「『子供』はこれで3回目なんよ……」
5月13日頃の「子供のままで」と、6月23日の「子供の頃は」。2度あることが3度あったものの、さすがに4度目の「子供」はあるまい。
大きなフラグを立てる某所在住物書き。約4〜5ヶ月前自分で書いた文章を、せっせと辿って確認する。
アプリ内での過去作参照が面倒になってきた今日この頃。初投稿など、何度スワイプしても到達できぬ。
おお。記事数よ。汝、合計約593の膨大な物量よ。
「それこそ子供の頃のように、某森ページの個人サイトを利用して、自分ひとり用のまとめでも、とは一時期考えてたんだがな。サ終だもんな……」
物書きは昔を懐かしみ、遠くを見た。
検索機能未実装は、投稿数が多くなればなるほど響いてくるものらしい。
――――――
叶うなら――今となっては完全に加齢によって不可能となった贅沢ですが、叶うなら。一度だけ子どものように、脂マシマシのステーキや油でカラっと揚げた天ぷらなんかを、胸焼け気にせず食いたい。
なんて遠い目をする程度には、年齢食ってる物書きです。今回はこんなおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、食いしん坊の食べざかり、美味しいものは全部大好き。
近頃は参拝者さんが、故郷で採れた新米を、100gくらいずつお供えしてくれます。
ごはんの季節です。
五穀豊穣、商売繁盛。稲荷神社の神様がとってもお喜びになり、とっても満足なさる季節です。
善良で信心深い信者さんには、新米と一緒に「ご当地白米のオトモ」のお試し小瓶を一緒にお供えしてくれる人間もおりまして。
だいたいそういうオトモはお酒にも合うのです。
「で、そのご当地白米のオトモの大集合を、ウチの大師匠が聞きつけちまってよ」
「『ひとまず偵察行ってこい』と?」
「そう。『偵察行ってこい』と」
その日、コンコン子狐の稲荷神社に、都内の別の神社からお客様がご訪問。ある意味、同業です。
お酒の神様の神使、カメさんです。
長生きして人に化ける術を得たカメさんは、霊亀としてはまだまだヒヨっこなので、
小学生の格好して、小学生女児の声を出して、
なのに言ってることは完全に呑んべぇなのでした。
「雪国から米の漬け物が届いたって聞いたぜ」
「そのようで」
「食ってみたのかい、狐さん」
「いいえ。まだ」
稲荷神社の静かな廊下、呑んべぇ女児カメさんを部屋まで先導するのは、末っ子子狐のお母さん。近所で茶っ葉屋の店主をしています。
「試食は用意してあります。炊きたて白米と辛口の酒を持ってくるので、中で待っていてください」
和室な大部屋のふすまを、母狐が開けます。
大部屋には酒のツマミ、もといご当地白米のオトモをのせた小鉢がずらり!
南はゴーヤーの佃煮に明太子タルタルから、北は地鶏のそぼろにバター鮭まで。和膳に揃えられて、お客様たる呑んべぇカメさんをお出迎え。
コンコン子狐、大部屋の真ん中で、三つ指もとい前あんよついて、お行儀よくお辞儀しました。
「最高じゃねぇか!よりどりみどりだぜ!」
カメさんは文字通り「子供のように」、キラキラおめめを輝かせて、和膳の前に置かれたフカフカ座布団に飛び乗り、秒でお箸をとりました。
「最高か?最高だな?」
おい子狐、お酌してくれ。ぐへへ。
呑んべぇ女児カメさんはお酒をまだキメてないのに、もう上機嫌、もう夢見心地。ピーマンのシャキシャキディップに箸をつけました。
ピーマンを理解できないのが子狐です。
「カメさん、カメさん」
コンコン子狐、呑んべぇカメさんに聞きました。
「ピーマン、にがいよ。おいしくないよ」
なんでそんなもの、うれしそうに食べるの。
コンコン子狐、難しそうな顔して聞きました。
「ピーマンが食えねぇのか?」
カメさん、新鮮でパリパリなピーマンに、明太タルタルをディップしまして、ひとこと。
「大人になりゃ分かる」
分かるもんか!大人になったって、ピーマンは苦いんだ!おいしくないんだ!
