かたいなか

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10/9/2024, 2:57:36 AM

「束の間の『束』、昔の尺度のことだったらしいな。指4本分の幅で、約5〜7cmだとさ」
休肝日、チートデー、虚無期間、CM。何かと何かの間に挟まった休憩であれば「束の間」だろう。
某所在住物書きは温かいコーヒーなど飲みつつ、お題を投稿するにあたり作成したメモを眺めた。
ネタはいくらでも出てくるのだ。「誰の」、「何に対しての」、「何処での」束の間の休息か、付加できる単語は多彩で、豊富だから。
なんなら今の冷え込みを数日後に控える夏日・真夏日の「束の間」とすれば良い。

この物書きのスキルとレベルでは難しいのだ。

「職場のデスクの上の『1束の間』、5〜7cmの幅の間での休息、とか考えたんだがな……」
そろそろ高難度お題と高難度お題の間の、休息や箸休め、筆休め的なお題が欲しい。物書きは嘆く。
再度明記する。ネタ「は」、出てくるのだ。
睡眠も外食も、休息には違いないのだから。

――――――

世は区切り、束の間の連続です。
仕事と休日、オンとオフ、「誰か/何か」としての役割の時間とフリーな時間。休肝日にチートデー。
今回はそんな、「束の間」に焦点照明を当てまして、こんなおはなしをご用意しました。

前回投稿分から続くおはなしです。でもわざわざ前回投稿分を確認しなくても読めるおはなしです。
都内某所、某支店の従業員に、付烏月、ツウキというのがおりまして、菓子作りが最近のトレンド。
その日は丁度、運悪く、外回りでバチクソに酷い怪獣客とエンカウントしましたので、
なんなら2日後にも今回よりマシながら怪獣客とエンカウントする予定がありますので、
お題回収、「束の間の休息」として、魂のHP心のMPを回復すべく、外食に出ることにしました。

「その外食に私を誘ったのは、本店案件としてあの客をあなたに回した報復か」
「あのさ藤森。そっちだって、あのおクソお客野郎様の被害者でしょ。単純に一緒にHPMP回復しようよって、それだけだよ。ダイジョーブだよ」

付烏月が外食に誘ったのは、付烏月の友達の真面目で誠実な雪国出身者。名前を藤森といいます。
藤森の行きつけに、お得意様しか利用できない静かな飲食個室スペースを持つ茶っ葉屋さんがありまして、そこに2人してご来店。
「あの件は、本当に申し訳ない」
「だから、大丈夫だって藤森」
「そうもいかない。今回は私が奢、」
「大丈夫だってば藤森。ホントに、気にしないで」
藤森は体に優しい滋味の薬膳をふたつ、
付烏月は背徳的和スイーツセットをどっさり。
それぞれ頼んで、仕事と仕事の合間の休息を、すなわちちょっと立地な食事を楽しんだのでした。

「体に優しいわりに、セットに付けたおにぎり、塩っ気たっぷりの雪国ご当地セット頼んだんだ」
「そうだな」

「いつもは藤森、低糖質低塩分ダイスキーなのに」
「たまには私だって故郷の味を食いたいさ」
「東京生活の束の間に?」
「束の間に。そうかもしれない」

束の間に、ツカノマニ。お題を回収したところで、両手を合わせていただきます。
藤森は野菜たっぷりの鶏スープから、付烏月はホイップクリームたっぷりのマロンどら焼きから。
仕事の面倒だの苦労だの、嫌なことは一旦置いといて、ぱくぱく、もぐもぐ。食べ始めます。

「付烏月さん。明後日の顧客のことだが、」
「あーあー。聞こえない。圏外。通信障害」

何事にも、休むことと動くことの境界をキッチリ引くのは、有益で大事なことなのです。
何事にも、疲れたらガッツリ心と身体を癒すのは、重要で充実させるべきことなのです。
付烏月と藤森はふたりして、仕事と仕事の間の休息を、それぞれの食事で楽しみました。

特にオチも山も無い、平凡平坦なおはなしでした。
仕方無いのです。無理して「1束の間」、5〜7cmの間で為される休息なんて展開行方不明をお届けするよりは、何倍もマシなのです。
しゃーない、しゃーない。

