「力を込めて、『いない』ってネタもあるじゃんって気付いてからが発端よ」
物理的にに力を込めて、説得力を込めて、声量の力を込めて。書く引き出しにだけは困らないだろう。
某所在住物書きはスマホを見つめた。「引き出しは」、多いのだ。書けるかどうかは別として。
「力を込めてないのに、ってハナシ、何が書けるだろうって考えてたらよ。何がどうなったって、ツボ押しのネタが出てきちまったの」
ツボ押して悶絶する文章の投稿って、何と何を悪魔合体したんだよっていう。まぁ、書くけどさ。
物書きは「それ」を、「他のネタよりは書きやすい」として、書き進める。 その結果が以下である。
「次も『引き出しは多い』系の筈なんよ……」
どうなる。次回。
――――――
ツボとか薬膳とかに詳しい常連おばあちゃんに、足の裏の腎臓に効くっていうツボを押してもらってたら、外回りから同僚と支店長が帰ってきた。
「たっッだいま戻りました〜!」
「ああ、実に腹立たしい、実に腹立たしい!!」
力を込めてないのに、ちょっと足の裏の真ん中あたりを押されてるだけなのに、バチクソ痛い。
悶絶して絶叫して、和装マダムにあらあらまぁまぁされてる私の横を通り過ぎて、ダンってビジネスバッグを机に叩きつける通称「教授支店長」。
外回り先が相当に相当なモンカス様だったらしく、
バチクソに、不機嫌そうにしてる。
まぁ知ってる(本店在籍時代に噂で聞いた)
「本店案件ってことで、本店の藤森と一緒に、俺ときょーじゅ支店長とで行ったんだけどさぁ」
足の裏の次は腰。ふみふみギャーギャー。
ツボ押し腎ケアで支店長に負けず劣らず声を出してる私に、付烏月さんが説明してくれた。
「やー、藤森、おクソお客野郎様があんまりにも『あんまり』だったから、訪問終えてすぐ俺達に、バチクソ深く頭下げちゃって。かわいそーに」
これからは、あの客は私達本店側で対応するってさ。本当に申し訳ないってさ。 藤森が悪いんじゃなくて、おクソお客野郎様が悪いのにねぇ。
付烏月さんは、
どこからともなく高級そうなボトルと私達従業員&常連さん分のグラスを取り出す支店長と、
どこからそんな絶叫を出してるんだって私を、
交互に見ながらそう付け足して、自分のビジネスバッグからレジ袋を取り出した。
「支店長が1杯ミャ〜千円のジュースのボトル開けるって。それに合う簡単スイーツ作ってくるぅ」
シャルル・ハイヴィーのプレシャスプレミアね。
私の腰を、力を込めていないのに、壮絶な威力でアタックしてくるツボ押し和装常連マダム。
知らないブランドの知らない商品名を、目を輝かせて呟いて、そのジュースと紅茶をブレンドすることで絶品なフレーバーティーになると力説してる。
そうですか(ツボいたい)
紅茶ティーバッグあるんですよ(いたい)
そろそろツボマッサージやめてフレーバーティータイムしませんか(ツボ押しよりお茶しませんか)
ツボいたい(大事二度絶叫)
「完全に、付烏月くんに救われたようなものだ」
腎臓の他に、自律神経にも不調が発覚。
私の手をとり、手首をふにふにし始めた常連マダム。常連マダムのあらあらまぁまぁに、あらあらまぁまぁされる私。 支店長がグラスにボトルの中身を景気良く注ぎながら言った。
「あの無礼極まりない、自意識過剰で自尊他卑の客の家で、完全にいつも通りのペースで、」
いつも通りのペースで、場の空気を調整しようとしてくれたのだから。支店長はそう続けようと、
「場の空気を……」
口を、動かしてたけど、
バタン!!! ダン、ダン!!!
支店長の言葉は途中で、途切れてしまった。
付烏月さんが消えてった小さな調理室のあたりから、何かをバチクソな力を込めて、バチクソな初速で何かに叩きつける音が、聞こえてきたのだ。
「付烏月くん……?」
ダダン、バン!
目が点になった支店長が、音のする方を見てる。
要するに今回の外回り先は相当酷かったらしい。
付烏月さんが「力を込めて」錬成してくれた簡単カップケーキは過去イチの最高さで絶品だった。
10/8/2024, 3:05:14 AM