでは、「癒やしのランタン」と、「癒やしのランタン:レプリカ」っていうアイテムだ。
詳しいことは割愛するけど、ランタンの中の鉱石がぼんやり、あるいは明るく輝いて、幻想的。
屋外にポツンとランタンがひとつ置かれてる、シンプルな構図の公式イラストは、
どこまでも続く青い空の下の偽物バージョンと、
星が輝く夜空の下の本物バージョンとで、
背後の裏話が違う、っていうギミックがあった。

ドチャクソに人気なゲーム内アイテムで、要望も多いのに、未だに商品化されてない。
原作者さんがランタンの光り方・光らせる方法・大きさと付属品等々にバチクソこだわり過ぎてて、企画書にゴーサインが全然出ないってウワサ。

で。何故そんな鉱石ランタンのハナシを紹介するかというと。 とある喫茶店で見つけたのだ。
ゲーム内のランタンとはそれほど似てないけど、
なんなら光る色も中の鉱石の形も違うけど、
すっッごく、雰囲気が「それ」っぽいランタンが、
喫茶店の、青空ゼリーの大食い完食チャレンジの景品として、掲げられてたのだ。

なんでも店主のおばあちゃんが、最近の長い長い夏と高温多湿を見越して、涼しげな形と味のブルーサイダーゼリーを大量に作ったらしい。
で、好評と売り切れと増産を繰り返して、昨今の最低気温ストンで余っちゃったと。
先着10名、ブルーサイダーゼリーを1kg完食したら、無料でランタンが貰えると。

はい。職場で長い付き合いの先輩連れて来ました。
実用と保存用、2個頂く所存です。
「永遠のこうはい」こと私、高葉井、頑張ります。

「後輩。こうはい」
「なぁに先輩」
「私は特に大食いでもないし、なんなら一般的には、少食にカテゴライズされる可能性がだな」
「大丈夫。ここのゼリー、低糖質」
「高葉井、」

「腹をくくれツバメ。お前も管理局の職員だろう」
「すまない高葉井。発言の元ネタが分からないし、私はツバメじゃない」

それじゃ、頑張ってね。
優しくて穏やかな顔したおばあちゃんが、
私と先輩が座ってるテーブルに、とことことこ。
1人分100gのガラスの器に盛られた「青空ゼリー」が、私と先輩の分で、ずらり合計20個。
整然と、並べられた。
青いソーダ味のキレイなゼリーの中に、ふわふわなホワイトサワーが閉じ込められてる。

卓上に大量展開された、どこまでも続く青い空。
20のガラスの器の中に、青と白が広がってる。
キレイといえばキレイだし、壮観といえば壮観。
内容物の重量は、2人分だから約2kg。
これを完食すれば、鉱石ランタンが2個手に入る。

「いくぞ。ツバメ!」
「だから。私はツバメじゃないし、どう返答すれば良いのか理解していない」
「ランタン回収ミッション、開始!」
「あのな高葉井」

大食い完食チャレンジ用に用意してくれたと思しきレンゲスプーンを持って、
ぷるん、青空のひとつを、青いゼリーの形を崩す。
口に含めば優しいシュワシュワ感が先に来て、
私の舌に、ゼリーじゃなくてホワイトサワーのソフトグミが当たってるってことに気づいた。
「美味しい。好き」
味変用に出されたハチミツは、さながら空の奥に控える陽光のモチーフだ。

ぺろり。秒で1個目を胃袋に収容する。
残りの大食い完食チャレンジ、青空ゼリーの個数は、19個。私は2個目に早々、ハチミツをかけた。
オチを言うと、先輩はなかなか健闘して、7個で撃沈。私は頑張って先輩の分も食べきった。
めっちゃ幸福に景品の鉱石ランタン2個を抱える私を、先輩は苦しそうな顔して、見てた。

10/23/2024, 3:44:29 AM

「衣替えの、何が面倒って、収納の中身をいちいち総入れ替えすることだと思う」
オールシーズン着られる服が有ったら理想だが、
日本の冬は北だとバチクソ寒いし、夏は最近「酷暑日」なんて単語まで出てきちまってるから、きっと現実には無理なんだろうな。
某所在住物書きは秋冬用の部屋着を取り出して、眺めながら言った。 そろそろ秋だ。……多分。