10/8/2024, 3:05:14 AM

「力を込めて、『いない』ってネタもあるじゃんって気付いてからが発端よ」
物理的にに力を込めて、説得力を込めて、声量の力を込めて。書く引き出しにだけは困らないだろう。
某所在住物書きはスマホを見つめた。「引き出しは」、多いのだ。書けるかどうかは別として。
「力を込めてないのに、ってハナシ、何が書けるだろうって考えてたらよ。何がどうなったって、ツボ押しのネタが出てきちまったの」

ツボ押して悶絶する文章の投稿って、何と何を悪魔合体したんだよっていう。まぁ、書くけどさ。
物書きは「それ」を、「他のネタよりは書きやすい」として、書き進める。 その結果が以下である。
「次も『引き出しは多い』系の筈なんよ……」
どうなる。次回。

――――――

ツボとか薬膳とかに詳しい常連おばあちゃんに、足の裏の腎臓に効くっていうツボを押してもらってたら、外回りから同僚と支店長が帰ってきた。
「たっッだいま戻りました〜!」
「ああ、実に腹立たしい、実に腹立たしい!!」

力を込めてないのに、ちょっと足の裏の真ん中あたりを押されてるだけなのに、バチクソ痛い。
悶絶して絶叫して、和装マダムにあらあらまぁまぁされてる私の横を通り過ぎて、ダンってビジネスバッグを机に叩きつける通称「教授支店長」。
外回り先が相当に相当なモンカス様だったらしく、
バチクソに、不機嫌そうにしてる。
まぁ知ってる(本店在籍時代に噂で聞いた)

「本店案件ってことで、本店の藤森と一緒に、俺ときょーじゅ支店長とで行ったんだけどさぁ」
足の裏の次は腰。ふみふみギャーギャー。
ツボ押し腎ケアで支店長に負けず劣らず声を出してる私に、付烏月さんが説明してくれた。
「やー、藤森、おクソお客野郎様があんまりにも『あんまり』だったから、訪問終えてすぐ俺達に、バチクソ深く頭下げちゃって。かわいそーに」

これからは、あの客は私達本店側で対応するってさ。本当に申し訳ないってさ。 藤森が悪いんじゃなくて、おクソお客野郎様が悪いのにねぇ。
付烏月さんは、
どこからともなく高級そうなボトルと私達従業員&常連さん分のグラスを取り出す支店長と、
どこからそんな絶叫を出してるんだって私を、
交互に見ながらそう付け足して、自分のビジネスバッグからレジ袋を取り出した。

「支店長が1杯ミャ〜千円のジュースのボトル開けるって。それに合う簡単スイーツ作ってくるぅ」

シャルル・ハイヴィーのプレシャスプレミアね。
私の腰を、力を込めていないのに、壮絶な威力でアタックしてくるツボ押し和装常連マダム。
知らないブランドの知らない商品名を、目を輝かせて呟いて、そのジュースと紅茶をブレンドすることで絶品なフレーバーティーになると力説してる。
そうですか(ツボいたい)
紅茶ティーバッグあるんですよ(いたい)
そろそろツボマッサージやめてフレーバーティータイムしませんか(ツボ押しよりお茶しませんか)

ツボいたい(大事二度絶叫)

「完全に、付烏月くんに救われたようなものだ」
腎臓の他に、自律神経にも不調が発覚。
私の手をとり、手首をふにふにし始めた常連マダム。常連マダムのあらあらまぁまぁに、あらあらまぁまぁされる私。 支店長がグラスにボトルの中身を景気良く注ぎながら言った。

「あの無礼極まりない、自意識過剰で自尊他卑の客の家で、完全にいつも通りのペースで、」
いつも通りのペースで、場の空気を調整しようとしてくれたのだから。支店長はそう続けようと、
「場の空気を……」
口を、動かしてたけど、

バタン!!! ダン、ダン!!!

支店長の言葉は途中で、途切れてしまった。
付烏月さんが消えてった小さな調理室のあたりから、何かをバチクソな力を込めて、バチクソな初速で何かに叩きつける音が、聞こえてきたのだ。
「付烏月くん……?」
ダダン、バン!
目が点になった支店長が、音のする方を見てる。
要するに今回の外回り先は相当酷かったらしい。

付烏月さんが「力を込めて」錬成してくれた簡単カップケーキは過去イチの最高さで絶品だった。

10/7/2024, 3:49:00 AM

「去年の3月1日、アプリ入れて最初に書いたハナシに出した花の花言葉が、『追憶』だったわ」
犬泪夫藍(たのしいおもいで)、蕎麦(なつかしいおもいで)、それから菊咲一華(ついおく)。
まったく、過ぎたハナシと花言葉は相性が良いねぇ。某所在住物書きはネット検索を辿りながら呟いた。

