「ほうかご……!」
学校で、その日の授業が終わったあとのこと。
あるいは長編推理小説のタイトル。
前回の題目の「カーテン」もカーテンだったが、今回もまぁ、随分限定的なジャンルだことで。
某所在住物書きは、己の投稿スタイルと今回出題の題目との相性に苦悩した。
アレか。去年の3月から積み重ねてきた現代風ネタの連載方式、そのキャラで学園パロでも書けば良いのか。読み手も置いてけぼりだし書き手としても無茶振りではないか。すなわち悶々か。
「放課後のリアルな思い出、何かあったか……?」
昔々に過ぎ去った時間の、何をネタに書けるだろう。物書きは仕方なく、今回もネットに助言を求める。
――――――
最近最近の都内某所、某地元密着型のスーパー。
藤森という雪国出身者が、1日を締めくくるに相応しい割引き食材を求めて、店内を散歩している。
半額カット野菜は入手が失敗したので、2割引きの方で妥協。肉は値引き効果で外国産とほぼ同値状態の粗挽き豚肉が手に入った。 幸先が良い。
夏に大活躍した冷やし中華の醤油ダレが残っているので、あれを利用すれば、酢豚風を作れるだろう。
「タマネギが少し欲しい」
藤森はオニオンサラダが残ってやしないかと、惣菜コーナーに足を向けた。
放課後の時間帯であった。
あちらでは小学生の娘に魚の話をする父が、
そちらでは1人分の弁当を手に持つ高校生が。
老夫婦は乳製品コーナーで食べるヨーグルトと飲むヨーグルトの協議を続けている。
惣菜コーナーからチラリ見える酒の売り場では、
「……小学生?」
青いスクールキャップをかぶり、黒地に紺色ラインのランドセルを背負った女児が、
あどけない顔に葛藤のシワを寄せて、背伸びなり、しゃがむなり。ツマミの棚を凝視している。
放課後の時間帯である。
最近はネットにより、年齢不相応の知識を得た未成年も多いので、「酒コーナーにもお菓子、おやつがある」と学習して潜入したのかもしれない。
「時代の弊害というべきか、功績というべきか」
まぁ、美味いのは確実だろうよ。今の児童生徒は昔以上に濃い味に順応・適応しているから。
近くに小学生の親が居るだろうと推理した藤森。
きっと彼等がこの小学生を探しているだろうと、
周囲を見渡して、
そのスキに、
例の女児が、女児の声で、
「辛口には塩っ気を合わせてぇけどなァ……」
女児にあるまじき言葉を発するのを聞いた。
「チキショウ。ここのオリジナルブランドはなんでアタリとハズレが激しいんだ」
何がどうなっているのだろう。
「柿ピーはピーが美味かった。七味入りのアレンジであの味は企業努力に違いねぇ」
目が点でポカンの藤森。社会のトレンドに詳しい己の後輩に、識者としての見解をチャットで求める。
『最近の子供は、酒のツマミに詳しいのか』
秒で既読と返信が付き、後輩が言うことには、
『 ゚Д゚)ナニソレ?』
「だが塩なんだ。食いてぇのは、塩なんだよ……」
放課後タイムと思しき小学生の呑んべぇは続く。
「おっ!しめた。ササミジャーキーじゃねぇか!」
再三、明示する。放課後の時間帯である。
小学生が地元スーパーに来るのはおかしいことではなく、アルコールの商品棚を探検するのもあり得るシチュエーションである。
「へへへ。こいつぁ買い占めも、やぶさかでは」
そのシチュエーションで、この状況は一体全体、どのSNSや動画アプリから、どのような経緯で、どういう情報を吸収した結果として成立しているのか。
藤森の目の点は継続中。開いた口も塞がらない。
女児の近くを、店員が通った。
「ねぇ店員さん、店員さん!」
途端、口調が「放課後の小学生らしい」ものに変わる。表情も完全に明るい未成年そのものだ。
「ママから、シオッケオーイオツマミ、頼まれたの!おいしーの、どれですか!」
藤森は軽いめまいを感じた。
何が、どうなっているのだろう。
「ダメだ。多分、私が疲れているだけだ」
見ていない。何も、ミテイナイ。
惣菜コーナーでオニオンサラダを淡々とピックアップして、立ち去る藤森。
振り返ると小学生の隣に、いつの間にか見知った女性が、すなわち稲荷神社近くに茶っ葉屋を出している女店主が、静かに寄り添っている。
女店主と、目が合った。彼女は藤森に静かにほほえみ、唇の両端を吊り上げた。
小学生が「誰」であったのかは不明のままである。
10/13/2024, 3:48:09 AM