「去年の3月1日、アプリ入れて最初に書いたハナシに出した花の花言葉が、『追憶』だったわ」
犬泪夫藍(たのしいおもいで)、蕎麦(なつかしいおもいで)、それから菊咲一華(ついおく)。
まったく、過ぎたハナシと花言葉は相性が良いねぇ。某所在住物書きはネット検索を辿りながら呟いた。
マイヅルソウは「清純な少女の面影」だという。春咲く小さな花に、恋した誰かの「過ぎた日」を想起すれば、これでひとつエモネタが完成であろう。
「反対は『汚れた野郎の行く末』?
……俺じゃねぇよ。誰だ無言で指さしてんの」
アプリのインストールから、はや586日。
今日も物書きは苦し紛れにネタを組む。
――――――
思い出の写真、同期の離職、通じなくなった言葉と習慣、相当額を突っ込んだソシャゲのサ終。
過ぎた日を想うきっかけは複数個ありますが、
個人的に、◯年前に自分の目の前でサイン会(保安)に強制参加させられたスピード違反者の行く末は、想うところがある物書きです。
今回はこんなおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。不思議な不思議な某稲荷神社のそこそこ近くに、「猫又の雑貨屋さん」という雑貨屋さんがあり、
本当に猫又が、人間に化けて、にゃーにゃー。雑貨や家具や少しの家電なんかを売っておりました。
そしてアップサイクルアイテム担当の子猫又スタッフは、名前をタラと言ったのでした。
今日はタラにゃう、思い出詰まった廃品を、いわゆるリサイクル問屋さんへ仕入れに向かいます。
良い思い出、善良な物語に、巡り会え、タラ!
(先日のお題が「巡り会えたら」)
はい。前置きはこのへんにしましょう。
まず、子猫又のタラは問屋さんで、ひとつ足が折れて無くなった四つ足椅子を見つけました。
折れ残っている足には猫の爪痕が、正確には爪とぎ跡が、何本も何本もついておりました。
ニャウニャウ猫又、椅子の過ぎた日を想います。
きっとこんなに何回も、爪とぎの跡があるのなら、
近くに爪とぎ板が立て掛けてあったのです。
だけど椅子が折れてしまって、仕方無く、廃品として捨てたのです。 これは美しい。
「折れた足は2液レジンで、キレイに飾ろう」
子猫又、まずひとつの商品と巡り会いました。
次に、子猫又のタラは問屋さんで、落書きアリの壊れた黒電話を見つけました。
行きつけ病院はこの番号、そして区役所はこの番号。すべて白油性ペンで書かれていました。
ニャウニャウ猫又、黒電話の過ぎた日を想います。
きっとこんなに何件も、電話番号があるのなら、
賢い子が年老いた親のために、いつでも誰かに相談できるよう記したのでしょう。 これも美しい。
「さすがに電話番号は消さなきゃ」
子猫又、レトロな置き物と出会いました。
そして最後に、子猫又のタラは問屋さんで、完全に塗装の剥がれた真空ボトルを見つけました。
剥がれ方は尋常ではなく、しかし過去の日付が黒い油性ペンで、小さく記されていました。
ニャウニャウ猫又、ボトルの過ぎた日も想います。
きっとこんなボトルに、過去の日付があるのなら、
それはとてもとても大事なボトルで、それを貰った日をずっと忘れずに覚えておきたくて、
だけど何かの理由があって、きっと何かの物語があって。 うーん、じつに美しい。
「ひとまず何かに使えそう」
子猫又、取り敢えずボトルとも出会いました。
壊れた椅子、壊れた黒電話、塗装擦れたボトル。
ニャウニャウ子猫又のタラは、それら「過ぎた日」を持つ物と巡り会い、買い取りまして、
ニャウニャウ子猫又のタラは、それらすべてを塗り直し、整え直し、飾り直して、
仕入れ値のニャンニャン2倍から20倍くらいで、「猫又の雑貨屋さん」の商品棚に送り出しました。
そしてそれらの過ぎた日を想いながら、それらすべてをしっかり売り切りましたとさ。
10/7/2024, 3:49:00 AM