かたいなか

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「9月8日のお題が『踊るように』だった……」
体を動かす、他者に操られる、文字が乱れる、捜査関連用語として犯人が抵抗し暴れる。
どれも執筆難度が少々高い気がするがどうだろう。
某所在住物書きは今日もパチパチ、焚き火アプリで思考を整理。制限時間のある作業は有用のようだ。
だってあまりボーっとしない。 途中でソシャゲに逃げて、ディスプレイに指を踊らせたりしない。

「文字が踊りませんか?そんな書き方したら。
犯人が踊りませんか?そんな拘束かけたら。
銃が踊りませんか?そんな構え方したら。
……うん。どんな状況だよ。それ」
難しいなぁ。物書きはため息を吐く。
たしか次回も難題である――去年と同じなら。

――――――

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。「付烏月」と書いて「ツウキ」と読む、最近お菓子づくりがトレンドな男がおりまして、まぁ別にスイーツ男子ガチ勢というワケでもないのですが、
週間予報の最高気温を確認するに、そろそろ冷たいスイーツが食い納めだろうと予想しましたので、
秋の旬なフルーツで簡単にシェークでも作ろうと、近所の地元スーパーなど、偵察に行ったのでした。

「柿のシェークって、美味いのかな」
先日バチクソな真夏日など記録した東京。
それでも青果コーナーは正確で、10月にふさわしい秋の果物が、真面目に今の季節をお知らせ。
奈良県産の柿に、長野県産のリンゴ。
都内で採れた栗は奥多摩のあたりでしょうか。
「マロンシェークはアリ寄りのアリだなぁ」
ざっかざっか、ポイちょポイちょ。
口の中を幸福な幻想でいっぱいにする付烏月は、
捕らぬ狸の皮算用、作らぬシェークの味予想。
なんなら心の中でちょっと小躍りなどなど。

「イチジクもあるじゃん」
ああ、コレは、バニラよりチョコ、それも濃厚なチョコシェークにブチ込んだ方が美味い、
半額イチジクを丁寧に、カゴに突っ込みまして、
「あれ。藤森?」
顔を上げると、遠くのカット野菜のあたりに、前職で一緒に仕事した藤森というのを見つけました。

藤森は雪降り花あふれる田舎の出身でした。
藤森は最高0℃でも眉ひとつ上げぬ冬の人でした。
少し寒くたってシェークが食える人、なのでした。
これは丁度良い。
「ふっじぃ〜もりっ!藤森!」
藤森よ、雪の人よ。一緒にシェークを食いなさい。
小躍り付烏月、真面目で誠実な藤森に、はらぁり、ひらぁり。近寄りまして、言いました。
「フルーツシェークで、一緒に踊りませんか?」

「は?」
付烏月のダンスの誘いに藤森、素っ頓狂でした。


…――「『踊りたくなる美味さ』って言わない?」
場面変わりまして、スーパーから付烏月の部屋。
藤森が冷たさにも寒さにも強いのを良いことに、己のスイーツラボに連れ込みまして、
自家製低糖質アイスクリームと先程購入した柿を使って、まずレアチーズ風柿シェークでおもてなし。
「美味しいものは、シェアした方が、もっと美味しいよ。藤森も一緒に踊っちゃおうよ」
ちうちう出されたシェークに口をつける藤森は、やっぱり真面目なので、眉間に少し長考のシワ。

「その量を『踊る』つもりなのか、付烏月さん?」
ちうちう藤森、付烏月が買ってきた季節のフルーツの山盛りを見て、言いました。
「私と、あなたとで?」
付烏月のキッチン、スイーツラボにはリンゴにブドウに洋梨、栗、柿なんかがどっさり!
「だいじょーぶ!」
不安な藤森に付烏月が晴れやかな笑顔で返します。
「味変の種類には抜かりないのだっ!」

違う。 違うそうじゃない。
藤森は静かに、首を横に、小さく振りました。

「糖質過多が過ぎやしないか、と言ったんだ。
付烏月さん、そんなに一気に食べては、いくらシェークに使うアイスが低糖質でも体に悪い」
「あっ」
「あなたなら、ジャムでもドライフルーツでも、上手く作れるだろう。そちらに3分の2でも」

「宇曽野さんと後輩ちゃんも呼ぼう!」
「そうじゃない。それでも量が多い」
「じゃあウチの支店の真面目な新卒ちゃん」
「そうじゃなくて。あのな付烏月さん」

過剰な糖質の摂取は、膵臓に酷い負担がだな、
誠実に説明する藤森ですが、今回配信のお題「踊りませんか?」に従って、付烏月、お電話です。
やぁやぁ後輩ちゃん。今から一緒に季節のシェークで踊りませんか?ヨシヨシそうですか待ってます。
「付烏月さん……」
ちうちう、ちうちう。藤森は静かに、小さく、ため息をひとつ吐きました。

10/5/2024, 3:12:56 AM