「衣替えの、何が面倒って、収納の中身をいちいち総入れ替えすることだと思う」
オールシーズン着られる服が有ったら理想だが、
日本の冬は北だとバチクソ寒いし、夏は最近「酷暑日」なんて単語まで出てきちまってるから、きっと現実には無理なんだろうな。
某所在住物書きは秋冬用の部屋着を取り出して、眺めながら言った。 そろそろ秋だ。……多分。
「服の量減らせば、衣替えの時の総入れ替えも、そりゃラクだろうけどさ」
それができりゃ、まぁ、苦労しねぇわな。物書きはため息を吐き、服を畳む。
夏物を完全にしまい込むには勇気がいるものの、
いい加減決断しなければ、収納が足りない。
――――――
衣服としての衣替えを書きたくないために、「エビ天の衣をパン粉に変えちまえ!」と閃いた物書きです。
天ぷらなんて最近食ってないせいで、天ぷら粉とパン粉の違いをガチで忘れる大失態。
エビ天の衣は最初とろとろなのです。
エビフライの衣は最初パン粉なのです。
衣替えしたら別の料理になってしまう。
なんてハナシはここまでにして、今回のおはなしのはじまり、はじまり。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
稲荷のご利益ゆたかなお餅を作って売って、人の世界を勉強しておるのでした。
さて。 今日は子狐、新しいお餅のレパートリーを探るべく、子狐のお家のお台所で大実験。
衣替えを試みるのです。
すなわち、お餅の中に入れる具をそのままに、その具をつつむ衣――お餅の生地を探求するのです。
そろそろ、子狐の住まう東京にも、秋冬の気配。
美味しい具に秋らしい衣を着せて、冬らしい衣も着せて、参拝者の胃袋に送り出してやるのです。
さぁ、お餅を衣替えしよう。
お餅の衣を、生地を、美しく飾ろう。
コンコン子狐、お餅に狐耳や狐尻尾の毛がまざらぬよう、人間に化けて、お台所に立ちました。
コンコン稲荷マジック、めたもるふぉーぜ!
……はい。そろそろ、本題に入りましょう。
「秋といえば、こーよー。紅葉のおもちつくろう」
お餅の衣替えを画策中の子狐。まず最初に、カボチャの黄色をお餅の生地に、ぱったん、ぺったん!
イチョウの色付きを表現して、つぶあんお餅を衣替え。甘い甘い秋をこしらえました。
「黄色だけじゃなく、赤も、あってもいい」
そっちはピリ辛としょっぱさを合わせて、惣菜おもちにしてしまおう。子狐はまずひとつ、ふたつ。お餅の衣替えを成し遂げました。
「カキも、秋だ。カキのおもちつくろう」
お餅の衣替えを画策中の子狐、次は柿のオレンジをお餅の生地に、ぱったん、ぺったん!
きっと美味しくなるだろうと、こしあんお餅を衣替え。深まる秋をこしらえましたが、
「……なんかちがう」
試食してみると、これが意図した味じゃない。
柿は餅の生地に入れるべきではなかったようです。衣より、あんの中に仕込むべきだったようです。
子狐は失敗作を甘じょっぱく煮付けて、これを美味しく処理。お餅の衣替えに失敗しました。
「冬のおもち、なにがいいかなぁ」
お餅の衣替えを画策中の子狐、最後は冬を先取りしたお餅を作ろうと、考えて、かんがえて、
なんにも案が浮かばないので、悶々モヤモヤ。
頭の中にハテナマークをいっぱいこしらえました。
「冬。ふゆ。ゆき。しろ。
しろいまんまじゃ、ふつーのおもち……」
子狐はうんうん考えて、苦しまぎれに白くて冷たいものとクリーム色でしょっぱいものを、
つまりバニラアイスとチーズを白い生地で包み込んで、意外と美味かったのでヨシとしました。
「これはもうすこし、ケントーがひつようだ」
イチョウを表す衣のカボチャお餅、
紅葉を表す衣のピリ辛お餅、
衣から具材に異動になった柿とこしあんのお餅、
それから要検討、アイスとチーズの冬お餅。
コンコン子狐、まだお餅の生地の衣替えが納得いかない様子。美味いお餅は1日にしてならずです。
「でもアイスおもち、おいしかった」
子狐はそれから2時間くらい、あーでもない、こーでもないと、「衣替え」のお題に従って、
秋冬のお餅を包む衣を、かえ続けておったとさ。
10/23/2024, 3:44:29 AM