マイヅルソウは「清純な少女の面影」だという。春咲く小さな花に、恋した誰かの「過ぎた日」を想起すれば、これでひとつエモネタが完成であろう。
「反対は『汚れた野郎の行く末』?
……俺じゃねぇよ。誰だ無言で指さしてんの」
アプリのインストールから、はや586日。
今日も物書きは苦し紛れにネタを組む。

――――――

思い出の写真、同期の離職、通じなくなった言葉と習慣、相当額を突っ込んだソシャゲのサ終。
過ぎた日を想うきっかけは複数個ありますが、
個人的に、◯年前に自分の目の前でサイン会(保安)に強制参加させられたスピード違反者の行く末は、想うところがある物書きです。
今回はこんなおはなしをご用意しました。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。不思議な不思議な某稲荷神社のそこそこ近くに、「猫又の雑貨屋さん」という雑貨屋さんがあり、
本当に猫又が、人間に化けて、にゃーにゃー。雑貨や家具や少しの家電なんかを売っておりました。
そしてアップサイクルアイテム担当の子猫又スタッフは、名前をタラと言ったのでした。

今日はタラにゃう、思い出詰まった廃品を、いわゆるリサイクル問屋さんへ仕入れに向かいます。
良い思い出、善良な物語に、巡り会え、タラ!
(先日のお題が「巡り会えたら」)
はい。前置きはこのへんにしましょう。

まず、子猫又のタラは問屋さんで、ひとつ足が折れて無くなった四つ足椅子を見つけました。
折れ残っている足には猫の爪痕が、正確には爪とぎ跡が、何本も何本もついておりました。

ニャウニャウ猫又、椅子の過ぎた日を想います。
きっとこんなに何回も、爪とぎの跡があるのなら、
近くに爪とぎ板が立て掛けてあったのです。
だけど椅子が折れてしまって、仕方無く、廃品として捨てたのです。 これは美しい。
「折れた足は2液レジンで、キレイに飾ろう」
子猫又、まずひとつの商品と巡り会いました。

次に、子猫又のタラは問屋さんで、落書きアリの壊れた黒電話を見つけました。
行きつけ病院はこの番号、そして区役所はこの番号。すべて白油性ペンで書かれていました。

ニャウニャウ猫又、黒電話の過ぎた日を想います。
きっとこんなに何件も、電話番号があるのなら、
賢い子が年老いた親のために、いつでも誰かに相談できるよう記したのでしょう。 これも美しい。
「さすがに電話番号は消さなきゃ」
子猫又、レトロな置き物と出会いました。

そして最後に、子猫又のタラは問屋さんで、完全に塗装の剥がれた真空ボトルを見つけました。
剥がれ方は尋常ではなく、しかし過去の日付が黒い油性ペンで、小さく記されていました。

ニャウニャウ猫又、ボトルの過ぎた日も想います。
きっとこんなボトルに、過去の日付があるのなら、
それはとてもとても大事なボトルで、それを貰った日をずっと忘れずに覚えておきたくて、
だけど何かの理由があって、きっと何かの物語があって。 うーん、じつに美しい。
「ひとまず何かに使えそう」
子猫又、取り敢えずボトルとも出会いました。

壊れた椅子、壊れた黒電話、塗装擦れたボトル。
ニャウニャウ子猫又のタラは、それら「過ぎた日」を持つ物と巡り会い、買い取りまして、
ニャウニャウ子猫又のタラは、それらすべてを塗り直し、整え直し、飾り直して、
仕入れ値のニャンニャン2倍から20倍くらいで、「猫又の雑貨屋さん」の商品棚に送り出しました。
そしてそれらの過ぎた日を想いながら、それらすべてをしっかり売り切りましたとさ。

10/6/2024, 5:45:51 AM

某所在住物書きは過去投稿分の題目を確認した。
「星」は3月1日を起点とすれば、これで5度目。
「夜」も含めれば10、「空」も含めれば15。
なかなかの頻度である。

「もうだいぶ、ネタ使い尽くしちまったのよな。
池に落ちる雨を夜空の星空に見立てるとか、
花畑の黄色い花を星に例えるとか、
5枚花弁の桜吹雪は流れ星にしたし。普通に夜空を見上げるネタは昔々とうに文章にしちまったし」
物書きは天井を見上げ、途方に暮れる。
「ところで今の星座に『猫』って居ないらしいな」