コンコン子狐、やっぱり理解できません。
文字通り子供のように、ピーマンに鼻を近づけて、明確に苦そうで苦痛そうな顔をしましたとさ。
「ほうかご……!」
学校で、その日の授業が終わったあとのこと。
あるいは長編推理小説のタイトル。
前回の題目の「カーテン」もカーテンだったが、今回もまぁ、随分限定的なジャンルだことで。
某所在住物書きは、己の投稿スタイルと今回出題の題目との相性に苦悩した。
アレか。去年の3月から積み重ねてきた現代風ネタの連載方式、そのキャラで学園パロでも書けば良いのか。読み手も置いてけぼりだし書き手としても無茶振りではないか。すなわち悶々か。
「放課後のリアルな思い出、何かあったか……?」
昔々に過ぎ去った時間の、何をネタに書けるだろう。物書きは仕方なく、今回もネットに助言を求める。
――――――
最近最近の都内某所、某地元密着型のスーパー。
藤森という雪国出身者が、1日を締めくくるに相応しい割引き食材を求めて、店内を散歩している。
半額カット野菜は入手が失敗したので、2割引きの方で妥協。肉は値引き効果で外国産とほぼ同値状態の粗挽き豚肉が手に入った。 幸先が良い。
夏に大活躍した冷やし中華の醤油ダレが残っているので、あれを利用すれば、酢豚風を作れるだろう。
「タマネギが少し欲しい」
藤森はオニオンサラダが残ってやしないかと、惣菜コーナーに足を向けた。
放課後の時間帯であった。
あちらでは小学生の娘に魚の話をする父が、
そちらでは1人分の弁当を手に持つ高校生が。
老夫婦は乳製品コーナーで食べるヨーグルトと飲むヨーグルトの協議を続けている。
惣菜コーナーからチラリ見える酒の売り場では、
「……小学生?」
青いスクールキャップをかぶり、黒地に紺色ラインのランドセルを背負った女児が、
あどけない顔に葛藤のシワを寄せて、背伸びなり、しゃがむなり。ツマミの棚を凝視している。
放課後の時間帯である。
最近はネットにより、年齢不相応の知識を得た未成年も多いので、「酒コーナーにもお菓子、おやつがある」と学習して潜入したのかもしれない。
「時代の弊害というべきか、功績というべきか」
まぁ、美味いのは確実だろうよ。今の児童生徒は昔以上に濃い味に順応・適応しているから。
近くに小学生の親が居るだろうと推理した藤森。
きっと彼等がこの小学生を探しているだろうと、
周囲を見渡して、
そのスキに、
例の女児が、女児の声で、
「辛口には塩っ気を合わせてぇけどなァ……」
女児にあるまじき言葉を発するのを聞いた。
「チキショウ。ここのオリジナルブランドはなんでアタリとハズレが激しいんだ」
何がどうなっているのだろう。
「柿ピーはピーが美味かった。七味入りのアレンジであの味は企業努力に違いねぇ」
目が点でポカンの藤森。社会のトレンドに詳しい己の後輩に、識者としての見解をチャットで求める。
『最近の子供は、酒のツマミに詳しいのか』
秒で既読と返信が付き、後輩が言うことには、
『 ゚Д゚)ナニソレ?』
「だが塩なんだ。食いてぇのは、塩なんだよ……」
放課後タイムと思しき小学生の呑んべぇは続く。
「おっ!しめた。ササミジャーキーじゃねぇか!」
再三、明示する。放課後の時間帯である。
小学生が地元スーパーに来るのはおかしいことではなく、アルコールの商品棚を探検するのもあり得るシチュエーションである。
「へへへ。こいつぁ買い占めも、やぶさかでは」
そのシチュエーションで、この状況は一体全体、どのSNSや動画アプリから、どのような経緯で、どういう情報を吸収した結果として成立しているのか。
藤森の目の点は継続中。開いた口も塞がらない。
女児の近くを、店員が通った。
「ねぇ店員さん、店員さん!」
途端、口調が「放課後の小学生らしい」ものに変わる。表情も完全に明るい未成年そのものだ。
「ママから、シオッケオーイオツマミ、頼まれたの!おいしーの、どれですか!」
藤森は軽いめまいを感じた。
何が、どうなっているのだろう。
「ダメだ。多分、私が疲れているだけだ」
見ていない。何も、ミテイナイ。
惣菜コーナーでオニオンサラダを淡々とピックアップして、立ち去る藤森。
振り返ると小学生の隣に、いつの間にか見知った女性が、すなわち稲荷神社近くに茶っ葉屋を出している女店主が、静かに寄り添っている。
女店主と、目が合った。彼女は藤森に静かにほほえみ、唇の両端を吊り上げた。
小学生が「誰」であったのかは不明のままである。
「かーてん……?」