「服の量減らせば、衣替えの時の総入れ替えも、そりゃラクだろうけどさ」
それができりゃ、まぁ、苦労しねぇわな。物書きはため息を吐き、服を畳む。
夏物を完全にしまい込むには勇気がいるものの、
いい加減決断しなければ、収納が足りない。

――――――

衣服としての衣替えを書きたくないために、「エビ天の衣をパン粉に変えちまえ!」と閃いた物書きです。
天ぷらなんて最近食ってないせいで、天ぷら粉とパン粉の違いをガチで忘れる大失態。
エビ天の衣は最初とろとろなのです。
エビフライの衣は最初パン粉なのです。
衣替えしたら別の料理になってしまう。
なんてハナシはここまでにして、今回のおはなしのはじまり、はじまり。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
稲荷のご利益ゆたかなお餅を作って売って、人の世界を勉強しておるのでした。

さて。 今日は子狐、新しいお餅のレパートリーを探るべく、子狐のお家のお台所で大実験。
衣替えを試みるのです。
すなわち、お餅の中に入れる具をそのままに、その具をつつむ衣――お餅の生地を探求するのです。
そろそろ、子狐の住まう東京にも、秋冬の気配。
美味しい具に秋らしい衣を着せて、冬らしい衣も着せて、参拝者の胃袋に送り出してやるのです。

さぁ、お餅を衣替えしよう。
お餅の衣を、生地を、美しく飾ろう。
コンコン子狐、お餅に狐耳や狐尻尾の毛がまざらぬよう、人間に化けて、お台所に立ちました。

コンコン稲荷マジック、めたもるふぉーぜ!
……はい。そろそろ、本題に入りましょう。

「秋といえば、こーよー。紅葉のおもちつくろう」
お餅の衣替えを画策中の子狐。まず最初に、カボチャの黄色をお餅の生地に、ぱったん、ぺったん!
イチョウの色付きを表現して、つぶあんお餅を衣替え。甘い甘い秋をこしらえました。
「黄色だけじゃなく、赤も、あってもいい」
そっちはピリ辛としょっぱさを合わせて、惣菜おもちにしてしまおう。子狐はまずひとつ、ふたつ。お餅の衣替えを成し遂げました。

「カキも、秋だ。カキのおもちつくろう」
お餅の衣替えを画策中の子狐、次は柿のオレンジをお餅の生地に、ぱったん、ぺったん!
きっと美味しくなるだろうと、こしあんお餅を衣替え。深まる秋をこしらえましたが、
「……なんかちがう」
試食してみると、これが意図した味じゃない。
柿は餅の生地に入れるべきではなかったようです。衣より、あんの中に仕込むべきだったようです。
子狐は失敗作を甘じょっぱく煮付けて、これを美味しく処理。お餅の衣替えに失敗しました。

「冬のおもち、なにがいいかなぁ」
お餅の衣替えを画策中の子狐、最後は冬を先取りしたお餅を作ろうと、考えて、かんがえて、
なんにも案が浮かばないので、悶々モヤモヤ。
頭の中にハテナマークをいっぱいこしらえました。
「冬。ふゆ。ゆき。しろ。
しろいまんまじゃ、ふつーのおもち……」
子狐はうんうん考えて、苦しまぎれに白くて冷たいものとクリーム色でしょっぱいものを、
つまりバニラアイスとチーズを白い生地で包み込んで、意外と美味かったのでヨシとしました。

「これはもうすこし、ケントーがひつようだ」
イチョウを表す衣のカボチャお餅、
紅葉を表す衣のピリ辛お餅、
衣から具材に異動になった柿とこしあんのお餅、
それから要検討、アイスとチーズの冬お餅。
コンコン子狐、まだお餅の生地の衣替えが納得いかない様子。美味いお餅は1日にしてならずです。
「でもアイスおもち、おいしかった」
子狐はそれから2時間くらい、あーでもない、こーでもないと、「衣替え」のお題に従って、
秋冬のお餅を包む衣を、かえ続けておったとさ。

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