――――――

最近最近の都内某所の某支店。
支店巡回で訪れていた本店側の人間を藤森といい、
本店側に茶を出す男を付烏月、ツウキといったが、
双方、揃いに揃って制服の、覆っていない肌の複数箇所が少々、あわれ。 蚊に刺された跡がある。

「どしたの。かゆみ止めの治験バイト?」
支店勤務の後輩としては、2名の状況に目が点。
その間も付烏月は人さし指の痒々ポッチに、スティックタイプのかゆみ止めを塗っている。
彼等は何をしでかしたのか。要するに「星座」だ。
付烏月が口を開いて、言うことには、
「過ぎゆく夏の思い出作ってたら虫除け忘れた」


…――時は昨晩までさかのぼる。
「夏の終わりに星座でも」。付烏月が藤森を連れ出したのは、キャンプに対応した公用スペース。
貸し出しの焚き火台に木を組み、火を燃やし、
パチパチ、ぱきん。都心に比べれば光量の少ない薄暗闇に、オレンジ色の灯火をこしらえた。

『星座って、今は88個あるらしいよ。藤森』
最初に話題を提示したのは付烏月であった。
『そのうち昆虫を星座にしたものが1個、「みなみの」なんて方角の前置きがあるのが3個。
動物の星座は、こぎつね座にこぐま座、おおいぬ座にりょうけん座。いるか座なんてのもある』
人の想像力は面白いね。藤森。
付烏月は比較的光量少なめの夜空へ視線を向けた。

『何が言いたい、付烏月さん?』
パチパチ、ぱきん。薪の世話をする藤森は疑問形。付烏月の意図が分からないのだ。
天体観測といえば光害少ない山や田舎がセオリーの筈が、付烏月はキャンプスペースへ藤森を連れてきた。煌々と他者の置き照明が焚かれた場所へ。
『夏の終わりに、星座を見たかったんだよ』
答える付烏月は主張を変えない。
『猫の星座を、見つけたかったの』
ただ、頭上の黒だけを見上げていた。

『猫の星座?』
『そう。ねこ座、こねこ座』
『今の時期に見えるのか、付烏月さん?』
『見つけるの。探すの』

どういう意味だ、付烏月さん。
藤森はただ首を小さく傾けるばかり。
パチパチ、ばきん。焚き火は経緯と結果を知っているのか、大きな音をたてて火の粉を吹いた。


――…「タネ明かしをするとね」
場面は元の場所へ戻る。手首をカリカリ掻いていた付烏月がため息ひとつ吐いて言った。
「昨日、ウチの支店の常連さんから、俺の趣味のお菓子作りのことでオーダーが入ったの。
『存在しない「ねこの星座」をモチーフに、ウチのミーちゃんの供養ケーキ作って』って」

無いもの頼まれて、しゃーないから星座を見に行こうってんで、丁度暇してた藤森に声かけたと。
白状する付烏月は何のインスピレーションも湧いてこなかったらしく、その夜は蚊に刺されただけ。
藤森に至っては誘われ損であった。
二度目のため息を吐き、付烏月は机に突っ伏す。
カリカリカリ、かりかりかり。
「モチーフの神話、童話、なんなら星座の形も無いらしいもん。どうやって作れってさぁ……」

あー、そういえば、そんなことが昨日。
話を聞いていた側としては、左様でございますかの比較的わりとどうでもいい感。
パチパチ、ぱち。まばたきを繰り返している。
星座など黄道12〜13星座程度しか、具体的な話は、いやそれでも「はくちょう座」などは。

「……ちなみに」
今まで沈黙していた藤森が、己のスマホを、正確にはネット検索のスクリーンショットを示した。
「88星座に、無いだけらしい」
小さくささやく声、軽く指で示される文章。
「ねこ座」の検索結果の上位は以下のとおり。

『ねこ座は今は使われていない春の星座のひとつ』
検証せず、人の言葉を鵜呑みにするのは危険だ。

10/5/2024, 3:12:56 AM

「9月8日のお題が『踊るように』だった……」
体を動かす、他者に操られる、文字が乱れる、捜査関連用語として犯人が抵抗し暴れる。
どれも執筆難度が少々高い気がするがどうだろう。
某所在住物書きは今日もパチパチ、焚き火アプリで思考を整理。制限時間のある作業は有用のようだ。
だってあまりボーっとしない。 途中でソシャゲに逃げて、ディスプレイに指を踊らせたりしない。