アレか、語源のラテン語、「覆う」だの「器」だの、「人の和」だのの意味があるらしい「Cortina」のハナシでもすりゃ良いのか。
某所在住物書きは部屋のカーテンをパタパタ。揺らしながら葛藤して苦悩した。
「それとも、なんだ、『皆さん緑のカーテンは何植えてますか』とか……?」
不得意なエモネタでこそない今回。とはいえ、窓覆うこの布について何を書けるものか。
ひとまず物書きはネットの海に、カーテンの語源と種類と値段の幅を問うて、物語を組もうと画策する。
――――――
遮光・遮熱カーテンを使っている筈なのに、窓から日光と共に入ってくる最後の残暑がダイレクト。
使い方が違うのでしょうか。 さぁ、何とも。
という物書きの近況は置いといて、今回のおはなしのはじまり、はじまり。
前回投稿分からの続き物。最近最近の都内某所で、食と生活で不摂生しておった男が、ラーメン食べる直後に脳卒中、詳しくは脳出血を起こしました。
今はこの男、麻酔の関係でグースピ寝ていますが、
程度が軽く、なにより初期対応が迅速で適切だったために、後遺症はリハビリでなんとかなりそう。
男の嫁は、お医者さんから説明を聞きました。
ところでこの病院、セラピーアニマル在住かしら。
狂犬病・エキノコックス対策済みの、かわいくて毛並みの良い子狐が病室におるのです。
患者の男にピッタリくっつき、布団の上で狐団子になったり、男の頭で毛づくろいごっこをしたり。
どうしたのでしょう。 気にしてはなりません。
さて。
「良かったね。軽症で済んで」
ある日、男の病室に嫁の友人が見舞いと状況確認にやって来て、カーテンに噛みつきぶらぶらブランコで遊んでおった子狐を見て一瞬ビビった後、
「ヤバみで私も卒倒しかけちゃった」
やっと心が落ち着いてきた嫁の隣に、パイプ椅子持ってきて寄り添います。
何故病室の子狐に、嫁の友人がビビったのか。
子狐に見覚えがあったのです。
何故病室の子狐に、見覚えがあったのか。
稲荷神社在住で、近所の茶っ葉屋さんの看板子狐をしている個体に、バチクソ似ていたのです。
おかしいな。なんでここに居るんだろ。
「一番早ければ数週間で退院できるってさ」
ぶらーん、ぶらーん。カーテンに噛みついてブランコしている子狐は、そんな考察知らん顔。
揺れる遮光・遮音で遊んでいます。
「『軽症で済み対処を最短で為せたのは、奇跡か神様のご利益のようなものだ』って」
神様。カミサマだって。すごいよね。
嫁はお医者さんが言っていた言葉を友人に共有し、
子狐はそれらすべてを、ぶらーん、カーテンに噛みつきブランコごっこして、聞いていました。
カミサマ? 友人がチラリ、子狐を見ます。
ぶらーん。 子狐とチラリ、目が合います。
子狐コンコン「キツネはカミサマじゃないよ」と、言っていそうな無関心っぷりですが、
真実はそれこそ、神のみぞ知るのです。
「ところでさ。聞いてもらっていい?」
「なにさ」
「多分麻酔が今切れかけてるんだろうけどね、いや実際にこういうことが起こり得るのか、だけどね」
「うん」
「ウチの夫、さっきからうわごとみたいに、狐がどうとか、接続不良がーとか、言ってるの」
「せつぞくふりょう」
「どゆこと、っていう。電波障害か何かかな?狐がどっかの基地局傷つけてるとか?」
「さすがに、それはないでしょ」
「だよね」
「だよね……」
取り敢えず無事で良かった、よかった。
白い病室のベッドの隣に、ふたりしてパイプ椅子持ってきて座ってる女性陣は、揃って安堵のため息。
ぶらーん、ぶらーん。病院のセラピーアニマルだか稲荷神社在住だか不明な子狐は、相変わらずカーテンに噛みついて、ブランコごっこして遊んでおったとさ。
「要は涙さえ出せば良いんだろ、って考えたんよ」
もらい泣き、あくび、催涙スプレーに激辛料理、それから酷く咳き込んだ後の惨状。
別に感情の発露からの落涙でなくとも、涙は出る。
某所在住物書きは、なんとか己の不得意分野であるところのエモネタを回避すべく、「涙の状況」を列挙している。 涙だ。涙さえ出れば良いのである。
最初に閃いたのが、クマ撃退スプレー。
軽い気持ちによる試射で大惨事になり、涙轟々の動画をどこかで観たような気がするのだ。
「花粉症も、時には涙よな……」
ところで実体験として、子供の頃は転んだり痛い思いをしたりすると、すぐ泣いていたように思う。
痛覚から落涙に対して極度に繋がりやすかったあの時期は、何故あれほど簡単に涙が出たのだろう?
