かたいなか

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「友達は、何回も類似のお題と遭遇しててだな」
友だちの思い出、友情、絆、子供の頃は。
3月から数えて何回、「友達」に類似したお題を物語にしてきたことだろう。
某所在住物書きは過去の投稿分を辿りながら、ため息。だいぶネタが出尽くしていたのだ。

たとえば冷蔵庫のプリン食って喧嘩とか。
あるいは実山椒を口にシュートして喧嘩とか。
そして必ず、後日ケロっと元の大親友に戻る。
過去を振り返り、物書きは己のクセに気づいた。
「喧嘩してケロリの友達、俺、書き過ぎでは?」
しゃーない。そもそも「友達」をよく知らぬ。
「友達。ともだちねぇ……」
少なくとも「夏休みの友達」は友ではないと思う。

――――――

前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所。深めの不思議な森の中の、不思議な不思議な狐の家族が住まう稲荷神社。
時の流れがおかしいのか、森と参道は在来種の宝庫。そこそこ希少な花から、そこを根城にする蝶まで、いつか昔の東京を留めて息づいている。

なお「不思議な森」に相応しく、この稲荷神社の森と参道、時折妙な珍客も顔を出す。
たとえば小指程度の大きさにアクアマリンの光沢と透過性を秘め、ノリノリダンスをキメるキノコ。
たとえば木の根元に1匹だけで巣を作り、刺した相手を一時的に重度のチョコミン党員にするハチ。
だいたいそういう妙な客は、神社に住まう一家の父親に見つかって、『世界線管理局 ◯◯担当行き』と書かれた黒穴に、ドンドとブチ込まれる。

多分気にしてはならない。
今回のお題とは無関係なおはなしである。
「ここ」ではない、別の世界のおはなしである。

本編開始。ようやくのお題回収。
上記稲荷神社の大座敷で、友達同士の2名が、
手足を投げ出し疲労コンパイの荒い呼吸をして、
バッタン。大の字に倒れている。
ひとりは、よく花を撮りに来る雪国からの上京者。
もうひとりは上京者の親友で妻子持ち。
藤森と宇曽野である。

藤森が稲荷神社の掃除の手伝いに呼ばれて24時間、チャットにも着信にも音信不通だったのだ。

藤森が上京してきてから面倒をみている宇曽野。
友達の安否不明で居ても立ってもいられず、目撃情報のあった稲荷神社へ向かった。
その神社は「本物」の稲荷狐が住まう神社として、一部の地元民から畏怖の対象となっていた。
社に不敬・悪意を為す人間の心魂を狐が食らうと。
まさか。ひょっとしたら。
花を愛し何事にも誠実な藤森に限って、そんな。

フタを開けてみれば稲荷神社の大掃除である。
友達を想って神社に乗り込んだ宇曽野は黒髪の女性にソッコーで見つかり、手伝い要員として確保。
『丁度良い。あなたのお友達同様、あなたにも』
によろるん。女性は妖狐の美しい微笑を浮かべた。
『お掃除を手伝っていただきましょう。
神ご不在の10月、神無月の今のうちに』

「おい、ふじもり、おまえなんで、そうじなんか」
肩で息をする宇曽野。重い家具や高価な調度品の持って移動して置いてを何度繰り返したことか。
「わたしだって、しるものか。センブリを撮っていたら、いつのまにか、あれよこれよで」
呼気に小さな疲労の喘ぎ声が交じる藤森は、稲荷神社に住まう子狐に髪をカジカジ。遊ばれている。
宇曽野がどかした家具の下を、藤森は丁寧かつ効率的な作業で拭いたり、掃いたり。綺麗に整えた。

「おまえの後輩、既読が付かない、通話が繋がらないって、酷く心配してたぞ。なんで……」
「仕方ないじゃないか。かえすヒマが、……よゆうが、無かったんだ。わかるだろう?」
「時間が無かったにしても、だな」
「それ、今じゃなきゃダメか。疲れてつかれて」

「「はぁ……」」

雪の人、藤森と、その友達の宇曽野。
ふたりして稲荷神社の大掃除を手伝って、疲れ果てて、大座敷に体を投げ出して大きなため息。
揃って音を上げて、揃って目を閉じる。
「残りの場所は……?」
「私達が任された場所では、残りは……」

残りは、このだだっ広い大座敷と、それから。
藤森が喉から疲労をこぼしながら言うと、
カタン。突然、大座敷のふすまが開いた。

「掃除の奉仕、感謝します」
藤森を神社掃除に誘い、宇曽野を手伝い要員に確保した例の女性が、穏やかな微笑を浮かべている。
「掃除の手伝いをしてくださる方が、もうひとり、いらっしゃいましたよ」
微笑の女性の隣には、困惑千万の女性がひとり。
藤森の後輩、高葉井であった。

かじかじ、カジカジ。子狐は相変わらず。
相手が一切抵抗してこないのを良いことに、宇曽野の友達の髪を遊び半分で噛んでいる。

10/26/2024, 4:24:54 AM