「文字が踊りませんか?そんな書き方したら。
犯人が踊りませんか?そんな拘束かけたら。
銃が踊りませんか?そんな構え方したら。
……うん。どんな状況だよ。それ」
難しいなぁ。物書きはため息を吐く。
たしか次回も難題である――去年と同じなら。

――――――

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。「付烏月」と書いて「ツウキ」と読む、最近お菓子づくりがトレンドな男がおりまして、まぁ別にスイーツ男子ガチ勢というワケでもないのですが、
週間予報の最高気温を確認するに、そろそろ冷たいスイーツが食い納めだろうと予想しましたので、
秋の旬なフルーツで簡単にシェークでも作ろうと、近所の地元スーパーなど、偵察に行ったのでした。

「柿のシェークって、美味いのかな」
先日バチクソな真夏日など記録した東京。
それでも青果コーナーは正確で、10月にふさわしい秋の果物が、真面目に今の季節をお知らせ。
奈良県産の柿に、長野県産のリンゴ。
都内で採れた栗は奥多摩のあたりでしょうか。
「マロンシェークはアリ寄りのアリだなぁ」
ざっかざっか、ポイちょポイちょ。
口の中を幸福な幻想でいっぱいにする付烏月は、
捕らぬ狸の皮算用、作らぬシェークの味予想。
なんなら心の中でちょっと小躍りなどなど。

「イチジクもあるじゃん」
ああ、コレは、バニラよりチョコ、それも濃厚なチョコシェークにブチ込んだ方が美味い、
半額イチジクを丁寧に、カゴに突っ込みまして、
「あれ。藤森?」
顔を上げると、遠くのカット野菜のあたりに、前職で一緒に仕事した藤森というのを見つけました。

藤森は雪降り花あふれる田舎の出身でした。
藤森は最高0℃でも眉ひとつ上げぬ冬の人でした。
少し寒くたってシェークが食える人、なのでした。
これは丁度良い。
「ふっじぃ〜もりっ!藤森!」
藤森よ、雪の人よ。一緒にシェークを食いなさい。
小躍り付烏月、真面目で誠実な藤森に、はらぁり、ひらぁり。近寄りまして、言いました。
「フルーツシェークで、一緒に踊りませんか?」

「は?」
付烏月のダンスの誘いに藤森、素っ頓狂でした。


…――「『踊りたくなる美味さ』って言わない?」
場面変わりまして、スーパーから付烏月の部屋。
藤森が冷たさにも寒さにも強いのを良いことに、己のスイーツラボに連れ込みまして、
自家製低糖質アイスクリームと先程購入した柿を使って、まずレアチーズ風柿シェークでおもてなし。
「美味しいものは、シェアした方が、もっと美味しいよ。藤森も一緒に踊っちゃおうよ」
ちうちう出されたシェークに口をつける藤森は、やっぱり真面目なので、眉間に少し長考のシワ。

「その量を『踊る』つもりなのか、付烏月さん?」
ちうちう藤森、付烏月が買ってきた季節のフルーツの山盛りを見て、言いました。
「私と、あなたとで?」
付烏月のキッチン、スイーツラボにはリンゴにブドウに洋梨、栗、柿なんかがどっさり!
「だいじょーぶ!」
不安な藤森に付烏月が晴れやかな笑顔で返します。
「味変の種類には抜かりないのだっ!」

違う。 違うそうじゃない。
藤森は静かに、首を横に、小さく振りました。

「糖質過多が過ぎやしないか、と言ったんだ。
付烏月さん、そんなに一気に食べては、いくらシェークに使うアイスが低糖質でも体に悪い」
「あっ」
「あなたなら、ジャムでもドライフルーツでも、上手く作れるだろう。そちらに3分の2でも」

「宇曽野さんと後輩ちゃんも呼ぼう!」
「そうじゃない。それでも量が多い」
「じゃあウチの支店の真面目な新卒ちゃん」
「そうじゃなくて。あのな付烏月さん」

過剰な糖質の摂取は、膵臓に酷い負担がだな、
誠実に説明する藤森ですが、今回配信のお題「踊りませんか?」に従って、付烏月、お電話です。
やぁやぁ後輩ちゃん。今から一緒に季節のシェークで踊りませんか?ヨシヨシそうですか待ってます。
「付烏月さん……」
ちうちう、ちうちう。藤森は静かに、小さく、ため息をひとつ吐きました。

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