――――――
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりました。
稲荷神社は森の中。神社の神様のご利益とご加護によって、参道の花は美しく、和漢和ハーブの庭は副産物のキノコに山菜も含めていつも何かが豊作。
神様のいらっしゃる厳粛な領域は、しかし穏やかで平野で、不思議な空気に満たされておるのでした。
で、そんな神社はごくまれに、数ヶ月に1〜2回程度の低頻度で、善良無害なおばけが成仏昇天できずに迷い込んでくるワケでして。
その日神社にやってきた男の霊が、今回のお題「涙の理由」の回収担当なのでした。
というのもこの稲荷神社在住の末っ子子狐がこの男霊の話を聞いてバチクソにギャン泣きしまして。
『どうしても未練なんだよ。どうしても……』
本日稲荷神社に辿り着いたのは、仕事盛りでブラック一歩手前のグレー企業に勤めていた若手。
『だって、文字通り、「さいごの一杯」だぞ』
長時間労働が常習化して、退勤時間も詐称で、日常唯一の楽しみといえば、出勤前と退勤後に食べる濃い味の醤油ラーメン、あるいはにんにくラーメン。
食べて、仕事して、ストレスで心と身体を疲弊させて残業して、退勤して食べて。
その日も「今日」というクソな平日をしめくくる、脂増っし増しであつあつのラーメンを、
まずチャーシューから胃に収め、
麺をズズっとすすろうと、
した矢先に頭のどこかがガツン!プッツン!
今まで経験したことのないような痛みを感じて、
それから、何も覚えていないのでした。
脳卒中です。詳しくは、脳出血です。
それは日頃の不摂生で発症リスクが高まり、
それは酷いストレスもトリガーになり得るのです。
『麺のひとくいちくらい、食いたかったなぁ。
あーあ。成仏の仕方なんて検索に出てこねぇし、
なんか、夢の中をさまよってる気分だわ』
「かわいそう!かわいそう!!」
子狐ギャンギャン、稲荷の子狐ゆえに食べ物には信条がありまして、すなわち豊作と美味と満腹と、食による幸福を善良としておるのです。
なのにこの霊はどうでしょう。せっかくの「最後の晩餐」を、かわいそうに、食えなかったのです。
「ウカサマ、ウカノミタマのオオカミさま!しもべの声を、お聞き届けください!この者に、おいしいおいしいごちそうを、たっぷり与えてください!」
ギャンギャン、ギャンギャン。コンコン子狐は涙をびゃーびゃー流して、稲荷の神様にお願いします。
これこそお題回収です。子狐の、「涙の理由」なのです。不運な男霊を、あわれんでおるのです。
なお稲荷の神様への陳情取りつぎ係、オチを知っておるので知らんぷり。
子狐の優しくかわいらしい訴えを、あらあらまぁまぁ、ペット動画を観る尊みでほっこりします。
「ウカサマ、どうか、お聞き届けください!」
ぎゃあん、ぎゃあん!稲荷の子狐は一生懸命、あわれみの涙を声にかえて、吠え続けました。
で、ここからがオチの話。
あんまり末っ子子狐が泣きますので、都内の病院で漢方医をしてるお父さん狐が到着。「夢の中をさまよってる気分」の男霊から事情を聞きます。
「生霊ですね。あなたがたで言う、接続障害です」
『せつぞくしょうがい』
「心魂と身体の接続が、不安定なのです。手術が成功して麻酔が切れれば、ちゃんと目が覚めますよ」
『せつぞくが、ふあんてい』
フッと気の抜けた男霊。「接続障害」が「解消」されたのか、ポンとその場から消え去ります。
目が覚めたら白い天井の下、白いベッドの上。
結婚したばかりのお嫁さんが、涙をぼろぼろ溢れさせて、男の手を握っておったとさ。 おしまい。
「『おどる』のネタは3月から数えて3個目……」
食べ物で心踊る、3連休でココロオドル、ソーシャルゲームの最高レア確定演出でこころおどる。
高ストレス下等々、アドレナリンによって興奮状態になるのも一種の踊っている状態かもしれない。
某所在住物書きはネタをポイポイ列挙しては、
その多くが、採用にたどり着けていない。
そもそもこの物書き、心を踊らせる興奮的な状況に、現実問題として乏しいのだ。
ガチャくらいである。そしてすり抜け、爆死する。
「去年は観念して無難に食い物ネタ書いた」
白状する物書きは、今年も良い例が出てこないので、結局食い物ネタへと回帰、帰着、帰宅。
個人的にはイリーガルなアドレナリン・ハイのココロオドルネタを書いてみたかったのだ――資料は本職監修の物が数冊あるから。
勿論その試みは数分で却下。 本職過ぎたのだ。
――――――
どこかのネット記事、裏とり困難な情報源にて、
子どもの時間が長いのはココロオドル機会や場面が大人に比べてとっても多いから、
大人の時間が短いのは、ココロオドル機会や場面が子供に比べてあまりにも少ないから、
というトリビアを見たような気がする物書きです。
ココロオドルかオドラナイかで時間の経過が変わるなら、どうして一切ココロオドラナイ仕事の雑務が、あれほど酷く長い拷問になるのでしょう。
という慟哭はそのへんに置いておきまして、今回のおはなしのはじまり、はじまり。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某アパートの一室に、後輩、もとい高葉井というのがぼっちで住んでおりまして、
ほぼほぼ日付が変わりかけている頃、己のギルティーな所業にココロオドルしておったのでした。
夜食です。夜食を、作っておったのでした。
「しゃーないよ。これは、しゃーないもん」
卵とマヨネーズでスクランブルエッグ、クリームポタージュの粉スープとパックごはん、それから申し訳程度の野菜要素にブロッコリー等々。
「だって賞味期限が今日なんだもん」
仕方無い、嗚呼、仕方無い。
数日後に賞味期限を迎えるウィンナーなども熱しまして、賞味期限と消費期限が時間&分単位でギリギリの食材を、じゅーじゅー、ぱちぱち。
ガッツリ夜食は、罪の味なのです。
ガッツリ夜食は、ココロオドル味、なのです。
後輩の高葉井が夜食パーティーを開催したのには、深い、幸福な、有罪的なワケがあるのです。
というのも冷蔵庫の野菜室にそれらの食材を突っ込んでいたことをすっかり忘れておりまして。
明日の朝食とお弁当の下準備をしておったところ、ふと、野菜室を思い出したのです。
◯日前にお酒に寄ってフラフラしながら野菜室に突っ込んだ卵を、ふと、思い出したのです。
あの6個入りパックとブロッコリーと半額ウィンナーはどうなってしまったかしら。
約1500円の廃棄/セーフなシュレディンガー。
サッと舌から血流が引き、トンと胸の真ん中が跳ねて、アドレナリンとコルチゾールが暴れます。
高ストレス下の緊張に、心が悪く踊ります。
高葉井はすぐに野菜室を確認して、
大きく、安堵のため息を吐きました。
良かった。少なくとも過ぎてない。 高葉井は一気に冴え渡った頭で瞬時に野菜室内の状況を把握。
卵にブロッコリー、半額ウィンナーに半額チーズ、その他諸々を思考のキッチンに並べて整理して分別して、朝食のメニューに使うだけでは確実に、完全に、量が多過ぎることを理解しました。
『しゃーないよね』
高葉井は覚悟しました。
『夜食するしか、食材救済の方法は、無いよね』
高葉井は、ココロオドルしたのでした。
一度決心してしまえば人間行動がはやいもので。
「わぁ。ギルティー。なかなかに罪……」
ほぼほぼ日付が変わりかけている頃、賞味期限のために夜食の調理を始めた高葉井は、完全に日付が変わって数分立った頃、夜食の準備を終えました。
「なんで夜遅い時間に食べるカロリーってこんなに背徳的で美味しいんだろ」
マヨを混ぜ込んだスクランブルエッグ、カリッと火を通したウィンナー、とろとろチーズとクリームポタージュをソースにしたチーズリゾット。
飲み物に食物繊維入りの強炭酸水を開けまして、両手をパッチン、いただきます。
「ココロオドル」のお題どおり、後輩、もとい高葉井は、夜食で幸福に心を癒やしましたとさ。